ヨコハマタイヤが誇る低燃費タイヤ「BluEarth AE-01F」「BluEarth-A」

日下部保雄の実走レビュー&開発者インタビュー

ヨコハマタイヤのベーシックグレードの低燃費タイヤ「ECOS ES31」を基準に、最高低燃費グレード“AAA”の「BluEarth AE-01F」と最高ウェットグレード“a”の「BluEarth-A」を比較試乗。それぞれどんな魅力があるのだろうか

 来月にはいよいよ消費税率が引き上げられる。クルマを所有している人は、ますます低燃費タイヤへの関心が高まっていることだろう。とは言え、ひと言に低燃費タイヤと言っても、多くの種類があり、選ぶのにも悩んでしまうのではないだろうか? そこで、“低燃費タイヤの先駆者”ヨコハマタイヤのブルーアース・シリーズの中から、スタンダードモデルでありながら、最高の低燃費グレート“AAA”を達成した「BluEarth AE-01F」と、最高のウェットグレード“a”へと進化した「BluEarth-A」をピックアップ。モータージャーナリストの日下部保雄氏に同じプリウスで比較試乗してもらった。

 評価の基準として、ヨコハマタイヤの低燃費タイヤとしてはもっともベーシックグレードとなる「ECOS ES31」も用意した。「BluEarth AE-01F」と「BluEarth-A」は、「ECOS ES31」と比べてどのような特徴を持っているのか? 一般道と高速道路を試乗することで探るとともに、ヨコハマタイヤの低燃費性能やウェットグリップ性能を支えるコンパウンド技術の秘密を探るため、横浜ゴムの平塚製造所を訪れた。

それぞれのタイヤで高速道路~一般道の同ルートを走る。舗装された路面、荒れた路面、急坂路のすべり止め舗装など、さまざまな状況でテストした

ベンチマークとして試乗するのは「ECOS ES31」
ベーシックモデルながら優れた低燃費性能と乗り味を持つ

テストに使用した車両はプリウス。比較基準となるのは「ECOS ES31」。ラベリング制度“A/c”の人気の低燃費タイヤだ

 ヨコハマタイヤのヒット商品である「DNA ECOS」は、イチ早く転がり抵抗の低減、つまり燃費の改善に取り組んだスタンダードタイヤだ。ユーザーからの評価も高く、累計出荷本数3300万本を突破した実績を誇る。それだけ多くの人に選ばれるタイヤだけに、乗り心地やハンドリング、ウェット性能などバランスもよく、取り扱いやすいのが魅力となっている。最新モデルの「ECOS ES31」はラベリング制度で転がり抵抗性能が“A”に、ウェットグリップ性能が“c”となり、低燃費タイヤへと進化を遂げた。それだけの性能を誇りながら、ベーシックグレードらしい手ごろな価格も実現しているところが、実にヨコハマタイヤらしい良心的なタイヤである。

 実際に乗ってみると、まず、乗り心地に関して、低燃費タイヤで誤解されがちな“硬さ”はない。トレッドのゲージ(厚さ)も十分にあり、「ECOS ES31」専用に新開発されたプロファイルでパターンノイズもよく抑えられているし、荒れた路面でのショックの吸収力も高い。大きな段差でのショックも妥当なもので、日常的なシーンでは、使い勝手に優れた汎用性の高いタイヤだ。また、ハンドリングも素直で、応答性も舵の効きもこのクラスに求められるパフォーマンスをしっかりとクリアし、軽快なフットワークを実現している。しっかりとした剛性も確保しつつ腰砕け感もない。ベーシックグレードながら、バランスのよい性能を持っているのが特徴だ。

フィットやアクアサイズでも最高グレードの低燃費性能を実現!
コストパフォーマンスにも優れる「BluEarth AE-01F」

転がり抵抗性能が“AA”から“AAA”へと進化した「BluEarth AE-01F」。コンパクトカーを中心にした15・16インチで19サイズがラインアップされる

 続いて試乗するのは、ブルーアースの主要ラインアップのひとつとなる「BluEarth AE-01F」だ。 “Fuel Saving(燃費を抑える)”“Friendly(親しみやすい)“Fit(ぴったり合う、ふさわしい)”というコンセプトのもと、ブルーアース・シリーズの第一弾として登場して以来、高い人気を誇っていた「BluEarth AE-01」がリニューアルされたもの。

 最大の特徴は、タイヤラベリング制度の転がり抵抗性能が従来の“AA”から最高グレードの“AAA”へレベルアップしていることだ。従来の「BluEarth AE-01」でも限りなく“AAA”に近い性能だったが、より確実な“AAA”にするために、ヨコハマゴムは新たに新ナノブレンドゴムを開発した。

