レビュー

【タイヤレビュー】雪国暮らしの友に、トーヨー「ガリットG5」を選んてみた(その2)

タイヤ表面がひと皮剥けて鬼クルミの殻パワーが炸裂か?!

毎朝の日課になってきた愛車の掘り出し。一晩でこれぐらい雪が積もる。隣のクルマとの間は駐車場オーナーが除雪してくれている。それだけでもありがたい

ようやく慣れてきた冬の青森暮らし

 青森の本格的な冬が始まった。我が愛車であるローバー75にトーヨータイヤ(東洋ゴム工業)の「GARIT(ガリット)G5」を装着し1カ月少々が経過した。日々の通勤での使用がメインとしながら、装着から約1000km程度を走り、まさに「ひと皮剥けた」ぐらいの状態になってきた。「新品状態のスタッドレスタイヤは決してグリップはよくなく、多少走りこんでからが本当の性能を発揮する」とCar Watch編集長から聞いていたが、まさにそんなベストな状態となってきた。

 凍結路においては制動距離が着実に短くなってきた。ガリットシリーズの特徴は、鬼クルミ成分をタイヤに配合しており、この鬼クルミが「ガリット」と地面を引っ掻くことでグリップ力を高めている。ようやくその鬼クルミの効果が出てきたということだろう。さらに雪道では「車体が地面に吸着しながら走る感じ」というと大げさだが、関東在住時に凍結路を夏タイヤで走ったときの恐怖を考えれば、ガリットG5の持つ積雪に食らいつくような安心感は計り知れないほどのものだし、むしろ雪道を走行することが日々楽しく感じられるようになってきた。

 当初、今年の青森の冬は雪が少ないのではないかとも言われていたが、その期待も外れ、例年どおりの豪雪に見舞われるようになり、このところは毎日の積雪量が30~40cmとなっている。それでも気温は-1℃~-5℃、山間部に入るともう少し下がるが、-10℃以下になることは今のところほとんどない。雪こそ多いが、体感的にはそれほど寒さを感じない天候といえる。

クルマに除雪ブラシと除雪スコップは必携。この日は20cm以上積もっている感じだ。さらに日々の積雪量が増えている。どうなることやら
クルマの前後バンパーでは見事なツララが形成されている。つまり、青森の気温は絶妙に溶けたり凍ったりする温度ということで、路面も非常に滑りやすい

 前編でも書いたが、青森の路面の状況は多様だ。市街地や幹線道路は毎日除雪が入るが、すぐに雪が降り積もる。そして走るクルマで圧雪され、さらに凍結する。住宅街は除雪の頻度が低いので、凍結路面上に新雪が降り積もったようなところが多い。真冬となって気温が0℃以上に上昇することが少なくなったので、雪や氷が溶けない。したがって除雪のために道路脇に積み上げられた雪は高さを増すばかりで、場所によってはすでに私の身長を超えている。さらに筆者の勤務先大学は八甲田連峰の上り口の山間部にあり、わずか10km程度の通勤経路上に新雪路、圧雪路、除雪されたあとの凍結路面、さらに豪雪の山道までさまざま路面状況を体験できる。

 ちなみに北海道では青森よりもはるかに気温が下がる。完全に凍結した路面では、固体である氷自体の摩擦係数はさほど低くなく、クルマは想像するほど滑走しない。また凍結路面の滑り止め対策として砂等を撒くなどの滑走防止対策が採られている。北国の道路政策に詳しい同僚の教授によれば「北海道では熱した小石(3~4mmぐらい)を道路に散布している。小石は熱で路面を溶かして食い込む。これで凍結路の摩擦係数も高まり、安心して走れる」のだそうだ。しかし青森の場合は毎日断続的に雪が降り続けるような気候であるので、融雪剤や砂を撒いたところでほとんど役に立たない。

 また前出の教授いわく「北海道は氷の国、青森は雪の国。道路事情も気候もまったく別と考えるべき」なのだとか。青森の冬の気温0℃~-5℃というのは、最も凍結路面で滑りやすい温度とも言え、日照や風、車両の通行量などにも左右されるが、この温度帯では凍結路面の表面に融解した水膜ができるため飛躍的に滑りやすくなる。世界中に寒冷地はあるが、この絶妙な温度帯でしかも豪雪という青森は、まさに世界的にも最も滑りやすい路面が出現しやすい地域といえるのだ。

