インプレッション
スバル「XV」(2017年フルモデルチェンジ)
2017年5月15日 11:47
2016年、「インプレッサ」で日本カー・オブ・ザ・イヤーを獲得し、日本はもちろん、グローバルでも好調なスバルが投入した2017年の第1弾が「XV」だ。必然的にインプレッサからスタートしたスバルグローバルプラットフォーム(SGP)の第2弾ともなり、次世代スバルの主力SUVとしての使命を負う。
スバルのSUVとしては「フォレスター」があり、月2000台ほどの好調な販売があるが、同様にインプレッサの派生車種であるXVもコンスタントに月1000台ほどを販売する安定した車種だ。モデルチェンジしたのを機に、今後は国内SUVの主力に仕立てていきたいという思惑がある。
では、新型XVは主力になり得る実力を持っているのか。スバルのSUVのコンセプトは「安心と愉しさ」が際立つSUV。目的地への往復と現地での愉しさを満喫できるためのクルマを標榜している。
スバルSUVの中でもフォレスターはタフなクロカン寄り、「レガシィ アウトバック」はクロスオーバー的なワゴン。そしてXVは同じクロスオーバーでも、スポーティでカジュアルなモデル(スバルではスポカジと呼んでいる)で時代にミートしようとしている。意味するところは本格的なオフロード性能を持ちながら、オンロードではスポーティセダンの様に走れる守備範囲の広いSUVだ。
この性能を実践するポイントは骨格を作るSGPにあり、実はSGPはSUVへの最適化も視野に入っている。つまり、剛性の高さ、ハンドル操作時の応答性、サスペンションレイアウトの自由度など、新世代のスバル車を担うプラットフォームにとって欠かせない要素が盛り込まれている。
さて、ボディサイズはインプレッサがベースとなっているので、従来型より若干サイズアップされている。ホイールベースは2670mm(+30mm)で現行インプレッサと共通。全長4465mm(+15mm)、全幅1800mm(+20mm)とひとまわり大きくなっているが、全高は1550mmと従来型と変わらず(ルーフレール付1595mm、シャークフィンアンテナ付1575mmとなっている)、素のXVは立体駐車場にも入れる利便性を持つ。一見するとモチーフは従来型を継承しているのでがらりと変わった印象はないものの、シャープな目つきや伸びやかなシルエットが特徴だ。
いずれにしても、大きくなりがちなSUVにあって国内で使いやすいサイズを守っており、B/Cセグメントの中間に位置する。そして質としてはCセグメントに入ろうという意気込みだ。
地道な研究を続けたアイサイトでスバルは予防安全思想で高い認識を得ているが、XVはJNCAPの衝突安全性能評価で過去最高の得点をマークした。さらに歩行者エアバッグを全モデル標準装備して、歩行者保護性能も過去最高の評価を獲得した。
安全はさまざまな角度で見なければならないが、視界のよさは実は事故を防止する大きなポイントだ。ドアミラーに隠れる側方の視界、ハイデッキで後方の視界がますます損なわれるなかで、XVの視界は広く、四方が見やすかった。交差点の右左折でも死角が少なく、加えてBピラーが邪魔する側方、Dピラーで隠れる斜め後方など極力視界を遮らない工夫がされており、好感が持てる。XVのキャビンが明るく感じるのはこのような視界のよさから来ている。
今回の試乗で再認識したのは、インプレッサのモデルチェンジで感じた優れた直進安定性の高さだ。路面のアンジュレーションでも方向性が明確に把握でき、ハンドルに手を添えていれば高い直進性を維持できる。また素晴らしいのは、ハンドル操作に対して機敏に反応してくれ、気持ちよいドライブフィールを持っていることだ。決して過敏とは違うこのスッキリ感が新世代スバルの特徴だ。ドライバーに余分な緊張をさせず、疲労の軽減にも役立つ。
最低地上高は200mmとモデルチェンジ前と変わらないが、走行時の安定感やロール制御などはむしろ向上し、コーナーでも穏やかなロール姿勢で余裕を持って走れる。さすがにロールの絶対量はインプレッサよりも大きいが、ハンドルを切った時のグラリとした大きなロールはなく、スタビライザーが効果的に働いていることを感じられるフラットなものだ。車体、サスペンションの効果でタイヤのコーナリングフォースも素直に力を発揮する印象で、いい意味でSUVらしくないハンドリングだ。
サスペンションとボディのコンビネーションで言えば、乗り心地もなかなか秀逸だった。路面の突起乗り越し、乗り下げに対してサスペンションが効率的にレスポンスよく動き、車体の余分な動き、そしてピッチングも大幅に軽減されている。従来のXVでは前後に揺さぶられるような動きもあったが、新型ではほとんど感じられなく、乗り心地による疲労軽減は一気に進んだ。フラットな乗り心地は気持ちよい。
ラフロードでの実力は?
オンロードでのXVの実力は十分に堪能できた。では、ラフロードではどうだろう。AWDを身上とするスバルらしさがラフロードで生き生きと現れた。
用意された上り下りのある泥濘地でも、スバルらしいAWDの高い実力と最低地上高200mmの威力が活かされた。普通なら躊躇するような路面、しかも標準装着の夏タイヤでグイグイと登っていくのは正直、予想以上だった。タイヤはすでに泥で完全にパターンが分からない。そんな場面でもドライバーに強い自信を持たせ、アクセリングとハンドル操作に集中すれば大抵のところはいけそうだ。本当に心強い。
更に手ごわい、片側が滑りやすいスプリットミュー路で動きが鈍くなった場合でも、X-MODEスイッチを押すだけで、アクセルレスポンスを鈍くして低速時のドライバビリティが向上すると同時に、低いギヤをキープし、さらに前後輪を結ぶAWDクラッチの締結力を増しながら後輪のLSD効果を上げることでトラクションが増す。特別なテクニックを必要とせずスムーズに発進できる。下り坂ではヒルディセントコントロールが作動し、ハンドル操作だけに集中でき、滑り易く、急な勾配でも本格的なクロスカントリー並みの働きをする。
資料によるとアプローチアングルは18度、ディパチャーアングルも30度とってあり、スバルの兄弟SUVであるフォレスターには及ばないものの機動力はかなり高い。出来ればX-MODEが必要な場面には遭遇したくないが、いざという時には頼りになるスイッチだ。
こんなタフなSUVでありながらセダンと変わらない乗降性と、最小回転半径の5.4mは市街地でも使いやすく、気楽に乗り回せるSUVだ。
XVのもう1つの魅力は荷物の収納力にもある。リアハッチの開口部が大きく、後方視界を妨げない範囲で9.5インチのゴルフバッグが3つ収まる。そして後席のレッグルームも広く取れているので、なかなか巧みなレイアウトを持つキャビンだ。
さてエンジンだが、新しいプラットフォームのおかげで遮音性に優れて、エンジンも滑らかに感じる。特に2.0リッターは113kW/196Nmとトルクに余力があり、お薦めだ。一方新設された1.6リッターは85kW/148Nmの出力で、日常的にはこれでも不足はあまり感じられない。ただ、どうしてもエンジンを回し気味になるので、実用燃費的には2.0リッターよりもわるくなる可能性もある。
XVはスバルの自信作だけあって、これまで何かと言われていた内装の充実と共に、予想以上に完成度が髙かった。スタートプライスは1.6リッターの1.6i EyeSightの213万8400円から2.0リッターの2.0i-S EyeSightの267万8400円まで、大きく分けて4種類のグレードが揃えられている。