特別企画

【特別企画】ホンダの超小型モビリティ「MC-β」を公道で体験してきた(後編)

“エコアイランド”宮古島でパーソナルモビリティの将来像を考える

ホンダ、東芝、宮古島の3者で進める“エネルギーの地産地消”

 本田技研工業のパーソナルモビリティである「MC-β」は、人口5万4290人の沖縄県宮古島市(2014年3月末現在)でも実証実験を行っている。2008年3月、宮古島市では「循環型社会の構築」「環境保全の推進」「産業振興」の3つを柱とした「エコアイランド宮古島宣言」を行った。この宣言と取り組み内容は内閣府から高く評価され、低炭素社会の実現に向けた高い目標を掲げた「環境モデル都市」として、離島で唯一、国から認定を受け現在に至っている。

 2013年2月21日には、ホンダと東芝を含めた3者間でパーソナルモビリティと電力供給システムの活用に対する社会実験の実施に向けた協定が締結された。そして同年11月からは離島における新たな移動手段として、パーソナルモビリティが果たすべき役割を検証する実証実験がスタートしたのだ。

 MC-βでの実証実験は環境モデル都市推進活動の一環でもある。走行時のCO2排出量がゼロであり、車体が小さくLCA(ライフサイクルアセスメント)の観点からもCO2排出量の少ないパーソナルモビリティを活用した宮古島市での実証実験は、「小型電動モビリティプロジェクト」とネーミングされている。このプロジェクトでは単にMC-βを島内で走らせるだけではなく、宮古島市内の下地庁舎、城辺庁舎、伊良部庁舎の3個所に新たに設置された東芝製PV(Photovoltaics:太陽光発電)充電ステーションからMC-βに充電するという、いわば“エネルギーの地産地消”も合わせて行われている。1回の移動時における走行距離が短く、ガソリンなどのエネルギー資源を島の外から船舶などを経由して調達する必要がある離島ならではの地域性に対して、移動時の電力確保を地産するパーソナルモビリティが持つ将来性を検証するのが狙いだ。

宮古島で実証実験に使用されているMC-β
下地庁舎のPV充電ステーション。壁面の絵は宮古島市立下地小学校の6年生の手によるもの。MC-βは「走る姿がカワイイ」という感想が圧倒的に多く、下地小学校の生徒のみんなから愛されていた

 宮古島市での実証実験は2014年1月28日から2016年3月31日まで行われる計画。2年以上に渡る長期の実証実験だが、1月28日の開始式に引き続き、2月11日〜12日には宮古島市役所を中心に、一般公募で選ばれた市民を対象にしたホンダ主催のMC-β試乗会が開催された。これは熊本県での実証実験と同じように、走り慣れた島内の道を被験者自らが運転することでパーソナルモビリティについての理解度を深めつつ、試乗後にMC-βの開発陣との率直な意見交換を行うことも目的の1つとされた。

 宮古島市内の車両総保有台数は約4万3000台(沖縄総合事務局陸運事務所発行2012年版「業務概況」より)だが、幹線道路が限られていることに加えて市内中心部でも交通集中する度合いが低いため、昼夜を問わず車両が多いと感じることはあまりない。

 道路にある標示や標識、さらに信号機といった道路インフラは沖縄本土や本州各地域と同じだが、一部、細街路から幹線道路に流出するときに目にする道路標識や信号機の高さが、本州各地域と比べて30〜50cmほど低く設置されていることが気になった。とはいえ、概ね慣れ親しんだ道路インフラであることに変りはない。

 しかしながら、こうした環境がMC-βを含めたパーソナルモビリティに不都合を及ぼすことが分かった。具体的には、公道で頻繁に目にする「とまれ」の道路標識などは、道路に敷かれた停止線の位置(道路交通法上は停止線がある場合、停止線の直前に止まることが定められている)に合わせて停止すると、運転席からカーブミラーを目視することができない場所が数多く存在したからだ。

ショッピングモールや裏道の細街路を走って走行性能や使い勝手を確認。狭い道では軽自動車同士のすれ違いがやっとという道も多かったが、そんな道でもMC-βなら気負わず運転できる

窓がないパーソナルモビリティは雨具必携!?