 そして毎日こうした環境でクルマを走らせていると、0℃~-5℃の間の1℃ごとに異なる路面の状況も分かるようになってきた。わずかな温度差で路面状況は変化し、それに応じてタイヤのグリップ具合も変わるので、外気温計と路面状況を見ながらクルマをコントロールする能力がようやく身についてきた。

 では、そんな日々の筆者の通勤経路をご紹介しよう。筆者の住居は青森中心部に近い住宅街にある。住居併設の屋根付ガレージは1戸に1台分しかなく、ここは妻の愛車が鎮座するので筆者のクルマは屋根なし、融雪装置なしの屋外駐車場を借りて止めている。筆者の1日はこの駐車場からクルマを掘り出すことから始まる。クルマに積もる雪の量は、一晩でも軽く20cmを超えている。日々、雪が降る量が増えているように感じるので、ピークとなる2月はさらに大変なんだろう。

除雪が入らなかった朝の住居前はこんな積雪状態。凍結路面上に新雪が降り積もっている。クルマでガガガガッと雪を掻き分けて走る感じがたまらない?! ガリットG5は、スタックすることなく前進してくれる

 住宅街から幹線に出ると、ここはしっかり除雪がされているのだが路面はアイスバーンといった状態。スタッドレスタイヤを装着していれば、法定制限速度で走る分には何の不安もない。周囲のクルマもそれぐらいの速度で普通に走っている。しかし交差点直前は要注意だ。交差点周辺は停止する車両の熱で温度が若干高く、そのためアイスバーンの表面が融解していて非常に滑りやすい。停止すべき場所で滑りやすいというのが本末転倒なのだが、車間距離は余裕を持ち赤信号が見えたら交差点に近づく前に十分に速度を落として停止するよう心がける。

 そして最初の難所に差し掛かる。青森市中心街から八甲田方面に伸びる通称・観光通りが通勤経路なのだが、この途中にJRの線路を越えるための「八甲田大橋」という陸橋がある。この陸橋は比較的傾斜がきつい上に上部はS字カーブとなっており見通しもわるい。しかも陸橋の両端に交差点もある。南端側は交差点も坂の途中なので、うっかり陸橋向きに信号にはまると路面が凍結していた場合はタイヤが空転してしまって走り出すのが非常に困難である。4WDならば安定して加速できるのだろうが、ここはFFの悲しいところ。逆に陸橋側から交差点で信号停止を迫られる場合、停止できずに追突したり交差点で曲がりきれずに対向車に衝突したりするといった事故も多発する。

 この日の朝も、おそらく陸橋側から来たクルマが右折する際にミスして対向車と衝突したらしい事故が処理されていた。橋上なので一般の路面よりも凍結がひどく、ブレーキングは相当気を使わなくてはならないポイントだ。この八甲田大橋の通過もだいぶ慣れてきたところだが、上り坂でのグリップに関してはガリットG5を装着する筆者のクルマのほうが妻の愛車よりも性能が高いと感じた(ここでは車重も考慮すべきところで、妻のクルマのほうが車重があることを考えれば同等と見るべきか)。

市中心部から八甲田方面にJRの線路を越えるための陸橋「八甲田大橋」がある。ここが難所でスリップ事故が多発。この日も事故処理をしていた
交差点手前がじつは一番滑りやすい。停止車両の熱で凍結路面表面が融解して、最も滑りやすい状態をかもし出す。交差点は慎重に
本テーマと関係ないが、近所にはスノーモービル店もあった。これはこれで通勤が楽しそうだ(笑)

 市街地から勤務先に向かうにつれ、風景はのどかになっていく。と同時に外気温も1℃、2℃と下がっていく。走行車両も少なくなり路面の状況も市中心部とは別のものになってくる。市中心部では凍結路面に雪が少々乗るぐらいだが、通勤経路中間地点ぐらいまで来ると雪の量が増えてくる。このあたりでは外気温計を見ながら路面の摩擦度合いを考えて走行する。低温なら大丈夫だが、0℃に近いと車両が左右にぶれるなどコントロールが効きにくくなる感じだ。

 さらに青森市横内という集落を超えると周囲の風景は一変して山間部の走行となる。八甲田方面に抜ける幹線国道であり、近年幅広のバイパス路が整備されたところなので、積雪は一段と深くなるもののとくに不安なく走行ができる。本来、この道路は車道両側に十分な幅を持つ歩道が整えられ、雪がないシーズンは学生たちがここを歩いていたりするのだが、さすがに12月に入ってからは除雪した雪が歩道を完全に埋め尽くしてしまって歩ける状況にない。

