オグたん式「F1の読み方」

2016年のF1がスタート。メルセデスの強さが目立つ展開に

 2015年は、F1もちろん見ていたものの、国内レース、WEC、北米のレースなどいろいろなレースやシリーズを見ることにもより力を注いでいた。それでこのコラムは長期休業になってしまっていた。でも、おかげでより広い視野と考え方でF1を見て読み取ることもできるようになったと思った。そこで、またこのコラムを晴れて再開できるようになった。長い休暇になってしまったことをまずはお詫びします。

 さて、2016年のF1が始まった。開幕前のテストから予想されていたように今年もメルセデスの強さが目立つ展開となった。

メルセデスの強さとそれを保証する環境

メルセデスチーム

 メルセデスチームは開幕前のテストから好調だった。今年はのべ8日間のテスト期間で、メルセデスチームは最長の6024kmを走っていた。走行距離の2番手は4883kmのトロロッソで、3番手は4148kmのフェラーリだった。以下、ウィリアムズが3905kmとザウバーが3901kmだったが、ザウバーは前半の2日間は旧型車だった。レッドブルがそのあとに3801kmでつき、さらにフォースインディアが3626kmとルノーが3612kmの僅差で続いた。走行距離3000km台はマクラーレンの3305kmまでで、マナーとハースはそれぞれ2253kmと2206kmの2000km台にとどまっていた。

 ラップタイムではフェラーリとフォースインディアの速さが目立ったが、それは柔らかめのタイヤによる予選想定ラップのものだった。一方、メルセデスは柔らかいタイヤでのタイムアタック合戦には乗らず、堅実にテストプログラムと走行距離を重ねる方法に徹していた。それでも、柔らかめのタイヤで予選想定アタックをしたフェラーリやフォースインディアのタイムに迫る速さを見せていた。この時点で今年もメルセデスは強いだろうと思われた。そして、シーズンがあけるとその想像はやはり現実になった。

 一方、フェラーリはパワーユニットやサスペンションを見直すなど、マシン全体を大幅に改善してきた。これが功を奏して、昨年よりもメルセデスとの差は縮まった。だが、メルセデスの対抗馬になるにはまだ足りず、「確実な2番手」という速さになっている。ところが、パワーユニット周りの信頼性に問題があり、開幕戦ではライコネン、第2戦ではベッテルがトラブルでリタイヤになっている。複雑なパワーユニットを大幅に改修したことで性能は上がったものの、そのぶん信頼性では課題が残ってしまっているようだ。

 おそらく今シーズンのメルセデスの優位は変わらないだろうし、フェラーリの地位は信頼性確立しだいだが、それでも2番手というところだろう。

 なぜ開幕直後の段階でこんな興ざめなことを言ってしまうかというと、それは今のF1がそういう制度になってしまっているからだ。

 エンジンとハイブリッド装置で構成されるパワーユニットの改良のためには、部品の設計や仕様の変更が必要となるが、その変更を行なうには変更箇所に応じてトークンを払わなければならない。今年のトークンの枚数は各メーカーとも32枚までで、これではエンジンやターボチャージャー、排気で発電するMGU-Hやハイブリッド装置であるMGU-K、ES=エナジーストレージ(バッテリー)などすべてを一新できない。つまり、昨年のものをベースに部分的な改良しかできない制度になっている。これでは、他が改良してメルセデスに追いつこうとしても、できることには制限が課せられてしまう。それを迎え撃つメルセデスは、前年強かったパワーユニットを部分的であってもさらに改良して、性能をより高められる。こうして前年の段階ですでに別格の性能を誇っていたメルセデスのパワーユニットを他が追い越すことは不可能になってしまう。

 このトークン制度は来年から撤廃されることになっている。だから、来年になればパワーユニットの開発制約が解消されて、うまくやればこのパワー格差をなくしてメルセデスを打ち負かすメーカーが出てくるかもしれない。でも、メルセデスがこれまで蓄積してきた技術力を一朝一夕で崩すのはそう簡単ではないだろう。開発という作業は時間を要するものだからだ。

 メルセデス優位が続く現状では、レースの勝者を占うという点では「つまらない」という声もあり、それには一理ある。だが、ここでひとつ付け加えておきたい。それは、F1にはマシンやパワーユニットの開発の要素がある以上、努力して開発を正しい方向に導いて、速くて強いマシンとパワーユニットを創り上げてきたチームとメーカーは賞賛されるべきであるという点だ。1988年にマクラーレン・ホンダは16戦15勝し、やはりヨーロッパでは「レースをつまらなくさせる」と非難された。しかし、当時のマクラーレンもホンダもドライバーたちも最善を尽くしていたし、それに見合う結果が圧勝だった。メルセデスの圧勝もまた同じ。ただ、今年まではトークン制度で他メーカーの逆転のチャンスをやや縛ってしまっているのが、1988年とは異なるところではあるけれども。

