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【インタビュー】SUPER GT最終戦もてぎ直前タイヤメーカーインタビュー(ダンロップ編)

 住友ゴム工業は、日本やアジアなどではダンロップブランドの、欧米地域ではファルケンブランドのタイヤを販売しているメーカーで、国内のモータースポーツはダンロップブランドで参戦を行っている。SUPER GTでは、GT500に1台、GT300で2台に対してタイヤ供給を行っており、少数精鋭ながらメリハリのきいたサポートを行っている。特にGT300では、毎年チャンピオン争いに絡んで来る上位チームのGAINERに対してタイヤを供給しており、今年こそ悲願のチャンピオン獲得を目指すことになる。

 ダンロップのモータースポーツ活動を担っている 住友ゴム工業 モータースポーツ部長 谷川利晴氏、同 モータースポーツ部 課長 斉脇泉氏のお2人に第2戦富士開催時にお話をうかがってきた。

住友ゴム工業 モータースポーツ部長 谷川利晴氏(左)、同 モータースポーツ部 課長 斉脇泉氏(右)

モータースポーツを技術開発の場として重視するダンロップ

 冒頭でも述べたように、住友ゴム工業はダンロップとファルケンという2つのブランドを所有しており、前者は日本を含むアジア・太平洋地域、後者は主に欧米という形で展開している。もともと住友ゴム工業は、英国のタイヤ会社DUNLOPの日本法人としてスタートした会社だが、後に住友グループが経営に参画して現在の社名に変更された。DUNLOPよりタイヤ事業を引き継いだほか、ファルケンブランドでタイヤ事業を行っていたオーツタイヤと合併。その結果、2つのブランドでタイヤ事業を行う形態となった。

 モータースポーツ活動も地域によって異なり、日本のSUPER GTやオーストラリアで行われているオーストラリアV8スーパーカーレースではダンロップで、ニュルブルクリンク24時間レースに参加する車両へのタイヤ供給などはファルケンで活動している。

 こうしたダンロップのモータースポーツ活動についてモータースポーツ部長 谷川利晴氏は「モータースポーツ活動では弊社のブランド認知度を上げるということもあるが、主眼を置いているのは技術開発」と、ダンロップのモータースポーツ活動はマーケティング的な観点だけでなく、自社の技術を磨く場として重視しているとする。実際、SUPER GTは、GT500も、GT300も国内外のトップメーカー4社がどちらにも参戦してしのぎを削るという非常に激しいレースになっており、その中でタイヤを供給することで新技術を開発し、それを実戦という場で試すことに主眼が置かれているのだ。

 日本のモータースポーツはSUPER GTに限らず別のカテゴリーでも同じような競争が繰り広げられている。谷川氏によれば「レーシングカートでも、ブリヂストンさん、横浜ゴムさんとは激しい競争をしている。そうした競争があることで技術競争が発生し、それがお客様のもとによりよい製品として還元できることが重要だと考えている」とのことで、タイヤメーカー各社の競争が激しいSUPER GTに参戦することの一番の意義は技術開発であると語ってくれた。

ミッドシップのNSX CONCEPT-GTに最適化、そしてダンロップの雨伝説は今年も?

 ダンロップがタイヤを供給しているチームは、GT300に関してはここ数年パートナーとして活動しているGAINERチームの2台のメルセデス・ベンツSLS AMG GT3。特にエースカーとなる11号車GAINER DIXCEL SLSは平中克幸選手/ビヨン・ビルドハイム選手という実力者で、今年こそ念願のチャンピオンを目指すことになる。上位カテゴリーとなるGT500に関しても、この10年以上、パートナーチームとして活動してきたナカジマレーシングの32号車 Epson NSX CONCEPT-GTを今年もサポートすることになる。

 今年は、GT500のレギュレーションが大幅に変更され、車両はドイツのDTMと同じルールを、エンジンに関しても2.0リッター直噴ターボのNRE規定が導入されるなど大幅に変更されている。さらに、車両規定がDTMと統合されたことを受け、タイヤサイズもDTM基準が導入されており、昨年のSUPER GTに比べてフロントタイヤのサイズが小さくなっている。かつ、車両そのもののパフォーマンスが昨年型に比べて上がっており、その結果としてタイヤにより厳しい負荷がかかる状況になっている。

 昨年までは32号車のエンジニアを務めていたモータースポーツ部 課長 斉脇泉氏は「フロンタイヤのサイズが小さくなったこと、そしてクルマの性能が上がったことで、タイヤへの負荷が増えている。去年までのクルマで言えば。フロント1割、リア9割の割合で注意していたが、今は半分半分と言っていいぐらいフロントタイヤをケアしないといけない」と述べ、やはり小さくなったフロントタイヤへの対応がシーズンオフでの開発の主眼だったという。