 そして程なくして勤務先大学が右に見えてくる。交差点を右折すると大学正面へのアプローチとなっており見事な銀世界が広がる。

通勤経路残り3分の1ぐらいは八甲田連峰に上って行く山間部を抜けることになる。本来歩道もあるのだが除雪した雪で歩行不能。このあたりまで来ると車両の通行もまばらになってくる。停車し撮影していたら自衛隊車両が追い越して行った
大学構内に入る。八甲田の広大な森の中にあるキャンパスだ。これまでの東京生活では感じることがなかった四季の変化を大自然の中でめまぐるしく感じることができる環境だ

雪国の路面や気候とそれらを走行する際の配慮を整理

 毎日の通勤の状況を記させていただいたが、あらためて自分自身のためにも、雪道の種類やそれらに対する走行への気遣いをまとめてみた。雪道といっても路面状況や気象によってさまざま。寒冷地に見られる路面状況とそうした路面でのドライビングの配慮は次のとおりだ。

●新雪
 青森市ではとにかく毎日雪が降る。しかも溶けないので、積雪後は一面真っ白な状態になり、どこからどこまで道路なのか、どこから歩道なのか、さらに車線はどこなのかも分からない。吹き溜まりに突っ込んだり、歩道の縁石にタイヤをぶつけないよう注意。豪雪地の国道沿いなどは道路の端に路肩を示す棒などが立っているが、逆に市街地にはそれがない場合多いので慣れが必要になる。コインパーキングで自分のクルマを停めたパーキング枠の表示が雪で見えなくて苦労したことも。

●シャーベット状
 雪の降り始めの12月上旬は、こうした路面も多かった。シャーベット状の雪とアスファルトで摩擦係数がだいぶ違うので、アクセルやブレーキの加減に慣れが必要だった。よくシャーベット路は滑りやすいから注意と言われていたが、ガリットG5では滑るという体験はほとんどなく、水分の多い路面でも力を発揮するタイヤとみた。

●圧雪路
 雪が踏み固められた、いわゆる「雪道」。意外にこの状態は滑りにくいと言われているが、青森市周辺の場合はそうはいかない。青森市周辺の場合は凍結した路面の上にまた積雪があり、それが踏み固められてまた新雪が積もる、というようなことが繰り返される。一見、新雪路と思いきや、その下にデコボコになった圧雪路や凍結路があるとタイヤが左右に取られ、速度によっては真っ直ぐに走行することさえ困難なときも。なので、ドライビングは常に気が抜けないのだ。

●アイスバーン
 よく言われる凍結路のことだが、日中気温が上昇して一旦融解した雪が再び夜間になって凍り、一段と滑りやすさを増すという感じ。青森市の場合、融雪設備がないところはほとんどこんな路面になっている。

●ミラーバーン
 凍結路面の表面が鏡のようにツルツルになった路面。これは交通量の多い道路や交差点付近などで、走行する車両のタイヤなどで磨かれることによってできる。前述のとおり、交差点周辺は非常に滑りやすいことを体感できた。とくに停止しようとした際にスリップしたり、発進時にタイヤが空転したりする。青信号で右左折する際も十分に速度を落として交差点に進入しないと曲がりきれなかったりする。ガリットG5の鬼クルミ成分によるグリップ力のおかげか、他のクルマに比べ交差点でのグリップも安心な感じだ。

●ブラックアイスバーン
 これが一番恐ろしいと言われるが、一見濡れたアスファルトのように見えて実は凍っていたというシチュエーション。青森市周辺を走行する際は、もはやドライ路はないものという前提で走行している。黒い路面もほとんどは凍っている。

青森市街から竜飛岬に向かう直線路。一見、何でもなさそうな道だったが、おそらく青森に来てから最も恐ろしいと感じた道路だ。この日はたまたま天気がよく、日差しで所々ドライ路面があったり、逆に濡れている路面はブラックアイスバーンだったり。さらに左サイドから強風に煽られ50km/hでも一定速で直進することが困難な状況。直ちに引き返した(笑)
プロ(宅配配送車)さえもスリップ事故を起こしていた

雪道に備えた愛車への搭載品を披露!

