北の大地から早くも降雪のニュースが舞い込んでくると、にわかに気になりはじめるのが愛車の冬タイヤ。新たに購入するのか、据え置くのか、どのタイミングで装着しようかなどなど、悩ましいことばかり。私自身もそのひとりで、愛車のスタッドレスタイヤは3シーズン目を迎える。猛暑や長雨が続いたオフシーズンの間、保管状態はどうだっただろう。装着したら、1シーズン目と同じ性能が発揮されるのだろうか。冬の間、雪道を走るよりもドライ路面を走ることの方が多い都心ならではの不安もある。

 そこで今回は、わかっているようで曖昧な、知っているつもりでよく知らない、スタッドレスタイヤにまつわる数々の疑問について、スッキリさせてみたいと思う。

 先生役として登場していただくのは、日本ミシュランタイヤの乗用車・商用車タイヤ事業部 マーケティング部のブランド戦略マネージャーである望月一郎さん。望月先生はミシュランひと筋、以前は製品管理を担当していたり、フランス本社にも2カ月ほど勤務したことがあったりと、経験と知識が豊富なタイヤのエキスパート。まずはミシュランタイヤの基本理念をひと言で、と聞いてみると、「ミシュランの使命は、人とモノの移動を“より安全なものにする”こと」だとズバリ。これから話すことすべてが、安全のためという理念に基づいているのだとか……。

スタッドレスタイヤはなぜグリップするのか?

 ミシュランといえば、1895年に空気入りタイヤを装着した最初の自動車にはじまり、スペアタイヤの原型を発明したり、1946年にラジアルカーカスを採用したタイヤを出したりと、古くからタイヤの技術革新を続けてきたメーカーだ。現在のスタッドレスタイヤでは当たり前の技術である「サイプ」に関しても、1934年ミシュランSTOP, 1937年 Pilot, 1949年 X, 1968年 XM+S で採用していて、1982年には、いま見ることができるスタッドレスタイヤの原型とも言えるXM+S100を生み出したメーカーでもある。つまり、スタッドレスタイヤの技術開発という点でも、どのメーカーよりも歴史が長いということ。日本で最初にスタッドレスタイヤを販売したのもミシュランで、現行モデルのスタッドレス、MICHELIN X-ICE XI3は、そうした研究・開発の長い長い積み重ねによって誕生した、ミシュランの技術とイノベーションのまさに「結晶」ということだ。

スタッドレスタイヤの先駆けとなったミシュランXM+S100

 ところでまず最初の疑問は、「そのX-ICE XI3」って、ほかのスタッドレスタイヤと何がちがうんですか?」ということ。

 望月先生によれば、スタッドレスタイヤの基礎知識、そのグリップの仕組みとして、ツルツルのミラーバーンからふかふかの新雪路面までをカバーするグリップは、主に雪や氷をひっかく「エッジ効果」、路面に密着する「接地面効果」、雪を踏み固めて蹴り出す「雪中せん断効果」の3つによるものだと言う。中でも「エッジ効果」は氷でも雪でもすべての路面に必要で、「接地面効果」はミラーバーンをはじめ氷路面、「雪中せん断効果」はシャーベット路面から新雪に効くそうだ。

 X-ICE XI3は、シャーベット路面に効果の高い、回転方向指定の左右対称のパターンにこだわっていて、さらに前モデルからブロックを15%増やした「115%ブロック」でエッジ効果もアップ。そしてサイプがより細かくなった「新Vシェイプデザイン」で排水・排雪性能にも優れ、路面への圧力を均等に伝えて密着力を高め、止める力を持続。また、コンパウンドの素材としては、凍った路面でも柔らかさを保ち、ドライ路面で剛性を保つ魔法の素材、シリカを100%使った「フルシリカコンパウンド」を採用。通常シリカの含有量が増えるとコンパウンドの練り行程が難しくなるそうだが、ミシュランの独自技術によってフルシリカを実現したのだと言う。

永く使ったときスタッドレスタイヤはどうなる?

