関東圏にもそろそろ雪の季節が近づいてきた。スタッドレスタイヤの準備は済んでいるだろうか? 雪のニュースが流れ始めた瞬間にスタッドレスタイヤは猛烈な勢いで売れ始める。そして、人気のタイヤは入荷に何日もかかり、結局降雪に間に合わなかった、という話をよく耳にするのだ。乗り遅れないよう、ここにダンロップのスタッドレスタイヤ「WINTER MAXX(ウインターマックス)」を北海道でテストしてきたので、その詳細をお伝えしよう。あなたのスタッドレスタイヤ選びの参考になれば幸いである。

 今回Car Watchから依頼されたスタッドレスタイヤの試乗は、通常のタイヤテストとは少し異なる。というのも、WINTER MAXXが発売されたのは3年前の2012年。すでに3年が経過しているわけだが、この3年間の販売実績を見ればWINTER MAXXの性能がいかにすぐれているかを物語っているというもの。しかし、改めてここでWINTER MAXXの性能を評価する。今回、クローズドのいわゆるサーキットのような雪上コースが準備できたこともあって、私なりに限界走行も試してみて改めてWINTER MAXXの性能値がスタッドレスタイヤの中でどのレベルにあるのかもテストしてみたい。

レビューするのはレーシングドライバーとしてインディ500やSUPER GTで活躍し、モータージャーナリストとしてCar Watchでも執筆している松田秀士氏   評価するのはダンロップのWINTER MAXXだ

3シーズン目のWINTER MAXXの性能をプロの目で比較する

 もう一つ、WINTER MAXXのアピールポイントに「乾燥路の摩耗に強くロングライフ」という謳い文句がある。確かに、雪が降り始めるのがいつかは誰にもわからない。早く装着すれば、雪が降り始める前に摩耗が進み性能が落ちてしまうのではないか? あるいは、寿命が縮み来シーズンには使えなくなるのではないだろうか? こんな心配をしてしまうのも無理はない。

 また、豪雪地帯以外、特に都心などでは降雪時に備えてあらかじめ装着しておくわけで、実際に雪上走行する距離はわずかなもの。つまり、早すぎる装着や雪のない路面での使用がスタッドレスタイヤの寿命にどのような影響を与えているのか?

 正直、筆者はこれまで数々のスタッドレスタイヤを試してきた中で、スタッドレスタイヤほど経年劣化あるいは走行劣化が激しいタイヤはレーシングタイヤを除き他にないと感じている。スタッドレスタイヤの場合、いかに雪面を噛み捉えるかがキモなので摩耗が進んでしまうと当然性能が落ちてしまうもの。この点、ダンロップのWINTER MAXXはどうなのだろう? と気になるところだ。

 そこで今回は、新品タイヤと別にもうワンセット、まるまる2年間使用し、3シーズン目となるWINTER MAXXを用意してもらった。こちらは札幌市内で毎日通勤に使用したという正真正銘の中古タイヤ。見た目では明らかに摩耗が確認でき、これで新品タイヤと比較するのは荷が重いかも、というのが率直な私見。

 ちなみに前編では素人代表として、スタパ齋藤さんが街中で比較してみたそうだが、全然違いがわからなかったとのこと。なので、走りのプロに評価してもらうと舞い込んできたのが今回の趣旨というわけだ。これだけ摩耗していれば違いはわかるだろうと思うが、とはいえ、新品タイヤと比較してどのような走りを見せるかが楽しみでもある。ところで、テストに使用するクルマはハイブリッドのトヨタ・プリウス。今、日本で最もポピュラーなモデルをチョイスしてみた。

3シーズン目のWINTER MAXX。テスト用に準備しておいたものなどではなく、北海道の販売店のスタッフが毎日通勤で実際に使っていたものとのこと。新製品のレビューはあっても中古タイヤのレビューというのは珍しい
プラットフォームまでの深さは2.9mm。新品は4.7mmなので4割減といったところ。これだけ摩耗していれば違いが現れるのは当然だろう   先だって街中で比較したというスタパ齋藤氏。「言われなければ気づかないぐらい差がない」とのことだが……

スタッドレスタイヤに厳しいハイブリッド車のトルク

 では、さっそくクローズドコースでのテストからだ。実はテスト前日まで気温も高く、一度解けた氷に雪が乗っているという悪コンディション。雪が締まっている早朝の時間帯からテストを始めることにした。まずは新品のWINTER MAXXで表面が凍ったテストコースを走り始める。

