ヨコハマタイヤの新スタッドレスタイヤ「iceGUARD 5 PLUS(アイスガード ファイブ プラス)」が登場した。先代の「iceGUARD 5(アイスガード ファイブ)」の登場は2013年シーズンだったので、3シーズンぶりの刷新となる。驚いたのは、新型だというのにトレッドパターンは従来モデルと全く変化がないということ。見た目には変わらないこの新型が果たしてどこがどのように進化したのか? まずは、開発経緯とその背景からみていくことにしよう。
アイスガード ファイブ プラスは、従来品となるアイスガード ファイブの、
「氷に効く」
「永く効く」
「燃費に効く」
の3コンセプトはそのままに、スタッドレスタイヤに求められる傾向が強くなってきている氷上性能と省燃費性能の両立を目指して開発された新世代のスタッドレスタイヤだ。
個人的には、先代のアイスガード ファイブを発売時に愛車に装着し、以来、冬はもちろん、恥ずかしながら夏場も履きっぱなしで3年間を過ごした。本当なら今シーズンは新しいタイヤに履き替えるタイミングだ。といってもぼくの場合、クルマはほとんどスキーに行くための道具。夏場はほとんど走らないので、3年間の走行距離は1万kmにも満たない。タイヤそのものの見かけはまるで昨日履き替えたかのようだ。
たぶん、都市部のカーオーナーの中には、ぼくのようなパターンの人も少なくないんじゃないだろうか。何しろ、夏タイヤと冬タイヤをそれぞれ所有するためには、その置き場所を確保するのがたいへんだ。ぼくの走行距離の少なさは極端だと思うが、毎日の通勤にクルマを使わない限り、走行距離も、そう延びるもんじゃない。
ちなみに、ぼくの愛車は、買ったその日にスタッドレスタイヤに履き替え、以来、ほぼ3年おきに新しいスタッドレスタイヤに履き替え、15年間スタッドレスだけで過ごしてきたというのは、以前にも書いたとおりだ。その間、新車時のタイヤは貸倉庫でホイールに装着されたまま眠っている。
カーファンの風上にもおけないような体たらくだが、それで何の不自由もなく過ごしてきた。本職はIT系のライターなので、他車を乗り比べる機会も少なく、現状でこんなものだろうと満足してしまう。でも、こんな横着な行為が許されるその背景には、タイヤメーカーの技術陣による果敢なチャレンジがある。ここ最近はCar Watchでタイヤメーカーの取材をさせてもらって、そのことを実感している。
ヨコハマタイヤによれば、乗用車用のスタッドレスタイヤは、この5年間で需要が増加しているのだという。異常気象のせいもあってか、最近は都市部でもけっこうな量の雪が降ることもあるというバックグラウンドも、その傾向に拍車をかけているようだ。
それと同時に、ユーザーの意識そのものが変わってきているともいう。同社の調査によれば、ユーザーがスタッドレスタイヤに求める要素としては氷上のブレーキ性能がダントツで、そのさらなる向上を求めているようだ。おそらくは、過去に冬道ドライブで怖い思いをした経験がトラウマになっているのではないかと同社では分析している。
ところが、それに加えて、燃費の性能を求める声が、ここ数年増えてきているらしい。最近でこそ多少はましになったが、ガソリン価格が高騰していた時期と重なったのが要因になっているようだ。加えて低燃費タイヤの普及で、タイヤで燃費が改善するというイメージが定着したというのもあるだろう。いずれにしても、クルマそのものがトータルでエコでなければならないというニーズが高まっているということだ。
ただ、イメージとしてスタッドレスタイヤは燃費がわるいと思われているかもしれないが、実際にはそうでもないらしい。ヨコハマのスタッドレスタイヤでは、構造などを見直すことでエネルギーロスを抑制している。エネルギーロスが少ない方が転がり抵抗が小さく、省燃費に貢献できるという。
では燃費をわるくしている要因はというと、たとえば、冬場のドライブでは、暖機運転のために長時間アイドリングを行なったり、凍結路面に不安を感じ、停止・発進を繰り返したり、雪道を走行する際の大きな抵抗や、凍結路面でタイヤが空転するなどといったことで余分なガソリンを消費してしまうため。結果として燃費がわるくなってしまい、その印象が強いわけだ。
ヨコハマタイヤの場合、基本的にスタッドレスタイヤそのものの転がり抵抗が夏タイヤに大きく劣ることはないという。それでも、燃費に効くことをアピールするスタッドレスタイヤがあるのなら、購入したいと望むユーザーはたくさんいるのだ。
ヨコハマタイヤがアイスガード ファイブ プラスの開発にあたり、氷上性能だけでなく、省燃費性能の両立をめざしたのはそのためだ。アイスガード ファイブの氷上性能にさらに磨きをかけ、それに省燃費性能も「プラス」するというのがアイスガード ファイブ プラスの基本コンセプトというわけだ。