 初体験の雪国暮らし。カーライフにおいても首都圏とは異なる雪国特有のグッズを使いこなさなくてはならない。地域の方たちの助言によっていろいろな装備を揃えていったが、日常的に手放せない愛車への搭載品をここにご紹介しよう。

ゴム長靴と防寒具。筆者の場合、仕事はスーツとなるが、住居や勤務先のドアからクルマまでのわずかな間でこれが必要となる

 まず、雪国暮らしに必携なのがゴム長靴と防寒具。この季節になるとスーパーの衣料品コーナー等に大量に長靴や防寒グッズが並ぶ。長靴については、とにかく種類が豊富で驚くばかりだ。女性物では、まるでおしゃれなブーツのようなゴム長靴も揃っている。これはすごい。膝ぐらいまで丈のあるものが必携となる。車載用と自宅用に2足欲しいところだ。さらに雪国では防寒具も充実している。綿入りのダウンが一番暖かい。ちなみに頭にかぶれるフード付のものをチョイスすべき。クルマの雪下ろしの際に両手が使えなくてはならないが、ここで吹雪いている場合もある。傘をさしながら、なんてのん気なことは言ってられないのだ。

 そして雪下ろし用のブラシとスコップも必ず車載しておく。クルマに積もった雪を下ろし、さらに必要に応じてクルマの周囲の雪を掘らなくてはクルマが抜け出せないことも多い。そして雪国は日暮れが早いので懐中電灯もお忘れなく。

 また緊急用のアイテムとして、スノーヘルパーと呼ばれる、スタック時にタイヤの下に敷いてタイヤの空転を止めて轍から抜け出すためのグッズや、毛布も備えておくといいらしい。青森では猛吹雪のためクルマが立ち往生してしまって救出を待つというようなことも起こりえる。昨冬もそんな状況で国道で数十台のクルマが一晩を明かしたみたいなトラブルもあった。そうした際にエンジンを掛けっぱなしにしておくのは危険。一晩でクルマが埋まるほど雪が降るので、エンジンを掛けっぱなしにしていると雪で排気ガスの逃げ場がなくなり車内に流入して一酸化炭素中毒になるといった事故も起こる。したがって、遭難したときに暖を取るための毛布などを備えておくことが推奨されているのである。

 その他、ヤフオク!でクルマを売り買いするような方はすでに必携と思われるが、ブースターケーブル、牽引ロープ、JAF会員証もお忘れなく。また前編で紹介したスノーブレードと凍結しないウォッシャー液も重宝しているところだ。スノーブレードとはいえ、駐車する際は積雪に備えてワイパーを立てておく。ワイパーを立て忘れると、フロントガラスの雪かきがしにくいだけでなく、ワイパーゴムがフロントガラスに凍りついたりする。

これはタイヤが雪の深みにはまった際に役立つスノーヘルパーと呼ばれるグッズ。クルマに1つ乗せておくと安心かも

さらに雪深いところを目指してみよう

 青森市内もこれでもかというぐらい毎日雪が降るのだが、せっかく雪国に来たのであればさらなる雪の深いエリアも体験したくなってきた。そこで正月休みを利用し、豪雪地帯のドライブを楽しみながら青森を代表する混浴秘湯などを巡ってきた。

 この日目指したのは、昨年春に気象庁のアメダス全観測地点史上最高の積雪量566cm(2013年2月21日)を記録した酸ヶ湯温泉。夏場なら大学から30分少々の距離だが、今は豪雪凍結路面の峠道なので、慌てずにのんびり走ることにする。すでに勤務先の大学から先は青森でも有名な豪雪地帯で、大学から10分ほど上がればスキー場やリゾート施設を備えた雲谷(もや)という集落がある。ちなみに冬期間はこの雲谷から先は積雪のため夜間は通行止めだ。今回は雲谷はスルーし、さらに山頂のほうへクルマを進める。八甲田連峰に近づくにつれ、車道両側は雪の回廊状態になる。

 酸ヶ湯温泉の手前約4kmのところには八甲田ロープウェイの山麓駅があり、この周辺が八甲田スキー場となっている。筆者は運動は苦手でスキーはしないのだが、このスキーリフト代わりにもなっているロープウェイは、スキー客でなくても観光目的に乗車が可能ということで、往復チケットを購入し八甲田山頂を目指すことに。この日、大学から八甲田ロープウェイ山麓駅までは晴れ時々曇りの天候、外気温は-1~-3℃程度。噂によれば、八甲田ロープウェイに乗れば、運よく晴天なら見事な樹氷が見られるということで期待してロープウェイに搭乗した。