夏場はダートコースの新千歳モーターランドを借り切ってテストする   一見新雪に見えるがそのすぐ下は氷という状態。スタッドレスタイヤにとっては厳しい状況だ

 ハイブリッドのプリウスは、停止状態からの出だしにエンジンではなくモーターでクルマを動かす。1tを軽く超えるクルマを動かすとき、一番エネルギーを必要とするのがこの出だしの加速だ。つまり、大きなエネルギーを必要とするこの走り初めの一転がりを電気モーターに依存することでエネルギーが節約でき、エンジンを使わないので結果燃費がよくなるのがハイブリッドのメリットだ。

走り始めから一気にトルクが発生するハイブリッド車はタイヤにとって過酷

 そして電気モーターは0rpmから最大トルクを出せるという特徴がある。エンジンはある程度回転数を上げないと最大トルクを発揮できないが電気モーターは0rpm時から最大トルクを出せるのだ。そのため、低μ路からの発進時、タイヤがどれだけしっかりと路面を捉えて加速してゆくかを観察することで、そのタイヤ性能を確認することができる。

 滑りやすいタイヤならば簡単にホイールスピンが始まりトラクションコントロールが作動する。スピンが続くためトラクションコントロールの介入が長引き、結果加速が悪くなるのだ。このため、雪道ではグリップのよいスタッドレスタイヤを選ぶだけで、安全だけでなく燃費も向上させることができるのだ。

 スタート時から最大トルクを出すモーターによる駆動。さらにすぐ下が凍った雪面。それでも新品WINTER MAXXはホイールスピンによる大きなトラクションコントロールの介入もなく、スムーズに加速する。さらにブレーキングも踏み始めから減速Gが感じられ、不安感なく制動しABSの介入も予想以上に少ない。これはMAXXシャープエッジとナノフィットゴムによる氷上グリップ性能によるものだろう。特に、MAXXシャープエッジはダンロップ独自のミウラ折りサイプをさらに緻密にすることで、ブロックの倒れ込みを抑え接地面積をアップさせている。サイプは氷上でのブレーキングに大きな効果を発揮するのだ。

急激な加速に対しても、リアタイヤを沈めながらググッと加速するWINTER MAXX

新品のWINTER MAXXで限界領域を試す!

 今回のコースのように表層が連続的に凍った雪道は、一般道でいう道路の継ぎ目よりも鋭利で連続した不快なショックを感じるものだ。しかしこのタイヤはその不快感がとても小さい。つまり、雪道の乗り心地がよい。ダンロップは一般ラジアルタイヤでも静粛性が高く乗り心地のよいことが特徴だが、そんなDNAがスタッドレスタイヤにも生かされているのだと感じた。

 コーナリングもとてもスムーズ。ステアリングの切り始めからしっかりと雪面を捉え、いわゆる応答感があり、グリップしていることを示すハンドルへの反力(セルフアライニングトルク)も感じる。つまり、低μの雪面でもステアリングフィールがスカスカにならないので安心感が高いのだ。所々、完全に凍結している路面を通過するが、ここでのグリップも極端な抜けを感じない。抵抗感があり、凍結路でのグリップ性能も高い。

雪の下は断続的に凍っていて快適な路面とは言えないが、その割にWINTER MAXXだと乗り心地がよい   コーナリングではステアリング操作に対して手応えがあり、安心感を持って走ることができる

 そこで、さらに速度を上げて、クローズドのコースゆえ限界域を試してみた。速度を10〜20km/h上げ、アクセル操作もステアリング操作もわざと急のつくレベルで行ってみる。すると、もちろん限界を超えてグリップを失うのだが、このグリップを失うときのフィーリングがマイルドで、いつグリップを失うかのインフォメーションがわかりやすい。グリップレベルは高いが破綻が突然やってきて、しかもグリップダウンが激しいタイヤはピーク性能が高くても一般ドライバーには宝の持ち腐れどころか危険なものとなる。なによりも、心理的にドライバーを委縮させるので疲れてしまうのだ。したがって、よいスタッドレスタイヤとはすべてにおいてマイルドなコントロール性のよいタイヤであることが一つの条件だと考えている。

