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三菱自動車の第47回定時株主総会、燃費不正行為の説明とお詫びに多くの時間を割く

「顧客や社会からの信頼を1日でも早く回復できるよう、経営体制の再構築に向けて努力を続けていきたい」と益子会長兼社長

2016年6月24日 開催

三菱自動車工業の第47回定時株主総会が開催された幕張メッセ 幕張イベントホール

 三菱自動車工業は6月24日、千葉県千葉市の幕張メッセ 幕張イベントホールで第47回定時株主総会を開催した。

 議長として壇上に立った取締役会長 益子修氏が開会宣言に先立ち、熊本地震の被災者へのお見舞いと、収容人数を考慮し昨年まで品川プリンスホテルで開催していた会場が幕張メッセへ変更があったことへのお詫びが述べられた。

 加えて三菱自動車製自動車における燃費不正行為について、「株主をはじめ顧客、数多くの方に多大な迷惑と心配をかけた。特に株主には度重なる不祥事のあと、期待していただいていたにも関わらず、期待を裏切る結果となってしまい申し訳なく思います」とのお詫びから始まった。

会場には入れないため、記者室に設けられたモニターで株主総会の様子を見ることができた。出席株主数は550名と、2015年の2384名から大きく減少
壇上に立つ益子修氏は、6月24日付で取締役会長兼取締役社長CEOに就任

燃費試験における不正行為について

 続けて、燃費試験における不正行為について中尾龍吾副社長から詳細と再発防止策、服部俊彦取締役から顧客への対応について説明があった。

 今回の不正の経緯は、15型デイズの開発を担当する日産自動車が燃費測定をしたところ、2015年11月にカタログ燃費に届かないとの連絡を受けたところから発する。その後、両社合同で試験を実施し、2016年3月に走行抵抗の差が原因と判明。4月に開発経緯を調査したところ、走行抵抗に恣意的な改ざんが行なわれていたことを確認。法令で定められた惰行法と異なる走行抵抗の測定方法を使用していたことも判明する。

 4月20日に国土交通省に報告を行ない、記者会見を開いて公表。国土交通省から調査指示を受ける。軽自動車の燃費不正に関しては4月26日、5月11日、同18日に逐次報告、公表を行ない、一方で現行9車種については5月18日に、すでに販売を終了している過去10年間の20車種については6月17日に報告、公表していると報告があった。

 最初に改ざんが見つかった軽自動車「eKワゴン(日産「デイズ」)」の不正内容については、ここでは性能実験部の管理職と子会社である三菱自動車エンジニアリングの管理職が、走行抵抗を恣意的に小さい値に操作し、届出燃費値を改ざんしていたとした。その後に発売された「eKスペース(日産「デイズ ルークス」)」およびこれらの4車種の年式変更車では、改ざんされた走行抵抗を元に机上計算がされていたとした。国土交通省の立ち会いのもとeKシリーズの燃費値を再確認したところ、5~16%の乖離があったと報告。さらに、過去10年間の販売車種の社内調査の過程で行なっていた不正は、以下の4種類があったことを確認したという。

・法令で定められた惰行法と異なる走行抵抗測定方法を使用
・法令で定められた成績書と異なる惰行時間、試験日、天候、気圧温度等を記載
・走行抵抗を恣意的に改ざん
・過去の試験結果などを基に机上計算

 該当する車両は、上記4車種の軽自動車以外にパジェロ、RVR、旧型アウトランダー、コルト/コルト プラス、ギャラン フォルティス/ギャラン フォルティス スポーツバックの一部年式、一部類別になるが、製作所での量産車両の完成車検査結果では、届出燃費を上回っていることから、結果として届出燃費値の訂正は不要と判断。この5車種の件は軽自動車とは状況が異なるが、恣意的な改ざんがあったことは事実で、ご迷惑をおかけしたと判断していると陳謝した。

 不正の主な原因は、以下のようなことがあるとまとめられた。

軽自動車

・燃費目標達成の難しさを認識していたにもかかわらず、子会社の三菱自動車エンジニアリングに任せきりにしたこと
・プロジェクト責任者が走行抵抗の測定状況など詳しい確認を行なわず、単に燃費値の測定結果報告を受けることに終始していたこと
・現場の人間が、プロジェクト責任者からの燃費向上の要請を必達目標と感じたこと
・担当者が長期にわたって1つの部署に固定化、外部のチェックが及ばなかったこと