 ここで気になるのは、「その性能、永く使っているとどうなるの?」という点。

 すると望月先生は、2本のタイヤのトレッドの写真を並べて見せてくれた。そのうち1本は新品のミシュランX-ICE XI3、もう1本は40%摩耗したものだ。「どうですか? どちらが新品かわかりますか?」

 ハッキリ言って、私にはぜんぜんわからなかった。その理由は、ミシュランのスタッドレスは、摩耗してもパターンが崩れず変わらないから。なぜ変わらないのかというと、まずはサイプが、スリップサインが出る深さまでしっかりと入っているため。一般的には、冬タイヤとして使えると定められたプラットフォームの高さ、つまり50%の高さまでしかサイプを入れないものがある中、ミシュランはスリップサインぎりぎりまで溝が入っているため、プラットフォーム以下まで減ってもパターンが変わらない。つまり初期性能の変化が少なく、性能が長持ちするということ。

 「タイヤはすべてが真っ平らに減っていくわけではありません。だから、最後までサイプを入れて、性能が落ちにくいようにしているのです」と望月先生。でもそれを実現するためには、タイヤを製造する時に金型からゴムを引き抜く技術など、さまざまな難関があるという。さらにサイプが深くても剛性を出せるブロックのデザインが必要。どのメーカーもサイプを細かく深く入れた方が性能が上がるのはわかっていても、それを製品化するのはとても難しく、どこまで妥協するのかとのせめぎ合い。ミシュランは、理想の性能を製品化する技術も高いのだと実感した。

 また、永く使っても性能が変わらない理由には、フルシリカコンパウンドの功績も大きい。中にはトレッド面の表面のほうだけ 柔らかいコンパウンドを使い、プラットホームの高さより下側には剛性を高める別のコンパウンドを使っている製品もあるが、ミシュランは低温下でもしなやかさを失わないシリカの特性を活かしたコンパウンドを、スリップサインが出るまでトレッドに使用している。

 だから、摩耗した状態であっても、アイスブレーキ性能といった冬路面での高い性能がずっと続く。さらに、高速耐久性が高く、スタッドレスであっても、タイヤの耐久最高速度を示すスピードレンジで「T」(190km/h)や「H」(210km/h)という性能を実現しているのも心強いところ。私は2シーズンほどX-ICE XI3を使っているが、冬でも雪や氷路面よりドライ路面を走ることの方が多かったのに、ほとんど減りを感じないのはそういうことだったのか、とかなり納得したのだった。

新品タイヤのならしって……

 では次なる疑問は、「買う時の注意点や購入後のケアはどうすればいいの?」ということ。安くはない買い物だから、なるべくいいモノを選びたいというのは誰しもの願い。でも、どんなポイントが重要なのかは、氾濫する情報に翻弄されて今ひとつ真実が見えてこない。

「購入するならば、雪が降る前のタイミングがオススメです」とまず望月先生。店舗の品揃えが豊富で、交換作業も空いている今のうちに準備すれば、時間も費用も賢く使えるが、雪が降ったあとは希望のサイズや予算のスタッドレスタイヤが品切れになりやすく、交換作業も混雑してしまうためだ。

 そして望月先生は、ある実験データを見せてくれた。ミシュランに保管してあった、2011年に製造されたスタッドレスタイヤと、2015年に製造された同じスタッドレスタイヤ。どちらも新品だが、製造年には4年の開きがある。それを社内で性能比較したところ、氷上制動距離のテスト結果は同じ性能だったというのだ。つまり、ミシュランのスタッドレスは、製造年が多少古くても性能は変わらない。購入時に製造年月日をチェックして、より新しいものを選ぼうとヤッキになる人もいるが、そんなに神経質にならなくてもいいということがわかって安心した。

 次に、せっかく買ったタイヤを大事に使うための「ならし」について。望月先生いわく、購入した新しいスタッドレスは、初めて履く時にならし走行をして欲しいとのこと。その一番の理由は、タイヤというのはドライバーの運転感覚に大きく影響するし、安全にも関わる重要なパーツだということ。つまりは、タイヤそのものよりも、ドライバー自身が、以前履いていたタイヤとの感覚のズレを補正する、つまり慣れることが必要というわけだ。

