見た目は変わらないのに性能がアップ!? ヨコハマタイヤ「iceGUARD 5 PLUS」を山田祥平が速攻レビュー(後編) 新製品試乗会でiceGUARD 5 PLUSの性能を堪能!!

ヨコハマタイヤは新型タイヤの開発テストのために、国内に2箇所のテストコースを持っている。特に、スタッドレスタイヤなどの冬用タイヤをテストするため、冬季テストコースとして使われてきたのが北海道旭川市近郊にある「T*MARY」と呼ばれるコースだ。もちろん「iceGUARD 5 PLUS(アイスガード ファイブ プラス)」の試験・評価もここで行われて製品化された。

この取材を行ったのは今年の2月、つまり昨冬のことだが、まだ市場には出回っていない新型スタッドレスタイヤ、アイスガード ファイブ プラスを、このT*MARYを使って一足先に体験させてもらうことができた。前編ではアイスガード ファイブ プラスの技術面での進化を伺ったが、後編では実際に試乗した模様をお届けしたい。

新製品のアイスガード ファイブ プラス。

トレッドパターンは従来モデルのアイスガード ファイブとまったく同じ。サイズによって2種類のトレッドパターンを持つのも同じだ

旭川のテストコースで冬季テストにチャレンジ

テストコースT*MARYのある上川郡鷹栖町は旭川市に隣接している。ほぼ境目といってもいい。まわりはたぶん田園地帯だ。たぶん、というのは風景そのものが雪に覆われて何がどうなっているのかよくわからないからだ。

この地がどれだけ寒いかは、たとえば隣接する旭川市の1月の平均気温がマイナス9.3℃、最高気温が0℃、最低気温はマイナス20.1℃というデータを見ても想像できる。新タイヤであるアイスガード ファイブ プラスを体験するために同コースを訪れたのは2月下旬だったが、気象庁のアメダスの過去データを調べてみると、実際にコースに到着した昼過ぎの旭川の気温は0.8℃程度だったようだ。天候は晴れときどき曇りで、それほど寒い感じはなかったのだが、2月の旭川にしてはずいぶん暖かい日だったことがわかる。なお、テストコースのある鷹栖町は、厳密には旭川市ではないので、もう少し低めの気温であった可能性が高い。

ちなみに、ヨコハマタイヤは、昨秋(2014年)に冬用タイヤテストコース用地として、旭川市の旭川競馬場跡地を取得することを決めた。運用開始は2015年末とされている。事業の拡大に対応、より高水準のタイヤ評価を行うための移転で、これまでのT*MARYに対して、およそ4倍の広さに相当する86ヘクタール程度の敷地に大規模な冬用タイヤテストコースを用意した。これに伴い、T*MARYは閉鎖される予定となっている。つまり、今回のT*MARY訪問時点ではそのことはすでに決まっていて、このコースでの冬季テストは最後のチャンスだったということになる。

テストコースのT*MARYにはフラットな雪路面から氷盤路、アップダウンや大小のコーナーからなるロードコースなどがあり、常に最適なコンディションで評価できるよう整備されている

異次元体験からスタート

奴田原文雄選手によるデモ走行に同乗させてもらった

さて、先代の「iceGUARD 5(アイスガード ファイブ)」のコンセプトだった「氷に効く」、「永く効く」、「燃費に効く」の氷上性能に磨きをかけ、さらに省燃費性能をプラスしたというふれこみの新製品アイスガード ファイブ プラスだが、実際に自分での試乗の前に、周回コースをラリーカーの助手席にのせてもらい一周してみた。ドライバーを務めるのは、かつて世界ラリー選手権でも活躍した奴田原文雄選手。履いているのはもちろんアイスガード ファイブ プラスだ。

