交通コメンテーター西村直人が見た「人とくるまのテクノロジー展」
EVトラックから全周囲立体モニタシステムまで


東京R&Dによるコンバージョン電動トラック

EVトラックの可能性──東京R&D
 配送トラックにこそEV化の波がくればいいのに……と物流業界の取材をするたびに思っていたら、会場にナンバー付の電動トラック(のパネル!)を発見。車両を手掛けたのは東京モーターショーなどで自動車メーカーのコンセプトカーを製作している東京R&Dだ。

 東京R&Dの担当者によると、トラック用EV化改造キットの開発と、電動トラックの早期普及を目指したビジネスモデルの構築を目的としたエネルギー総合工学研究所との共同事業で、環境省における「平成23年度地球温暖化対策技術開発等事業(委託事業)」で採択された「配送用トラックのEV化技術の開発・実証」が事業としての実施体制なのだという。

 なんで会場に現車がないのかと聞いてみたら、「展示したかったのですが、じつは今日も働いているんです……」ときた。じつはこの電動トラック、北関東を中心にスーパーマーケットを展開する「カスミ」の「移動スーパー」として、食料品をはじめ使用頻度の高い生活必需品を満載し、すでに今年の3月5日から茨城県つくば市の団地3カ所のうち1日2カ所のペースで巡回営業を行っている。

 「88ナンバー」を装着していることからも改造車であることが分かる。ベース車両は、いすゞの小型トラック「エルフ」ワイドキャブ3t/6速MT仕様。これにEnerDel製のリチウムイオンバッテリー(48kWh)を搭載し、最高出力110kWの駆動用モーターを組み合わせつつ、ボディサイドとカーゴルーフには太陽光パネル(発電出力0.4kW)も装備する。

 国内の商用車メーカーですら市販化を成し得ていない電動トラック。ここに着眼した理由を前出の担当者に聞いてみた。

 「既存トラックのEV化改造は十分な実用化が進んでいません。東京R&Dでは、今回の実証走行試験の結果をもとに、改造EVトラックの普及に有効なスペックの検討と総合的な分析を行い、事業展開が可能なビジネスモデルの構築を目指しています」とのこと。

 なるほど、既存トラックの電動化という改造、いわゆるコンバージョンであれば、たとえば排出ガス規制により車検が受けられなくなってしまったトラックであっても、電動トラックへ生まれ変わることで車体はそのまま有効活用できるわけだ。というのも、商用車は乗用車以上に耐久信頼性が確保されていて、小型トラッククラスでも、10年/30万km保証なんてのはザラ。実際にはその2倍以上、余裕で活躍する実力がある。

 一方で、「日本で定められた排出ガス規制値の管轄外、たとえば海外であれば内燃機関のまま改造せずに走行できるのでは?」という声もあるだろう。でも、国外だからといって、規制値レベル以上の有害物質を含んだ排出ガスを世界中のどこかでまき散らしていたら規制そのものに意味がなくなってしまう。今回のプロジェクトから、単なる電動化という大義だけでなく、ものを大切にするという日本人の心意気も同時に感じとることができた。

 商用車を製造している自動車メーカーとしても決して指をくわえているだけではなくて、三菱ふそうの「キャンター E-CELL」をはじめ、プロトタイプながらも電動トラックの開発には力を入れている。でも現実は普及はおろか、市販化の目途すら立たず。なぜなのか?

 理由はいくつかあるけれど、第1にクリアしなければならないのはバッテリー重量の問題。ざっくり言って、トラックはGVW(車両総重量:車両重量/最大積載量/乗車定員[55kg×人数]の合算値)によって必要とされる免許制度が異なるほか、排出ガス規制の施行時期なんかも違う。だからこそほとんどのトラックは、そのGVW上限ぎりぎりになるよう車体各部を補強を施しながら、軽量化を見据えて設計しているわけ。

 電動トラックは当然ながらエンジンの代りにバッテリーを搭載しているけれど、「リーフ」のように300㎏程度とはいかず、その2倍以上は重くなってしまう。つまり、バッテリー重量で車両重量がかさんだ分、積載できる積荷の量が減ってしまうのだ。これが電動トラックの普及に対する大きな課題だ。