 またタイヤ自体も、最初は各部材がわずかに成長するという特性があるため、それが馴染む前に急激に使用すると、バーストなどのリスクがあるという。安全に使用するために、速度80km/h以下で最低100kmはならし走行をして、さらに空気圧の管理をして欲しいということだ。

スタッドレスタイヤの性能を永く保つ方法

 最後に、これでいいのかと不安に感じている人が多い保管方法について、バシッと指南してもらった。

 「避けて欲しいのが、紫外線やオゾン、高温多湿です。タイヤは経年によってゴムの中に含まれるオイルが減っていきますが、オイルが減るとゴム分子同士のつながりが硬くなってしまい、ヒビ割れなどの原因になるのです」と望月先生。直射日光が当たる場所はもちろん、コピー機などのオゾンを発生する製品の近くも避けた方がいいらしい。1本1本を袋詰めしたりラップなどでぐるぐる巻きにしたりするのは、その中が多湿になってしまう可能性があるので注意。日陰で風通しがよく、雨が当たらない場所が最適だ。

 ちなみに先ほど4年前に製造したタイヤも性能劣化がなかったというお話を聞いたが、そのタイヤも、日本ミシュランタイヤの倉庫内に普通に保管されていたものだそうだ。特別なフィルムでラッピングするとか、特別な装置で保管するとか、といったこともないそうなので、風通しのいい倉庫にしまっておけば性能の低下は抑えられるということだ。

 そして保管方法は、ホイールなしの場合とホイールありの場合で少々変わってくる。「ホイールを外した生タイヤの場合は、縦に並べて保管するのが理想的です。横にして積むと、一番下のタイヤのサイドウォールには、4本分の負荷がかかってしまいます。逆にホイールを装着したまま保管する時は、空気圧を半分に落として横積みしてください。空気を抜くのはホイール同士を接触させるため。そうすることでタイヤに負荷がかかるのを防げます」とのこと。

 さらに、洗車好きな人には衝撃のひと言が。「タイヤを洗う時には、水洗いぐらいがちょうどいいです。シャンプーを使ってゴシゴシ洗ったり、タイヤワックスを塗りまくったりすると、タイヤを脱脂させてしまう(つまりオイルが抜けてしまう)可能性があります。」とのこと。もちろん普通に使っている範囲であれば心配する必要はないとのことだけど、やり過ぎるとタイヤのひび割れの原因にもなるのだとか。タイヤを長持ちさせるという点だけで見れば、水洗いがオススメというわけだ。

 こうしてみっちりと勉強させてもらって、これまでモヤモヤしていたことがスッキリ解決。私の愛車のスタッドレスタイヤも、まだまだしっかり使えるゾと、自信と安心がみなぎってきた。そして購入する時には、新品時と同じ性能が永く続くスタッドレスタイヤを選び、正しい保管とケア方法で最後までキッチリ使いたいとあらためて感じたのだった。望月先生、いろいろと教えていただきありがとうございました!

関連情報

日本ミシュランタイヤ株式会社

X-ICE スペシャルページ

ミシュラン X-ICE XI3製品情報

ミシュランストア

関連記事

ヘビー級ミニバン&2シーズン目のミシュランX-ICE XI3で往く雪景色撮影の旅

雪景色を撮りに行こう! スタッドレスタイヤに挑戦(前編)

雪景色を撮りに行こう! スタッドレスタイヤに挑戦(後編)

ミシュランX-ICE XI3で行く雪景色撮影の旅(前編)

ミシュランX-ICE XI3で行く雪景色撮影の旅(後編)

岡本幸一郎のミシュラン「X-ICE XI3」体験レポート(前編)

岡本幸一郎のミシュラン「X-ICE XI3」体験レポート(中編)

岡本幸一郎のミシュラン「X-ICE XI3」体験レポート(後編)

岡本幸一郎ファミリー 雪国でミシュランX-ICE XI3レビュー(前編)

岡本幸一郎ファミリー 雪国でミシュランX-ICE XI3レビュー(後編)