 ところが山の天気は全く読めないもので、ロープウェイが山頂に近づくにつれ天気は豹変。猛吹雪がロープウェイのゴンドラに吹き付けてくる。なるほど、八甲田を甘く見てはいけないのか、あぁ八甲田。

 乗客のほとんどはスキー・スノーボード客で、ロープウェイ山頂駅から出てそのまま山麓まで滑走していく。筆者らは駅から一歩表にでて記念撮影してすぐに下りロープウェイに乗車し退散。山麓では天候もよく、寒さを感じなかったが、八甲田山頂はこの日気温-10℃。しかし立ってられないほどの暴風により体感温度は-25℃ぐらいではなかっただろうか。視界もわるく10m先が見えなくなるぐらいだった。ということで樹氷もあったのだろうが、見る余裕もなく下山(笑)。

大学から酸ヶ湯温泉へ。まずは酸ヶ湯温泉手前の八甲田山ロープウェイを目指す。正月休みのこの日は青森にしては珍しく晴天
八甲田ロープウェイ山麓駅。冬場はスキー場となり、このロープウェイがリフト代わりにスキーヤーを山頂へ輸送する
ロープウェイで山頂まで上がってみたが……、猛吹雪の悪天候。山麓はあんなに晴れていたのに(笑)。運がよければ樹氷が広がる絶景を楽しめます

 気を取り直して酸ヶ湯温泉に向かう。酸ヶ湯温泉までは道路もきれいに除雪されていて走りやすい(ただし凍結路であることには変わらない)。酸ヶ湯温泉関係者によれば、まだ雪が例年より少ないということだった。酸ヶ湯温泉から先は冬期間は完全に通行止め。夏場はこの先を真っ直ぐ進んでいけば十和田湖まで抜けられるが、冬期間は一旦麓のほうに下り、八甲田連峰を迂回する形で十和田湖方面に向かう必要がある。酸ヶ湯温泉は300年も昔から開かれていた一軒宿で、十和田八幡平国立公園の北部、八甲田連峰の主峰大岳の西麓に位置し、標高約900mのところにある。名物は青森ヒバで作られた大浴槽が備えられた「ヒバ千人風呂」。脱衣所は男女別だが中は混浴となっている。まったくの混浴というわけではなく、大浴槽は中央半分に目印があり、そこで男女が区切られている。また、気になる女子向けには、売店で温泉用スリップが販売されており、それに限って入浴時の着用が許されている。男性向けには販売されていないのであしからず。

再び気を取り直して酸ヶ湯温泉に向かう。道路わきの雪の回廊は一段と高さを増してきた。路面は凍結路だが、ガリットG5がしっかりとグリップしてくれる
酸ヶ湯温泉に到着。あ、これは妻ですよ。この温泉は300年の歴史があるそうで。温泉内はカメラ持込ができないのでここまで。青森にお越しになられたらぜひ立ち寄っていただきたい温泉です

 酸ヶ湯温泉で温まったところで、本日の宿を目指すことにする。この日の宿は、八甲田連峰から黒石市、弘前市方面に下る途中にあるランプの宿「青荷温泉」。ここも青森を代表する秘湯だ。電気がなく、館内や客室、温泉の照明はランプのみという(実際には一部冷蔵庫等の動力に自家発電機を使っていたが)。

 冬期間は八甲田連峰や十和田湖周辺の道路があちこち通行止めとなる。まず行き先である青荷温泉もその周囲の道路は通行止めで、向かう経路がない。宿に聞いてみると、近くの国道102号沿いにある虹の湖の道の駅があり、そこにクルマを停めて青荷温泉の送迎バスに乗車するようにとのこと。酸ヶ湯温泉から虹の湖道の駅までは、大学方面から来た道を一旦戻り、風光明媚な城ヶ倉大橋を抜けて約50分の道のり。銀世界の山岳ドライブを楽しむ。

 虹の湖から青荷温泉までの山道は冬季通行止めなのだが、どうも青荷温泉が独自にそこまでの経路を除雪し、宿泊客のための送迎を行っている。そもそも道も狭いので、冬期間は青荷温泉の送迎バス専用とすることに納得する。というか、さすがに筆者もこの道を自分の運転で走りたいとは思えない、まるでスキー場の滑走コースのような狭い山道を延々と走っていく。雪上車じゃないと走れなさそうな道を、普通のマイクロバス(4WD)が進んでいくことにひたすら驚かされた。

