もしかしたら覚えて頂いている読者もいるかもしれないが、一昨年、はじめてミシュランタイヤをレビューし、実際に装着に至った本田雅一です。覚えていない?ならば、こちらこちらをご覧あれ。

 普段はITやモバイル、またオーディオビジュアルなどを中心に執筆しているけど、あくまで趣味の範囲としてクルマが好きで、こうして時々Car Watchでも執筆させていただいている。

 一昨年の取材では、初めてミシュランのパイロットスポーツ3やプライマシーLCを試乗する機会をもらい、それまで国産大手のタイヤが一番と思い込んでいた自分の中の経験則を、よい意味で打ち砕いてもらった。特に走るのが好きな僕にはパイロットスポーツ3がベストマッチで、それ以降、愛車のゴルフVにもミシュランのパイロットスポーツ3を装着し、その走りを愉しんでいる。あくまでクルマに関しては素人だけど、一般の読者と同じ立場で素直に感じられた部分を伝えられればと思っている。

 さて、パイロットスポーツ3との衝撃的な出会いだったわけだが、もうひとつ「なるほどなぁ」と思っていたのが、同じ機会に試乗したプライマシーLCだった。LCはラグジュアリー・コンフォートの略。すなわち高級感に溢れ、適性が高いタイヤとの触れ込みだが、実際に走ってみるとパイロットスポーツ3にも通じる部分が感じられたのだ。

 その際のレポートにも書いたが、静かさや衝撃吸収のしなやかさ、燃費のよさなどに振ったのがプライマシー LC、ハイグリップかつ高いコーナリング性能を引き出せるのがパイロットスポーツ3。全く違うジャンルのタイヤではあるのだが、実際に乗り比べてみると、どちらもしなやかにしなりながらも、その先でグッとねばるような印象で、乗り心地とグリップの両立の仕方が非常に似ていることが感じられた。 コンフォートタイヤだからコンフォートなだけではない、スポーツタイヤだからスポーティなだけではない、“タイヤに求められるすべての性能を追求する”というミシュランのすべてのタイヤに共通する開発コンセプト故に、全く異なるジャンルのタイヤでも共通点の多い味付けになったのだろうと想像できた。

 それまでコンフォートタイヤにまったく興味がなかった筆者には、目鱗の体験だったのである。あれから1年半。プライマシーシリーズに加わったニューフェースと、僕が使っているパイロットスポーツ3を同じクルマで乗り比べることができる企画をCar Watchが持ち込んでくれたのだ。

 しかも、プライマシー3はコンフォートだけどスポーティ。しなやかで快適だけど、応答性もよいとか。

 果たしてどんなタイヤなのか? 同じクルマで異なるタイヤの乗り比べなんて、なかなか体験できるものではない。ミシュランの新タイヤ「プライマシー3」の試乗企画へ二つ返事でOKを出し、ロケ当日を待ったのだった。

左が僕も愛用しているパイロットスポーツ3。右がプライマシーシリーズの最新モデル「プライマシー3」。“アクティブコンフォート”というコンセプトのもと、乗り心地もよく、高速安定性もアップされているそう。いったいどれほどの違いがあるのだろうか

なるほど、確かにただのコンフォートタイヤじゃない

 何しろ名前は“プライマシー”である。プライマシーLCの経験から、きっと以前に経験したプライマシーLCやパイロットスポーツ3と共通するフィールで、しかし性格付けを変えているのだろうと思っていたのだが、その期待は走り始めてすぐに裏切られた。といっても、わるい意味での裏切りではない。

 コンフォートタイヤは静かで乗り心地よく、さらに最近のモデルであれば、同時に低燃費も実現。“コンフォート”と“ハイパフォーマンス”では、後者の方がスゴい感はある。しかし、実際に自分のクルマに装着して毎日運転するならば、コンフォートの方がよいのかも?というのが本音ではないだろうか。ハイグリップを狙わない分、耐摩耗性も期待できる。

 しかし、一方でコンフォートタイヤの(それがよい方向に作用することもあるけれど)穏やかなハンドリング特性が好きになれない方、もう少し“手応え”のある乗り味を好む読者もいると思う。では、この2つのファクターは両立できないのか。

 実は今回のテスト車両となったスバル・インプレッサに装着されていたプライマシー3は、プライマシーLCとの快適性・低燃費性に加え、コンフォートタイヤの枠を超えたスポーティさを持つプライマシーHPの特徴も備えた万能型のプライマシーなのだそうだ。

