どうやらCar Watch編集部は「普通のおっさん」を求めているらしい。自動車評論家の辛辣な論評もありだし、カージャーナリストの鋭い視点からのレポートも大切である。だが、時として普通の視線から見たレポートというのにもニーズがあるらしい。そう「普通のおっさんが乗ってみた」である。

 そしてちょいちょいCar Watch編集部のターゲットにされるのが、私である。ごく普通にクルマが好きで、通勤では主にクルマを使っているおっさん。クルマに乗っているのだから、もちろん基本的な知識はあるものの、突っ込んだ話はまったく分からない。鋭い視点からのレポートとは無縁なおっさん、それが私である。

 いつものようにCar Watch編集部から電話である。

編集部「HKSが新しいサスペンションをリリースします。その新製品、HIPERMAX Gの試乗会がありますから行きませんか?」

 もうね、面倒なので「私のサスペンションに対する深い洞察力が評価されましたか?」などというやり取りはしない。今回も例によって例のごとく、クルマ好きな普通のおっさんに試乗してもらい、その率直な感想が欲しいという話である。だが、今回の試乗車ラインアップにはプリウスと86が含まれているという。1年前までは86乗りだった、そして今はプリウスを愛車としている私にピッタリじゃないか!

 そんな話でもある。

 試乗会当日は残念ながら雨。それでもさまざまなクルマに乗れる上に、サスペンションの新製品を試せるのである。愛車のプリウスを駆って、栃木のテストコースへと向かった。

上質な乗り味を追求したHIPERMAX G

 私にとって株式会社エッチ・ケー・エス、すなわちHKSは「86向けスーパーチャージャー」のメーカーである。86に乗っている時はそれが欲しくて欲しくて、サイトを見ながらああもあろう、こうもあろうと想像していたものだ。もちろんそのHKSは自動車部品のメーカーであり、さまざまなカスタマイズパーツをリリースしている会社だということは知っていた。

 そしてその中にサスペンションユニットがある。というよりHIPERMAXシリーズと言った方が通りはいいだろう。ストリートスポーツ向けのMAX IV、スタイルとローダウン向けのSスタイルなどがあり、人気の高い製品群となっている。今回、そのHIPERMAXシリーズに「HIPERMAX G」という新製品が追加された。もちろん試乗会はそのHIPERMAX Gを体感するものであり、車種によってはノーマルサスペンションとの比較も可能とのこと。

HIPERMAXシリーズ初の純正形状サスペンション「HIPERMAX G」。現在アルファード・ヴェルファイア用(14万8000円)と86用(15万8000円)が発売中で、プリウス用とノア・ヴォクシー・エスクァイア用が発売予定

 ではHIPERMAX Gというサスペンション、いったいどういうものなのか? キーワードのひとつが「for CONSERVATIVE」である。「CONSERVATIVE」という単語は「保守的」といったように訳されるのだが、HIPERMAX Gは基本的なディメンションが純正サスペンションと同一になっているのだ。また、スポーツモデルのように減衰力の細かな調整、セッティング機能もないし、スタイル追求モデルのように派手なローダウンもない。そういった意味では「保守的」なのだろう。

 もうひとつのキーワードとして「Luxury & Comfort」というものがある。こちらは贅沢と快適」とでも訳しておこう。これらのキーワードを並べてみると「保守的でありながら贅沢、そして快適」なサスペンションシステムがHIPERMAX Gということになる。純正サスペンションと同一の形状を採用し、贅沢で快適な乗り味を実現するHIPERMAX G。これをまとめてHKSでは「上質な乗り味」としているのだが、実際にはどうなのだろう?

 それを知るための試乗会であり、普通のおっさんである私はこのテストコースにいる訳だ。だが、不思議なことに、他メディアの人たちが普段着でいる中、そのおっさんはなぜか一人レーシングスーツにヘルメットという完全装備。なぜだっ?!