その他5車種

・担当者・作業が長年1つの部署に固定化、外部のチェックが及ばなかったこと
・プロジェクト責任者が、試験車両・試験日程が十分に確保できていない現場の実態を見過ごし、目標達成見通しの把握を怠ったこと
・プロジェクト責任者が、実態に即した適切なリソース確保が困難であったにもかかわらず、リソース不足を経営にフィードバックしなかったこと
・開発の現場で、ばらつきが起きない机上計算の方が技術的に妥当な方法である、と考え使用しても問題ないと思い込んで、習慣的に行なっていたこと

 さらに経営陣は、開発現場の業務状況をプロジェクト責任者などを通じて、報告させる体制を構築していたものの、十分に機能していなかったことも一因だと認識しているとした。

 再発防止策は、まず燃費届出適正化のための施策として、走行抵抗の測定を客観的に行なうため別部署の車両実験部に移管し、恣意的操作を排除するために走行抵抗データ処理の自動化、開発部門に対する監査本部、品質統括本部の監査の強化することを実施。さらに法規情報管理部署の新設と、MMDS(Mitsubishi Motors Development System)の運用見直しをすること、事業構造改革室(仮称)を設置すること、コンプライアンス、マネジメント、法規、人材育成の教育を強化すること、人事異動計画に基づいて積極的にローテーションを実施すること、三菱自動車エンジニアリングとの関係を再構築し、業務委託、進捗管理、検収方法を見直すこと、本社経営陣と開発部門幹部と四半期ごとに状況確認会を実施し、開発部門のリソース制約を確認して、商品戦略、開発計画を策定するといったことが挙げられ、過去の品質問題においても、再発防止策を講じながら今回の問題が発生していることを真摯にとらえ、全役員、社員一丸となって再発防止を図りたいとした。

 顧客への対応は、国内営業統括部門長 服部取締役が説明。

 eK(日産デイズ)シリーズは、燃費値変更にともないエコカー減税ランク変更となる。過去に納めた税金の納付不足分に関しては、責任をもって三菱自動車が負担するとし、燃費値が異なることにより生じる燃料代の差額や、今後車検時に発生する税額の負担分、お詫びを含めた賠償として乗っている顧客に一律1台あたり10万円を支払う。燃料代の差額は保有年数や走行距離を考慮し、10万円であればほとんどカバーできると考え設定したという。

 残価設定型クレジット、リース契約のケースでは、契約年数1年につき1万円。契約期間終了時に買い取りを選択した場合には、10万円から支払い済み金額を差し引いた残額が支払われる。問題が明らかになった4月21日以前の登録情報に基づき、2013年6月の発売以降、累計で15万7000台が対象となる。すでに中古車として売却した場合には、使用年数1年につき1万円が支払われる。「顧客に確実かつできるだけ早期に支払うべきとの考えから、総合的に判断し一律の金額での支払いとした」と服部取締役は説明する。

 支払いに関しては、専用の事務局を設立し対応する。手続きの詳細については、7月中旬以降に顧客に直接連絡をすること、8月以降に実際の支払いが開始される予定とした。デイズシリーズも同様の対応となるため、現在日産と準備を進めているとした。

 eKシリーズ以外の走行抵抗改ざんがあった5車種は、現在乗っている顧客にお詫びとして3万円が支払われることとした。5車種合計で約10万台となる。具体的な要領については準備中。改めてホームページなどで案内される。さらに顧客の不安を払拭するべく、全国の販売会社で、すべての三菱自動車製車両の無料点検を実施しているとした。

今後はSUVと電動車のラインアップを強化

 2015年度の事業の経過および成果について、連結業績で販売台数は前年度比で4%減の104万8000台、売上高は前年度比で4%増の2兆2678億円、営業利益は前年度比で2%増の1384億円、経常利益は前年度比で7%減の1410億円、親会社株主に帰属する当期純利益は前年度比で39%減の726億円など、ほか貸借対照表(連結)の発表があった。

 2015年度は生産体制の最適化に向けた取り組みが進展。2015年11月末をもってアメリカ工場の車両生産を終了。1988年に生産を開始し、2000年には年間生産台数が22万2000台を超えたが、クライスラー向けOEM生産の終了やリーマンショックの影響が重なり、1万9000台まで大きく落ち込んだ。2012年にはアウトランダー スポーツの生産を開始し稼働率が改善したが、ロシア向け輸出が減少して生産台数が落ち込んだため、日本での生産に切り替えた。

 今後の成長が見込めるASEANにおいては生産を増強。2015年1月にフィリピンの新工場で生産を開始し、想定する生産能力は年間5万台。4月にはインドネシアで新工場の建設に着手し、2017年4月に操業を開始する予定で、生産能力は年間16万台を想定している。タイに続く主要生産拠点として重要な役割を果たすとの考えを示した。

