「ライバルは北陸新幹線! というのはどうですかね?(本当にこう言った)」。ほぼ100%の確率で、Car Watchからのお誘いは波乱含みである。そもそも春の便りが南の方から届きそうになった頃に「スタッドレスタイヤの取材をしましょう!」とは何事なのかと小一時間。そう、今年も例によって例のごとく「雪を求めて三千里」のスタッドレスタイヤ取材が始まるのだ。

 ブリヂストンが誇るスタッドレスタイヤ「BLIZZAK VRX」。私の愛車であるハチロクは、冬季はこのスタッドレスタイヤへと履き替える。普段はホイール込みで倉庫に保管しており、12月前半にはノーマルタイヤと交換するのである。私の住まい、そして事務所は東京都内にあるため、降雪というのは1シーズンでほんの数回しかない。しかし、その数回あるかないかの降雪に当たった時、スタッドレスタイヤはその真価を発揮してくれる。さらに雪が降っていないときであっても、夜中に氷点下になるような時には、路面が凍結していることもある。自分が気づいていないようなところでも、じつは助けられているのである。

 実は昨年もハチロクとBLIZZAK VRXの組み合わせで取材を行った(その模様はコチラ)。雪深いテストコースにBLIZZAK VRXを履いたハチロクを持ち込み、急制動からスラロームまで、一般公道では不可能な走行テストを行ったのだ。もちろんハチロクはテストコースまでの雪道を自走しており、一般公道の雪道走行も体験できた。結論としては「スゴいぞBLIZZAK VRX!」ということになったのだ。

昨年はテストコースでBLIZZAK VRXの限界性能をテストした

 簡単に言ってしまうと雪道には「進まない、止まらない、曲がらない」という三重苦が潜んでいる。それを打ち破るのがBLIZZAK VRXであり、スタッドレスタイヤなのである。BLIZZAK VRXにはブリヂストンが誇る最先端技術、アクティブ発泡ゴム、新非対称パターン(ブリヂストンでは非対称パタンと呼ぶ)、新非対称サイド形状などが投入されている。それぞれの技術に関する詳細はメーカーサイトを参照して欲しいが、要するにBLIZZAK VRXを履くことによって、雪道でも「進む、止まる、曲がる」が可能になるということだ。

 もちろん雪道、凍結した路面は悪魔のようなもの。いくら高性能なスタッドレスタイヤを履いていても、決して油断できるものではない。しかし、BLIZZAK VRXのようなタイヤを履けば、たとえそれがFR(後輪駆動)のハチロクであっても、「雪道である」ということをしっかり認識した上で、普段とさほど違わないドライブが可能になるのである。ということを昨年の取材でもしっかり体感することができた。

 で、我がBLIZZAK VRXが2シーズン目となった今年。今回のテーマは「上信越・東北へBLIZZAK VRXを装着したハチロクで観光に行く(仮)」ということになった。北陸新幹線が開通し、上信越へのアクセスが良くなった結果、観光地としての上信越、日本海側の東北エリアが注目される機会も多くなった。北陸新幹線も魅力的だが、クルマ好きとしては観光に行くなら愛車で行きたい。雪景色を楽しんで、温泉にゆったりつかるなんていうのは最高だよね……。

 そんな流れの話があって、今回は「雪のない関東エリアを出発、雪深い上信越・東北への観光ドライブ」シミュレーションということになったのだ。3月ともなれば関東エリアにはほとんど雪がなく、路面はドライかウェットである。そこから出発して上信越・東北エリアへ向かえば、降雪地帯へと入り、さまざまな路面を走ることになるだろう。果たしてそこでBLIZZAK VRXは、どんな走りを我がハチロクに提供してくれるのか?