初めて体感するアイスガード ファイブ プラス。これで、路面が滑る感覚をはっきりと自覚できる……、などというはずもなく、100km/h近くで爆音をたててコースを走るラリーカーは、もはやステアリングの舵角や操舵方向とクルマの動きの相関関係が助手席にいても把握できない。クルマはドライバーの意のままに雪上を駆け、思いどおりに(たぶん)方向を変え、雪面のグリップとリリースを絶妙に繰り返しながらコースを一周した。そして、奴田原選手はその信頼性の向上に満足しているようだ。

  • クルマの向きと進んでいる方向が違いすぎて状況が理解できないが、奴田原選手の思った通りに走っているようだ

  • 履いているのはアイスガード ファイブ プラス。市販されるものと同じものだ

これででは自身の日常のドライブには参考にならないので、今度はCar Watchでも多く執筆しているモータージャーナリスト 日下部保雄氏の運転で、通常の速度で別のコースを走るプリウスに同乗した。日下部氏は、走る、止まる、曲がるを実際に解説しながら走ってくれたわけだが、こちらはこちらで乾燥路を普通に走っているのとあまり違いが感じられない。それこそが、アイスガード ファイブ プラスの真骨頂だということのようだ。

  • 日下部氏のドライブでロードコースを走行した

  • 大小様々なコーナーが混在するロードコース。この日はすでに何度も走っているため、場所によっては磨かれてアイスバーン状態になっている箇所も

新商品の評価ポイント

コンパウンドの進化だけで氷上制動性能を7%向上したというアイスガード ファイブ プラス

冬道ドライブはいつも路面の状態が同じままで続くとは限らない。乾燥路が続いていると思えば、カーブを曲がったとたんに路面が凍結していたり、深い轍ができていてハンドルをとられたりもする。日当たりのよい南側斜面に面した路面ではザクザクの雪解け状態なのに、北側斜面では固く凍っていることも多い。

だから、ドライバーはいつも路面の状況を見ながら、まわりの景色や空の様子を確認しつつ、次に遭遇する路面がどのような状態になっているのかを予測しながら走る必要がある。もちろん、カーブや勾配、その上り、下りにも注意を払う必要があるが、いくら注意を払っていても、滑ってから気がつくような滑りやすい路面もある。

アイスガード ファイブ プラスは、トレッドコンパウンドに吸水性が高く柔軟性も持ち合わせたスーパー吸水ゴムを採用している。従来品から継承したブラックポリマーIIや新マイクロ吸水バルーンに加え、従来の吸水ホワイトゲルをさらに進化させ、従来比で最大で30倍の大きさとしたエボ吸水ホワイトゲルを新たに採用したものだ。

トレッドパターンこそ従来のアイスガード ファイブと変わりがないが、コンパウンドを見直すことで吸水率は従来品より20%も向上。氷表面の小さな凹凸への密着性、そして従来品アイスガード ファイブより継承した非対称パターンなどの効果で、従来品からの氷上制動性能の向上は7%にも達すると言う。また、非対称パターンはIN側で氷上性能を発揮するほか、OUT側では雪上性能に加えてシャーベット、ウェット、ドライでの操縦安定性も実現しているとのこと。

あらゆる状況が想定される冬のドライブにおいて、アイスガード ファイブ プラスがどのように対処できるのかが、今回の評価のポイントだ。

日向か日陰か、山の北側斜面か南側かなどで路面の状況が変化するからこそ、雪道の運転はむずかしい

データ面での改善を裏付けするテスト走行

いよいよ自らハンドルを握って試乗する

試乗車は2台のプリウスが用意されていた。一台には従来品であるアイスガード ファイブ、そしてもう一台には新製品のアイスガード ファイブ プラスが装着されている。

コースには10本程度のパイロンが設置されていて、まずはそこをスラロームで走行する。それが終わったら、Uターンして直線路に突入、40km/hまで速度をあげ、指定されたブレーキポイントでABSが作動するまで思いっきり踏み込むフルブレーキをかけて、どのくらいの距離でクルマが止まるかを試すというプログラムが設定されていた。このコースを新旧それぞれのアイスガードを履いた同じ車両で試してみるわけだ。

