岡本幸一郎、オールシーズンタイヤではじめての雪道体験

このところいくつかのメーカーから出てきたオールシーズンタイヤ。北米ではM+Sタイヤ、欧州ではオールウェザーや4シーズンなどとも呼ばれるが、特に欧州においては、冬には冬用タイヤを装着することが義務づけられたこともあって、オールシーズンタイヤがとても人気になっている。

一方で日本国内に目を向けても、近年、首都圏や山陰地方など、これまであまり雪が降らなかった地域でも、急な大雪に見舞われることがあって、がぜんオールシーズンタイヤの注目度が高まっている。

実は筆者、まだオールシーズンタイヤを冬道で試したことがなかったのだが、本当に大丈夫なのか? 舗装路と冬道を両立できるのか? と正直、懐疑的に思っていた。そんな中、Car Watchからネクセンのオールシーズンタイヤのレビューで声がかかったので、これ幸いと引き受けることに。ただし、テストコースでガッツリと評価するわけではなく、試すのはあくまでリアルな公道で、一般的な使い方で大丈夫かどうかだ。

ネクセンタイヤのオールシーズンタイヤ「N’blue 4Season」を試すことに

いくらオールシーズンタイヤで氷雪路が走れるといっても、豪雪地帯に住んでいたり、ウインタースポーツをたしなむなど、氷雪路を走行する頻度が高い人ならば、やはりアイス性能に特化したスタッドレスタイヤを履くにこしたことはない。

しかし、ふだんはあまり雪が降らない地域で、しかもたとえばセカンドカーなどであればどうだろう。遠出はしないけど毎日の通勤の足に欠かせないとか、雪が降っても駅まで子どもを迎えに行かなければならない。2台ともスタッドレスタイヤだと、半年ごとの付け替えやメンテナンス、外した8本を保管しておくのも大変だ。雪が降ったときにちゃんと走れるのなら、たとえばセカンドカーだけでもオールシーズンタイヤにできれば、交換の手間もタイヤの保管場所の意味でもメリットが大きい。

むろん乾燥した路面や高速での走りは、スタッドレスタイヤよりもオールシーズンタイヤのほうが向いているし、長持ちすることはいうまでもない。

ドライもウエットも氷雪路も、一年中走れるオールシーズンタイヤの実力はいかに?

試乗車は日本一売れてる「N-BOX」。でもFF車で大丈夫?

そんなワケで、テスト用に使う車両は、軽自動車の中でもっとも売れてる(2018年度上半期)N-BOXをチョイスした。N-BOXなら4WDモデルもあるから安心だ。

筆者としては当然4WDを準備したに違いない……と思っていたのだが、編集部が用意したN-BOXはなんとFFモデルだった。非降雪地域では4WDを選ぶ人が少ないからあえてこちらにしたとのことで、たしかに納得ではあるのだが……。この日はテストのために雪山にいくというのに……、今日の取材、無事に終えられるだろうか? 一抹の不安を抱えつつの出発となった。

足元に装着しているのは、ネクセンのオールシーズンタイヤ「N’blue 4Season(エヌブルー 4シーズン)」。ネクセンタイヤは韓国のタイヤメーカーで、日本ではまだあまりなじみがないが、1942年創業で世界20カ国に35の拠点を持つ大手タイヤメーカーだ。ポルシェやフォルクスワーゲン、フィアット、三菱など17のメーカーでOEM(新車装着用)タイヤとして採用されていて性能は折り紙付き。実勢価格がリーズナブルなタイヤが多く、「N’blue 4Season」も、複数台所有の人にももってこいの製品だ。

2WD(FF)モデルのN-BOX。足元は「N’blue 4シーズン」で、軽自動車に多い155/65R14サイズ

実はオールシーズンタイヤと言っても広義で、中には浅雪程度にしか対応できないタイヤもある。しかしこの「N’blue 4Season」には、「M+S(マッド アンド スノー)」マークに加えて、雪道も大丈夫な証「スノーフレークマーク」が刻印されている。いわゆる「チェーン規制」と呼ばれる高速道路の冬用タイヤ規制下でも、スタッドレスタイヤと同様に通行できることも念を押しておこう。

