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3つに大別できる衝突被害回避・軽減自動ブレーキ

 「ぶつからないクルマ?」という衝撃的なスバルのTV CFによって、一気に注目度を高めたのが「衝突被害回避・軽減自動ブレーキ」だ。

 車両の前方をシステムが監視し、衝突の危険が迫ると、自動でブレーキを作動させて、衝突を回避、もしくは被害を軽減する。ほんの数年前まで、市販車で採用するのはボルボやスバルのモデルに限定されていたが、スバルのTV CFの効果もあって、日本国内では続々と採用が進み、今では軽自動車、コンパクトカーにまで搭載されるほどになっている。

 そのシステムはどれも「車両前方を監視して衝突しそうになると自動でブレーキをかける」という点では同一だが、センシング方法に関しては、大きく3つに分別することができる。

 その3つは「カメラ方式」「ミリ波レーダー方式」「赤外線レーザー方式」だ。それぞれにメリットとデメリットがあり、採用する車両の目的によって、3つのうちのどれか、もしくは複数が採用されている。今回は、その3種類の方式を説明したいと思う。

歩行者を見分けることができる「カメラ方式」

 「カメラ方式」の代表格がスバルの「EyeSight(アイサイト)」だ。カメラによって前方にあるのが歩行者なのか、それとも看板なのか、はたまたオートバイなのか? を識別している。

 EyeSightは、カメラだけで「障害物が何か?」「障害物までの距離は?」の両方を判断するために、カメラを2つ用いるステレオ方式を採用する。

スバルの「EyeSight」はステレオカメラ(右)で前方を監視する

 カメラ方式の場合、同じカメラを使って「車線逸脱警告機能(レーン・デパーチャー・ウォーニング/LDW)」を実行することができる。カメラ方式でない場合は、車線を検知するためにカメラが別途必要になる。つまり、カメラ方式は車線逸脱警告機能(レーン・デパーチャー・ウォーニング/LDW)を付随させるときに、ハードウェアを追加しなくてよいというメリットもある。

 「カメラ方式」のデメリットは、逆光になってカメラに太陽光が差し込むときや、霧や吹雪などの悪天候で視界を失ったとき、システムが働かなくなる可能性があることだ。また、夜間はヘッドライトの照射エリア以外は検知できないという弱みもある。

 ただし、ステレオカメラとミリ波レーダーを併用しているレクサス「LS」は、ステレオカメラの夜間の検知機能を確保するため、赤外線を投射するという、さらに凝った方式が採用されている。

レクサス「LS」は赤外線投光機も備える
メリット
歩行者や車線、道路標識など、「何かがある」だけでなく、もう1歩踏み込んだ識別ができる。ハードウェアの追加なしに追従機能(ACC)や車線逸脱警告機能(LDW)も付与可能
デメリット
逆光や視界不良に弱い
採用例
スバル「EyeSight」、レクサス「衝突回避支援型プリクラッシュセーフティシステム」など

高いスピードレンジに対応可能な「ミリ波レーダー方式」

 ミリ波を前方に照射し、戻ってきた電波を測定することで障害物を検知するのが「ミリ波レーダー方式」だ。カメラ方式よりも、より遠方を監視でき、しかも悪天候などにも左右されない。そのため速度域の高い状況でも高い信頼性を得やすい。もちろん追従機能(ACC)も可能。そうした優位点があることもあってか、高速走行を考慮する欧州車の多くは、ミリ波レーダー方式を採用している。

 ただし、前方にあるものの形やサイズなどの詳細を識別するのは苦手。歩行者のように電波を吸収しやすいものも不得意。また、システム全体の寸法が大きいため、バンパー内などに設置する必要があり、設計上の制約も大きい。

 ボルボの「ヒューマン・セーフティ」は、カメラとミリ波レーダーを組み合わせた複合型だ。レーダーが物体を検知し、カメラは物体の種別を判定する。このため、ヒューマン・セーフティは車両だけでなく歩行者も検知できる。

フォルクスワーゲン「CC」の「Front Assist」
マツダの「i-ACTIVSENSE」は安全装備ごとにセンサーを使い分けているが、「スマート・ブレーキ・サポート」にはミリ波レーダーを使用する
メリット
天候に左右されない。検知できる距離が長い
デメリット
障害物の中から「歩行者」を見分けることができない。システムが大きいので、設計上の制約がある
採用車
ボルボ「ヒューマン・セーフティ」、三菱自動車「衝突被害軽減ブレーキシステム」(アウトランダー)、マツダ「スマート・ブレーキ・サポート」(アテンザ)、フォルクスワーゲン「Front Assist」(CC)、メルセデスベンツ「PRE-SAFEブレーキ」など

低コストが魅力の「赤外線レーザー方式」

 家電のリモコンなどにも使う赤外線レーザーを利用するのが「赤外線レーザー方式」だ。細く指向性の強い赤外線レーザーを照射して、戻ってきたものを検知する。照射できる距離が数十m単位と短いが、その分、コストが低い。また、照射するレーザーの数を多くすれば、ボンヤリとではあるが、障害物の輪郭を把握することができる。また、システムをルームミラーの裏などに収めるなど、コンパクト化できるのもメリットのひとつだ。

 検知できるエリアが狭いため追従機能(ACC)は不可能。しかし、「衝突被害回避・軽減自動ブレーキ」に機能を絞ったものを、安く提供することが可能だ。軽自動車など、コストにシビアな車種に採用されたのも、そうしたコスト的メリットが重視されたのが理由だろう。

 ボルボはプレミアム・ブランドだが、レーザー方式の「シティ・セーフティ」をV40、S60、V60、XC60、V70、XC70、S80と、多くのモデルに標準で搭載している。こうした安全装備は搭載車が増えれば増えるほど有効、というボルボのフィロソフィーを、低コストを生かして実現しているわけだ。

フォルクスワーゲン「up!」の「シティエマージェンシーブレーキ」
メリット
低いコストで衝突被害回避・軽減自動ブレーキを実現できる。システムが小さく、ルームミラーの裏などに収めることができる
デメリット
検知できる範囲が狭いので、追従機能(ACC)は不可能
採用車
ボルボシティ・セーフティ」、フォルクスワーゲン「シティエマージェンシーブレーキ」(UP!)、ダイハツ「スマートアシスト」(ムーヴ)、マツダ「スマート・シティ・ブレーキ・サポート」(CX-5)など

 「歩行者」を認識するには、「カメラ方式」が必要。天候に左右されない性能を確保できる「ミリ波レーダー」。安くするには「赤外線レーザー方式」がベスト。それぞれに優位点があり、一方で弱点を持っている。センシング方法によって、適切な使い方があるというわけなのだ。

【お詫びと訂正】記事初出時、「ヒューマン・セーフティ」の説明などに誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。

鈴木ケンイチ