「比較試乗、それもテストコースですからレーシングスーツで行きましょう!」

 Car Watch編集部の甘言にのった私がバカだった。そう、私が悪いのである。「無駄にレーシングスーツを着たらウケますかね?」と私が言えば、Car Watch編集部は「そりゃもうバカウケですよ!」と答える。ああ、恥ずかしい一人だけのレーシングスーツ。幸いなことに他メディアやHKSの人たちには結構ウケたらしく、ある程度の笑いは取れた。それだけを心の支えにして、真面目に比較試乗に挑むおっさんであった。

テストコースでの比較試乗とあって、気合い十分のおっさん

試乗会には他にも多くのメディアやモータージャーナリストが来ていたがみんな普段着。Car Watchでおなじみの橋本洋平氏ももちろん普段着

 ちなみに今回の試乗会にはメディアだけでなくカーディーラーの人も参加していた。不思議に思って理由をたずねてみると、販路を広げるために今後はディーラーでもサスペンションなどHKS製品を取り扱ってもらうとのこと。ディーラーの人たちが今回の新製品をどう思ったか、そしてどのように販売して行くか興味があったので、参加したディーラーさんたちにインタビューしたのでそちらも参照して欲しい。

86の比較試乗でそれは起きた!

 まずは86による比較試乗。用意されていたのはノーマル、今回の新製品であるHIPERMAX Gを装着したHKSのデモ車、そしてよりスポーティな走りを実現する同社の既存製品MAX IV SPを装着したやはりHKSのデモ車。これら3台の乗り味を比較しながら、曲がりくねったコースを走るのである。コーナーが多いこのコースでは、左右のふらつき、いわゆる車体のロールに神経を集中すべきだろう。

 そして何より86である。私も1年前までは初期型86乗りだった。しかもその86のサスペンションはアフターパーツと交換したこともある。ついに86乗りとしての過去が活かされる時が来たのだ! などと思いつつ、まずはノーマルの86で走ってみる。

 何かと言われるノーマル86の足回りだが、普通のクルマから乗り換えた普通の人にとってはスポーツカー的な乗り味が強調されているように感じる。明らかに普通のクルマよりもゴツゴツしており、大ざっぱに言ってしまえば「固い」のだ。もっともスポーツカーにわざわざ乗り換えた人は、それを期待している面もある。そういった意味でノーマル86の足回りは正しい方向を向いているのだが、ゴツゴツした感触が全ての人に響くとは限らない。

ハンドリング路と呼ばれるカーブが連続するコースでノーマルから試乗。台風の接近によりあいにくの天気である

 懐かしさを憶えつつノーマル86から、HIPERMAX Gを装着したHKSのデモ車へと乗り換える。なんとこのデモ車、HKSのスーパーチャージャーを搭載していたのだ! 自動車メーカーの試乗と異なり、アフターパーツメーカーの試乗ではデモカーが多く使われる。普段は自社製品のデモに使用されている訳で、もちろんそれらの部品がてんこ盛りで搭載されている場合がほとんどだ。私が現役の86乗りだった時、憧れてやまなかったHKSのスーパーチャージャーが搭載されているデモカー。だが、今はサスペンションの挙動に意識を集中すべき時である。それに雨でウェット路面だし。

あこがれだったスーパーチャージャー付きの86。ウェット路面でなければもっとアクセル踏んでやったのに(ウソ)

 走り始めて最初のコーナーに入った途端、ノーマルとHIPERMAX Gの違いが丸わかりとなった。「微妙な」とか「感覚的に」とか曖昧な言葉を使うつもりはまったくない。明らかに違いがあるし、それはスポーツカーに慣れていない人でもすぐに気がつくレベルのである。HIPERMAX Gの方が明らかに「伝わるショックに角がない」のだ。

 ゴツゴツしたサスペンションの場合、路面状態がダイレクトに乗員へ伝わる。それを楽しめれば問題ないだろうが、例えば助手席にスポーツカーにまったく興味のない人が座っていたらどうだろう。そして長く続くゴツゴツ感は特に長距離走行において、ドライバーの疲労感へと直結する。決して良いことばかりではないのだ。だが、ソフトなサスペンションが全方位的に良いかというと、そういう話にもならない。スポーティな走りにはサスペンションの踏ん張りは必須だし、そもそも車体のロールが大きくなってしまってはスポーツ走行どころではないだろう。

 そこでHIPERMAX Gの出番である。「ゴツゴツ」という感触が「クックッ」という角の取れたものとなり、不快感が激減している(ゴツゴツが決して悪い訳ではないのだが)。これなら助手席の人も快適だろうし、ドライバーの疲労も軽減するはずだ。ではそれでロール量が多くなったかというと、決してそんなことはない。しっかりと踏ん張りの効いた良い足回りという印象で、むしろアクティブに走りたくなるほどだ。ノーマル比較して車体の安定性は格段に向上しているように感じる。