 タイヤの構造・トレッドパターンは従来のものを継承しているため、見た目には大きな変化はないが、コンパウンド技術については後述するように大きく進化している。簡単に言えば、特性の異なる複数のポリマーを巧みにブレンドしたポリマー、そして独自技術のオレンジオイルを配合することで、ウェットグリップ性能を低下させることなく、転がり抵抗性能を向上させているのだ。

トレッドパターンが同じで見た目には従来モデルとあまり違いのない「BluEarth AE-01」だが、1カ所だけ違いがある。それがブランドロゴの横に加わったブルーアース・テクノロジーマークだ

 JC08モードで実施したテストでは、低燃費性能“A”のタイヤに比べて、4%の燃費向上が実証されている。一方で実売価格では「ECOS ES31」より幾分、上に位置するものの大きな差がないので、コストパフォーマンスとしても「ECOS ES31」に引けを取らない商品と言えるだろう。

 また、“AAA”を実現しつつもサイズラインアップが豊富なのも特徴だ。一般的にコンパクトカー向けなど、小さいサイズほど転がり抵抗を低減する余地が少ないと言われるが、「BluEarth AE-01F」では、アクアやフィットハイブリッドなど、従来では“AAA”が実現できなかったようなコンパクト向けのサイズもラインアップされている。

 最近ではハイブリッドカーの中でもコンパクトモデルが人気だが、そうしたモデルでも“AAA”という最高グレードは給油のたびに実感することだろう。摩耗したオリジナルタイヤから交換した時にも十分納得できるタイヤだと思う。また愛着のある古いクルマに乗っているユーザーにとって、「BluEarth AE-01F」に交換することでより燃費のよさや乗り心地の快適さが実感できるはずだ。

 「BluEarth AE-01F」のドライブフィーリングは、路面からの突き上げ、いわゆるハーシュネスがよく抑えられたなめらかな印象で、「ECOS ES31」のキビキビした性格とは少し異なる。「ECOS ES31」は路面からのショックを吸収しながらも、路面とタイヤの動きをダイレクトに感じる軽快なフィーリングだったが、「BluEarth AE-01F」の場合は路面との当たりもしなやかで、同乗者に伝わるショックもより緩和されている。

 また、最近のクルマは静粛性が高くてパターンノイズなどの音もよく通るが、「BluEarth AE-01F」はこの点もよく抑えられており、乗り心地と静粛性を兼備する最近のハイブリッドカーにもよくマッチしそうだ。今回テストで使ったプリウスとの適合性もかなり優れており、「ECOS ES31」との静粛性の違いも大きい。

 ハンドリングでは周剛性と横剛性のバランスがよく取れている。路面からのコンタクトは適度にいなされつつ、ドライバーに伝わってくる素直さを持っている。キビキビというよりは、しなやかさを強く感じさせるクルマにやさしいタイヤという印象だ。

 優れた転がり抵抗性能により、コストパフォーマンスを維持しつつも、「ECOS ES31」より一段上質な乗り味を実現しているタイヤとして、広いユーザー層にオススメできるタイヤと言えるだろう。

路面からの突き上げも緩和されており、快適な乗り心地を実現している。“AAA”のコストパフォーマンスはもちろん、静粛性も高く、幅広いユーザーを満足させるはずだ

最高グレードのウェットグリップ性能だけじゃない!
輸入車にもマッチする上質な走りを手に入れた「BluEarth-A」

「BluEarth-A」は、14インチから20インチまで全63サイズをラインアップ。そのうち45サイズで転がり抵抗性能“A”、ウェットグリップ性能“a”を達成している

 最後はブルーアース・シリーズの顔とも言える、ハイパフォーマンス低燃費タイヤ「BluEarth-A」だ。こちらも昨年リニューアルされて、ウェットグリップ性能が従来の“b”から最高グレード“a”へとレベルアップしている。世界平均の約2倍という降水量の日本では、ウェット路面を走る機会も多い。最近ではゲリラ豪雨も増えており、以前よりもウェット路面でヒヤッとさせられることもある。そんな日本の雨事情を考えると、最高グレード“a”のウェットグリップ力は非常に頼れる存在だ。今回の試乗以外でも低μ路でテストする機会もあり、従来のラベリングA/b の「BluEarth-A」でも相当の安心感があったが、A/aになると、その信頼感はさらに高まっており、ブレーキやハンドリング、アクセルを踏むタイミングなど、ドライビングにかなり余裕ができたのが嬉しい。

「BluEarth-A」は製品名とトレッドパターンは従来モデルと見た目も同じだが、新ラインアップのA/aモデルには、パターンナンバーの刻印付近に「Z」の文字が追加されている