まずは、従来品のアイスガード ファイブ装着車。このタイヤはぼくも3年間履き続けてきたのでクルマが違ってもなんとなくムードがわかる。スラロームでも、しっかりと路面をつかみ、安定して走行できる。そして直線からフルブレーキ。当然しっかり止まる。

  • 従来モデルのアイスガード ファイブを履いたプリウスでスラローム

  • 40km/hからの急制動。従来モデルでも正直これで十分と思えるほどよく止まる

まあ、こんなものだと思う。いま愛車で使っているアイスガード ファイブにも全然不満はないのだから当然だ。これだけのフルブレーキを踏むことは一般的な雪道ドライブではまずないし、そもそも雪道ではまともにブレーキが効くとは思っていない。カーブなどでも軽く駆動力がかかっている状態のほうが安定するので、そのアクセルを踏む余裕のためにも、最初からスピードを落として走行するのがぼくの雪道ドライブのセオリーだ。

さて、アイスガード ファイブ プラス装着車に乗り換える。夕方に近づき、路面が次第に固くなり始めたようにも感じる。

まず、スラロームでは慣れたせいもあるかもしれないが、さっきよりもスピードを上げても余裕をもってクリアできた。調子にのったせいか、Uターンのときに少し後輪が滑ったような気もしたが、ちょっと修正しただけでクルマの挙動が安定した。

続いて直線路でスピードメーターを見ながら40km/hに達したことを確認。指定のブレーキポイントで、さっきと同じようにフルブレーキング。すると驚いたことにクルマは、さっきよりもあきらかに手前のところで止まった。初速に少しばらつきがあったため一概には言えないが、後でGPSのログデータを確認したところ、ちょうど40km/hから停止までの制動距離が、従来品装着車での試乗時より2.36m短くなっていた。これは11%程度短縮した計算になる。これなら、アッ、滑ると思った瞬間に上手く対応すれば安全を確保できるかもしれないと実感することができた。

スラロームの比較では、ぼくのような素人が走る速度程度では、そこまで大きな差は感じられないのかもしれない。しかしブレーキについては明確に進化していることを感じられた。

  • アイスガード ファイブ プラスを履いたプリウスでスラローム。普通の速度で走っている範囲では大きな差は感じないが、ペースを上げると従来品よりスピードが上げられる印象

  • 制動テストでは結構大きな差を体感できた。進入速度によって制動距離に差が出てしまうのでGPSロガーを使って正確な制動距離を測定した

当日試乗した際に測定したGPSログデータを元に、制動テストで40km/hから完全停止までの距離を抽出し比較したグラフ。縦軸が車速、横軸が移動距離になる。あくまで取材時の結果ではあるが、従来モデルのアイスガード ファイブが25.73mだったのに対し、アイスガード ファイブ プラスでは23.37mと、およそ11%も短縮する結果となった

もちろん、こうしたスラロームや急ブレーキといったテストコースならではの運転を行う場面はそうそうないだろうし、普通に公道で運転している限りは従来モデルのアイスガード ファイブで十分だとは思う。でも、本当に何かがあったときに、1割ほど短い距離で止まれる安心感というのはすごい。その背景には、エンジニアの計り知れないトライ アンド エラーがあるのだろう。そういうタイヤを自分のクルマが履いているという気持ちは、ドライブ時に余裕を生むに違いないし、その余裕こそが、安全の確保につながる。過信は禁物だが、その高いポテンシャルが悲惨な事故を防いでくれるかもしれない。

今回のテストコース体験で、前回紹介したデータ面での改善が裏付けられたとともに、タイヤに対する信頼感を再確認することができたように思う。今回は、比較のしようがなかったが、省燃費性能も向上したということなので、ぼくのような1年を通してのスタッドレス派には実にうれしい新製品だということを確信した。