「移動スーパー」スペック
ベース車両いすゞ・エルフ ワイドロング (SKG-NPR85AN)
全長×全幅×全高6160×2180×2950mm
乗車定員3人
車両重量4960kg
積載量2350kg
車両総重量7475kg
モータ最高出力110kW
変速機6速MT
駆動用電池形式・容量リチウムイオン電池・EnerDel製 48kWh
一充電走行距離(計算値)100km
荷室(店舗側)消費電力2.5kW(冷蔵庫及び冷凍庫付)
太陽光発電出力0.4kW
荷台架装メーカーオオシマ自工株式会社

パイオニアも「非接触充電」技術を発表
 すっかり浸透した感のあるEVの優等生ぶり。“環境にやさしい”“静かで快適”なんて賛美の声が多く聞かれるものの、ちょっと過大評価なんじゃないかと思ってしまうのは、充電環境の整っていない集合住宅に住み、立体駐車場を車庫としている私のヒガミなのか……。

 でも、本音を言えば、充電スポットで電源プラグを差し込む作業すら面倒だと思っている。これを言っちゃうと「セルフGSはどうなんだ!」とのお声をいただくだろう。それはごもっともなんですが、充電なんだからもっと簡単にできそうなもの。

 家電の世界で恐縮だが、一部のシェーバーや電動歯ブラシでは電源プラグを差し込まずクレードルにポンと置くだけで充電できる世界が実現しているのだから、先進技術の塊であるEVがそれを叶えられなくてどうする! って言いたい。とはいえ、そもそも論として家電とEVじゃ必要とする定格出力が桁違いなわけで、そうそう簡単にいかないということも理解しております。安全性の担保も比べものにならないし……。

 マジメな話PHVは状況が異なるとしても、充電環境の充実がEV普及に向けたひとつのカギになっていることは間違いない。自宅で充電できる環境にあるならば不便を感じないEVだが、私のようにそれが叶わない場合は周辺の充電設備を利用せざるを得ないからだ。

 ちょうど1年前、「リーフ」と3週間ほどお付き合いをしたけれど、なかなか得るものが多かった。仕事柄、1日の走行距離が400kmを優に超える移動となることも少なくない身としては、各所に点在する充電スポットの連携こそが無駄なく移動するための第1条件となる。

 さらに、どこにスポットがあるのかを探しだす作業だけでなく、急速/普通充電の分類や満空情報なども大切な要件。ただ正直なところ、こうした検索作業を「億劫だな……」と感じたことは確か。標準装備のカーウイングス・ナビゲーションとPC&スマートフォン(ガラケーでもOK)を活用すれば、自宅や外出先で充電スポットを簡単に探し出すことができることになっているのだが、人生何事も後手に回ってしまうことが多い私としては、自宅での準備はおろか、外出先で充電スポットを探しだす作業になかなか馴染めない。画面を見てボタンを数回押すだけなんですけどね。

 また、肝心の情報そのものの“鮮度”に対して全面的に信頼申し上げられないことも多かった。この率直な感想を、当時のリーフ担当者にお話してみたのだが、「我々も不足している部分があると認識しています。情報の更新頻度と精度は今後、格段に向上させます!」と力強いお返事をいただき、ちょっと安心。もうこうなると必要なのは自分のアップデートですね。

 そんな声に応えて(?)くれたのが、カー&ホームエレクトロニクスの分野をリードするパイオニア。電源プラグを車両に差し込まずとも、コイルが埋め込まれた駐車スペースにEVやPHVを停めるだけで充電できる電磁誘導方式(コイル方式)の「非接触充電方式」を研究中だ。

パイオニアが非接触充電技術を発表したのは「SIM-Drive」のブース。実験EV「SIM-LEI」の開発に参加した

 御存知の方も多いだろうが、非接触充電方式はEVが誕生した頃から研究されている技術で、ここ10年では、日産自動車の実証実験用パーソナルモビリティである「ハイパーミニ」でお披露目された「非接触充電方式」(昭和飛行機との共同開発)のほか、日野自動車では大型路線バス「ブルーリボン」にIPT(Inductive Power Transfer)を取り入れたハイブリッドバスを羽田空港間のシャトルバスや、一部の都内路線バスとして走らせるなど実証実験を行った経緯がある。

