高橋敏也の日産「エクストレイル ハイブリッド」に乗ってみた!(前編)

「敏也さん、横須賀に行きませんか?」。相変わらずCar Watchからの話は唐突である。不肖・高橋、横須賀と言われて真っ先に思いつくのは「ミナトのヨーコ」なおっさんであるが、そこはそれCar Watchからの電話である。クルマがらみなのは明白だ。今回はどんなクルマに乗れと、そして走れと言うのだろうか?

「ハイブリッドですよ、ハイブリッド!」。そうか、そう来たか! ちなみに私はハイブリッドカーのスペシャリストではなく、クルマを愛するただのおっさんである。そして過去にハイブリッドカーを愛車にしていただけなのだ。そんな私にCar Watchは新型ハイブリッドカーに試乗して、それを記事にしろと言うのである。

「新型ハイブリッドカーともなれば重要な記事でしょう。もっと詳しいスペシャリストに依頼した方がいいのでは?」と言う私への返答は……。「あ、別に“ちゃんとした”人は用意してあります。それとは別に“ハイブリッドに乗ったことがある普通のおっさん”の感想が知りたいんです」とのこと。もうね、二重三重に失礼である。

が、しかし、私もCar Watchのお陰ですでに数車種のハイブリッドカーに乗っているし、そもそも愛車にしていたぐらいだからハイブリッドカーは大好きだし興味もある。新型ハイブリッドカー、機会があるならぜひ乗りたい、乗せてもらいたいものだ。そんな訳で私は横須賀へと向かったのであった。

ハイブリッドであってもそれは「エクストレイル」

2015年4月10日、横須賀は日産自動車追浜工場「GRANDRIVE(グランドライブ)」へ。天候は曇り。そのスタイリッシュな白いボディはやや大柄に見えた。といってもSUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)というカテゴリーの中で見れば、標準的なサイズと言ってもいい。それはブリリアントホワイトパールに輝く「エクストレイル ハイブリッド」、2L「MR20DD」エンジンと高性能モーター「RM31」の両方を搭載するハイブリッドカーだ。

初代よりもなだからな曲線が多いデザイン
リヤビューもいい感じだ
中央より少し左にエンジン、その右にモーターがあり、一つのユニットになっている

そもそもエクストレイルに関しては、初代が発売された時から気になる存在だった。実のところ私が人生で2番目に買ったクルマはSUVだったのだ。まあ当時はSUVという呼び方ではなく、RVという呼び方のほうが一般的ではあったが。それ以後は、ワゴンに乗ったりミニバンに乗ったり、はたまたハイブリッドカーに乗ったりしてきた訳だ。いずれにしても初代エクストレイルのコマーシャルは、初めてRV車を買った時のドキドキを思い起こさせるのに充分だった。

そのエクストレイルも2013年には3代目にモデルチェンジ。初代~2代目の角張ったボディからは大きくイメージを変え、曲線を増やし、よりスタイリッシュなものとなった。そして今年、2015年、エクストレイルはついにハイブリッドシステムを手に入れた訳だ。メカニカルな話はバッテリーなどハイブリッドシステムの話も含めて後編でするとして、前編ではその走りなどを紹介していきたい。

ちなみに外観的に見てエクストレイル ハイブリッドは、他のエクストレイルと大きな違いはない。「HYBRID」の専用エンブレムが左右フロントドア、そしてバックドアに追加されていることぐらいだろうか。メカニカル面では当然、ガソリンエンジン車とまったく異なっており、さらに細部にハイブリッド車のみの装備が見られる。このあたりもやはり後編で紹介したい。まずはエクストレイル ハイブリッドで走ってみよう。

さりげなくハイブリッドであることを主張するエンブレム
普段は気にしないが、結構重要な意味を持つシール。エクストレイル ハイブリッドは免税措置の対象車なのだ

スムーズ、静か、そして軽快なハンドリング

試乗会当日のスケジュールは極めてシンプル、まず短い事前説明があり、その後は実車への試乗となる。試乗終了後、開発に携わった人にインタビューできるという。試乗して気になったことや疑問に感じたことを、開発者に質問できるというのはありがたい。

なお、事前説明では入れ替わりの多いSUV市場において、エクストレイルがどうしてベストセラーであり続けられたのか、そのエクストレイルをハイブリッド化する意義などが説明された。簡単に言ってしまうと、エクストレイルはSUVとして完成度が高く、そこにハイブリッド機能を搭載することで、さらなる価値を付加しようということだ。

いよいよ実車への試乗である。繰り返しになるが、私がSUV(当時は“RV”と呼んでいたなあと遠い目をする)に乗っていたのは今から15年ほど前。それまでワゴン車に乗っていた私にとっては、大きく重いボディ、そして太いタイヤから来る粘るようなハンドリングが印象的だった。では最新のSUV、しかもハイブリッドカーであるエクストレイルはどうか?

