USBケーブルを変えて音質は変わるのか?

 多様なオーディオ製品、アクセサリを商品ラインナップとして持つオーディオテクニカだが、中でもオーディオ用のインターコネクトケーブルは、伝統的にリーズナブルな価格と“嫌な音を聴かせない”S/N感のよい音質で安心して購入できるブランドである。それはデジタル伝送ケーブルでも同じだ。

 実は今回の取材をはじめる前、本誌担当者は「USBケーブルだとあまり音質変わらないなんてことないですよね?」と心配していたのだが、むしろデジタル伝送の方がケーブル交換による変化は大きい。特に伝送時の矩形波周波数が高いほどケーブルからの影響が大きい。

 USBでつながる機器が多い昨今、手元に多くのUSBケーブルが転がっているかもしれないが、それぞれオーディオ用でなくとも交換しながら音を聴き比べてみると、意外と大きな音質差があることが判別できると思う。論より証拠。オーディオ用USBケーブルを持っていない方は、普通のパソコン/スマホ用で構わないので、ぜひ実際にいくつか聴き比べてみてほしい。その違いが見えるだろう。

 少しでもオーディオを囓っている人ならば、こうしたUSBケーブルのよる音質変化を経験したことがあるだろうし、実際に自宅で使うUSBオーディオ機器にオーディオ用に音質検討されたケーブルを使っている人は多いと思う。

 では、家庭向けに開発された高音質USBケーブルは、AT-HRD5のような車載向けのオーディオDACにも有効なのだろうか?(AT-HRD5のレポートは関連記事を参照)

以前取材した車載用デジタルトランスポート「AT-HRD5」。この製品を切っ掛けに、車載向けUSBケーブルを望む声が上がり、今回の「AT-RX97」シリーズの開発に至ったと言う

 もちろん、オーディオ用ケーブルを用いることによる音質の変化は、車載向けシステムでもまったく同じように起きる。お気に入りのUSBケーブルがあるならば、それを車載向けにも応用してもいいかもしれない。しかしその前に検討してみる価値があるのが、今回発表されたオーディオテクニカRexatシリーズの新製品、トリプルハイブリッドUSBケーブルの「AT-RX97」シリーズである。

クルマ向けUSBケーブルはなにが違うのか?

お話を伺ったのはオーディオテクニカのマーケティング本部 国内営業部 モービルサウンド課 石橋昌侑さん

 AT-RX97はクルマで利用されることを想定し、一般的な高音質USBケーブルの設計アプローチに対して、車載向けならではの工夫がいくつか施されている。

 ひとつはケーブル長のラインナップ。車内で邪魔にならないよう取り回した上で、手元で自由にスマートフォンやオーディオプレーヤを操作できるよう、長めのラインナップ(種類によるが1.3m、2m、3m等)となっている。これはシステムのインストール位置が車種やレイアウトによって大きく変化するからである。

 次に耐熱。温度が高くなる部分をインストール時に通過させたり、あるいは夏の炎天下での駐車などで高温に晒され続けても、ケーブルの劣化が発生しないようシース(ケーブルの被覆)を耐熱性のPVCへと変更するなどの工夫がされている。

 そしてもうひとつ重視しているのが充分な柔軟性である。シートスライドの可動域を避けたり、センターコンソールの目立たない場所を這わせたりと、車載インストールにおいて接続ケーブルは小さな曲率で曲げねばならない部分が極めて多い。小さな曲率で曲げても内部構造が崩れにくく、断線などのトラブルが起きないようにするのはもちろんだが、インストール時にも使い勝手がいい。

 しかし実際に手にして感じたのは柔らかさだけでなく、しなやかさ。高音質USBケーブルはノイズの飛び込みを防ぐため多重シールドを用い、さらに信号線も導電経路を単純化するため単線(1本の導線を1本の金属線で構成する方法)化しているものが多い。しかし、これらは取り回しが悪いだけでなく、しなやかさがないため、車内でプレーヤを手にとった際に操作がしにくく、また端子部への負担が大きいため繰り返し使う中で故障を誘発しやすい。

 その点、AT-RX97シリーズはオーディオ用はもちろん、一般的なスマートフォン用USBケーブル並にしなやか。シールドや制振材料が使われているため太さはあるものの、極めて扱いやすくなっている。