限界を超えるところまでペースを上げてみるが、一気に破綻することがなく、インフォメーションが豊富でコントロール性が高いので安心して走ることができる

運転席には松田秀士、助手席にはスタパ齋藤が乗り込み、新品のWINTER​ MAXXを履いたプリウスでテストコースを走る

限界領域で見えた3シーズン目WINTER MAXXの違い

 では、注目の3シーズン目の中古タイヤをテストしてみよう。まず走りはじめ、トラクション性能はほとんど変化がないと感じる。コーナーへの進入時の応答感も変わらない。乗り心地も含め、これは本当に3シーズン目のスタッドレスタイヤなのか? と疑ってしまうほどで、一般的な速度域での走行では大きな差は感じられなかった。

 続けてペースを上げていく。そして唯一差が出たのは限界速度域で走った時のコーナリングだった。限界速度域でのコーナリングでは、ステアリングを切る角度、操舵角が増えるのだ。しかし、曲がらないというわけではなく、少し蛇を増やせばしっかりと曲がってくれる。

普通に加速やコーナリングしている分には新品のWINTER MAXXと比較してもほとんど差が感じられない   ハイペースでコーナーに進入すると、先ほどより少しだけステアリングの蛇角が大きくなる。といっても曲がらないというレベルではない

 さらに、ある程度緩んだ雪路面で加速性能とブレーキ性能を比較してみる。凍った路面だけでなく、緩んだ、あるいはシャーベット状でのグリップレベルも申し分ない。3シーズン目の中古タイヤでは、若干トラクション性能がダウンしているのかな? と感じるくらいで、ブレーキ性能はほとんど問題がないレベルだ。

急加速&急減速も比較、3シーズン目のWINTER MAXXでも問題がないレベル

続いて3シーズン目のWINTER MAXXを装着したプリウスで試走。予想以上に攻める走りにスタパ齋藤もタジタジだ​

ドライ、ウェット、スノー、一般道でも試乗

 では、ここからは一般道をとおり山道へとロングドライブだ。取材時の札幌は雪が少なく、一般道は完全なドライ路面。スタッドレスタイヤで乾燥したアスファルト路面を走ると、特殊な形状のトレッド部の影響でボディとタイヤが別々に動いているような異相を感じることがある。特に、高速道路ではその傾向が強くなるもの。しかし、WINTER MAXXはそのような症状をほとんど感じさせない。至って普通に走ってくれるし、ロードノイズに悩まされることもない。

 3シーズン目のタイヤに至っては、雪道の状態で新古の差は感じられず普通に走っていてくれる。こうやって一般走行をして思うのは、3年経ってもこのクォリティが維持できているのならコストパフォーマンスを含めとても価値の高いタイヤということだ。特に、乾燥路での走行がメインとなる都心などでは有意義だといえるだろう。

ウエット路面やシャーベットでも不安を感じることなく走ることができた

 そんなことを考えながらハンドルを握っていると、かなりの雨が降ってきた。かなりの量、ゲリラ的だ。実は、スタッドレスタイヤはアクア(ハイドロ)プレーニング現象を起こしやすい。しかし、この状況でもしっかりとグリップしている。実は、WINTER MAXXでは左右非対称のトレッドパターンを使用。ウェット路面での排水性をよくするために、中央からタイヤ内側のストレートグルーブ(縦溝)がしっかりと彫られている。そのため、装着時には内側と外側の指定がある。このストレートグルーブはシャーベット路面でも威力を発揮する。

 高速道路をどんどんと進み一般道の降雪地帯へと足を運ぶ。幸運にも気温は下がりかなりの雪が降り、クルマ通りの少ない道では新雪状態だ。ここでは、本当に気持ちよくドライブができた。雪化粧した周囲に音が吸収され、独特な静寂の中にWINTER MAXXが踏みしめる雪音が心地よい。

新雪の上を走るとWINTER MAXXによって踏み固められた雪が後方にはき出される様子が見て取れる。トレッドのラグ溝が雪をしっかりつかんでいる証拠だ

 2日間にわたる長距離テストを終え、改めてWINTER MAXXの性能の高さと耐久力の高さに感心する。できれば来シーズン、4年目となるこのタイヤをもう一度テストしてみたいものだ。そして最後に、WINTER MAXXというタイヤは運転がしやすく、疲れないタイヤだったということをお伝えしておく。なによりも、このことが一番大切なのだ。


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