 ただ、ダンロップにとっては、そうしたGT500の開発を思ったように進められた訳ではなかったという。「クルマのレギュレーションが変わったため、車両の開発と並行してタイヤの開発を進めたかったが、テスト時間も思うように確保することができず、なかなか思うようにはいかなかった」(斉脇氏)と開発にはさまざまな困難が伴ったのだという。1つには、各メーカーが開発車両で利用するタイヤメーカーというのは、ダンロップは入っていなかったことが挙げられる。レクサスとホンダの開発車両にはブリヂストンが、ニッサンの開発車両にはミシュランがつけられており、そこに入っていなかったヨコハマとダンロップがテストをできた時間は本当に限られていた。また、ダンロップのユーザーチームであるナカジマレーシングに車両がデリバリーされた後でも、車両の開発やセッティングなどに時間を取られてしまい、なかなかタイヤの開発まで時間がまわらなかったと斉脇氏。このあたりはGT500には1台のみに供給している体制が、新ルール下における新型車両の導入時には不利に働いてしまったということが考えられるだろう。

 また、ダンロップが供給するナカジマレーシングが利用するNSX CONCEPT-GTは、新型車両の中でも唯一のミッドシップエンジン、ハイブリッド車両となっている。このため、ルールでミッドシップ+ハイブリッド分のアドバンテージを削減するためのウェイトハンデ搭載が義務づけられており、率直に言って第1戦~第3戦までの結果を見る限りはタイヤの銘柄に関係なく厳しい戦いになってしまっている。しかし、ダンロップとしては、車両がNSXに変わったことは前向きに捉えており、できるだけミッドシップという特徴を活かしたタイヤ作りを目指していくという。「実は車両がHSVに変わる前、我々のタイヤはミッドシップのNSXに適合していた。実際、現在のNSX CONCEPT-GTは、その当時のNSXに近いタイヤ特性になっており、その時の強みを再現していきたい」(斉脇氏)とNSX CONCEPT-GTが持つ唯一のミッドシップ車という強みを活かしたタイヤ開発をしていくことで、それをアドバンテージにしていきたいとした。

 開発の面では1台供給が不利に働いたということを逆手にとって、1台にしか供給していないことを“最適化”することで強みにしていこうということだ。実際、斉脇氏によれば、ナカジマレーシングのドライバー 2人も、昨年型に比べて素直で乗りやすい特性のクルマと評価しているとのことで、そこにダンロップがNSX CONCEPT-GTのミッドシップに最適化したタイヤを供給していきたいということだった。

 また、昨年までのダンロップと言えば、雨が降るといきなり上位に食い込んでくるという“レインマスター”的なキャラクターが確立されていたが、今年に関してはどうなのか聞いてみたところ、「もちろん今シーズンも他社に負けないようなレインタイヤが用意できていて、そこには自信をもっている。ただ、それでも昨年、雨の量によって他社との差が縮まったりということもあったので、そこのレンジを広げる改良を行っている」(斉脇氏)と雨のダンロップ神話の継続にはかなり自信がありそうな様子だった。

4年目となるGAINERとのGT300チャレンジ、今年こその集大成で王者獲得を

 ダンロップにとってのもう1つの課題は、ここ数年後1歩というところで、チャンピオンを逃しているGT300クラスで悲願のチャンピオンを獲得することだろう。斉脇氏は「昨年からクルマがメルセデスに替わり、それで1年レースをしてきたことで、課題がはっきりしてきた。今年はその延長線上にある体制になるので、その中で昨年を上回る成績を目指していきたい」とする。同社のユーザーチームであるGAINERの11号車は、昨年(2013年)が2位、一昨年(2012年)こそ7位と低迷したが、2011年には2位と、毎年上位に顔を出す強豪チームだ。それよりも上位と言えば、もはやチャンピオンしかないが、こちらに関しても地道に開発を続けていくことで、パフォーマンスアップを続けていきたいとした。

 とはいえ、ほかのタイヤメーカーも言っているように、GT300の勢力図はクルマのパフォーマンスやタイヤのパフォーマンスよりも、BOPと呼ばれる性能調整次第の部分がある。このため「まずはメルセデス・ベンツSLS勢の中でトップを目指し、BOPの調整によりメルセデス勢が有利になれば、その時にはチャンピオンを狙っていきたい」(斉脇氏)とのことだった。

 最後に今シーズンの目標について、谷川氏は「GT500ではまず1勝を目指す。そしてホンダ勢の中で上位を争い、可能ならトップを狙っていきたい」とした。そしてGT300に関しては「昨年は実に惜しい2位だった。GAINERさんとは今年で4年目になるので、その集大成としてもチャンピオンを狙いたい」(谷川氏)とした。最終戦のもてぎを前にしてダンロップタイヤを装着するGAINER DIXCEL SLSの平中克幸/ビヨン・ビルドハイムがチャンピオンを狙う位置に付けている。

(笠原一輝/Photo:安田 剛)