 商品としては、SUVと電動車のラインアップ強化を推進する。2015年6月に国内でフロントデザインを一新するとともに、パワートレーンやボディ、シャシーなどを大幅改良した「アウトランダー」「アウトランダー PHEV」を発売。欧州など他地域でも販売を開始しており、いずれの市場でも好評を博して2015年度は前年度比20%増の4万2000台を販売した。

 2015年10月にはタイで新型「パジェロ スポーツ」を発売。8~9月の予約期間中に計画の5倍以上の受注を受け、販売は好調に推移しているという。タイ以外の国への投入も順次進めるとのこと。また、1月にはアメリカのシリコンバレーに事務所を開設。他自動車メーカーとのアライアンスは、フィアット・クライスラー・オートモービルズ・イタリアやフィアット・クライスラー・オートモービルズ・メキシコとの連携が進んでいるとの報告があった。

記者室で質問を受ける代表取締役会長 益子修氏

 さらに続けて益子会長から、燃費不正行為による影響を踏まえた2016年度の業績見通し(連結)について報告があった。

 計画する全体の販売台数は、対前年度比8万6000台(-8%)減の96万2000台とした。損益影響は営業損失で550億円減、特別損失で1500億円減の合計2050億円の損失となる。売上高は1兆9100億円、営業利益は250億円、経常損益は320億円、親会社株主に帰属する当期純損失は、燃費不正関連の特別損失1500億円減を折り込み1450億円の赤字となる計画。特別損失1500億円のうち、500億円は顧客への支払いで、これ以外に日産、販売会社およびサプライヤー向け、水島製作所の一時帰休費用などの支払い1000億円を織り込む。配当予想は年間で10円(中間5円、期末5円)とした。

 また益子会長は日産との提携についても詳しく述べ、「自動車産業はこれまでと比較にならないスピードで変化していく。環境規制については、先進国での基準強化に加え、新興国は想定を上回るスピードで先進国をキャッチアップしていくと考える。予防安全技術もさらに高度化が進み、前のクルマにぶつからないというステージから、夜間に歩行者をいち早く検知して事故を予防する技術が普及していく。高度なIT化も進む見込みで、シリコンバレーの情報収集拠点設立など、新しい取り組みを始めている。社長を中心に中長期の商品計画をまとめ、当社の開発資源が絶対的に不足していることを改めて認識。今後の経営戦略として、提携という選択肢が不可避であると考え、社内で検討してきていた。日産とは2011年からNMKVを通じて軽自動車の共同企画、開発に加え、水島製作所で軽自動車を受託生産するなど、相互理解が進んでいた。不正問題から支援をお願いしたところ、今回の資本提携に発展したというのが実態」と説明。5月には日産との間に資本業務提携に関する戦略的提携契約を締結し発表。日産は第三者割当増資で発行済株式の34%を2370億円で取得する予定になっており、アライアンス領域は、エンジン、トランスミッション、プラットフォーム、電気自動車に関する共同研究、車両や部品の共同開発、共同購買、生産能力の有効活用、販売金融やアフターサービスなどになる。シナジー効果としては、特に調達分野と研究開発分野で期待しているとした。

 また、「燃費不正問題の発生時に4500億円を超える現金を保有しており、ただちに財務面で経営が危うくなる状況ではない。ではなぜ資本提携を結んだのかと言えば、財務上ではなく経営戦略上の大きな課題に直面していたため。時間が経過すれば、それだけ顧客や株主、取引先、販売店などステークホルダーに不安と懸念が増し、ブランド毀損が進み株価も下落するというリスクがあった。繰り返し品質に関わる問題で、ステークホルダーに迷惑と心配をかけている。2004年からの企業再生では、バランスシートの健全化、収益性の評価は果たしてきたもの、開発部門中心とする当社の企業風土についてはさらなる改革が必要。今後は日産から開発部門の責任者の派遣を含めた人的、技術的支援を受け、開発部門を改革を進めるとともに、組織体制および業務プロセスを抜本的に見直し、社員教育の強化を図り、社内改革を進めていく。このように経営戦略面でも提携によるシナジー効果を発揮していきたい」と述べている。

 加えて「日産ルノーアライアンスは15年以上の長期にわたる成功例で、お互いのブランドの独自性や企業文化を尊重したことが成功の秘訣だった。三菱自動車と日産のアライアンスでも、お互いのブランドの独自性や企業文化を尊重し、今後も三菱ブランドとして提供していく。顧客や社会からの信頼を1日でも早く回復できるよう、経営体制の再構築に向けて努力を続けていきたい」と述べ、内部統制・コーポレートガバナンス・コンプライアンス体制の抜本的な改革を行ない、法令の遵守、業務執行の適正性と効率化の確保にむけた改善、充実に努める。これら取り組みを通じて、企業の成長と企業価値向上を実現し、利益を株主へ安定的に還元したいとした。