 そんなことを念頭に置きながら、東北自動車道に入り、黒磯板室インターチェンジまでの間を走り抜けてみたが、なるほど、これは今まで体験してきたミシュランタイヤとは少し趣が異なる。

 前述したように、パイロットスポーツ3とプライマシーLCが、明らかに異なるジャンルの製品でありながらも、血縁関係の存在を意識させていたのに対し、プライマシー3は全く違う印象を与えるタイヤなのだ。

 確かに走り出しで、スッと前へ行く“転がりのよさ”は、さすがラベリング制度で転がり抵抗性能Aの低燃費タイヤらしい風合い。高速を走り始めても、いきなり車内に飛び込んでくるボリュームが上がったりはしない。音量自体ももちろん低いのだろうが、音の周波数帯が広範囲に分散し、耳につきにくい音質になっている。

 こうした特徴はプライマシーLCとも共通するが、ステアリングを切った時の応答は明らかに印象が違う。あいにくプライマシーHPを試乗していないため、LCのみとの比較になるが、グッと曲がるエネルギーを溜めてからスーッと曲がり始めるプライマシーLCに対し、プライマシー3はステアリングを切った分だけ、サッと素早くクルマの鼻先が動く。

 コンフォートタイヤは“ゆるい”と思っていたら、意外にも応答性がよく、高速のレーンチェンジでは意外にもパイロットスポーツ3よりも機敏な印象をもったほどだ。

ミシュラン「プライマシー3」を装着したスバル・インプレッサで那須を目指す。直進性の高さや安定感も感じられた。プライマシー3は転がり抵抗係数は低燃費の“A”をキープしつつ、ウエットグリップ性能は“b”に進化。この日は雨に降られることはなかったが、ウエット路面での機能もかなり安心できるものだろう

峠道に入ってみると、愉しいけれどやさしいハンドリングに

 なるほどなぁと思いつつ、ワインディング・ロードへ。

 コーナーの飛び込みでやや速めに、少しだけブレーキを残しつつハンドルを切り、ちょっと元気にコーナーに入ってみる。すると比較的早い段階でスキール音。なるほど、やはりプライマシーブランド。パイロットスポーツ3とは狙っているところが全く違う。

 同じ道をパイロットスポーツ3でも走ってみたが、こちらは“ちょっと速いペースで走る”程度では滑らず、サスペンションが沈み込みつつタイヤが踏ん張っている印象。ゴツゴツ感や突っ張った感じはないが、しなやかに力を受け止めている感じだ。

 この後のサーキットでも確認したところ、プライマシー3は、応答よく軽快にクルマの鼻先を変えるものの、滑り出しの限界は高くはない。ただし、滑り出してからの振る舞いはとても穏やかで、限界を超えてからはハンドル操作に対する応答もかなり鈍くなってくる。というと聞こえがわるいかもしれない。しかし、僕のような一般のドライバーにとっては、こういう滑り出しのタイミングが早く、限界を超えてもその後の振る舞いが穏やかな方が、実際にハンドルを握ってみると安全であるし、タイヤの性能を引き出している感じが運転を“愉しい”と思わせてくれる。普段使いのタイヤとしては、この設定はとてもいいなというのが正直な感想だ。

 もちろん、パイロットスポーツ3を履いて峠に出れば、そこには全く別の愉しさがある。グッと踏ん張り感のあるハンドルの感触を愉しみながら、プライマシー3の時よりもオーバーアクションに荷重を移動させても、なかなか破綻しない。サスペンションが深く沈み込む領域までフロント外側のタイヤに重さを載せても、そこからハンドルを切り足せば、それなりに内側へと鼻先を入れようとしてくれる。パイロットスポーツ3を最初に履いた時に感じた高い限界性能と扱いやすさは、インプレッサで体験しても基本的に変わらなかった。

 しかし、サーキットでタイムを削るならば話は別だが、一般道での運転の愉しさは絶対的な速さを基準にした性能ではない。あくまでドライバー自身が何を体感するのか。そこに価値があるとするなら、限界性能は低くとも、ステアリングを切った瞬間から小気味よく反応してくれるプライマシー3にもまた、パイロットスポーツ3とは違う愉しさがあるなと感じた次第。

カーブの大きい道でも、しなやかな動きで安定感をキープしながら確実な制動力を発揮してくれる   舗装状態のわるい一般道でも、揺れが少なく短い時間で収束する。柔らかいだけのコンフォートタイヤとは違い、適度に路面の情報は伝えるものの静粛性が高く不快ではない

