カーナビ製品には、いまや基本機能の優秀さに加えた「プラスα」が求められている。
なぜなら、いまやスマートフォンでも基本的なカーナビのような活用はできるし、低価格なポータブルタイプ機の台頭もあるためで、「高機能、多機能になりました」のさらに上を行く「新提案」が必要になってきているのである。
今回、紹介するのは、パナソニックカーナビ新製品「ストラーダ」の「R300」シリーズおよび「R500」シリーズに、登場した超強力な「プラスα」である。
その「超強力なプラスα」というのは新発売となったフロントインフォディスプレイ(以下、FID)の「CY-DF100D」のこと。
CY-DF100Dは、パナソニックのカーナビ製品「ストラーダ」のR500シリーズとR300シリーズに対応したオプション品で、ルート案内に必要な情報を表示するための投写型ディスプレイ(プロジェクションデバイス)になる。
これ、一言で言えば「ヘッドアップディスプレイ」(HUD)である。
ヘッドアップディスプレイとは、現実視界にオーバーレイさせて情報や図形、あるいは映像を表示するシステムのこと。ヘッドアップディスプレイの特長は、現実世界を見ている状態から視線を大きく動かすことなく、ディスプレイシステムの映像を視認できるところにある。
CY-DF100Dは、商品としては透明なスクリーン(コンバイナユニット)と、超小型の液晶プロジェクタ(プロジェクションユニット)、そしてカーナビとプロジェクタのインターフェース的な役割を果たすマルチエクスパンドユニットで構成され、前述したようにストラーダのR300・R500シリーズと組み合わせて使用することになる。CY-DF100Dの価格はオープン価格設定となっているが、2013年11月下旬時点で、実勢価格はおよそ5~6万円くらいとなっている。
プロジェクタ部分の解像度は480×240ドット。光源には高輝度LEDを採用し、マイクロディスプレイとしては液晶パネルを採用する。
透明なスクリーンはポリカーボネート製。液晶プロジェクタというと、スクリーン面に結像させた映像を見るイメージがあるが、FIDの場合は、このスクリーンを鏡に見立てて、ここに映った鏡像を見る事になるので、映像はスクリーン面のさらに奥側に見える事になる。
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プロジェクションユニットとコンバイナユニット
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コンポジットビデオ入力端子もある。R300/R500との接続にはここは未使用。ということはここに一般ビデオ機器を繋ぐと…!?
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実は、ここが重要なポイント。
一般的なカーナビの場合、「あ、交差点だ。そろそろ曲がるのかな」とセンターコンソール側のカーナビ画面を注視することになるわけだが、このとき運転者は自身の眼を、遠方に焦点を据えて現実世界を見ていたのに、カーナビ画面を見るときには近場に焦点を変える必要が出てくる。目の焦点調整は1秒はかからないまでもコンマ数秒はかかることになるし、視線を正面からセンターコンソール側に移動させて表示内容を理解するまでの所要時間を合わせれば1秒かかることもあるだろう。
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設置イメージ
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もし、50km/hで走行していたとき、眼の焦点調整と視線移動に合計、1秒かかったとすればその間にクルマは13m以上も進んでしまう。0.5秒だとしても6m以上進む。100km/hの高速道路走行時ならば、その2倍だ。携帯電話の注視ほど危険ではないまでも、カーナビ画面への視線移動、焦点調整も、高速移動体を運転する身としては気を抜いてはいけない瞬間ではある。
FIDの場合はスクリーンの設置を、基本的には運転者の正面側に行うため、視線移動は最低限で済む。そして、前述したように、運転者が見るFID上の映像は、スクリーン面の向こう側…つまりはフロントガラスの外側(つまり車外)に結像するので、運転者は、屋外遠方を見ている状態から最低限の焦点調整でこれを見ることができるわけである。
結果、視線移動と焦点調整を短縮できるので、安全にカーナビの情報を見ることができるわけだ。
パナソニックのCY-DF100Dでは、プロジェクタとスクリーンを運転席側のダッシュボード上に設置することになる。
設置の際、どうしても「プロジェクタをどこに設置しようか」と、プロジェクタ側に意識が行ってしまいがちだが、実は最優先すべきはスクリーンの位置の方。運手席に着座して、正面中央あたりが理想で、しかも適度な間隔をとったほうがいい。これは前述したように、運転中遠方を見ている状態からなるべく少ない焦点調整ではFIDを見られるようにするため。「遠方にあると見にくいのでは…」と思うかも知れないが、そもそも運転者は、フロントガラスよりもさらに向こう、遠方を見て運転しているのでその心配は無用なはず。さらにいえば、スクリーンは、若干湾曲した形状になっているため、スクリーン上に見える鏡像は拡大されて見える。そう、スクリーンサイズの印象よりもかなり大きく見えるのだ。
スクリーンの位置がおよそ決まると、CY-DF100Dのプロジェクタの投射距離が固定なので、プロジェクタの設置位置も自ずと決まってくる。
スクリーンは傾きの調整が可能なので、運転者のある程度の背丈の違いには対応が可能だ。ダッシュボードに傾きがあると、スクリーン上のFID映像が大幅に歪んでしまうことがあるが、これはプロジェクタ側に搭載された台形補正機能を活用することで直交四辺形状態に補正をかけることが可能だ。
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台形補正機能イメージ