 いや、話は理解できたのだけど季節は冬の終わり、3月ですよ(注:関東エリアの感覚です)! 雪はあるんですか、本当に? そこはかとない不安を胸に、BLIZZAK VRXを履いたおっさんのハチロクは東京杉並区を出発したのであった。

雪道以外でも頼れるBLIZZAK VRX

 観光だけに敢行って、ベタも度を過ぎると悲しくなるとか思ったり。真面目な話に戻ろう。3月10日、晴れ。東京杉並区の自宅から集合場所へとハチロクを走らせる。BLIZZAK VRXというスタッドレスタイヤを履いてはいるものの、ドライな路面を走る上でノーマルタイヤと異なる感覚はほとんどない。

 Car Watchのスタッフと合流して軽く打ち合わせをした後、目的地へ向けて出発。最終的には上信越エリアの温泉を目指すのだが、まずその前に志賀高原エリアへ向かおうということになった。理由は簡単、まずはとにかく積雪地帯へ入りたいからだ。スキー場などでも知られる志賀高原なら、雪もしっかり残っているはずだし、降雪にも期待できる。さらに言うと観光ドライブのシミュレーションであれば、志賀高原に寄るというのも話としてはアリだと思ったからだ。

 練馬IC(インターチェンジ)から関越自動車道に乗り、向かったのは上信越自動車道。練馬入り口の電光掲示板には「チェーン規制」という表示があり、東京都内は晴れだったが、先へ進めば雪に出会えると期待も膨らむ。だが、群馬県に入っても雪らしい雪はどこにも見当たらない。やや焦りを感じつつ、愛車のハチロクを走らせる。

 ちなみにドライコンディションの高速道路をBLIZZAK VRXで走った訳だが、一般道と同じでノーマルタイヤとの違いは感じられない。ほんの少しタイヤノイズが増したような気もするのだが、気のせいと言われれば納得するぐらいのレベルである。一昔前のスタッドレスタイヤのノイズとは別物で、格段に進化している。そして面白いというか興味深いのは、ノーマルタイヤと比較して高速走行時の直進安定性が増したように感じるのだ。

関越自動車道へ練馬から入る。電光掲示板に「チェーン規制」の表示が。普段なら「えー」だが、今回ばかりは「ラッキー!」   スタッドレスタイヤで高速道路を走っても、ノーマルタイヤとの違いは感じられない。むしろ直進安定性が増しているような気がする

 実はこれにはちゃんと理由があって、BLIZZAK VRXの特長である「非対称サイド形状」が影響しているのだ。非対称サイド形状というのは、ブリヂストンが持つ独自の技術で、タイヤ内側と外側のサイド、すなわち側面部分の形状を最適化し、それによってタイヤやクルマのふらつきを軽減、高い直進安定性を確保するものなのだ。特に雪道のようにタイヤやクルマ自体が走っていて動揺するような場面において効果を発揮する。そしてこの効果はドライな路面でも発揮されるのだ。

 ドライな路面の高速走行を楽しみつつ、ハチロクは順調に進んでいく。我がハチロクは待望の雪景色へと突入したのであった。

通常路面では普通にいいタイヤのBLIZZAK VRX、真価を発揮するのは雪道……雪はどこだ?!   下仁田ネギ……はいいとして、関越自動車道から上信越自動車道へ入り、志賀高原を目指す

雪との出会い、ついに念願の雪道へ!!

 とうとう雪が降り始めた! というより降雪があるエリアへ我々が飛び込んでいったというべきか。関越自動車道をひた走り、埼玉県を抜けて群馬県に入る。藤岡JCT(ジャンクション)から上信越自動車道へと分岐し、長野県を走る。やがてハチロクは北陸新幹線と上信越自動車道が交差する地点へと差し掛かる。そして信州中野ICから、ついにというかとうとうというか、チェーン規制がかかったのである。雪だ。

 いや、実は信州中野ICの前から、すでに雪がチラホラ降り始めていたのだ。しかしチラホラ降る程度では高速道路に接触した段階で溶けてしまい、降雨とさほど変わらないウェットな路面になるだけ。ちなみにBLIZZAK VRXはウェットな路面に対してもかなり強いタイヤだ。BLIZZAK VRXの特長である「アクティブ発泡ゴム(後編にて取り上げる)」に配合されたシリカのお陰だと思うのだが、普通に走っている分にはノーマルタイヤ+ウェット路面と比較しても不満は見つからない。

 そのまま先へ進むと、ついに路面は雪が積もった積雪状態となる。雪が積もったというより降った雪がタイヤで踏み固められた状態というべきか。そしてこのあたりから路面コンディションは、目まぐるしく変化する。温度の高いところではちょうどタイヤが通る轍の部分だけがすっかり溶けて、アスファルトがむき出しになっている。あるいは溶けた雪がシャーベット状になってアスファルトを覆っている。踏み固められて氷になった、すなわちアイスバーンの上にシャーベット状の雪が被さっているところもある。