 しかし一方で、現在の技術レベルでトークン制度もなく1980年代のように自由奔放に開発競争させたら、莫大な開発費用を注ぎ込む資金注入競争になる恐れもある。

 開発の魅力を残すのか? それともチームやメーカーが参戦継続できるレベルのコストにとどめるべきなのか? これはまだ答えが出ていない。でも、すでに車体開発でも高コストになってしまい、ドライバーに多額の持参金を要求するレベルになっていることも事実。これを考えると、現代のF1はどこかで上手い線引きが必要なところだ。これは現在まだ考慮中の2017年規定とともに、また近いうちに考えてみたい。

ゲインをみせたマクラーレン・ホンダ

2年目の挑戦となるマクラーレン・ホンダ

 マクラーレン・ホンダは1年を経て、確実な進歩をみせてきた。昨年の開幕前テストではトラブル続出となり、ほとんどまともに走れないまま開幕を迎えた。そして大惨敗だった。

 昨年の苦戦のなかで、ホンダの新井康久 前F1プロジェクト総責任者は記者会見などで「ゲイン(進歩)が見えた」として、技術的には進歩があったことを語っていた。だが、昨シーズンはそのゲインをレース結果にはあまり反映できないままで終わってしまった。その原因には極端に制限されたトークン制度によって、つぎつぎと改良を投入できなかったという部分もあった。

 しかし、今年は前述の通り開幕前テストで3305kmも走ることができた。これだけでも大きな進歩だったし、パワーユニットも出力が前年よりも向上したという。まだメルセデスやフェラーリといったトップグループには追いつけないが、中段グループでは戦えるようになった。これらは、昨年の開発の成果がやっとモノとして投入され、走行結果に反映されてきたと言えるものだった。

 たしかに「ゲイン」はあった。このように開発が結果として現れるには時間がかかる。ましてや表彰台の常連となり、勝てるようになるにはもっと努力と時間が必要となる。しかも、今年はまだトークン制度の制約もある。

 今年からロータスを買い取ってルノーがワークスチーム体制で復帰しているが、その発表の席でルノーのカルロス・ゴーンCEOも「3年はかかるだろう」として、お得意のすぐに結果を求めるということはせずに、長い眼で見守ることを言明したほどだ。

2016年シーズンはルノーがF1に復帰した

 パワーユニットをよりコンパクトにまとめて、車体全体の性能向上に寄与させるマクラーレンとホンダのやり方は他とはまったく異なるもので、開発にはより多くの困難がともなうし、リスクもともなう。が、この独創的な手法がよい方向に動きだしたら、今度は他が追従できない技術となって優位ができる。これはホンダの技術者たちの伝統的なやり方でもあり、80年代のターボエンジン時代にホンダが大敗から圧勝に転じられたのも、こうしたやり方のおかげだった。

「やらまいか!(やってみなければ分からない。だからこそやってみようよ!)」とは、ホンダの創業者・本田宗一郎さんお得意の言葉と姿勢だった。今のホンダのF1技術者たちもまさにこの段階でいろいろな「タマ(ホンダで言うアイディアのこと)」を出しているところだろう。

「レースに出るからには勝つ」という目的と「勝った技術をもとによりよい製品を創り人々に貢献する」という目的がともにあることも、ホンダの技術者たちが創業者の時代から受け継いできたものだ。そして、より小型高効率なエンジンを実現するダウンサイジングターボ技術と、より高性能なハイブリッド技術の実現に密接な関係がある現代のF1のパワーユニット開発では、メルセデス、ルノー、フェラーリ(フィアット)もホンダとほぼ同じ思いで、激しく技術力を競っている。ただ、今のホンダは昨年参戦してきたばかりのまだ発展途上の段階なので、それにかつての「マクラーレン・ホンダ」の甘美な思い出を重ねて、すぐに優勝などの結果が出ることを求めるのは性急すぎだ。あと1~2年か2~3年は長い眼で成長を見守ることが必要だろう。

 第2期と呼ばれた80年代のホンダのV型6気筒ターボも、最初の83年は惨敗だった。ウィリアムズ・ホンダでコントラクターズチャンピオンを獲るまでに3年、同チームでダブルタイトルを取るまで4年、マクラーレン・ホンダで16戦15勝するには5年もかかっていた。このことを思い出せば、たとえ素材や研究開発ツールの進歩があったとはいえ、現代のより複雑な装置となったパワーユニットでありながらテストや改良に大幅な制約があるなかでは、研究開発の作業は80年代よりももっとタイヘンなものとなり、もっと時間も必要になるだろう。

