ワールドリポート

ロールス・ロイスの新型クーペが登場間近

 高級車の代名詞として、世界の津々浦々で確固たる地位を築いている「ロールス・ロイス」。BMWグループの一員となり、「グッドウッドR-R」と呼ばれるようになった現在でも、その名声はまったく色褪せない。そんなロールス・ロイスがブランニューの新型車をデビューさせるというのは、自動車業界にとっては重大なニュースというべきだろう。

 ここ1~2年ほど、現代ロールス・ロイスの大ヒット作である「ゴースト」サルーンのクーペ版が追加されるという噂が、母国イギリスを中心とした欧米スクープ系メディアを賑わせてきた。また、今年に入ってテストに供されるプロトタイプの姿もスクープされて話題を呼んだが、このほどロールス・ロイス・モーターカーズ自ら、その噂を裏付けるようなリリースが、ティーザーキャンペーンのかたちで発表されることになった。

 同社は、今年3月に開催されるジュネーヴ・モーターショーにおいて、新型車「レイス(WRAITH)」をワールドプレミアすることを正式に表明。時を同じくして、ロールス・ロイスのシンボルと称されるラジエーターグリル・マスコット「スピリット・オブ・エクスタシー(別名フライング・レディ)」をスモークで表現したような象徴的写真と、プロフィールから明らかにクーペボディを示唆するシルエット写真を相次いで発表したのである。

 これまで「ゴースト」ベースのクーペのネーミングについては、“そのものずばり「ゴースト・クーペ」と名付けられる?”、あるいは、今世紀初めまで作られていた伝統の2ドアR-Rと同じ“「コーニッシュ(CORNICHE)」と呼ばれることになる?”などとも言われてきたが、今回のリリースによって、そのいずれでもないレイスの名称が正式に言明されることになった。

 レイスとは「幽霊」や「精霊」を意味する英語で、「ファントム」やゴーストともごく近い意味を持つ。初めてロールス・ロイスに名づけられたのは、1938年に登場したレイス。吉田茂元首相も愛用した「25/30HP」から発展したモデルである。

 その後、第2次大戦後の1946年には「シルヴァー・レイス」に進化し、1959年まで生産された。さらに1977年に当時のヒット作「シルヴァー・シャドウ」が「シルヴァー・シャドウII」に進化した際には、そのロングホイールベース版に「シルヴァー・レイスII」と名付けられた。つまりレイスは、ロールス・ロイスの歴史の中でも極めて長い歴史を持つネーミングなのだ。

 一方メカニズムについては現行型ゴーストをベースとしつつも、さらなるパワーアップが図られるというのがもっぱらの噂。

 ロールス・ロイス・モーター・カーズのトルステン・ミュラー・エトヴェシュCEOは、新レイスに関して、次のように述べているという。「レイスは、ジュネーブで熱狂的に受け入れられることでしょう。これまでで最も大胆なデザインと、最もドラマチックな性能を備えた、史上最もパワフルなロールス・ロイスの登場にご期待下さい」。

 一説によると、ゴースト用でも既に570PSを発生しているV型12気筒6.6リッターエンジンは、600PS前後にスープアップ。最高速はリミッターによって250km/hに抑えられるが、ホイールベース/全長ともにゴーストより短縮されるであろう(当然重量も軽くなる?)ボディーも相まって、加速性能は格段にアップすると目されている。

 また気になるボディーデザインは、前開きの「コーチドア」に代表されるグッドウッドR-Rのセオリーに従った格調を保ちつつも、ファストバック・スタイルによる流麗なプロポーションとなることが、ティーザー写真からも見て取れる。

 特にエッジの効いたリアまわりのデザインは、戦前型レイスによく見られた「レザーエッジ」スタイルをも髣髴させるものとなっている。

 2003年にファントムが登場して以来、「ドロップヘッド・クーペ」や「クーペ」など、ファントム・シリーズの拡充に専念してきたロールス・ロイスだが、2009年のゴースト誕生以来、ラインナップの拡充が早急に進められてきた。

 そのような状況もとでデビューが正式に認められたレイスは、かつてのパートナーであるベントレーが放ったスマッシュヒット「コンチネンタルGT」シリーズ、あるいはここ数年のうちにデビューするであろうメルセデス・ベンツの次期「CLクラス」AMG版にとっても、最高のライバルとなるのは間違いないところである。

 3月のジュネーヴ・ショーを楽しみに待ちたい。

武田公実