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【インタビュー】SUPER GT最終戦もてぎ直前タイヤメーカーインタビュー(ブリヂストン編)

 SUPER GTは日本のレースとしては最も人気があるシリーズで、上位カテゴリーとなるGT500には、レクサス(トヨタ自動車)、日産自動車、本田技研工業という日本の3大メーカーが車両を供給しており、ハイレベルかつ激しい競争が行われているシリーズとして日本だけでなく、他の地域からも注目を集めているほどだ。また、下位カテゴリーとなるGT300も、世界的に低コストなレーシングカーとして人気を集めているFIA-GT3車両と、日本の独自規格であるJAF-GT車両が混走するレースとして近年大きく盛り上がっている。2014年シーズンはGT500の車両規定がドイツのDTMと統合され、DTMの車両規定を採用した新シャシーと、日本発のレーシングエンジンの仕様であるNREとの組み合わせによる新型車両へと更新されたこともあり、3メーカーとも新しい車両を導入して注目度がさらに上がっている。

 そうしたSUPER GTを1つ特色づけているのはブリヂストン、ミシュラン、ヨコハマタイヤ(横浜ゴム)、ダンロップ(住友ゴム工業)という4つのタイヤメーカーが、それぞれGT500、GT300に供給することにより行われている激しいタイヤ戦争だ。GT500でも、GT300でも非常に激しい競争が行われており、実際多くのレースでタイヤの出来がレース結果を左右することも珍しくない。

 本記事ではSUPER GTに参戦するタイヤメーカーの担当者に、2014年シーズンの目標などを、第2戦富士開催時にうかがってきたのでそれを紹介していきたい。第1回目としてブリヂストンを取り上げる。

 ブリヂストンは日本最大のタイヤメーカーで、グローバルでも2005年以来マーケットシェアは1位と世界最大のタイヤメーカーでもある。ブリヂストンは古くから日本のトップフォーミュラやF1などトップレベルのフォーミュラカーシリーズにもタイヤ供給を続けてきており、SUPER GTには全日本GT選手権としてスタートした時から参戦している。そのブリヂストンはトップカテゴリーのGT500のタイトルを独占してきたが、2011年、2012年と2年連続で他社にGT500のタイトルを奪われてしまった。

 しかし、2013年はGT500で見事にタイトルを奪回し、それに加えて2012年から参戦を開始したばかりのGT300でもタイトルを獲得するなど大活躍の1年となった。そうしたブリヂストンのSUPER GTでの2014年の活動についてお話をうかがった。

今回お話をうかがったブリヂストン グローバルモータースポーツ推進部 ユニットリーダー 塩谷聡一郎氏(右)、ブリヂストン MSタイヤ開発部 設計第2ユニット 課長 細谷良弘氏(左)

ブリヂストンのモータースポーツ活動の“イチオシ”はSUPER GTに

 日本のユーザーにとってブリヂストンのモータースポーツ活動と言えば、やはりトップカテゴリーであるSUPER GT、そしてスーパーフォーミュラへの供給がよく知られているところだろう。SUPER GTは他メーカーとの競争があり、スーパーフォーミュラはワンメイクという違いはあるが、2つの日本のトップカテゴリーにタイヤを供給しているのはブリヂストンだけだ。もう少しグローバルな活動に目を移せば、北米のトップカテゴリーであるインディカー・シリーズにファイヤストンブランドでタイヤを供給しているほか、2輪の世界選手権であるMotoGPへもタイヤを供給している。

 こうした中で、ブリヂストンは特にSUPER GTを強く押し出していこうというのがモータースポーツ活動での方針だという。ブリヂストン グローバルモータースポーツ推進部 ユニットリーダー 塩谷聡一郎氏は「弊社内でもブリヂストンのモータースポーツではSUPER GTを強く押していこうとしており、弊社だけでなく、自動車メーカー様、販売店様などと連動した販促活動を実施していきたい」と語り、ブリヂストンとしてだけでなく、同社のパートナー各社(自動車メーカーや販売チャネル)などと一緒にSUPER GTでの活動をキャンペーンしていきたいとした。なお、ブリヂストンは2輪のMotoGPへの供給を2015年をもって終了する予定であることを明らかにしている(別記事[http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20140502_646879.html]参照)が、その動きと今回の方針は特にリンクはしていないそうだ。