乗り心地は良くなっているのに車体の安定性も向上している! ……と思う

レーシングスーツにヘルメット、グローブまで付けて試乗するおっさん

 スポーツ的な挙動に対する純正以上の安定性を、快適さの上に構築する。これを「上質な乗り味」と表現しているのだろうか? そんなことを考えつつ、次の試乗車に向かったところで私は詰んだ。そう、最後に待っていた試乗車はHKSのストリートスポーツ用サスペンションのベストセラー、MAX IV SPを装着した「スーパーチャージャー搭載の“マニュアルミッション”な86」だったのである。

 最後にマニュアル車を運転してからもう何年になる? いやいや、免許はマニュアル車で取得したんだから、マニュアル操作なんてすぐに思い出すさ。そう、自転車と同じで身体が覚えているはず……はい、一発でエンストしました。複数のメディアの方々が見守る中、レーシングスーツを着たおっさんエンストするの巻である。

 合同試乗会なのだから、他に迷惑をかける訳にはいかない。そんな訳でMAX IV SPの試乗車に関しては、Car Watch編集部の運転で、私は助手席に座った。なのでハンドリングなどは不明だが、乗り心地としてはHIPERMAX Gよりもカチッとした印象で、とにかく踏ん張りが効いている。それでいて棒を突っ張っているような感じでは無く、グッと姿勢を正すような動きだと感じた。

 しかし一人だけレーシングスーツを着たおっさん、マニュアル車を運転できないとは……。言い訳をしておくと「30分くれればマニュアルの感覚を思い出せたのに!」と、そういうことにしておいてくださいな。

車高調タイプのスポーツサスペンションHIPERMAX MAX IV SPを装着した86。まさかのMTとは!

砂利道を疾走する偏平タイヤのプリウス!

 スーパーチャージャー付きのマニュアル86をなんとかこなした先に待っていたのは、現行のプリウスである。いや正直な話、プリウスを見た時はホッとしましたよ。何せ今現在、私が愛車にしているクルマですから……と思ったら、私のプリウスと明らかに違う点がある。そう、タイヤの幅が異様に広いのだ! 聞いてみたらこのプリウスもHKSのデモ車で、履いているのはなんと19インチの偏平タイヤだという。

 いやいや、プリウスは17インチでしょう! などという私の意見はどうでもいいか。もちろんそのプリウスにもHIPERMAX Gが装着されている訳だが、そのデモ車で走るのは砂利道コース、しかも雨! 要するに雨というコンディションの中で、不整地を試走する訳だ。そこでふと気づく私。86と違ってプリウスでは比較用のノーマル車が用意されていない。ピコーン、閃いた!

 先ほども書いたとおり私の愛車はプリウスである。ならばHKSに許可をもらって私のノーマルプリウスをコースに持ち込み、HIPERMAX G装着車と乗り比べればいいのである!(後にこの判断が悲劇を生むとも知らず) 幸いHKSから許可が出たのでノーマルのプリウスを持ち込み、さっそく砂利道を走らせてみる。

私のプリウス(E-Four)で砂利のハンドリング路を走る。ちょうど林道のようなイメージか

 私のプリウスはE-Four、すなわち電気式四駆なので、不整地にあってもなかなかの走破性を見せてくれる。だがそこはそれ、雨の砂利道。ハンドリングは安定せず、しかも不整地ということでとにかく揺れがひどい。別にラリーをやっている訳ではないのでそういった道ではゆっくり安全運転をすればいいだけたが、いずれにしても真っ直ぐ走るのが困難な状況だ。

砂利と轍と凸凹でハンドルを取られ、まっすぐ走るのも難しい

 次にHIPERMAX Gを装着した19インチ偏平タイヤのプリウスに乗り換える。こちらはE-FourではなくFFであり、不整地にはやや弱いと思われたがそれは私の勘違い。走り出して砂利道に入り、しばらく走ってから思わず笑ってしまった。私のE-Fourより走りやすいのである、不整地を。