アイスガード ファイブ プラスでは、加えて省低燃費性能の向上を図るために、トレッドゴムの下の層にあるベースゴムを改良した。新たに開発された「低発熱ベースゴム」をトレッド下層に新規採用することで、タイヤが回転し、たわむことで発生する熱エネルギーを抑制し、転がり抵抗を低減している。あわせて同社の低燃費タイヤブランドである「BluEarth」のサイドプロファイル技術「たわみ制御プロファイル」を継続採用。タイヤの剛性をしっかりと保ちながらも、転がり抵抗を従来品比で7%低減させている。これは同社の低燃費タイヤ「ECOS ES31」の転がり抵抗係数と同等だというから驚きだ。
トレッドゴムの下にあるベースゴムを低発熱とすることで、転がり抵抗の低減を実現
サイドウォールの形状を見直したたわみ制御プロファイル。これにより横方向に剛性を持たせ、たわみによる運動エネルギーの損失を抑える
タイヤ走行時のトレッド部の発熱を比較。写真左がアイスガード ファイブ プラスで右が従来モデルのアイスガード ファイブだ
こちらはショルダー部の発熱の状況。たわみ抑制プロファイルにより無駄な発熱が抑えられている
従来モデルと比べ7%転がり抵抗を低減
先代のスタッドレスタイヤであるアイスガード ファイブのデビューは2012年だ。さらに2013年には北海道限定での販売として、氷上性能に特化したスタッドレスタイヤ「iceGUARD Evolution iG01(アイスガード エボリューション アイジーゼロイチ)」を発売している。
こうしたiceGUARDシリーズの正統派後継としてのアイスガード ファイブ プラスだが、実績のあるアイスガード ファイブのトリプルピラミッドディンプルサイプやトレッドパターンはまったく変えずに継承している。
イン側とアウト側でパターンの持つ役割を分けることで、低速走行時にも高速走行時にも最適なグリップを実現する。これはアイスガード ファイブから継承されているパターンだ
変わったのはコンパウンドだ。タイヤメーカーが、タイヤの材質を語る場合、それを料理に見立てて、レシピという言葉を使う。そのレシピを替えたのだ。
まず、氷上性能、雪上性能をアップするために、タイヤの接地面となるトレッドゴムコンパウンドには、路面の薄い水膜を除去し、滑りを止める効果をさらに進化させた。従来からの「新マイクロ吸水バルーン」と「ブラックポリマーII」に加えて配合されていた、素材そのものがゲル状でやわらかい「吸水ホワイトゲル」をさらに改良し、最大で30倍の大きさにした「エボ吸水ホワイトゲル」を新採用。このエボ吸水ホワイトゲルは、北海道限定の氷上特化型スタッドレスタイヤ iceGUARD Evolution iG01で採用されていた技術で、激寒地域の北海道の人たちはその恩恵を先取りしていたことになる。
タイヤが氷上を走行すると、その摩擦によって氷が解け、目に見えないほどのミクロの水膜が発生する。冬道路面におけるスリップの主な原因は、このタイヤと路面の間にできる水膜によるものだ。そしてその水膜を除去するために、タイヤトレッドの吸水効率を上げれば、氷上でのグリップはアップする。アイスガード ファイブ プラスはエボ吸水ホワイトゲルの採用によって吸水効果を20%向上。IN側で氷上性能を、OUT側で雪上性能を発揮する非対称のトレッドパターンとの相乗効果によって氷上制動性能は従来品より7%向上した。
これまでと比べ最大で30倍もの大きさになったエボ吸水ホワイトゲルを加え、さらに進化したトレッドコンパウンド
トレッドコンパウンドの刷新により、吸水率はアイスガード ファイブと比べ、20%も向上している
エボ吸水ホワイトゲルは低温でも柔らかく、吸水効果のみならず、氷表面の細かな凹凸に対する密着効果もプラスする。ゴムが硬くなるとスタッドレスタイヤとしての機能が損なわれるのはよく知られている事実だが、だからこそ、その柔らかさを保つことが重要だ。そのためにも、タイヤのしなりや密着性を確保するための取り組みは重要な技術的チャレンジだ。
エボ吸水ホワイトゲルの採用により、今まで以上に小さな凹凸にも密着
氷上ブレーキテストではアイスガード ファイブよりも7%制動距離を低減した
新コンパウンドは経年劣化による氷上摩擦指数の低減も抑制する。4年目でも従来の3年目より高い摩擦指数を確保している
こうして完成したアイスガード ファイブ プラス。少なくとも、データ面ではあらゆる面での改善が成功しているようだが、あくまでそれはデータ上での話。次回は、実際にテストコースで走行して確かめた、そのドライブフィーリングをレポートしたい。
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