 ブリヂストンはそうした一般ユーザーに向けたマーケティング活動も行っており、例えば、SNSを通じたユーザーへのアピールも行っている。ブリヂストンのSUPER GT活動用のTwitterアカウントは@POTENZA_SUPERGT(https://twitter.com/POTENZA_SUPERGT)となる。レースウィークエンドはもちろんこと、レースの前後などに関してもサーキットの様子などがつぶやかれているので、ぜひフォローしてみるといいだろう。

 こうしたブリヂストンのSUPER GT活動だが、そのユーザーチームの体制については2013年と同様になっている。GT500ではレクサスが5台、ニッサンが1台、ホンダが3台と合計9台。GT300はホンダのCR-Z GTを走らる2チーム供給を行っている。

 昨年チャンピオンを獲得したGT300に関しては、他のチームからもタイヤ供給依頼があったのではないかと聞いてみたところ「お話はまったくなかった訳ではないが、弊社側のキャパシティや条件などを勘案し、さらに弊社にとっての優先順位はGT500にあるということも考慮に入れた結果、まとまった話にはならなかった」(塩谷氏)と述べ、引き続きGT300に関してはホンダの2台を継続という形になったと説明した。

 なお、多数のチームに供給するブリヂストンのGT500だが、2014年シーズンで最も注目しているドライバーはと聞いてみたところ、ブリヂストン MSタイヤ開発部 設計第2ユニット 課長 細谷良弘氏は「これまでSUPER GTではお付き合いのなかった12号車の安田裕信選手に注目している。組んでみて初めて分かったことは、セッティング能力が非常に高くてかつ速い。12号車のセットを出すことに大きく貢献していて、速さのオリベイラ選手を完全に補完している」と述べ、昨年まで別のタイヤメーカーの車両で走っていて、今年からブリヂストンユーザーになった安田選手を特に注目していると述べた。

フロントサイズ変更の影響は大きかったが、まずは安全性を重視して開発を進めた

 冒頭でも述べたとおり、2014年のSUPER GTではGT500のレギュレーションが大幅に変更され、GT500に関しては車両、エンジンともに大幅に変更されている。特にタイヤにとっては、ドイツのDTMの規定に合わせる形で導入された新タイヤ規定により、フロントタイヤのサイズが昨年よりも小さくなったことが大きな変更点と言える。

 細谷氏によれば「フロントサイズの変更は影響が大きかった。それだけでなく、車体側の進化でも当初は1秒程度のアップだと聞いていたが、実際に走らせてみたらそれよりも大きくアップしており、タイヤにかかる負荷が増えている。フロントが小さくなってクルマが速くなるのと倍々で負荷が増えているので、タイヤを設計する側としてはまず、安全性を確保できることを最優先してタイヤ作りをした」とのことで、開幕戦を終えた段階では「きっちりレースを終えることができ、ほっとした」というのが正直な感想だったという。

 実際、開幕戦を迎える前のテストや開幕後のテストでも、タイヤの銘柄に関係なくGT500の車両で大きなクラッシュに遭遇している例も少なくない。幸いにしてドライバーがケガをするという事態は避けられているが、仮にそうした事故がタイヤが原因で引き起こされたとなれば、タイヤメーカーにかかるプレッシャーは想像を絶するモノがある。そうした事態を避けることができ、全員安全に開幕戦を終えることができたことにエンジニアとしては安心したというのが細谷氏の正直な気持ちなのだろう。

 また、タイヤメーカーとしては、まだ完全に新しい車体の特徴などについて理解できているという段階ではないという。細谷氏は「クルマもまだまだ進化している途中で、すべてのポテンシャルを我々もつかんでいるという段階ではない。シーズンインの前からある程度の想定をして開発してきたが、今後もそれを早めにつかむことが大事だと考えている」と述べ、タイヤの開発自体もまだまだ手探りなことが多いとする。

