特別企画

【特別企画】橋本洋平の「ランボルギーニ・ウィンター・アカデミア」体験記

試乗車5台で1億5000万円オーバーの氷上試乗会でランボルギーニの真価に迫る

 もしもスーパーカーを手足のように操れたなら。これはクルマ好き、そしてスーパーカー好きにしてみればまさに夢のような世界。ハリウッド女優を“自分のオンナ”にしてしまうことに等しいぐらい現実離れしている。

 しかし、そんな非現実的世界を体験させてくれる夢のようなプログラムがこの世には存在する。それが「ランボルギーニ・ウィンター・アカデミア」だ。長野県の女神湖で行われたこのイベントは、凍った湖上でドライビングテクニックを伝授してくれるという。

「だけど~、僕にはランボルギーニがない~。キミに見せるウデもない~」と、どこかで聞いたようなフレーズが思わず頭に浮かんできてしまうが、ご安心あれ。実はこのプログラム、実際にランボルギーニを持っていなくても参加可能だという。ディーラーでプログラムの受付を行い、40万円を支払えばランボルギーニを貸してもらえるというから驚きだ。まぁ、窓口がディーラーなわけだから、やはりオーナーかこれから購入しようという人でなければ、なかなかハードルは高そうではあるが……。

 今シーズンはおよそ30人が一般参加予定というプログラムで、日本からは12人が参加。それ以外の人々は、海外から参加費以外に飛行機代や宿泊費を支払ってまで女神湖に来るほどの人気があるそうだ。

女神湖の会場に並ぶランボルギーニのトレーニング車両。浮世離れした光景だ
周囲1.5kmという女神湖は冬期以外は普通の湖。当然のように障害物もなく、ドライビングレッスンには絶好のロケーションだ

 今回はそんな豪勢なプログラムを体験させていただくことになった。さっそく会場となる女神湖を訪れてみると、そこにはウラカンが4台、アヴェンタドール1台が並べられていた。ざっと計算しても1億5000万円オーバー! それを凍っているとはいえ、湖の上に置くというのだから尋常じゃない。

 だが、驚くのはそこだけじゃない。なんとウィンター・アカデミアのチーフインストラクターであるピーター・ミューラー氏が、朝イチから「今日は真っ直ぐ走るよりも横を向いて走ることが多くなりますから、まずはスタビリティコントロールをオフにして、オーバーステアに慣れるエクササイズを始めましょう」と語り始めたのである。「そこでウラカンの衝撃的な走りを体感してください」と付け加えられたが、いやいや、アナタのその発言こそ衝撃的ですって。

 だってそうだろう。まるでスキー初心者を山頂まで連れて行き、「さ、滑りましょうか」とでも言うようなスパルタ極まりない雰囲気だ。はたしてすんなりこなせるのだろうか? 金額も状況も浮世離れした世界に入り込み、夢見心地のままウラカンに乗り込むことになった。

トレーニング車両となった「ウラカン LP610-4」

インストラクターのアドバイスを受け“猛牛”を手なずける心地よさ

 とはいっても、やはりまずは助手席。僕を担当してくれる坂本祐也選手の横でウラカンの動きを体験させてもらう。すると、パイロンで仕切られたコースをいとも簡単にクリア。ターンインこそゆっくりとアプローチするものの、コーナー脱出からは積極的にアクセルを踏み込んでオーバーステアに持ち込んでいることが分かる。その際に発する野太く豪快な5.2リッターのV10サウンドはなんともゴージャス。破天荒な走りとこのサウンド、これもまた非現実的なり。

 さて、今度は自分の番だ。低くタイトなコクピットに滑り込む。走行モードは「CORSA」でスタビリティコントロールはOFFにセット。いよいよスタートだ。ウラカン LP610-4は、その名が示す通り610HPを発生する4WDモデル。はたしてどう走るのか? こんな低ミュー路では、いくら4WDとはいえ610HPが上手く路面に伝わるとは思えない。間違ってもコースアウトしないよう、まずは慎重に走り始める。

 すると、助手席に座る坂本選手から「コーナー脱出時にはアクセルを開けてくださいね」とのご指摘が。車両価格と状況にビビリまくっているヘッポコオッサンドライバーに、よい塩梅で喝を入れてくれるのだ。そこまで言われたらやるしかない。えいやっ!とアクセルを開けてみると、スルリとオーバーステアへと転じ、けれどもスピンすることなくコーナーを脱出してくれるではありませんか。さほど難しさもなく素直に向きを変える感覚で、「これって本当にスーパーカー?」と拍子抜けするほど。このスタビリティとコントロール性は、4WDだからこそなせる業といってもよい。