 このような車載用に工夫されたオーディオ用USBケーブルは他に例がないため、現時点ではその存在だけでも貴重だが、もちろん重要なのは“音質”に他ならない。ということで、オーディオテクニカが持つデモカーで、その実力を確認してみた。

全域でS/Nが改善! 家庭用としても使いたくなる音質に驚いた

 デモカーにソニーのハイレゾウォークマン「NW-ZX100」を接続。AT-RX97の比較対象として用いたのは、オーディオテクニカの家庭向けオーディオ製品「ARTLiNK」シリーズのUSBケーブルだ。価格は手ごろだが、オーディオ用としてOFCを導体に採用。制振材料としてハネナイトとハイブラーを組み合わせて不要振動を抑える同社得意の「ハイブリッドインシュレーションシステム」を採用している他、銅テープシールドとOFC編組シールドを使うことで飛び込みノイズを抑え込んだケーブルだ。

 通常、機器などに付属していたり、あるいはオーディオ用途以外に開発されたりしたケーブルに比べると、このARTLiNKのUSBケーブルでも充分に高音質。以前にこのケーブルを家庭内で比較試聴したことがあるが、とりわけ中高域から高域にかけてのS/Nが改善し、演奏のニュアンスを明瞭に描き分ける、エントリークラスのオーディオ用USBケーブルとして魅力ある製品だった。

同社の「ARTLiNK」シリーズのUSBケーブルと比較してみた。この製品自体もオーディオ向けに開発された製品で、充分に高音質であることは体験済み

 試聴したアルバムはイリアーヌ・イリアスの「Made in Brazil」からÁguas de Março(waters of march)、ミューズの「Drones」からDead Inside。いずれも96kHz/24bitのハイレゾFLACファイルである。

 ボッサノバ歌手のイリアーヌは、透明感よりも存在感、癒やし感のある歌声で、太く落ち着いた声質を持つ女性歌手だが、そこにブラジル音楽らしい涼やかなバッキングが加わる。独特の切れ味鋭いリズム感が気持ちいいwaters of marchは、AT-RX97MBにケーブルを変えると全域のS/Nが一気に向上した。結果的に音量が小さくなったと感じられ、思わず1.5dBほど音量を上げた程だ。

 ダイナミックレンジが拡がって聞こえるため、リズムの切れがより軽妙で思わず身体が動き出す。ともすれば、鼻にかかったように聞こえがちなイリアーヌの声も、ハイエンドオーディオシステムで聴くように気持ちよく耳に届いた。なにより広大な音場とスッとなだらかに消えていく奥行き感のある空間の描き方は、ブラジルの開放的な雰囲気を感じさせる。

 正直、ここまで音が変わるのであれば、家庭向けのケーブルもARTLiNKではなくRexatを使うべきだろう……と思う。しかも使ったケーブルは2mとオーディオ用としては長尺の製品である。

デジタルトランスポート「AT-HRD5」を積んだデモカーでUSBケーブルだけを入れ替えて比較試聴する。決して悪くないはずの「ARTLiNK」シリーズと比べても大きな変化が感じられるのには驚かされる

 ミューズはご存知イギリスのロックグループだが、Dead Insideは冒頭のベースとドラムのリズム隊による重厚なサウンドに、ハイキーなヴォーカルが絡みついてくる。超高音質な音源ではないものの、この時の音のバランス、力強さを確認してみた。

 想像以上に変化したのが低域。ボリューミーかつややルーズに感じていた中低域から低域にかけての表現は、低音重視のカーオーディオ的な味付けによるものだろうと思っていたのだが、ケーブルを変えたとたんに引き締まるとともに、高域の情報量がグッと増して全体のバランスがよくなった。

 その結果活きてくるのがヴォーカルで、突き抜けるようにシャウトが天に向かって突き刺さるように立ち上る雰囲気だ。全体のS/Nが改善されるため、音場表現が丁寧に包み込まれるような雰囲気になるのはイリアーヌの時と同じ。これはなかなかの実力。車載ということを抜きにしても、検討に値するオーディオケーブルに仕上がっている。

導体をブレンドすることで作り上げられた“音質”