 なお、昨年話題になった、タイヤがコース上のゴミを拾って急に遅くなる“ピックアップ”という現象について細谷氏は、「今年のタイヤでも引き続き起こると考えている。岡山では特に出なかったが、オートポリスのテストではそれを訴えるドライバーもいた。現在対策は考えているが、これが決めてというのはまだない」と、引き続きピックアップにどのように対処していくのかは課題の1つになるだろうとした。

キャラクターが異なる3メーカーそれぞれにあわせたタイヤを供給する。目指すは両クラスチャンピオン維持

 特にブリヂストンの場合には、レクサス、ニッサン、ホンダの3メーカーすべてにタイヤを供給していることもあり、それぞれの車両にあわせて開発を進める必要もあるが、現時点ではそこまで到達はできないと細谷氏は説明する。「特にホンダのNSXに関してはミッドシップということもありキャラクターは違っている。例えば、ミッドシップという特性のため、他の2メーカーに比べると、リアのタイヤハウスへの熱の影響が大きく、そうしたことも他の2メーカーとはキャラクターが異なってきている」と同じように見えるクルマであっても細部はやはり異なっているのだ。

 インタビュー時点では「テストも少なく、走り込みなどもあまりできていないので、それにあわせたタイヤの作り込みまでには至っていないが、どこが違うかは見えてきたので、早い段階でそれにあわせていきたい」(細谷氏)と、基本的に本同じシャシーを使っていると言っても、ホンダのNSXだけはパワーユニットをミッドシップに搭載していることもあり、やはり傾向が違っているので今後それにあわせた作り込みが必要になるとした。ホンダ勢の中での争いということで言えば、NSXにタイヤを供給しているのはブリヂストン3台、ミシュラン1台、ダンロップ1台という勢力図になっており、「NSXの中で1位になることが大事だ」と、特にミシュランタイヤを履く18号車に対して警戒をしているとのことだった。

 なお、同じFR(フロントエンジンリア駆動)のレクサス RC Fとニッサン GT-Rに関しては車両の性格は似たモノになりそうな気がするが、細谷氏によれば「基本的には同じようなテスト結果なのだが、細かく言うと微妙に性格は違っている。特に足まわりが異なっているので、それにあわせ込みが必要になると考えている」とのことで、RC FとGT-Rでも性格が若干異なっているとのことだった。なお、レクサス勢とホンダ勢ではブリヂストンは最大台数を確保しているが、ニッサンのGT-Rでは12号車 カルソニックIMPUL GT-Rが1台だけと、最大勢力ではない。ニッサン勢ではニッサンワークスとなるNISMOが競合他社のタイヤとなっているため、ブリヂストンにとっては開発で競合他社に遅れを取らないようにすることが重要な課題となっていくだろう。

 こうしたブリヂストンのSUPER GT活動での目標について塩谷氏は「GT500では全勝でシリーズチャンピオンを獲得することが目標。シリーズという観点で考えれば、ほかのメーカーとの熾烈な競争に競り勝ちたいと思っている」と述べ、他社との激しい争いをブリヂストンとしても歓迎しており、勝ちにこだわりたいと説明した。GT300に関しては、細谷氏自身が昨年「思ってもいなかったチャンピオン獲得」と述べたとおり、チャンピオンが転がり込んできたという認識をブリヂストン自身も持っているが、それでも競争としてやるからには「シリーズチャンピオンを目指す」(塩谷氏)と、あくまで目標は高く掲げている。

 SUPER GT最終戦は今週末にツインリンクもてぎで開催されるが、GT500では、KeePer TOM'S RC Fの伊藤大輔/アンドレア・カルダレッリ組、カルソニックIMPUL GT-Rの安田裕信/J.P.デ・オリベイラ組、PETRONAS TOM'S RC Fの中嶋一貴がブリヂストンユーザーとしてチャンピオンを争っている。

(笠原一輝/Photo:安田 剛)