 19インチの扁平タイヤは良い意味で直進安定性をもたらし、悪い意味で嫌でも真っ直ぐ走ろうとする。だが、HIPERMAX Gの効果で車体の安定度が増しているので、その分ドライバーには余裕ができる。クルマのコントロールに集中でき、偏平タイヤのクセを把握してしまえば17インチのE-Fourより速く走ることができる。というか実際に速く走った訳だが、不安はまったく感じなかった。

 雨の砂利道といえば走りにくいのは当たり前、ドライバーの負担は増加する。車体を安定させてくれるHIPERMAX Gならドライバーの疲労を軽減させる効果もあるだろうし、何より状況が悪いなりにも快適さも向上する。やはり量産品のサスペンションと、カスタム品には大きな違いがあることを思い知らされた。ちなみに雨の砂利道を走行した私の白いプリウスが泥だらけになって往生した話は、また別の機会にしたいと思う。

19インチの大径ホイールは不整地には不向きそうだが、HIPERMAX G装着車だと、自然とノーマルよりスピードを上げられてしまうから不思議だ

颯爽とバンクを駆け抜けるアルファード!

 最後に試乗したのは威風堂々たるミニバン、アルファード。タイヤなどに違いはあるものの、ノーマル車とHIPERMAX G装着車でオーバルコースを乗り比べてみた。ミニバンに関しては私もさほど多くの車種を体験した訳ではなく、もちろんアルファードを運転したのはこれが初めて。ノーマル車が用意されていて良かった。

最後はアルファードを高速周回路で比較。若干笑顔が引きつっているように見えるのは気のせいではない

まずはノーマルのアルファードで高速周回路を走る。このバンク、昔走った富士スピードウェイを思い出す(ウソ)

HIPERMAX Gを装着したアルファード。高速レーンチェンジはもちろん、バンクの一番上のレーンも不安なく走ることができる

HIPERMAX Gによる快適なドライビングの秘密

 さて、3車種の試乗を終えた私の正直な感想を最初に書いておきたい。HIPERMAX Gは確かに純正サスペンションを全域で超えている。安定性、スポーティな走り、快適さ。どれを取っても「上質」なのがHIPERMAX Gだと思う。もちろん純正のサスペンションシステムは限られた予算の中で最上を求めた結果だということは分かっている。そしてその純正を超えているからこそ、HIPERMAX G導入というカスタマイズを行う価値がある訳だ。

 HIPERMAX Gには調整機能が搭載されていない。セッティングは決め打ちな訳だが、それはカスタマイズ上級者を否定するものではない。いろいろと経験してきた上級者が性能に納得した上で適材適所、HIPERMAX Gを選ぶというのは充分アリな話だと思う。これからカスタマイズにチャレンジしてみたいという人には、セッティング不要というのはメリット以外の何物でもないだろう。

 ちなみに3車種を乗り比べた結果だが、個人的には私の愛車でもあるプリウスとHIPERMAX Gの相性が大変良いことに驚かされた。私も足回りのカスタマイズには興味があるので、HIPERMAX Gの導入はリアルに検討している。まあ、19インチの偏平タイヤはどうするか分からないが。

19インチの大径ホイールでも走りがよくなるプリウス用HIPERMAX Gは、私の愛車でも試したい!

 一方、一番いい仕上がりになったと感じたのはアルファードである。高級感、上質感、快適性さを実現しながらも、しっかりした足回りを実現している。走るミニバンに求められる理想型をHIPERMAX Gは実現しているように思った。「何も捨てずに進化させた」結果が、HIPERMAX Gということなのだろう。もちろんそれなりのコストは必要になる訳だが。

 そんな訳で私の試乗会は無事終わった訳だが、やはり技術的なことにも興味があるし聞きたいこといくつかあった。ということでHKSの人を捕まえて、あれこれ聞いたみたことを最後にまとめておく。お話いただいたのは自動車開発部6課課長、今井達也さん。(編集部=Car Watch編集部)