 この技術を支えているのは、やはりコンパウンド技術。タイヤの構造やパターンは従来のまま継承されていて、高い剛性をしっかり確保しつつ、ウェットでのグリップ性能を最高峰まで向上させている。そのポイントとなるのが、複数のシリカと大量のオレンジオイルの配合だ。シリカは単純に数を増やせば効果が出るわけではなく、うまくポリマーと結合させる必要がある。そして、料理のように一定の温度と時間も必要とされる。それをコントロールするために最先端の専用ミキサーを使っているのだと言う。

 ヨコハマタイヤの目指すものは、ハンドリングや乗り心地などはもちろんのこと、燃費向上と安全性に大きく貢献するウェットグリップを向上させることだ。その意味においても、「BluEarth-A」のウェットグリップ性能最高グレード“a”は大きな意味を持つだろう。

 また、「BluEarth-A」は15インチから20インチまでラインアップも幅広く、コンパクトカーから輸入車まで適合性も高い。そして、サイズに合わせたチューニングがされており、軽量化と剛性バランスの最適化を図っている。左右非対称のトレッドパターンは摩耗時でも静粛性が落ちないピッチ配列となっており、摩耗による静粛性が低下しないパターンとなっていて、長く履いても性能が変わらないのも魅力だ。

 ハンドリングもかなりバランスがよい。「BluEarth-A」はスポーツタイヤではないが、世界最長のヒルクライムレース・「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム」でもトルクの大きなEVレーシングカーに装着されており、ウェットグリップとともにドライでも十分ハイレベルであることが証明されている。

 実際にフィーリングチェックでも、過大なグリップ感はないが、極めてスムーズなハンドル回頭性を感じさせた。旋回力のレベルも高く、信頼感のあるタイヤであることがわかった。また、路面でのコンタクトがしっかりしているので、タイヤがどんな状態であるのかもわかりやすい。もちろん、サーキットをスポーツタイヤで走る程ではないが、日常的なドライブでは十分過ぎる安心感がある。

 乗り心地は、しっとりとした乗り味が特徴だ。特に荒れた路面で直進性が乱されないことが強く印象に残った。静粛性もパターンノイズも低く、プリウスのようにトランクとキャビンの繋がっているような音の通りやすいクルマにもオススメしたい。タイヤ交換を考えているユーザーはぜひ一度試してみて欲しい。

 「BluEarth-A」のバランスの取れた剛性の高さ、そして乗り心地のよさは日本のミドルクラスのクルマももちろん、車体剛性が高く、またサスペンションも高速に合わせて硬めにチューニングされた輸入車とのマッチングがよく、しっとりとした持ち味は遺憾なく発揮される。ちなみにボルボやゴルフといったアシのしっかりした輸入車でも装着テストしたが、オリジナルタイヤとは違った軽快、かつ快適な乗り味が印象的だった。もちろん今回のプリウスに装着した場合でもグレード感の違うドライブフィールに心地よさを感じることができる。

ヒルクライムレースのEVレーシングカーに装着されているだけに、ハンドリングも非常にスムーズ。また、荒れた路面や急坂路のすべり止め舗装などでも、直進性が乱れることもなかった

 「ECOS ES31」は汎用性が高く、幅広いカテゴリーのクルマをカバーする。ベーシックグレードながらさすがはヨコハマタイヤと感じさせる性能の高さを感じさせるが、そこから少しグレードアップした「BluEarth AE-01F」は、最高グレードの低燃費性能とともに、ミドルクラスのクルマでも満足できる乗り心地のよさが経験できる。さらに「BluEarth-A」は一味違った剛性感と驚くほどのウェットグリップの高さで、日本車はもちろん、輸入車にも適合するスッキリした持ち味と性能を持っている。ひと言で低燃費タイヤと言っても、転がり抵抗の低さやウェットグリップ性能だけでなく、乗り味にもそれぞれ特徴を持ち合わせているので、クルマのタイプやニーズに合わせたタイヤ選びの参考にしていただきたい。

進化し続けるコンパウンド技術「ナノブレンドゴム」の秘密を
ヨコハマタイヤの技術者に聞いた

横浜ゴム タイヤ材料設計部 材料設計4グループ・武田慎也氏に「新ナノブレンドゴム」について話を伺った

 これまでに紹介した「ECOS ES31」「BluEarth AE-01F」「BluEarth-A」を支えているのが、ヨコハマタイヤが誇る基幹コンパウンド技術「新ナノブレンドゴム」だ。といっても見た目にはどれも同じように見える黒いゴム。果たしてその中にどれほどの技術が詰め込まれているのか? 横浜ゴムのエンジニア・武田慎也氏に話を伺った。