 青荷温泉も歴史は古く、開湯は1929年(昭和4年)。青荷渓谷の渓流沿いに本館と3棟の離れが散在し、ランプの灯りがひなびた風情を演出している。内湯、健六の湯、露天風呂、滝見の湯があり、このうち露天風呂は混浴となっている。銀世界の渓流を眺めながら温泉に浸かれる。周囲の風景を楽しみながら温浴を味わうためにも、この宿へはなるべく早めにチェックインされることをお勧めしたい。日が暮れたらあとは囲炉裏料理の夕飯をいただき、深まる夜をランプの灯りで楽しむことになる。人は、日の出と共に起き、日の入りと共に寝る自然な生活がエコで体にもよいことなのだと考えさせられる宿だ。

 翌朝は、青荷温泉の送迎バスで再び虹の湖道の駅まで送迎していただく。道の駅に停めたクルマは案の定、雪にうずもれていた。たった一晩でよく降るものだ。大変親切な宿で、この送迎バスの運転手さんが宿泊客のクルマの雪下ろしを手伝ってくださった。

虹の湖道の駅に愛車を停め、ここから青荷温泉送迎バスに乗り換え
まるでスキーコースのようなくねくねした急坂が続く狭い雪道を送迎バスは力強く進んでいく。結構車体を滑らせながら走るんですね(笑)
秘湯、青荷温泉。ランプの宿としても有名。中央に見える小屋みたいなところは混浴露天風呂になります。そのほか、ひなびた内湯など4つの湯を楽しめる
食堂のランプ
翌朝、虹の湖道の駅まで戻ると、案の定クルマが雪に埋もれています

 この後、黒石市を抜け、青森市の青森県立美術館に向かうことにする。じつは青森はアートに関わる施設やショップがとても多い。筆者の勤める青森公立大学内にも建築家の安藤忠雄氏が設計した国際芸術センター青森がある。この日向かった青森県立美術館は棟方志功氏や寺山修司氏、奈良美智氏などの個性豊かな作家の作品が所蔵されている。虹の湖からは黒石市に抜け、東北自動車道の黒石IC(インターチェンジ)から青森ICまで1時間少々の距離だ。

 実は雪が降り始めてから高速道路を走行するのはこの日が初めて。天気は晴天だったが、路面凍結のため速度規制も行われていたが、規定速度で高速道路を走行するのにガリットG5を装着した我が愛車は何の不安もなく走行できた。青森ICを降りると、青森県立美術館まではすぐに到着。ここは新青森駅にも程近いところ。また日本最大級の縄文集落跡である三内丸山遺跡は青森県立美術館のすぐ隣である。

黒石から東北道を青森方面へ北上。快適にドライビングできます
青森県立美術館到着
奈良美智氏の作品「あおもり犬」

 以上、1泊2日をかけて青森の豪雪を楽しむ行程を楽しんできた。青森はあらゆる食べ物がおいしく、首都圏では体験できないような豪雪という非日常を味わえる。新幹線に乗れば東京駅から3時間弱、飛行機ならば搭乗時間は羽田から約1時間。新青森駅や青森空港ではレンタカーも充実。もちろん、レンタカーはスタッドレスタイヤは標準装備で、4WD車も多数揃っている。ぜひ一度、雪国ドライブと秘湯巡りを楽しむべく、真冬の青森へお越しくださいませ。

青森の生活にもベストマッチなガリットG5。気温があまり下がらない青森では路面の水分が多く、これがスリップの原因だが、ガリットG5の表面を触ってみるとなんだかサラッとした感じ。吸水性も抜群なんだろう

木暮祐一

モバイル研究家 青森公立大学経営経済学部 准教授
1967年、東京都生まれ。大学在学中の1988年に自動車電話に魅せられ、以後モバイル業界動向をウォッチ。2000年にはアスキーで携帯電話情報ニュースサイトを立ち上げ同編集長。のち、モバイルコンテンツ業界を経て大学教員に転進。2013年より青森公立大学経営経済学部地域みらい学科に着任。モバイル業界動向、関連ビジネス動向、ユーザー利用動向などに関して著述や解説を行う。現在、インターネットニュースサイトRBB TODAYに『木暮祐一のモバイルウォッチ』を連載中。 1000台を超えるケータイのコレクションも保有している。