HKS 自動車開発部6課課長の今井達也氏

編集部「HIPERMAXシリーズで純正形状というのは初めてですよね。減衰調整なしというのも初めてですか?」

今井「純正形状は初めてですね。減衰調整なし商品は車高調の方にはあるんですが、メインはMAX IVとか全長調整式車高調の減衰力付きという形にはなりますね」

高橋「HIPERMAX Gには3年、6万kmの保証を付けられた。ほかではなかなか見ないと思うのですが」

今井「そうですね。アフターパーツでは少ないと思います」

高橋「こちらの保証内容はは、どういった基準で出てきたのですか?」

今井「今までHIPERMAXシリーズでは2年、4万kmという保証でずっとやってきまして、そのもう1歩上をいきたいというところ。それと、今回は純正形状のサスペンションということで、新車購入時にディーラーさんで同時購入していただいて、そのまま装着というのも想定しています。その場合に少なくとも1回目の車検までは安心して使っていただけるように、ということを含めた形ですね」

高橋「HIPERMAXシリーズはHIPERMAX Gもそうですが、単筒の油圧式ダンパーずっと採用されています。いろいろ理由があると思うのですが、具体的にはどういったところにメリットがあるでしょう?」

今井「もともと単筒式のダンパーというのは、古くはレーシングカーなどに主に使われてきたダンパーで、純正で通常使われている複筒式と比べると初期の減衰力発生の特性が良いとか、筒が1本しかないので放熱性が良いというところにメリットがあります。なのでそうしたある程度ハイスペックな性能を求められる場合に採用されることが多いんですね。それに連綿とこだわり続けて使ってきたというところで、HIPERMAXシリーズであるからには単筒式で、という感じですね」

高橋「なるほど。逆に単筒式であるがゆえの難しさというものもあると思うのですが」

今井「やっぱりコスト的なところですね、どうしてもそれぞれの部品に対する精度が求められたりとか。あと、今回は純正形状にするに当たって、フロントを倒立式ダンパーにしています。単筒式だからこそ倒立式が作れるのですが、倒立式の場合、外側の筒に直接いろいろな部品が溶接されてくっつくので、それゆえに溶接に対するひずみをうまく回避してあげないと成り立たないとか、そういった技術的な課題はありました」

純正形状を採用したHIPERMAX G

単筒式と複筒式の違い。単筒式はピストン径を大きくできるほか、放熱性にも優れる

フロントには倒立式のダンパーを採用。ダンパーの曲げ方向に力が加わるストラット式サスペンションにおいて高い剛性が確保できるとのこと

倒立式ダンパーの場合、ケースの側面にブラケットなどが溶接される

編集部「今回保証期間を延ばすに当たって何か従来と変えた部分はあるのですか」

今井「中で使っている部品の組み合わせの見直しとか、後は通常の車高調でも、内部構造を少しずつ見直しながら耐久性を少しでも良くしようとずっと取り組んできているので、そういったものを集合させてというところ。それから、車高調ではないというところで構造的にはシンプルになっているというところも含めてという形ですね」

高橋「車高調整に関してですが、HIPERMAX Gの場合、86だと10~15mmダウンぐらいですね。この微妙な車高調整というか、その辺の基準というのはどの辺りから出てきたのですか?」

今井「86の場合は、ウィンカー位置の関係もあって下げられないということがありますね。ですので、本当はもうちょっと下げたいところはあるんですけど、純正形状で車高の調整ができないという前提で、いろいろな車に付けても間違いなく車検に通るというところを狙うと、そのくらいが限度だなという感じですね」

高橋「プリウスの場合は、たしか20mmダウンですよね?」

プリウスは前後とも20mmダウンとなる

今井「もともとプリウスは純正の車高がそんなにべらぼうに高いわけではなく、見た目的にもフェンダーの隙間が極端に目立つわけではないということもあります。あとは下げすぎるとどうしても低くて困るという方がいらっしゃるので、その辺も総合的に考えてきちっと見た目で下がっているのが分かりながらも下げすぎないというところを探った結果ですね」

高橋「今回のHIPERMAX Gに関して開発上、ご苦労された点はありますか?」

今井「今回、車高にしても減衰力にしても調整機能をなくしたのは、買ってポンと付ければそれで完成ですという、お客様の使いやすさというところを目指したところもあります。ですが、いじれないからこそ、どなたに乗っていただいても“いいね”と言っていただけるような落としどころをどこにするかというのが一番難しかったですね」