座席に乗り込んで気づかされるのは視線が高いこと。現在の愛車がスポーツカーということもあり、エクストレイル ハイブリッドの視界の良さに感動する。システムはオンになっていたので、周囲に注意しつつスタート。スムーズな走り出しの中に、ガソリンエンジンの音は聞こえない。モーターのみのスムーズで静かな走り出しだ。

久々のSUV。視線が高く、視野が広くて気持ちがいい

コースに出てまず感じたのは、自分の感覚の古さ。15年前のRV(今はSUVだけど)とはまったく異なり、ハンドリングが軽い。行きたい方向に意識を向ければ、その方向にエクストレイル ハイブリッドが進んでいく。徐々にアクセルを踏み込んでいくと、ほぼイメージ通りに加速していくのだが、その途中でガソリンエンジンの音が聞こえ出す。ガソリンエンジンが始動した訳だが、その際にショックというか遅延は一切感じない。スムーズにモーターとガソリンエンジンが連動している感覚だ。

スムーズな走り。普通に走る分にはジェントルなクルマだと思う

試乗したコースは一般道をイメージしたものだったので、私もスピードは上げずに普通の幹線道路を走るイメージで走行した。が、そこはそれ専用コース。一般道よりは安全なので、メーター中央にある「アドバンスドドライブアシストディスプレイ」をじっくり観察してみる。このディスプレイでエクストレイル ハイブリッドが今現在、ガソリンエンジン走行中なのか、モーター走行中なのか、エンジン+モーター走行中なのか、はたまた回生ブレーキでバッテリーに対して充電をかけているのかが一目でわかる。表示自体、鮮やかで大きめであり、メーターのセンターにあるので見やすい。

メーターの中央にアドバンスドドライブアシストディスプレイがある
ハイブリッドカーらしさを見せるエネルギーモニター
バッテリーのみで走行、いわゆるEV走行をしている状態

そして気づいたのがこのエクストレイル ハイブリッド、モーターのみで走行している時間が長いのである。ご存じのようにハイブリッドカーは大きなバッテリーを搭載し、そこにエンジンによる発電や回生ブレーキで回収したエネルギーを電気としてため込む。そのエネルギーでモーターを回し、駆動力として利用する。ガソリンエンジンとモーターを、効率よく使い分けることで燃費が向上するという仕組みだ。

ガソリンを消費するのはガソリンエンジンなので、バッテリーによる走行が長ければ長いほど燃費は向上する。しかし、そのバッテリーはどこかのタイミングで充電しなければならないのである。いずれにしてもこのエクストレイル ハイブリッド、バッテリーのみでの走行、いわゆるEV走行(電気のみで走る、電気自動車としての走行)の時間が長いような気がしたのだ。この点に関しては、開発者に聞いてみるのが一番だろう。ちなみにカタログスペックで比較した場合、ガソリンエンジンモデルが16.0km/Lに対して、ハイブリッドは20.0km/Lとなっている(ガソリン車は4WD・2列シート)。

加速すると不思議な体験が

もう一つ気になったこと。「エクストレイルはCVT(Continuously Variable Transmission、無段変速機)を採用したクルマ」、それぐらいは私だって調べてある。エクストレイルが採用しているそれは、「エクストロニックCVT」というそうだ。変速を無段階で行うため、スムーズな加速や減速が行えるシステムだ。

だが、実際にエクストレイル ハイブリッドを走らせたところ、不思議な現象に遭遇した。それは、試しにアクセルをグッと踏み込んで加速した際、顕著に感じたことだった。変速機がCVTにも関わらず、まるでオートマチック変速のような反応を見せたのである。アクセル操作に応じて「グッ、グッ」と段階的な加速が、小気味よく行われたのだ。それはまるでスポーティなオートマチック、例えるなら6速ATのような感覚だった。

思わず同乗していたスタッフさんにも確認したのだが、確かにエクストレイルはCVT、無段変速機のクルマだ。ではなぜこのように段階を経た加速を見せるのか? 一応、資料に目を通したところ、それに関わるであろう「ステップ変速制御」という言葉を発見した。この言葉から察するに、無段階でグーンと加速減速するCVTの変速に対して、あたかもオートマのような「アクセント(ステップ)」を設けたのだろう。

よく考えられているというか、そこまでやるかというか。要するに、ステップ変速制御というのは「加速してますよ」という感覚をドライバーに知らせるための、言うなれば「味付け」だと思う。無ければ無いでCVTの滑らかな加速ということになるのだが、マニュアル変速やオートマに慣れ親しんだ人には物足りないかも知れない。さらにCVTでスーッと加速減速するよりも、ドライバーにとって状況が判りやすいというメリットもある。小さなことかも知れないが、意外と大きな効果があるように感じた。

