ニュース
QualcommとメルセデスF1チーム、IEEE802.11adの実証実験をF1 イギリスGPで実施
ニコ・ロズベルグ氏「高速なワイヤレス技術の活用は他チームとの競争上有効」
2017年3月3日 16:33
- 2017年2月28日(現地時間) 発表
半導体メーカーのQualcommは2月28日(現地時間)、メルセデス AMG ペトロナスモータースポーツ(以下メルセデスF1チーム)と共同でイベントを開催。同社と同チームが共同で「IEEE802.11ad」を利用したデータ通信の実証実験を7月のF1 イギリスGPで行なうこと明らかにした。
「MWC 2017」が開催されているスペイン・バルセロナ市内で行なわれたイベントには、同チームの代表であるトト・ウォルフ氏、2016年の最終戦終了後に電撃的に引退を発表した元F1ドライバーのニコ・ロズベルグ氏、同チームのテクノロジーディレクター ジェフ・ウィリス氏が出席した。
また、同社は車載向けSoCのSnapdragon 820AをフランスのGroup PSAが採用すると決定したことをMWC 2017で発表し、同社ブースで高精度マップの自動作成プラットフォーム、セルラーV2Xなど自動車に関するデモを行なっていた。
Qualcommのワイヤレス技術がF1チャンピオン獲得の原動力だった?
同社は2015年から同チームのスポンサーになっており、そのロゴは同チーム車両のフロントノーズ部分に入れられている。
同チームのここ2年の成績に関してはもはや説明するまでもないと思うが、念のため説明しておくと、2015年はルイス・ハミルトン選手がドライバーチャンピオンになり、チームはコンストラクターズタイトルを獲得。そして2016年はニコ・ロズベルグ選手がドライバーチャンピオンになり、チームはコンストラクターズタイトルを獲得している。現在最強のF1チームと言っても過言ではない。
MWC 2017が行なわれているスペイン・バルセロナ近郊にあるカタロニア・サーキットでは、プレ・シーズンテストがMWC 2017と同じ2月27日~3月2日の4日間にわたり開催されており、それに合わせて、同社がバルセロナ市内で、同チームの関係者を招いてイベントを行なった。参加したのは、同チームのチーム代表であるトト・ウォルフ氏とテクノロジーディレクター ジェフ・ウィリス氏といったチームの首脳陣に加えて、2016年の最終戦であるアブダビGPで念願のF1ワールドチャンピオンを獲得した後、電撃的に引退を発表し、現在は同チームのアンバサダーを務めているニコ・ロズベルグ氏が参加して行なわれた。
ウォルフ氏は「QualcommとメルセデスF1のパートナーシップは、カッティングエッジなテクノロジーを追い求めるという意味で完璧な組み合わせだ。今シーズンのテストはまだ始まったばかりで、どうなるのか予想することは難しいが、来週のテストでははっきりと勢力図が見えてくるだろう」と述べ、バルセロナテスト2日目に行なわれた同イベントの時点では今シーズンの戦力図はまだ見えてこないとした。
その後ウォルフ氏に「彼がいきなり引退なんてしなければもっと楽だったのに……」とジョークで皮肉られて苦笑いのニコ・ロズベルグ氏が、同社とのパートナーシップについてドライバーの視点から語った。
ロズベルグ氏は「練習走行とか予選とかは1時間~1時間半という限られた時間で行なわれ、皆がポールポジションを目指していく。時間を有効に使うことが大事なのだが、我々のクルマにはQualcommの強力なプロセッサや非常に高速なワイヤレスのデータ転送機能が用意されていて、時間を効率よく使うことができる。通常なら、ケーブルをつないでデータの転送に5分かかかるところを、Qualcommの高速なワイヤレス転送を使えばあっという間に終わってしまう。これは競争上非常に重要なことだ。実際、スパ・フランコルシャンのレースでは、Qualcommの高速なデータ転送のおかげでポールポジションを取れて、レースにも勝てた。Qualcommが僕をワールドチャンピオンにしてくれたようなものだよ」と、同社の技術が大きく貢献していると述べた。