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ところで、このCY-DF100Dは、現存するあらゆる車種に設置できるわけではない点に留意したい。
プロジェクタとスクリーンをダッシュボード上に両面テープで接着設置する構造上、運転席側のダッシュボードが山なりに盛り上がっている運転席の車種には設置が行えないのだ。最近では、各種メーター類や燃料計をダッシュボードセンターに配置して、運転席側のダッシュボードはフラットにして視界を広く取っている車種が多くなってきているが、CY-DF100Dはこのような車種に適合することになる。
トヨタ
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プリウスα
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トヨタ
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ヴェルファイア
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トヨタ
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アルファード
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トヨタ
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アルファードHV
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トヨタ
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スペイド
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トヨタ
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ポルテ
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トヨタ
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アイシス
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トヨタ
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シエンタ
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トヨタ
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シエンタダイス
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ホンダ
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フィット
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ホンダ
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フィットHV
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ホンダ
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ライフ
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ダイハツ
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ムーヴ
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ダイハツ
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ムーヴカスタム
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ダイハツ
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ムーヴコンテ
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日産
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モコ
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スズキ
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MRワゴン
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スズキ
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スペーシア
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スバル
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ステラ
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上記表は、パナソニックが確認した限りの適合車種リストになるが、カーナビインストールの専門店などに相談すると、思わぬ独創的なアイディアで、設置を工夫して行ってくれる場合もあると思うので、適合車種にないからと言ってすぐにあきらめはせず、一度相談してみるのもいいと思う。