 さて、試聴したAT-RX97MBには単線ではなく、撚り線が導体として使われている。これはハイブリッドインシュレーションシステムと同様、同社製オーディオケーブルの基本的な特徴となっている要素だ。オーディオテクニカは複数のオーディオ用導体を“ブレンド”し、音質傾向を確認しながら配合を決めるハイブリッド導体を用いた開発を得意としている。

トリプルハイブリッドの電源ラインとハイブリッドの信号ライン、ハネナイトスタビライザーと「ハイブラー」制振材で振動を抑え、銅テープシールとど編組シールドでノイズを防ぐ。シースは耐熱性の優れるシースで車載環境に耐える

 ハイブリッドインシュレーションシステムは、柔軟性と高音質を両立する手法。導体を信号が通る際に発生する微細振動をどう逃がすかは、ケーブルメーカー各社が創意工夫している部分だが、そこに対して二種類の制振素材を適切に用いることで対策しているのがオーディオテクニカの特徴だ。

 ハネナイトはコシのある素材でスタビライザーとして機能、ハイブラーは細かな振動をダンプする効果を持つ。このふたつで幅広い帯域の振動への対応を行っているわけだが、使い方は若干異なるものの比較試聴したARTLiNKシリーズでも使われている手法だ。

 一方のハイブリッド導体だが、AT-RX97MBには、2014年に華々しく新製法のオーディオ用銅素材としてデビュー、今や定番の導体となっているPC Triple-Cと6N-OFC、一般的なOFCの3種類を組み合わせている。

 PC Triple-Cは高純度無酸素銅を特殊な鋳造・鍛造方法で製造される導体で、オーディオ用向けに特化して開発されている日本発の材料だ。今やオーディオ用導体としては“定番”と言ってもよく、日本のメーカーで使っていないところはないと言えるほど。

 制振を司る対策材料や誘電体、構造などで音質は変化するが、基本的な部分での特性はこの素材による影響が強いが、どうしても似たような傾向・結果となりやすい。品位の高低はともかく“音の質感”という面では開発しにくい面もある。調達先が同じとなり、選択肢から選ぶことができないからだ。

 本製品を使ってなるほどと思わされたのは、ここに一般的な無酸素銅(OFC)と、さらに純度を高めた6N-OFC(99.9999%まで純度を高めた無酸素銅)の導体をブレンドして撚り線にし、音の質感を狙った方向へとチューニングしたおかげで、音楽的にバランスのよい“聴かせる”ケーブルになっているということ。

 超高級のオーディオ用USBケーブル……、たとえば銀単線を使い、信号線と制御線を離して配置するフラットケーブルとした上で、発泡ウレタンなど高価な素材、作りにくい構造などを採用したケーブルを開発すれば、音質検討されたよりよいケーブルが作れるだろうが、価格は数倍、場合によっては10倍以上になる。

音質を追求しながらも、適度な太さと柔軟性など、狭い車内で使う上で重要な要素も両立している

 そうした意味では本製品、オーディオアクセサリメーカーならではの“創意工夫”と開発者側の作り込みで音の質を整え、リーズナブルな製品として最大限の効果を発揮しているという点で極めて優秀な製品だ。

 車載用として唯一の選択肢のため、比較するライバルはいない。しかし、たとえライバルが多数いる家庭向けの製品であったとしても、高い競争力を持つだろう。いわずもがな、車載用ならば文句なしにオススメできる。

製品ラインナップ

AT-RX97は長さ1.3mと2m、3mのラインナップを持つ。コネクタ形状はTypeAのUSBプラグとTypeBのUSBプラグ

AT-RX97EXは長さ1.3mをラインナップ。コネクタ形状はTypeAのUSBプラグとジャックで延長ケーブルとして使える

AT-RX97MBは長さ2mと3mをラインナップ。コネクタ形状はmicroBのUSBプラグとTypeBのUSBプラグ。AT-HRD5とスマートフォンを接続できる

AT-RX97MRは長さ1.3mをラインナップ。コネクタ形状はTypeAのUSBプラグとmicroBのUSBプラグ

AT-RX97OTGは長さ1.3mをラインナップ。コネクタ形状は両端ともmicroBのUSBプラグ

Rexat「AT-RX97」シリーズは、いずれも金メッキコンタクトで耐久性を向上。車載スペックとして最大90℃までの耐熱仕様となっている

(Reported by 本田雅一)