同チームのテクノロジーダイレクター ジェフ・ウィリス氏は「Qualcommとは技術的な協力をいくつも行なっていて、特に大量のデータのダウンロードをSnapdragonチップを利用して行なう取り組みに関しては大きなメリットをチームにもたらしている。F1カーは非常に多くのデータを生成しており、それをエンジニアのコンピュータに高速に取り込むことが重要だ。しかし、サーキットは非常に多くの電波が飛び交っており、環境としてはよくない。ニコが言ってたように、サーキットでの時間が限られており、データを高速にやりとりできることは重要だ。我々は昨年のアメリカGPで60GHzを利用した実証実験を行なったが、今年もそれをイギリスGPで行なう予定だ」と述べ、F1チームにとって高速なデータ転送は重要で、それ故に同社と60GHz帯を利用したワイヤレスデータ転送の実験を行なっていくと説明した。
すでに利用されているIEEE802.11acに加え、イギリスGPでIEEE802.11adをテスト
同社と同チームが行なう実証実験は、IEEE802.11adとして標準化されている60GHzのデータ通信。WiGigという別称でも知られており、一般的なスマートフォンやPCで使われているIEEE802.11acのWi-Fiに比べて高速にデータ転送を行なうことができる。
実は、すでに2016年から同社と同チームは、IEEE802.11acを、テレメトリシステム(F1カーが生成するデータを保存して、後にコンピュータによる解析に利用する仕組みのこと)のデータ転送方法として利用している。このシステムを利用すると、F1カーがピットに戻ってきてWi-Fiが利用できるエリアに入ると、自動でデータの転送が開始され、すぐにエンジニアが解析できるようになっている。同社と同チームは、このIEEE802.11acのWi-Fiでは5GHz帯を利用してデータ通信を行なっている。ロズベルグ氏が2016年のスパ・フランコルシャンでのベルギーGPで、このシステムを利用して他のチームよりも早くデータのダウンロードが終わり、時間を有効に使えた結果、ポールが取れてレースでも優勝できたというのは、この5GHzのIEEE802.11acを活用したシステムのことを言っているのだ。
イギリスGPで実証実験を行なうIEEE802.11adは、一般的に2.4GHzや5GHzといった周波数を利用するWi-Fiとは異なり、60GHzというミリ波と呼ばれる超高周波数帯を利用して通信する。ミリ波を利用すると非常に高速に通信できるのだが、2.4GHzや5GHzに比べて通信可能な距離が短くなり、障害物にも弱くなるという特性を持っている。このため、それがサーキットという厳しい環境で実用になるのか、それをテストするというのが同社と同チームが行なう実証実験となる。同社の発表によれば、同チームは通常のレースで利用しているIEEE802.11ac(5GHz)に加えて、IEEE802.11ad(60GHz)の2つのモードを同時に利用して、実用性などを確認する。
Group PSAがSnapdragon 820Aの採用を発表。高精度マップやセルラーV2Xのデモが行なわれる
この他、同社はMWC 2017の同社ブースにおいて、いくつかの自動車関連の発表、デモを行なった。IVI関連では、新しいパートナーとして、フランスのGroup PSA (プジョー、シトロエン、DSのブランドを持つ自動車メーカー企業体)が、次世代のIVIシステムに同社が2016年から提供しているSnapdragon 820Aを採用することを決定したと明らかにした。1月に開催されたCESでドイツのフォルクスワーゲンがSnapdragon 820Aを採用することを明らかにしており、今回のGroup PSAの採用決定はそれに次ぐデザインウインとなる。
また、欧州のナビゲーションベンダであるTOMTOMとの提携も発表された。TOMTOMが将来自動運転向けに高精度マップを作成する際に、同社のQualcomm Drive Platformと呼ばれる高精度マップを自動作成するための環境を活用すると発表した。高精度マップでは、地図にない道ができた時には、そこを通ったクルマからのフィードバックを元に地図の更新を行なう。そのシステムにTOMTOMは同社のプラットフォームを利用する。この他、CESでも紹介されたセルラーV2Xに関しても同社ブースで紹介された。