質疑ののち議案は承認可決

 株主からの各議案に対しての質問や審議に関する発言もまとめたい。

 まず、外部有識者による特別調査委員会について実態を知りたいとの質問があり、これには「元検事の弁護士3名で発足、元トヨタ自動車で開発していた2名が加わったメンバー構成、さらに調査を行なう実務チームが加わる。特別調査委員会は精力的に活動していて、実務チームはほぼ毎日10名体制でインタビューなどを行なっていて、中間報告はまだできる段階ではなく、7月末の報告を待っていただきたい」と返答した。

 4度にわたる不祥事となり、自浄作用が働いていないのではないか、縁故人事が疑われるとの質問には、「問題を起こした開発部門が極秘事項を扱うことから、対外的に出せないという体質が染みついていて、リソースが足りておらずトラブルシューティングに追われ、内部告発への対応含めマネジメントが機能していなかったのは反省点。オープンに意見交換できる組織にしたい。先に挙げた再発防止策をいかにやりきるかが課題であり重要。教育を継続して行なっていく。開発にあたり必要な工数と現有工数との間にギャップがあることも、現実問題として浮かんできた。この問題はなんとしても解決したい。開発部門の業務プロセスの可視化、部長職の可視化を早急に行なう。経営陣と外部人材からなるチームでインタビューと調査を通じて行ないたい。閉鎖的な組織に風穴を開ける目的でもある。人員の適正配置、リーダーのローテーション、標準開発日程の見直しが実現できる。入社は厳正に行なっていて、縁故による採用は行なっていない。しかし外部からそのように見られているとすれば、襟を正していきたい」とした。

 また、走行抵抗の測定を外部に委託してはどうかという問いには、「現在、走行抵抗の測定は性能実験部がやっている。同じ性能実験部が燃費の測定もやっている。いち部署でやっているのはやはり問題で、走行抵抗の測定は車両実験部に移すということを決めた。開発リソースが足りないことを考えると、外部への委託も1つの選択肢だと考えている。将来的に継続して検討していきたい。日産から山下氏を迎え、その考えも踏まえてもっともよい方法を選びたい」と報告した。

 ほかにも、販売店のつらさを訴える場面や、役員にも実際に軽自動車に乗って燃費を確認して欲しいといった意見もあり、質疑や活発な意見を交換する時間が長くとられていた。

 質問に答えた後、第1号議案の剰余金処分の件、第2号議案の取締役10名選任の件、第3号議案の監査役1名選任の件は、いずれも可決された。この中で第2号議案の取締役10名を一括して選任する件は、質疑で一部反対意見があったが、再度会場内で議決をとり可決された。

 益子会長は第2号議案説明時、今後の体制について所定の条件を充足させたうえで、日産に対する第三者割当増資による新株式の発行を行なう予定と説明。新株式の発行が行なわれた場合、その後開催される臨時株主総会において、日産との資本業務提携を踏まえた役員体制を改めて提案し、株主の判断を仰ぎたいとしている。今回の取締役10名の任期は、この株主総会終結後、最初に開催される株主総会の集結の時までとしている。

 なお相川哲郎代表取締役社長兼COO、中尾龍吾代表取締役副社長については、「当初、この株主総会終結後に監査等委員会設置会社へ移行する予定だったが、その中で相川氏と中尾氏は中心的役割を担う予定だったが、両名は燃費不正行為を行なっていた開発部の責任者であったことなどもあり、株主総会終結時をもって退任となる。両名を経営体制の中から失うことは三菱自動車にとって大変大きな損失であり、まことに残念」と述べ、自身の進退については「今回の問題の早期解決、再発防止策の構築、日産との資本提携の道筋をつけ、関係する方々への不安を早期に払拭させるために、新体制発足までの間は現職に留まり、職務を遂行したい。責任の取り方としては、その間の役員報酬のすべてを自主返納することとしたい」と、理解を求めた。

 最後に新任の取締役である山下光彦氏、白地浩三氏、池谷光司氏(小林健氏は欠席)と新任監査役の大庭四志次氏が壇上で紹介されて閉会した。

選任された新任取締役。写真右から山下光彦氏、白地浩三氏、池谷光司氏と信任監査役の大庭四志次氏