 そんな乗り味を確認できれば、あとはいつもどおり。自分の右足もイケイケモードに切り替えて、ガンガン走らせていただくことに。スペースに余裕があり、しかも20km/h程度しか出ていない状況なら、僕だってイケると自信をつけることに成功した。開始からわずか1時間足らずでこんな感覚になれるところも、このウィンター・アカデミアのよいところかもしれない。

4WDならではの素直なコントロール性で、わずかな時間で“イケイケモード”で走れるように

 続くプログラムは定常円旋回。ステアリング操作とアクセルワークの連携でドリフト円旋回をせよというのだ。だが、これがなかなか上手くこなせない。派手にアクセルを入れてもカウンターを当てすぎればドリフトはそこで止まり、安定方向に戻ってしまう。なんだかギクシャク、そしてアタフタ。するとミューラー氏が駆け寄ってきて「少ない操舵角でスライドを維持できるようにアクセルをコントロールするんだ」とアドバイスしてくれた。そのアドバイスどおりにゼロカウンターを心掛け、アクセルをより丁寧にコントロールしてみると……。決して簡単というわけではなかったが、なんとかドリフト円旋回を維持しながら走ることに成功! 走った路面は雪が残っていたり、傾斜があったりと難しい状況だったが、なんとか猛牛をなだめることができたのだ。これでさっきよりもさらに自信をつけることができた。

定常円旋回の練習風景
ミューラー氏のアドバイスを受け、猛牛をなだめてドリフト円旋回の維持に成功

 すると次なるプログラムでは、湖上に作られたワインディングコースを走るという。引き続きウラカンに乗り、そのコースを走り始めると、先ほどまでとはうってかわり、スピードレンジが次第に高まっていく。ストレートエンドで60km/hくらいは出ている感じだ。だが、これまでさんざんオーバーステアを体験してきた身としては、そんな状況に放り込まれても、まったくといってよいほど怖さを感じないようになっている。よい意味で感覚が麻痺してきたとでも言うのだろうか、まるでウラカンを手足のように操れる感覚があるのだ。

 そこで感心したのは、ウラカンが生み出す素直な操縦性だった。アクセルをOFFにすれば瞬時にフロントタイヤに荷重が乗ってターンインを開始。向きが変わったところからアクセルを開けていけば、思いどおりのスライドアングルでコーナーを脱出してみせるのだ。要求したとおりに見事にすべてが応答する、それがかなり心地よい。

3つ目のプログラムとなると、よい意味で感覚も麻痺してウラカンを手足のように操れる状態。ドライバーの要求どおりに応答する感覚が心地よい

ウラカンの面白さはハンドリングと安定性の両立にあり!

 今回、ウラカンに装着されていたピレリ製のウインタータイヤは、一般的なスタッドレスタイヤと比べてアイス路面がそれほど得意ではない。にも関わらずこのコントロール性を得られるのは、ウラカン自体が持つコントロール性の高さがあるから。キビキビとしたハンドリングを持ちながら安定性も損なっていない。それがウラカンの面白さであり、素晴らしさなのだと思う。

 このあとにはアヴェンタドールの試乗も許され、同じワインディング路を走行したのだが、エンジンがV型12気筒の700HPだろうが、基本的な特性は不変。ブレーキング時にリアを振り出しやすく、そして応答性がウラカンに比べればややマイルドなことに気を付けていれば、同じように走れるから面白い。また、ホイールベースが長いためか、ドリフトアングルを大きくつけてもそれを維持しやすく、豪快に走れるところが魅力的だった。

 こうして1日を終えてみると、まるで自分が“ランボルギーニマイスター”になったかと思えるほど自信に満ち溢れていた。「自分大好き!オレってカッコイイ~!」である。まぁ、そんな感覚になれるのも、このスパルタトレーニングがあったからこそ。さらに言えば、ランボルギーニが生み出す、手の内に収めやすい操縦性があったからだ。スーパーカーとはいえ扱いきれない世界じゃないことはハッキリした。あと足りないのは己の経済力か? そこもハッキリと突きつけられながら、夢見心地の女神湖からトボトボと帰路についたのでありました。

もう1台のトレーニング車両である「アヴェンタドール LP 700-4 ロードスター」
基本特性はウラカンと同様だが、長いホイールベースで豪快なドリフト走行も可能

<講師陣>
チーフインストラクター:ピーター・ミューラー
Kei Cozzolino ケイ・コッツォリーノ
Yasutaka Hinoi 檜井保孝
Akira Banba 番場 彬
Yuya Sakamoto 坂本祐也

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。