 温度が低いところではツルツルのアイスバーンがむき出しになっており、降雪が激しいところではアイスバーンの上に雪が積もっている。そしてBLIZZAK VRXのようなスタッドレスタイヤは、こうした降雪が生み出すさまざまな路面状況、その全てに対応しなくてはならないのだ。プラス、通常の路面状況にも対応できなくてはならない。

ついに雪と遭遇! しかし積雪はしていない。この程度であれば、路面は雨が降ったのとほぼ同じ状態(油断は禁物)   信州中野ICで上信越自動車道を降り、志賀高原を目指す中、ついに本格的な雪道に突入!
さほど広くない一般道、しかも雪道で大型バスとのスレ違い。BLIZZAK VRXなら落ち着いてパスできる   カーブでも車体は安定している。跳ね上げからも分かる通り、路面はシャーベット状の雪で覆われている

 信州中野ICで上信越自動車道を降り、一般道を通ってスキー場が点在する志賀高原へと向かう。途中、峠道があるのだがもちろんそこは雪道である。曲がりくねった峠が雪道。かなりの緊張を強いられるシーンではあるのだが、こちとらBLIZZAK VRXを履いて2シーズン目の冬なのだ。BLIZZAK VRXの高性能ぶりは知っているので、雪道への配慮をしつつBLIZZAK VRXを信じて慎重に運転するのみ。

 雪道を走るポイントは、まず何より「スピードを出しすぎない」。スピードは控えめにして絶対に無理をしない。いくら高性能なスタッドレスタイヤを履いていても、限界を超えればクルマは止まらないし曲がらないのだ。止まれる範囲、曲がれる範囲をしっかり把握して運転するのが重要なのである。

凍結した路面、その表面が溶けて柔らかくなっている(シャーベット状になっている)。かなり難しい状態だ   ちょっと見づらいが、これはタイヤチェーンが食い込んだ痕跡。大型車両はここまでしないと、滑って進めなくなる
 
完全に凍結した雪道に突入。これでも普通の走りなら、滑ることはない   FR車特有の「リアが前に出ようとする」感じは多少ある。だが、安定感の方が勝っている

 さて、志賀高原に入ったハチロクだが、観光ドライブのシミュレーションということでお洒落なレストランやカフェを探して右往左往。止まったり走ったりを繰り返した訳だが、BLIZZAK VRXの走りは雪道を感じさせないものだった。もちろん雪道は通常の路面とは異なる。だが、スタート時やストップ時に滑るということもなく、こちらも慎重な運転をしていたのでABSが効くということもなかった。

 結局、スケジュールの都合もあって志賀高原はほとんど通過しただけという状況で、次の目的地である出雲崎へと向かって出発した。

2シーズン目となるBLIZZAK VRXだが性能の衰えは感じられない   峠を下りていくと凍結した路面が溶けている。さまざまに変化する路面状況に対応できるのがBLIZZAK VRX

大荒れの予感! 大雪警報! 暴風雪警報発令!!

 思えば早朝、練馬から関越自動車道に乗る時は「雪なんかあるのか?」などと思っていた。志賀高原へ向かう途中から天気は雪となり、ついには積雪地帯へと突入した。BLIZZAK VRXの取材というか実走テストとしては理想的な環境と言ってもいいだのが、少しばかり雲行きが怪しくなってきた。いや、比喩的な表現ではなく言葉通り「雲行きが怪しい」である。もしかしてこれって「大荒れ」?