 そんな現代のF1の状況を考ても、今年は昨年の同時期とはうってかわって開幕戦から中段グループに進出して、第2戦で早くもポイントを獲得できたのは、マクラーレン・ホンダは昨年から大きなゲインを示せていると言える。

アロンソの欠場と新星バンドーンの活躍

第2戦バーレーンGPを走行するストフェル・バンドーン選手

 マクラーレン・ホンダのフェルナンド・アロンソは、開幕戦でのマシンを大破するクラッシュから第2戦の参戦にドクターストップをかけられてしまった。参戦へ働きかけていたチームとアロンソにとっては残念なことだっただろう。だが、アロンソの健康と安全を考えればこのドクターストップは妥当だった。肋骨を傷めて、肺にまで損傷が及んだ状態では、万全な状態ではなく、より体調がよくなってから参戦したほうがよりよい戦いができるからだ。

 また、アロンソのクラッシュは、50G近い衝撃だったというニュースもあった。この数字はどこでどのように計測されたのかにもよるが、FIAのシンクタンクであるFIAインスティテュートの定義によれば、50Gは脳震とうを発症するレベルの衝撃となる。脳震とうは頭を打つだけでなく、頭を振られて頭のなかの脳神経が振られただけでも起きる。アロンソは昨年の開幕前のテストでのクラッシュでもドクターストップがかっていた。それから1年あまりは経ったが、また開幕戦のクラッシュで激しいショックを受けている。これでまた激しいクラッシュで衝撃を受けると、重篤な脳障害に陥るリスクが大きくなる恐れが増すかもしれない。こうした面からも少し休養期間を置かせるドクターストップは妥当な判断だったと言えるだろう。

 一方、このアロンソの欠場によって、リザーブドライバーのストフェル・バンドーンが第2戦で代役デビューした。予選ではわずか0.064秒ながらもジェンソン・バトンを上まわる速さをみせ、決勝では10位に入り、デビュー戦初入賞、チームの今季初ポイントを記録する活躍をした。

 バンドーンは今年、スーパーフォーミュラにDOCOMO TEAM DANDELION RACINGからフル参戦する予定で、バーレーンGP前も岡山国際サーキットでの開幕前テストに参加していた。ただ、水曜日に岡山入りした段階で、テスト初日の木曜日の走行を終えたらバーレーンに向かうことを決めていた。かなりハードな移動だったが、その努力は結果と入賞ポイントとして残ることになった。

 バンドーンが今年フル参戦するスーパーフォーミュラは、F1をしのぐコーナリングスピードがあり、予選で1秒差に10台以上がひしめく接戦の連続となる。また、クラッチ操作やタイヤのマネージメントなど、あえてドライバーの役割を大きくするようにしてドライバーの勝負の要素を強くしている。これがF1とは大きく異なるところで、昨年初参戦した小林可夢偉も「思った以上に難しかった」と感想を述べたほど。一方で、今年からタイヤがブリヂストンのPOTENZAから横浜ゴムのADVANに変わり、これまでドライバーやチームが蓄積したデータや経験はリセットされたので、新規参入するバンドーンにはチャンスとも言える。F1デビュー戦で鮮烈な入賞を果たしたバンドーンが、全日本スーパーフォーミュラ選手権でどんな戦いを見せてくれるのか? 開幕戦は鈴鹿2&4。4月23日予選、24日決勝だ。

迷走する予選制度

第2戦バーレーンGPのスタートグリッド

 今年のF1では、車両に関する技術規則は大きく変わらなかったが、競技規則での目立った変更があった。なかでも予選方式は大きく変わったのは、みなさん御存知の通りだと思う。

 簡単に記すと開幕戦での新予選方式はこんなものだった。

Q1(16分間):スタート7分後から90秒ごとに最も遅いドライバーが落ちる。

7人が落ちて、15人が残る

Q2(15分間):スタート6分後から90秒ごとに最も遅いドライバーが落ちる。

7人が落ちて、8人が残る

Q3(14分間):スタート5分後から90秒ごとに最も遅いドライバーが落ちる。

 最後の1分30秒で、残った2人によるポール争い(を期待する)