トレッドパターンを見ると、センターから両サイドに向けてV字状のグルーブが配されているのが印象的。しかもけっこう深い。

ブロックを触ってみると、ゴムはそれなりに柔らかいものの、発泡系コンパウンドを用いたスタッドレスタイヤのような柔らかさではなく、しっかりとしていてしなやかな、柔と剛の両面を兼ね備えた感じがする。

編集担当、カメラマンと合流し、当日の天気予報と交通情報を確認。前夜からの雪でチェーン規制の出ていた長野の蓼科方面を目指すことにした。

回転方向指定パターンのN’blue 4シーズン。太めのミゾがしっかりと雪をつかんでいる

N’blue 4シーズンのロゴ

M+Sの文字の右側にあるのがスノーフレークマーク。これは世界最大の標準化・規格設定機関である「ASTM」が認証した印

V字型のグルーブはシャーベットやウエットでの排水性に効く。センターブロックにはスタッドレスタイヤのように細かなサイプが刻まれていて、冬に強そうなのが見て取れる

スタッドレスタイヤと比べると太くて深い溝が特徴的

夏でも冬でも安定した性能を両立するためのトレッドパターン。センター部分のサイプは3Dサイプにすることで剛性をアップしている

スタッドレスタイヤと比べるとコシがあるが、低温下でもしなやかさを失っていないコンパウンド

N’blue 4シーズンの位置づけ。冬用タイヤ規制でも走ることができるのがポイント

高速道路ではしっかりとしたハンドリング

まずは、高速道路を100kmあまり走ってみたところ、夏用のオンロードタイヤと同じような感覚でドライブできることを確認。剛性感に不安はなく、直進安定性は十分で、ステアリングの切り始めの微小舵域でも応答するし、レーンチェンジでヨタヨタすることもなく、なかなかよい印象だ。

純正タイヤと比べるとややパターンノイズが大きめな気はするが、高速になれば風切り音なども大きくなってくるので、それほど気にならない範囲だ。

高速道路を下りて一般道へ。すると、50~60km/h程度で走ったほうが、風切り音等でかき消されないせいか、むしろノイズが気になるように感じたのだが、それほど騒々しいわけではないし、そもそも静粛性を売りにしているタイヤではないのでヨシとしよう。

そんな感じで、ドライ路面での走りに大きな問題はナシ! つかみは概ねOK! ということで、いざ雪の山道へ。

中央道を使って長野方面を目指す

しっかりとした手応えと剛性感で高速道路でもまったく不安は感じない

周囲に雪が見えてきた。パターンノイズは少し大きめだが、高速だと風切り音も大きくなるのであまり気にならない

まだ山に登る前だが、すでに外気温はマイナス4℃

ここからチェーン規制の文字。もちろんN’blue 4シーズンなら問題ナシ

いざ雪道!! 第一印象は「けっこういける」

季節は冬の終わりのころ。ちょうど前の晩に降った雪が路面を覆っている。日当たりのよい場所ではすでに雪が溶けはじめた箇所もあれば、標高が上がったところでは凍結している箇所も残っているという難しい状況だ。

標高が上がり始めると、路面に徐々に雪がが現れはじめる

さらに登ると風景は一転。もはや夏タイヤではぜったいに走れないシチュエーション

そんな路面を走ってみた掛け値のない第一印象は、「けっこういける」

さすがに、もっとも滑りやすいといわれる、氷が溶けかけた箇所では滑るが、これぐらいなら大丈夫だと思える範囲。ひっかく力は十分に持っていて、圧雪路ならスタッドレスタイヤに近い感覚で走ることができた。

具体的に述べると、縦方向のグリップはけっこうある。アクセルを踏み込んでも思ったほどスリップすることもなく、ブレーキングもわりと止まる。

対する横方向のグリップは、30km/h程度までの低速なら大丈夫だが、車速を上げていくとだんだんステアリング操作に対する応答遅れが大きくなっていく。そこはさすがに精一杯というところか。

ただし、縦があって横がイマイチなら、ちゃんと止まれて進めるのだから、気をつけていれば大丈夫ということだ。

コーナーでは、自分のクルマが履いているのはオールシーズンタイヤなんだと肝に銘じて、しっかり車速を落とせば安全に走れるということ。今回のテーマのような使い方ではしっかり役目をはたしてくれるわけだ。

日が当たって溶け始めた滑りやすいカーブも、余裕を持った速度で走っていればまったく問題のない

圧雪路ではほぼスタッドレスタイヤと同じ感覚で走ることができた

特に縦方向のグリップがしっかりしているので、走っていて安心感がある

ついにスタック……、だがしかし!!