さて、HUD対応カーナビといえば、他社製にサンバイザー的に頭上に取り付けるタイプも先行して登場している。あれはあれで車体に備え付けられているサンバイザーを取り外す必要があるなどの設置難度があるので、どちらの方が設置性に優れるとは言い切りにくい。
なにはともあれ、パナソニックのCY-DF100Dがオンダッシュ設置にしたのには何か理由があるはずだ。
これについては「速度が上がったときに視野が狭まる人間の視覚特性に適合させるため」とパナソニックは答えている。
バイザー型のHUDは、現実世界の視界に対してワイドにルートやその他の付随情報を表示するため、それらの情報を知覚するためにはバイザー型スクリーン全体を見る必要がある。速度が高まり進行方向に注視して視界が狭まっているときは、バイザー型のスクリーンを見るためには視界を広げるような意識切換が必要になる。
フロントディスプレイタイプのCY-DF100Dでは、進行方向を注視した視界の狭い状態でも、必要な情報がまさにその注視視界にオーバーラップされるため、視界の意識切換が不要だというわけだ。
サンバイザー型のHUDをマネしたくなくてフロントディスプレイ型にしたわけではなく、確固たる理由があったというわけである。
このあたり、実際にどうなのか…については、後編の実際のドライブ編で重点的にチェックしてみたい。
実際にFIDに表示される情報はどんなものなのか。結論から言えば、あえて、一瞬で知覚できるシンプルなものに集約されている。
はっきり言ってしまえば、現実世界にルートを引くような派手なAR的な映像ではなく、シンプルなアイコン、文字情報、図形などが中心で、一部にアニメーションを伴った表示もあるが、これも「言わんとしているメッセージがなんなのか」が理解しやすいように、とシンプルなものになっている。
そもそも、運転者は現実視界として道の伸びている方向、交差点の風景は捉えているわけで、必要な情報は突き詰めて言えば「いつ」「どこへ」に行けばいいのかと言うことだけだ。派手な現実世界を模したグラフィックスの表示は必要ないのだ。
「どこへ」については、FIDでは、交差点に近づくとどの車線に入ればいいのかを点滅する大きな矢印で知らせてくれる。現実世界の視界には実物の車線が見えているので、この矢印の指示だけ見ればどの車線に行けばいいのかは瞬時にわかる。「現実世界の情景に似せたグラフィック」と「現実世界の情景そのもの」との相似性を認識してからレーン上の矢印を知覚するよりも、実はスピーディに判断ができるのだ。
「いつ」のタイミングについては、FIDでは、そのタイミングを縦ゲージでお知らせしてくれる。交差点まで「○○m」の数値表示もあるが、そのカウントダウンと共に縦ゲージが上がっていき、ゲージが上端に達したところが、その「いつ」のタイミングとなる。
現実世界を模したグラフィックス表示を見ながら「いつ」のタイミングを見計らっていたら、グラフィックスの距離感と現実世界の距離感が一致しなくて「結局、曲がるタイミングを間違えた」なんてのは「カーナビあるある」の定番だと思うが、これはグラフィックの方にユーザーが惑わされている典型だと思う。むしろ、現実世界の情景を見ながら、シンプルにタイミングを教えてくれた方が分かりやすいのだ。助手席の人間ナビの「そこの30m先の角、曲がって」で十分なのと同じ理屈である。
この、矢印とゲージカウントダウンは、インターチェンジでも同様な案内形態になる。
高速道路走行時は、走行するごとにインターチェンジ名やサービスエリア名が下から積み上がってくるアイコン表示が行われる。目的の高速出口が近づいてくれば、前述のような矢印とゲージカウントダウンで降りるタイミングを教えてくれる。
交通渋滞などの比較的緊急性の高い情報は、案内情報に被さるようにして、その緊急情報をオレンジ色や赤色の枠付きで教えてくれる。
それと、言うまでもないことだと思うが、FIDを活用していても、もちろん音声ガイドは流れるので、普段は進行方向を注視していて、音声が流れたときにだけFIDに目をやればいい。つねにチラチラとFIDを見続ける必要はないのだ。
FIDの表示は、カーナビ本体側の操作には基本的に影響を受けず、安定した表示が継続される点も強調しておきたい。助手席の人がCDを入れ替えたり、テレビの選局を行ったりしても、FID側の表示が乱れたり、表示内容が変わることはない。
さて、最後にカーナビ本体の方にも触れておこう。
冒頭でも述べたようにCY-DF100Dが適合するのはストラーダのR300およびR500シリーズになる。R500シリーズについてはこちらの記事を参照して欲しいが、下位モデルのR300シリーズは、カーナビゲーションの機能はR500と同等で、次世代交通情報サービス「ITS」スポットサービス(DSRC)にも対応する(R500にはDSRC車載器が標準セットされたモデルがあるのに対してR300ではオプション扱い)。
スマートフォン連携機能、ネットワーク連動機能の「DriveP@ss」の仕様についてもR300とR500は共通だ。この辺りの詳細についてもこちらの記事を参照して欲しい。
オーディオビジュアル(AV)機能に関してもR300とR500はほぼ同等だが、R500の方に搭載されていた「高音質32bitDAC」はR300では24bitDACになっており、R500に搭載されていた「CD音質非圧縮リッピング機能」はR300ではMP3などの圧縮オーディオにのみ対応となっている。「立体音響SRS CS AUTO」もR500だけの機能となる。R500はAV機能を上質に武装した製品だが、R300にも基本機能は揃っているので実用上見劣りする部分はない。また、R500には音楽専用の16GBメモリが内蔵されているが、R300では内蔵のSDカードスロットに市販のSDカードを挿せばこのスペックの差異は埋められる。
どうしてどうして。
意外にR300もイカした製品だと筆者は思っている。
というわけで、次回は、このR300シリーズの方をCY-DF100Dに接続して、実際のドライブに出かけて使用感を試してみたいと思っている。
乞うご期待。
(トライゼット西川善司)
後編はこちらから
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