 パイオニアが研究している非接触充電方式の特長は、サイズが圧倒的にコンパクトなこと。従来、インバーター回路の入った充電スタンドと給電を行うコイルが別体であったものを一体化した結果、1150×800×80mm(縦×横×高さ)と、「少しでかいホームベース」程度におさめてきた。さらにコイル方式の弱点であった伝送効率も向上させている。

 実は非接触充電は、電源プラグを差し込む手間が一切ない一方で、駐車する路面に電気を送る1次コイルを埋め込む必要があり、さらにEV/PEVにもその電気を受ける2次コイルを装備することが必須。また、この1次/2次コイルの3次元的(X軸Y軸Z軸)なズレが伝送効率を下げてしまうため、駐車スペースには決められた場所への正確な停車技術が必要とされている。

 今回「パイオニア」は、そのズレが100mm以上であっても伝送効率を85%(定格出力は3kW)以上確保できるように高めた結果、充電時間の短縮にも貢献することができたという。

 いいことだらけのように思える非接触充電だが、現状は定格出力の関係で急速充電には対応できず、なおかつEV/PHVに装備する2次コイルの安全性確保など課題も多い。そうした状況を受け、各国ではコイル方式とは別のアプローチで非接触充電システムを構築する動きが活発だ。

 そのうちの1つが米ワイトリシティ・コーポレーションが開発した「共鳴方式」という非接触充電システム。これはコイル方式と比べて送電側と受電側の距離が大きくなっても高い効率で電力を伝送できることが特長で、これからEV/PHVで攻勢をかけたいトヨタは、この共鳴方式の採用を検討中とのこと。送/受電での位置的な制約が緩むことで充電環境にも自由度が増すだろうから、私のような立体駐車場派でもEV/PHVをドヤ顔で堪能できる日は近いか?

全周囲立体モニタシステム──富士通セミコンダクター
 自車を真上から見下ろしたかのような画面。駐車をサポートしてくれる機能としてミニバンやSUVを中心に装備するモデルが増えてきた。日産の「アラウンドビューモニター」や、トヨタの「パノラミックビューモニター」なんて呼ばれているのがそれ。今ではその利便性が認められ、15mクラスの船舶にも使われている。

 車体の前後左右に取り付けた広角カメラからのデータを画像処理することで、あたかも自車の真上から周囲360度を見渡しているような画面が得られる便利な機能。ただ不満もあって、イマイチ解像度が低く小さな障害物の発見が遅れがち。また、こうした前後左右カメラからの結合画面は、車両前方を上部にした真上からの画面だけに限定されていたこともユーザーからの指摘が多かった。

 富士通セミコンダクターの全周囲立体モニタシステムは、従来アナログ入力であった4台のカメラ映像をデジタル入力に変更し高解像度化を達成。それらを結合させたことで、周囲の情報をディテールまでしっかりと画面に映し出せるようになった。

 さらに、高速処理が可能なGDC(Graphics Display Controller)をフルに活用することで、任意の地点を基準に自由に360度の視点変更ができるので、たとえば頭から入った車両を後退で駐車スペースから出すなんていうシチュエーションでも周囲の情報が明確になるため安全確認が容易になるなどメリットは多岐にわたる。イメージ的にはGoogle マップのストリートビューに自車も映し出されるといったら分かりやすいか?

 今後、衝突被害軽減ブレーキと連携した高度なアクティブセーフティ技術の開発や、ACC(Adaptive Cruise Control)と情報を共有した合流支援など渋滞緩和技術などへの応用を期待したい。

この技術をサポートしているGDCがMB86R11/MB86R12。これひとつで、4つのデジタル信号を処理することができる。「富士通セミコンダクター」では、このプラットフォームを使った開発ソフトも提供している

(西村直人:NAC)
2012年 5月 28日