高橋「具体的に、例えばこういう用途というものに絞り込んでいただく。それとも全般的に広く皆さんに満足していただけるような方向だったのでしょうか?」

今井「今回この商品を作るに当たって、どこのゾーンのお客様をターゲットにするかというのを考えたときに、正直、車高調を選択されるお客様に対してみると“純正形状なんて”という形で“別に要らないよ”という話になる可能性もあるんですね。ですのでどちらかというと入門的な、カスタマイズに対してこれからいろいろやってみたいという方に対して、まず第1歩として安心して長く使っていただけるものをどうですか、というゾーン。もう一方で、いろいろ車高調とかさんざん使い回って、まあ車高調なのでやっぱりそれなりにトラブルというのもつきものだったりするのですが、そういうのを経験した上で、最終的には純正形状の、そこそこ車高も落ちて乗り心地が良いものがあったらいいよね、と言っていただけるようなゾーンも狙いたいなというのがあって」

高橋「結構幅広く狙われて(笑)」

今井「そうですね(笑)。両極端なゾーンをきちっと狙っていけるようなものを作ろうとすると、単純に“柔らかくして乗り心地が良いです”というものですと、やっぱり満足度は高くないだろうなというところを考えると、純正と同等か、もしくはそれを上回れるくらいの乗り心地を確保しながらも、走れば良さが分かる、ハンドリングのしっかり感であるとか車全体の動きの自然さといったものをバランスさせたものにしようということで今回はやっています」

ノーマルを全域で上回るHIPERMAX Gの性能チャート

編集部「今回、HIPERMAX Gは純正形状スプリングを採用されていますが、今までのHIPERMAXにはなかったと思うのですが、スプリングは自社製なんですか?」

HIPERMAX Gに採用される純正形状スプリング

今井「自社製です。車高長の場合直巻がメインなのですが、例えばアルファードなどのリアスプリングでは純正の形状に倣ったようなもの(荒巻)をやっていたりするので。あと過去にはダウンサスもやっていたことがありますので、その辺の経験を生かしてという形ですね」

編集部「数字で答えられるものではないのかも知れませんが、いろいろとお話を伺っていると純正に比べて全体的にちょっとスプリングを固めにしてあるのかなと思うのですが、レートにして何%くらいなんでしょう?」

今井「ものによってまちまちではあるのですが、10~20%とか、そのくらいの範囲ですかね。そこよりも上げていくと、やはりバネの固さが出てきてしまう。あとは車体が持っている固有振動数とバネが持っている固有振動数のバランスみたいなところで、例えば車体のブルブルする感じとか、ああいうのは結構顕著に効いてくるんですね。なので、あまり純正が何kgだからという固定観念を持たずに、こういうセッティングにするに当たってはこれくらいがいいよね、という感覚で決めて行っています」

編集部「もう一つ、皆さんにいろいろお話を伺って、結構言われていたのが、ゴツゴツ感がない、カドがないという言われ方をされていて、それでなんとなくイメージとしては初期の動き出しが良いからかな?と思うんですが」

今井「一つは、純正の形状でストラットはオフセットスプリングを使ってという形で、フリクションをなるべく下げる方向に持っていっているのが効いていると思いますね」

編集部「フリクションというのはダンパーの?」

今井「内部のフリクションです。唐突な減衰力の発生とかがないということですね。いろいろ減衰力のセッティングを変えて、テスターにかけてとかやるんですが、正直、今回は数字では変化が出ないくらいの領域まで追い込んでいたりします」

純正形状スプリングにすることでダンパーにかかる曲げの力が抑えられ、スムーズな伸縮が可能になる

高橋「ありがとうございました」

試乗会に参加していたディーラーの方々のコメント

・神戸トヨペット AREA 86 マスタースタッフ 奥村 和夫さん

 私はAREA 86担当ですので86に乗った印象で言いますと、ノーマルは相変わらずコツコツ感というか路面を拾うようなフィーリングがあったのに対して、HIPERMAX Gではそのあたりがすっきり消えていて、乗っていて楽かなという印象です。ずっと乗っていたいようなフィーリングに仕上がったのかなと。

 これまでも多くのお客様に車高調などを装着していただいているのですが、そうすると、付けてみたら意外と乗り心地が良くないと感じられる方も多い。乗り心地とカスタムで葛藤があるような方々にはHIPERMAX Gをおすすめすると、ノーマルと同じような形状ですけど全く違うフィーリングを感じていただけるのではないかと思っています。“純正形状ってどうだろう”みたいな方もやっぱりいらっしゃると思いますが、その辺のイメージがちょっと覆るような商品が出たのではないかと思います。