 これは、予選が始まってもなかなかコースに出てこないドライバーやチームが多いことから、予選の各セッションで序盤から走らざるを得なくすることを主目的にしたルールだった。その導入目的にかない、各セッションとも序盤から積極的にドライバーたちがタイムアタックに出るようになった。しかし、各セッションの序盤にタイムを出してしまうと、多くのドライバーはピットに戻ってしまい、セッションの終盤は走らなくなってしまった。結果、とくにQ3はチェッカーフラッグが提示される最後の周回でのタイム更新合戦という面白さが消えてしまい、残り2分くらいは全車がピットでのんびり過ごす間の抜けた時間になってしまった。

 また、この方式では思わぬところで予選落ちが起きて、スターティンググリッドの並び方に変化が起きることも期待されていたが、実際にはあまり大きな変化は起きなかった。

 間の抜けた感じの終わり方になった予選に多くが違和感を覚え、多くの非難が出た。だが、これはやる前から予想がついていた。予選で使えるタイヤのセット数が増えなければ、「先に出ずに後でアタックする」ものが、「先に出てアタックする」ということに変わるだけになることが想像できたからだ。このことは、開幕前に秋葉原でやったトークイベントで浜島裕英さんがすでに述べていたし、同席していた松田次生さんも、筆者も同じ考えだった。

 しかも、テレビで観戦する人には画面上の表示があるからまだ状況を把握しやすいが、サーキットに来た人が大型モニターがない席で、タイミングアプリなどもない「シンプルな観戦体制」では、なにが起きているのかかえって分かりにくくなり、各セッションとも、とくにQ3は後半になるにつれて、コース上は寂しい状態になってしまうことも、筆者たちにも予測できることだった。

 この新方式は開幕戦で1回運用されただけでお蔵入りになる方向に動いていた。しかし、第2戦でもこの予選方式は復活して実施された。理由は、開幕戦での失敗と非難を受けてすぐに変更・修正するのは、あまりに性急な対応だからというものだった。一方で、第3戦からは新たな予選方式を考案して導入しようとしている。

 でも、大きく変えるのではなく、昨年までの予選方式をほんのちょっとだけ変えれば面白そうなものができるはずだ。それには、下記のスーパーフォーミュラの方式がよい参考になる。

Q1=20分間で14台に絞る
Q2=7分間で8台に絞る
Q3=7分間で進出8台全車によるポール争い

 Q1の時間が長いのは、スーパーフォーミュラでは予選中にセットアップの変更が可能なルールのためで、そのチューニングのための作業時間と、路面が好転するのを待つ「出待ち」の駆け引きの時間にもなっている。予選で最初にピットを出た時点でセットアップ変更ができなくなるF1のルールならセットアップ変更の時間は不要なので、Q1の時間を15分前後にすれば、「出待ち」の駆け引きと動きがある時間の演出もできるかもしれない。

 一方、スーパーフォーミュラのようにQ2、Q3の時間が短いと、セッション開始の「出待ち」と「様子見」の時間は1分くらいしかとれず、セッション開始直後から積極的にアタック合戦に出るしかない。そして、セッション終了間際はタイム更新合戦となってとてもエキサイティングな展開となっている。

 また、スーパーフォーミュラでは、セッション終了間際の各車アタック中の黄旗は即赤旗にし、その場合には残り1アタックができる時間(通常3分)のセッション延長を設けるようにしている。こうすることで、予選の対決にはっきり決着が付くようにしている。(F1は決められた時間が来れば終了となり、延長はない)。

 F1が発案したQ1、Q2、Q3のやり方はなかなかよい方法で、それを導入させてもらってスーパーフォーミュラはさらに面白い展開方法を経験とアイディアから編み出した。今度は逆にF1もこのスーパーフォーミュラの方法を参考にしてもよいのではないだろうか?両シリーズとも同じFIAの統一規則にのっとったルールなので、ルールの応用や導入もしやすいはず。互いのよいところを参考にしあってともに進歩を続けるのは、安全対策ではF1とインディカーやNASCARなど北米のレースでやってきている。競技の運営方式では、日本とも同様なやりかたをしてもよいのではないか?

 そもそも、混乱のもととなったF1の新予選方式の変更は、テレビの前やサーキットにお越しになったお客様により楽しい予選を見てもらいたいという思いから始まったはず。ならば、より広い視野で他のシリーズのやり方を参考にするのは、「お客様にとってよいことをした」ということではあっても、どこかのまねをしたからプライドが傷つけられるというものではないはずだ。

 F1には素晴らしいドライバーとチームとメーカーが集まっているし、それだけで多くのファンとスポンサーを呼び込めるほどの立派なステイタスがまだ十分ある。より速く、より強くなるためにはみなルールが許すなかでならなんでもやるし、互いに参考にしあってきた。ならば、イベントをより魅力的にしてお客様により楽しんでいただくためにも、なんでも参考にして、なんでもやるべきではないだろうか。

小倉茂徳