途中で立ち寄った駐車場で、奥の方に長らくクルマが入っていない、深々と雪の積もったエリアがあった。普通であればわざわざ入りたくもない場所だが、オールシーズンタイヤの限界を見るにはおあつらえ向き。

雪が積もったあと、まだだれも足を踏み入れていない駐車場を走ってみる

雪面にはっきりと残ったトレッドパターン。きれいなパターンが残るのは雪をしっかりつかめている証

奥の方に行くと思っていた以上に雪が深い

事前の心配をよそに亀の子になりそうなほどの深雪でも走れてしまった

すぐに動けなくなるかと思ったが、意外にも走れてしまった。あまりに普通に走れてしまうので、調子にのって奥まで進んでみたところ、表面上は同じように見えたものの、実はさらに雪が深くなっていて、最後はずっぽりとタイヤが埋まって動けなくなってしまった。

クルマから降りてみると、新雪のたくさん積もった下が凍っていて、そこが崩れてツルツルになっていることが判明。さてどうしようか……?

実は今回、いくらスノーフレークマーク付きのオールシーズンタイヤとはいえ、状況によってはダメかも……、という可能性は考慮していて、いざという時のためにスタッドレスタイヤを履いたSUVで伴走し、さらにチェーンやスコップ、牽引ロープなど、スタックに備えた準備を万全にしておいた。

なので、いざとなればなんとかなるわけだが、まずは落ち着いて、自力でどこまでできるかチャレンジしてみることに。

ただ前に進もうと思っても滑るだけで動かないので、クルマを前に後にと、短いスパンで交互に何度か動かしてみる。するとだんだん周囲の雪が踏み固められてグリップするようになり、最後は自力だけで脱出できてしまった!

調子にのって走っていたら最後は動けなくなった。スタッフが助けに入ろうと思ったが、クルマを前後に細かく動かすことで自力で脱出できてしまった

もちろんスタッドレスタイヤでもスタックすることはあるので、絶対に大丈夫ということはないのだが、いい意味で予想を裏切ってくれた。2WDでもなんとかなったのだから、4WDだったらぜんぜん問題なく走れたはずだ。

さらに少し移動して、ところどころ舗装も見えていて、奥は圧雪で手前は溶けてシャバシャバになっていて、途中には深い轍や雪のカタマリがあるような場所も走ってみたが、概ね問題なく走り切ってしまった。

ただし、轍ではややステアリングが取られやすいことがやや気になった。それが他のタイヤでもそうなのか、このタイヤが持つ特性なのかはわからないが、ステアリングが取られるということは、それだけグリップしているということの表れでもある。

深く積もった後に、何台かクルマが通ったような道。軽自動車のN-BOXとはトレッドの幅が合わないせいもあって轍が気になったが、しっかりとグリップできている証拠だろう

クルマが路面と接しているのはハガキ4枚分と言われるが、ましてや軽自動車ではもっと小さくないわけで、そこでいったいどんなことが起こっているのかとつくづく思う。とくにオールシーズンタイヤは、舗装路から雪や氷まで対応できる幅に広い性能が求められるわけで、それを巧みにやってのけている技術はすごいなと感心せずにいられない。

そんなわけで、むろんスタッドレスタイヤとまったく同じように走れるわけではないが、丸一日、雪の積もった蓼科を、伴走車のチカラも道具のチカラも借りることなく走り切れてしまったのだから、これだけ走れれば十分ではないか思った次第。

もし突然の降雪があっても、滑って帰ってこられないとか、目的地にたどりつけないということはなくなるはず。年に2~3回の雪のために、セカンドカーにまでスタッドレスタイヤを買うべきか悩んでいる人は、オールシーズンタイヤ「N’blue 4Season」を履かせてみてはいかがだろうか? 備えあればうれいナシだ。