島内での最高速度は50km/hだが、そこまでのスピードで走れるエリアはごく限られている。低速走行が多いため、小型のEVでも1充電あたりの走行距離が伸ばしやすい。開発陣は1充電で100km以上を達成したとのこと

 車体構成は見てのとおり。パーソナルモビリティの多くがそうであるように、MC-βにもドアは設けられていても窓がなく、風の侵入を許してしまう。とはいえ、島内は制限速度が最高でも50km/h。しかも50km/hが許されるエリアは数えるほどで、ほとんどの道路は40km/h以下に制限されているため、侵入する風に悩まされることはなかった。

 肝心の走行性能だが、スペックからするとやや心許ない印象だ。しかしながら、50km/hまでの加速タイムは125ccスクーター並みの約7秒(2人乗り/手元計測)となかなかの俊足ぶりを発揮する。コーナリング特性も重心が低く、適度にロールセンターが高いことからていねいなステアリング操作を心掛ければ、ロール量はスポーツモデル並みに小さく抑えられる。ちなみに、サスペンションはセッティングの幅を持たせるため、前後ともダブルウイッシュボーン式が採用された。

 ただ、横転防止のためステアリングのギヤ比は軽トラ並みにスローな設定だ。そのため操作は忙しく、加えてパワーステアリング機構を持たないため、ある程度の操作力も必要となる。また、ブレーキにはサーボ機構が組み込まれていないので、ブースター付の車両に慣れた被験者からは「ブレーキに足を乗せた瞬間の減速力が弱い」という意見も多く聞かれた。とはいえ、踏力に対して制動力が素直に立ち上がってくる特性なので、コツさえつかめば減速そのものに不安を感じることはない。

ショッピングモールの駐車場に駐車した状態。右側のフィットと比較しても、占有面積が明らかに小さい
被験者の多くはセンターライン寄りを走ることが多い。これは普段運転しているクルマの運転席位置に自ずと近づいてしまうからだ

 パワーユニットのレイアウトは後軸のさらに後方にモーターを搭載するRR方式。そのため、前後重量配分的にはリアヘビーとなるものの、今回のように市内の一般道を上限50km/h以下で走行する分には、タンデマー(後席乗員)とのふたり乗りでも極端にステアリング特性が変わることはなかった。

 また、試乗期間中には幾度か雨にもたたられた。こうしたシチュエーションではトヨタ車体の「コムス」のように、簡易タイプでもよいので窓が欲しい。現状のままで雨天走行するなら、バイク用の耐水圧と透湿性に優れたレインウェアを上下で着用する必要がある。タンデマーはドライバーズシートによって上半身はプロテクトされるものの、下半身は直接風雨にさらされるため、やはりレインウェアが必要だ。

実証実験参加者のAさん親子。外気温14℃と南国宮古島としては低めの気温だったため、「防寒用のグローブがほしかった(母)」「下半身に風が直接当たって寒かった(子)」との感想
取材中に偶然巡り合ったトヨタ車体「コムス」。なんでも宮古島での個人所有はこの1台だけとのことだが、購入から1年、ほぼ毎日乗っているという。「年間降水量の多い南国には、簡易型でもよいから窓は必須」とオーナー氏は語る

2015年4月1日以降を見すえたモビリティの将来像とは

島の南東部にある沖縄電力のメガワット型「離島マイクログリッド実証実験」施設

 前述のように、宮古島市での実証実験には東芝製のPV充電ステーションを利用した充電も検証項目に採り入れられている。ステーションの屋根に敷きつめられたソーラーパネル全体での定格は約5kW、発電率は最大で約65%程度が見込めるという。PV充電ステーションを導入した背景には、宮古島市がメガワット型「離島マイクログリッド実証実験」を行っていることにも関係がある。

 南東沿岸部にある長辺が約1kmという広大な敷地には、太陽光発電4MW、蓄電池(NAS)4MWという太陽光発電設備があり、そこでは「独立型低炭素社会システム」による安定的な電力供給システムの検証が行われている。また、太陽光のほかにも、島内の各地で大規模な風力発電設備を使った発電も行われている。こうした数々の取り組みを見ていると、名実ともに宮古島が“エコアイランド”であることが伝わってきた。

PV充電ステーションの内部。駐車の仕方を工夫すれば、このように2台を停めて同時に充電することも可能
宮古島市では一般家庭でもソーラーパネルの普及率が高い

 現在、熊本県、沖縄県宮古島市に引き続き、埼玉県さいたま市での実証実験もスタートしている。いずれも約2年間に渡りデータを収集し、各地域の特性に応じたパーソナルモビリティの活用方法が見出されていくわけだが、モビリティ単体での性能も検証していく必要がある。

 今回のMC-βがそうであるように、特例措置によって軽自動車のナンバープレートを装着して公道を走行しているということは、近い将来、車両として(リースなどの形態も含めた)販売がスタートすることを意味しているからだ。御存知のように、軽自動車を2015年4月1日以降に新規取得する際には軽自動車税が増税される。税額は軽トラと呼ばれる貨物用自家用では4000円→5000円と25%のアップに止まるものの、軽自動車全体の販売台数のうち約80%を占める乗用自家用に対しては7200円→1万800円と50%ものアップとなる。それだけでなく、バイクも同じタイミングで全排気量において増税される。

 国土交通省ではパーソナルモビリティを「超小型モビリティ」として定義した。“原付以上、軽自動車未満”とされる超小型モビリティの行く末は、MC-βを含めた現在活躍中のパーソナルモビリティがそのカギとなることは間違いない。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員