 新ナノブレンドゴムとは、シリカとポリマーの配合をきちんとコントロールしてくみ上げたコンパウンドのことだ。シリカとは親水性の高い素材でウェット性能に効果を発揮する。かつては高価な素材であり、高性能で高価なタイヤに使用されていたが、安定したウェットグリップを実現しやすいためタイヤのトレンドとなり、採用し始めたので価格も安定してきたという。

 一方でポリマーは疎水性でシリカとなじみにくい素材として知られる。しかし、ヨコハマタイヤが採用している変性ポリマーは、シリカとも直接結合するため、無駄な発熱が抑えられ、低燃費性能に貢献する上、耐摩耗性にも優れる。

 さらに、ヨコハマタイヤのオレンジオイルを配合。オレンジオイルとは、その名のとおり、オレンジから抽出した成分のこと。資源を再利用できるだけでなく、ミクロレベルでゴムをしなやかにする効果があり、路面の凹凸へよりしっかりと食いつくことができるようなる。これによりウェットグリップも高まり、転がり抵抗性能にも優れたゴムの開発には欠かせない存在だ。この技術で「ECOS ES31」専用のナノブレンドゴムも開発し、A/cへとグレードアップさせている。

 「BluEarth AE-01F」では、さらに技術は複雑になってくる。シリカにもさまざまなグレードがあり、特性に応じて使い分けているそうだ。ただし、その特性を発揮するためにはポリマーとしっかり結合させる必要があり、「BluEarth AE-01F」では分散性に優れるシリカを採用している。まずシリカ自体を広く分散させて、シリカ同士がくっつかないようにし、ポリマーはシリカに巻きついて離れないものを開発。これにより同じナノブレンドゴムといっても「ECOS ES31」のそれよりポリマーが余計な動きをしない設計、つまりより転がり抵抗性能に優れたコンパウンドを設計した。オレンジオイルも「ECOS ES31」よりも増量されている。

「BluEarth AE-01F」に使われる
ナノブレンドゴム構造イメージ図
赤、青、緑のひも状のものがポリマー。緑は耐久性を向上する天然ゴム。赤と青は一端がシリカ(水色の玉)と結合することで、無駄な発熱を抑え、燃費を向上する変成ポリマーだ。中でも赤いポリマーは新配合のポリマーで、もう一方の端もシリカに結合こそしないものの絡みつくことで、より燃費性能を向上している。また、ウェット性能を向上するシリカも高分散性シリカを採用。オレンジ色の玉は、オレンジオイルを表す。オレンジオイルはゴムに柔軟性を持たせ、グリップを向上する

 そして、さらに最先端の技術が必要となるのが「BluEarth-A」。さまざまな種類のシリカの中から、ウェットに強いシリカと、転がり抵抗に効果のあるシリカを採用している。この“Wシリカ”でウェットグリップ性能を向上させるだけでなく、低燃費性能も確保している。シリカなどの素材は単純に増量しただけではうまく混ざり合わない。量が増えれば増えるほど、混ぜるのが難しくなっていく。いかにポリマーと結合させるかがカギとなるのだ。ちなみに「BluEarth-A」には「BluEarth AE-01F」の約2倍のシリカが使われ、オレンジオイルは約10倍の量になっているという。

 シリカを混ぜるには一定の温度と時間が必要で、それをコントロールするのが非常に難しいそうだ。いくら技術が最先端でも、実際に量産できなければ意味がない。そこで業界でも最先端の専用ミキサーを開発し、シリカを反応させる、最適な温度と時間を見出し、効率よくシリカを混ぜることに成功。だから、これだけの技術を搭載したタイヤを市場に安定して供給できるわけだ。

「BluEarth-A」に使われる
ナノブレンドゴム構造イメージ図
「BluEarth-A」のコンパウンドでは、シリカをさらに増量。「BluEarth AE-01F」の倍の量のシリカを配合している。さらにシリカはウェットに効くシリカと転がり抵抗を下げるシリカの2種類を配合。またオレンジオイルも増量している。オレンジオイルはゴムの柔軟性をアップしグリップをあげるだけでなく、ブレーキングやコーナリングなど、大きな入力があったときに素早く発熱するため、燃費を抑えつつグリップを向上する特徴を持つ。さらに「BluEarth-A」では、これらを基材を最適にミキシングするため、最先端のミキサーを採用している

 試乗しても実感することだが、ヨコハマタイヤの最新低燃費タイヤには、あらゆる面で最先端の技術が搭載されている。消費税率アップも目前の今、そろそろタイヤ交換の時期が近づいている人は検討してみてはいかがだろうか。「BluEarth AE-01F」も「BluEarth-A」もそれぞれの特徴があるが、あなたの期待を決して裏切らないはずだ。

(日下部保雄)