カーナビで情報をチェックするとチェーン規制がかなりの広範囲で出ていることが分かった
中郷インターチェンジまであと2km、雪がえらいことになってきた   それでも快調に走るハチロク。というかフロントバンパーあたりが雪まみれ。東京で降る雪とは雪質が違うようだ
融雪装置によって雪が溶かされている。かといって安心はできないのだ   除雪部隊とすれ違う。この悪天候の中、本当に頭が下がる思いだ
北陸自動車道を上越方面に向けて走る

 雪にまつわるさまざまな路面状況を体感しつつ、峠を走り抜けたハチロクは上越JCTから北陸自動車道へと入り、次の目的地である出雲崎を目指す。その途中、休憩で立ち寄ったのが米山SA(サービスエリア)なのだが、この時点で天候は吹雪状態となっていた。パーキングエリアの展望コーナーから見える日本海の、まあ荒々しいこと。雪交じりの風は猛烈で、温度もかなり低い。「雪なんかあるのか?」とか軽く考えていた罰が当たったのかも知れない。

 高速道路のインフォメーションでも大雪警報、暴風雪警報を連発。ただならぬ雰囲気である。もちろんチェーン規制、速度規制が入っている。これはもう安全運転厳守(いつもそうだけど)で行くしかないと心に決めて、米山SAを出発して出雲崎を目指す。いや、北陸自動車道に出て驚いた。猛吹雪で視界がかなりわるくなっているのだ。横風もかなりきついのだが、ハチロクはそもそも車高が低いし速度も遅かったので大きな影響はなかった。また、BLIZZAK VRXの高い直進安定性をつくづく実感できるドライブでもあった。

北陸自動車道、米山のSAで一休み……   「記念撮影しましょう」とか、いや、寒いから! ちなみに日本海大荒れ
SAで情報チェック。「大荒れ」だそうです、おっさん引きつってます   「暴風雪」だそうな。本当に大丈夫か、この企画?
初日の宿泊地である弥彦温泉へ入る前に、出雲崎に立ち寄る。なかなかいい風景だ

 しばらく猛吹雪の北陸自動車道を走り、西山ICで降りて一般道を進む。しばらく走ると目的地である新潟県三島郡出雲崎町に到着となる。この出雲崎町、小さな街なのだがとにかく雰囲気がいい。歴史を感じさせる街並みと日本海の風景を同時に楽しめるし、歌人として著名な良寛生誕の地なのだそうだ。街並みに関してはクルマで行ったとしても、降りて雰囲気を味わいながら歩きたいぐらいに素晴らしい。「妻入り」という建築様式で建てられた家が立ち並ぶ光景は、タイムスリップしたかのような雰囲気だ。

 そんな街並みを赤いハチロクで行ったり来たりした訳だが、歴史的な家屋とスポーツカー、雪景色のミスマッチがなんとも楽しかった。愛車ということでもちろんひいき目で見ているのだが、歴史を感じさせる風景に我がハチロクはマッチする! そう思えるのもクルマで来られたお陰と言える。

 しばらく出雲崎の街並み、そして荒れる日本海の風景を楽しんでから、初日のゴールである新潟県西蒲原郡は弥彦村にあるホテルへと向かって出発した。出雲崎からは距離にして約30km、天候はかなり落ち着いていたが一般道を慎重に走ってホテルに到着。取材の初日はここで終了。

 

 東京練馬を出発、約400kmを走って初日のゴールとなったが、その半分以上は雪道となった。ドライコンディションの高速走行から始まってシャーベット状の雪道、アイスバーン、雪の峠道、吹雪の高速道路とさまざまなコンディションの路面を走り抜けた訳だが、BLIZZAK VRXを履いているお陰で「普通」に走ることができた。もちろん雪道に入ればそれなりの慎重さや配慮は必要となるが、不安を感じることはない。むしろドライブを積極的に楽しむ余裕ができたと言っていい。

 

 今回の取材は最初にも書いたが「観光ドライブのシミュレーション」である。まず何よりハチロクで冬の上信越・東北へのドライブは現実的なのかを探り、さらに重要なのはそれを楽しめるかどうかだ。走って楽しい、見て楽しい、食べて美味しいのが観光ドライブ。決死の覚悟でハンドルにしがみついて雪道を走るというなら、それは「走破」と表現した方がいいだろう。

 

 ここで初日の結論。ハチロクで冬の上信越・東北へ観光ドライブするのはアリ! ただし高性能なスタッドレスタイヤは必須、もちろん私はブリヂストンのBLIZZAK VRXをお薦めするのだが。後編では吹雪の中、喜多方ラーメンを食べたい一心のおっさんがハチロクでひた走ります。

忘れちゃいけないのが観光シミュレーション!   宿に到着、お疲れ様でした……というか翌日、またまた大変な目に遭うことをまだ知らない呑気なおっさんであった……
 

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