サーキットでパイロットスポーツ3とプライマシー3を走らせてみた

 さて、今回は東北道を経由して那須へと向かった。目的地は4輪ターマックコースの「ドライビングパレット那須」だ。僕は初めての訪問だが、コンパクトながら自由に愉しく走れそうな雰囲気……とはいえ、ここは本職にお任せ。本誌連載でもおなじみの、日本一速い(!?)モータージャーナリスト橋本洋平氏に、同じくインプレッサでの両タイヤ試乗比較をしてもらった。

 今日一日で、タイヤを使い切るぞ!と意気込んでコースに出た橋本氏は、プライマシー3でコーナーを攻めるのはもちろん、急停止や急発進。意図的なスライドを交えての自由な走行をしていた。プライマシー3の試乗が終わったら、即タイヤ交換でパイロットスポーツ 3に履き替え。

レーシングスーツに着替えた橋本氏が、プライマシー3を装着したインプレッサに乗り込む。モータージャーナリストの中でもズバ抜けて速いと言われる橋本氏の運転に目を奪われてしまう。コンフォートタイヤよりもスポーツタイヤに近いイメージだという
撮影協力/ドライビングパレット那須

 同じようにコーナーをクリアしているが、グリップのレベルとコーナリングフォースの強さは段違い。ということが、実のところサーキット脇から見ていてもよくわかる。なぜなら、パイロットスポーツ3で走っている時の方が、明らかにサスペンションが動きつつも、限界を超えて滑り始めるタイミングが遅いからだ。

 橋本氏曰く「パイロットスポーツ3、速いと思っていたけど、あらためて速いタイヤだよね。初期の応答は穏やかながら、ステアリングへのインフォメーションの返りはいい。その先、ハンドルを切り足してもしっかりと足元の剛性感を感じます。いざという時に舵角を切り足しても、それにタイヤが追従できる余裕がある」とのこと。

続いてパイロットスポーツ3を装着し、再びサーキットへ。当たり前だけど、僕が運転している時とはまるで動きの違うインプレッサだ。橋本氏もパイロットスポーツ3の速さにあらためて感心したそうだ

 一方、プライマシー3はというと「タイヤ自体が自らの形を保とうとする印象が強い。タイヤに対するストレスを全体の変形で吸収するのではなく、あくまでも形状を保ちながら踏ん張る。そうした特性の違いが、ハンドル操作に対する初期応答のよさを生んでいるんだと思う。今回のコースみたいなタイトなコーナーだとやっぱりパイロットスポーツ3の限界性能の高さが光るけど、たとえば高速道路の緩やかなカーブやレーンチェンジみたいな小さなステアリング操作だとプライマシー3の初期応答が気持ちいい。それと走り終わったあとの摩耗を見た限りだと、プライマシー3は変な削れ方がしていなくて長持ちしそうだなと思った。サーキットや峠を攻めたいなんていう特別な人を除けば、燃費性能を含めても万人に薦めやすいのはプライマシー3かな」と話す。

 純粋にサーキットを走るだけならば、より高いグリップ性能を持つタイヤが望ましいとなるだろう。しかし、より愉しく走りたいなら話は変わってくる。前述したように限界は低くとも、扱いやすく奥行きの広さがあるなら、何もタイムを目指さなくてもよいからだ。

プライマシー3は接地面が全体的に均一となっている。これにより高いグリップ力を発揮し、安定感ある走りを実現している   橋本氏が走った後のプライマシー3の摩耗状態。サーキットをバンバン走ったにも関わらず、一部のブロックだけが削れるようなことがなく、全体的に均一に摩耗しているのがわかる。これには橋本氏も驚いていた

ミシュランの自信の証「満足保証プログラム」でプライマシー3を体感せよ

 さて。ミシュランの自信作「プライマシー3」。まだ昨年の6月に登場したばかりでレポートも少なく、どんなタイヤなのか情報不足という方もいるかもしれない。しかし、幸いなことにミシュランはタイヤ購入後の満足感に対する保証を行っている。対象となるタイヤはプライマシー3とパイロットスポーツ3、SUVタイヤのラティチュード・シリーズのサマータイヤ5商品だ。購入後に満足できなかった場合は、タイヤ購入時の代金(組替え工賃含む)を全額、ミシュランが負担するという「満足保証プログラム」である。

 ミシュランのタイヤはまだ試したことがないという読者も多いと思うが、一昨年前の僕がそうだったように、一度試してみるとその魅力にはまってしまう人も多いと思う。まぁ、その自信があってこその満足保証プログラムなのだろうが、せっかくのこんな機会なので、タイヤの交換を考えている人はぜひ一度試してみてはいかがだろうか。

(本田雅一)

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