ちなみにエクストレイル ハイブリッドの加速、かなりパワフルである。タフなSUVのボディにハイブリッドカーの証であるバッテリーを搭載しているため、車両重量は1630kgある(4WD、20X HYBRID)。一方、ガソリンの4WDモデルは1500kgに収まっている(4WD、20X)。その差は130kg、大人2人分の違いがある。しかしエクストレイル ハイブリッドは、2Lガソリンエンジン以上の加速を体感させてくれるのはもちろん、アクセル操作に対してレスポンスも良好だ。

資料には「2.5Lガソリンエンジンを超えるパワフルな加速性能」とあるのだが、確かにその通りだと感じた。いわゆる、モーターの立ち上がりからフルのトルクを出せるという特性を、うまく利用しているのだと思う。これだけのトルクとレスポンスがあれば、高速道路でも楽な走りができるだろうし、悪路においてはそのトルクがガソリンエンジン以上の力を発揮してくれそうだ。

SUVとハイブリッドの愉快な関係

休日、家族や親しい友人たちとドライブを兼ねたキャンプ旅行。穴場スポットとなっているそのキャンプ場は山の中にあり、その山の麓までは高速道路と一般道が通じているのだが、山に入ってしまうと未舗装の林道となる。距離は比較的あるので、給油のタイミングもちゃんと考えておかなくてはならない……。

もし上記のような条件で「目的に合うクルマを1台選んでください」と言われれば、私だったらエクストレイル ハイブリッドを選ぶ。麓までの高速道路と一般道を低燃費で快適に走るなら、ハイブリッドはピッタリだ。SUVであり、ある程度の車格を持っているエクストレイルの燃料タンクは、60Lの容量がある。ここにハイブリッドの低燃費が加われば、出発時の給油で相当な距離を走ることができる。ガソリンエンジンとモーターのコンビネーションで、高速道路でもパワフルな走りが楽しめるだろう。

麓からキャンプ場までの未舗装林道も、エクストレイルの四輪駆動性能と車高の高さがあれば、余裕で走り切ることができる。詳細は後編で書くが、4~5人分のキャンプ道具、それがかなり本格的な装備であっても、エクストレイル ハイブリッドの荷室で充分対応できる。SUVとハイブリッドの組み合わせは、機動力とエコ(省燃費)の組み合わせでもあるのだ。さて、今度の休日はエクストレイル ハイブリッドに乗って、どこへドライブに行こうか……。

という夢を見た。いや、そういう夢を見せてくれるのですよ、SUVというクルマは。そして、そのSUVにエクストレイル ハイブリッドを選べば、さらにエコというメリットを得ることができる。普段使いは通勤や買い物であったとしても、エクストレイル ハイブリッドなら「いつかどこかへ行こう」という楽しみができる。さらに言うなら高速道路と一般道を比較した場合、ハイブリッドの省燃費能力は、ストップ&ゴーの多い一般道でより高く発揮されるのだ(回生ブレーキによる発電が多いなどの理由がある)。要するに普段走るのは街中であったとしても、エクストレイル ハイブリッドはエコなクルマとして活躍する。

ちなみにハイブリッドというと、どうしても「巨大なバッテリーを搭載しているので荷室が圧迫される」というイメージを持つ人が多いようだ。その点、エクストレイル ハイブリッドはまったく問題無い。そもそもエクストレイルはSUVなのだ。最初から荷室には余裕がある上に、エクストレイル ハイブリッドが採用したのは高出力でコンパクト、急速放充電に強い、リチウムイオンバッテリーなのだ。実際に、ガソリンエンジンのエクストレイルと比べれば分かるのだが、荷室の差はほとんど無い。

エクストレイル ハイブリッドの荷室、通常状態。これでもかなり広いことがわかる
さらに小物を入れられるスペースがあり……
とどめにリヤシートを倒すとご覧の通り! これで荷室が狭いと思うなら、トラックを買った方がいい

いやいや、ここまで来たらもう一つだけ言わせて欲しい。なんとこのエクストレイル ハイブリッド、パンク修理キットではなく、しっかりテンパータイヤを搭載しているのだ! パンク修理キットにしておけば、余裕でリチウムイオンバッテリーのスペースを稼げたのに……とか思うのは私だけじゃないはず。さっそくスタッフさんに聞いてみたところ「SUV、ラフロードもこなすエクストレイルにパンク修理キットはないでしょう」とニヤリ。ああ、ハイブリッドであろうがなかろうが、エクストレイルはエクストレイルなのだなあと思った次第。

テンパータイヤ装備! さすがエクストレイル。バッテリー格納スペースよりテンパータイヤ優先!

さて、ハイブリッドならではの静かさを持ちつつ、2.5Lガソリンエンジンを超えるパワフルな走りを見せるというのは分かった、というか体感した。ハンドリングも良好だし、運転していて楽しいクルマだというのも分かる。そして、試乗で感じた「EV走行の時間が長い(と、私は感じた)」ということと、「ATのようなフィーリング(これがステップ変速制御か?)」に関しては、開発者に聞いてみよう。そんな訳で、エクストレイル ハイブリッドの気になる車内の様子も含めて、後編に続きます。

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