 基本的には全ての年齢層の方にマッチすると思うのですが、86のオーナーは意外と50~60代の方々が多いので、その方たちに付けていただくと良いのではないかと。家族と暮らしている方も多いですから、助手席の方に喜んでいただけるのではないかというところもあります。

 これから新型86が出る中で、中古車市場も充実してくると思います。なので若いお客様はやっぱり車高調を付けてレーシングな方に行くと思いますし、ちょっと年齢的に高めのお客様には快適なドライブなどができるよう、HIPERMAX Gを付けていただくとか。どっちがどうではなく、TPOに合わせて提案の幅が広がるのかなと思います。

・ネッツトヨタ東埼玉 モーターファンG ブルーエリア AREA 86 マスタースタッフ 高木 勝之さん

 まずサスの初期の動き出しの良さと、倒立で剛性も高いのでハンドルを切っても思ったとおりすぐ曲がってくれるというところと、インチアップしていても純正より乗り心地が良いようなところが、とても良く出ているなと思いました」

 個人的に一番好みに合ったのは、プリウスですね。試乗のプリウスはインチアップしていましたが、その割には路面の突き上げもほとんどなくて、車自体も良いと思うんですが、やっぱり足がすごく効いているのかなと。ハンドルもそんなに取られることがなかったので、HIPERMAX Gはやっぱりすごく良い出来だなと思います。

 うちはスポーツ寄りというよりはちょっと年齢高めの、本当に普段乗りでという方が多いのですが、純正の足だと高速に乗った時にちょっとフラフラするとか、初期型の方だとやっぱりちょっと乗り心地が悪いという方が多くいらっしゃいます。また車高を下げたくないという方が結構いらっしゃるので、HIPERMAX Gのように純正形状で2cmくらいダウンの製品はおすすめしやすいのかなと。

 86も最近は中古が結構出てきているので若いユーザーさんも増えてきていますが、その上の年齢層の方々にはHIPERMAX Gの方がすごく勧めやすい。純正形状も売らせてもらっているのですが、HIPERMAX Gは今まで乗った中でお客さんが求めているものに一番近いのかなという印象を持っています。

・三重トヨタ自動車 AREA 86 SUZUKA マスタースタッフ 田中 幹洋さん

 全体的に申しますと“純正のサスペンションではちょっとこれが気になるよね”というところが、うまくカバーされているというイメージですね。純正+αで、今までのデメリットの部分がメリットに変わっている。そういう印象を受けました。

 例えば86のノーマルサスって意外に突き上げ感があったりするのですが、それが心地良い固さに変わっていたりとか。HIPERMAX Gも固いは固いのですが、嫌な固さではないというイメージ。ロールなども減っていますし、ブレーキをギュッと踏んでも踏ん張ってくれますし、良いとこだらけかなと。

 実は私、86の他にエスクァイアに乗っていまして、普段乗っていると高速で揺られたりコーナーでグニャっとなるのがすごく気になっていたんです。ただ、家用の家族車なので、その辺はあきらめようかなと思っている時に今回ノア(著者注:私は乗らなかったがノアも試乗車として用意されていた)を試乗させていただいて、グニャっとなるのが少なくなっているし乗り心地も良いし、いいよねっていう印象です。たぶん家族、子供とかも酔わないと思います。ノーマルでは微妙だったところが本当に上手補われている。かつ行き過ぎていない。

 アルファードは、ノーマルだとアクセルペダルに伝わってくる振動が結構あったんです。それがHIPERMAX Gの方は、微振動というかざらざら感がなくなってなめらかな感じという印象を受けました。心地良いし、なめらかな感じですね。先ほども申し上げたように乗り心地もほど良い固さ、気持ち良い固さだなと。それで安定感、走行性能というのが保たれているなというイメージでしたね。

 という訳で私の白いプリウスが泥だらけになったり、試乗するメディアの人間で、私一人だけがレーシングスーツを着ていたりと、結局はドタバタになってしまった訳だが実に楽しい試乗会だった。Car Watch編集部が私のプリウスのためにHIPERMAX Gを用意してくれることを夢見つつ、おしまい……。

(Reported by 高橋敏也)