東京モーターショー2015

ヤマハ、“ロッシ超え”を目指す人型自律ライディングロボ「MOTOBOT Ver.1」披露

4輪コンパクトスポーツと大排気量スリーホイーラーも世界初公開

2015年10月30日~11月8日一般公開

ヤマハが公開したオートバイの自動運転を行う人型自律ロボット「MOTOBOT」

 ヤマハ発動機は、10月28日から開催されている「第44回東京モーターショー2015」で、ワールドプレミア6車種とジャパンプレミア1車種の他、オートバイの自動運転を行うロボット「MOTOBOT」などを公開している。

プレスブリーフィングで登壇した同社代表取締役社長の柳 弘之氏。人と機械を高い次元で一体化させたヤマハらしい物作りの思想を「人機官能」という言葉で表し、そのエッセンスが展示している全ての製品に組み込まれていると話した
プレスブリーフィングのオープニングは、「project AH A MAY(プロジェクト アーメイ)」の活動で生み出されたドラムス「RAIJIN(God of the Thunder)」やマリンバ「FUJIN(God of the Wind)」による見事なデモ演奏から始まった

人類を超越するサーキットタイムを目指す、自律走行ロボット

アンベールされるMOTOBOT

 プレスブリーフィングで最大の関心の的となったのは、オートバイを自動運転する人型自律ロボット「MOTOBOT(Ver.1)」だった。「YZF-R1M」にまたがった青い前傾姿勢の人型ロボットは、「(MotoGPライダーの)バレンティーノ・ロッシを超える速さ」を目指して開発され、搭載した内蔵バッテリーとコンピューターによってアクチュエーターを制御し、アクセル、前後ブレーキ、クラッチレバー、シフトを自動で操作して自律走行するようプログラムされている。

 スタート時は人力で立たせる必要があるが、一度走り出せば5km/h~120km/hで走行でき、直線だけでなくスラローム走行も可能。低速走行時や停止時は補助輪が展開する仕組みになっている。可能な限りオートバイ自体には手を加えず、他車種にも応用できる高い汎用性をもたせることもコンセプトの1つとしており、将来的には200km/hを超える速度での自動サーキット走行、そして人間をも超越するライディングスキルの獲得を目指す。

常に前傾姿勢で走行する

 現在可能なのは、走行に必要な基本的な操作に限定されているが、担当者いわく「ここまでは意外に簡単だった。開発スタートから9カ月ほどでできあがった」とのことで、今後は体重移動の機能や人工知能の搭載、ロッシ選手の走行データを元にしたパフォーマンスの検証など、さまざまな検討・改善を施してバージョンアップを重ねていくとしている。

制御用のセンサーやコンピューターを搭載
リアブレーキやシフトはロボットの足に当たるパーツで包み込むようにセットされている
フロントブレーキとクラッチレバーは“1本がけ”
MOTOBOT Ver. 1 / To ”The Doctor” 親愛なるロッシへ

MT-09のスリーホイーラーバージョン「MWT-9」

 スリーホイーラーの新型「MWT-9」も初お目見えとなった。同社は125ccの“リーニングマルチホイール”「TRICITY」を2014年に市販化しているが、「MWT-9」はそのノウハウを受け継いだ、3気筒846ccエンジンを搭載するMT-09の系譜に加わるコンセプトモデルだ。

「MWT-9」
圧倒されるような大きなフロント
独特な形状のパイプフレーム

 2つの前輪はそれぞれ2本のフォークで支えられ、威圧感のあるフロントマスクとタンク周りを演出。そこから後方に向かってぐっと絞られるようにシートが形作られ、続くリアは通常のオートバイとさほど変わらない造形になっている。

左右の車輪を2本ずつのフォークで支える。ちなみに2本としているのは回り止めのため
ハンドルまわりもボリューム感がある
シート部分は逆にかなり絞り込まれている
リアまわりは通常のバイクとなんら変わりはない

 TRICITYはもとより、ピアジオやプジョーのスリーホイーラーも、日常の足となるコミューターの範ちゅうであり、同社としてはMWT-9を開発するに当たって「スポーツ性をいかに高められるか」にフォーカスしたとのこと。乗り手を「怖がらせない」コーナリング性能や、タイヤの高い路面追従性を実現し、バンク角も大きく取れるように設計。「2輪ならコーナーで修正しながら走るような場合でも、ビタッとスムーズに旋回できる」(担当者)とし、これまでの二輪では得られない安定した走りを実現するという。

オートバイや楽器をモチーフにしたコンパクトスポーツカー

SPORTS RIDE CONCEPT

 同社は4輪スポーツカーのコンセプトモデル「SPORTS RIDE CONCEPT」もアンベールした。オートバイのタンクやフェアリングをイメージしたような盛り上がりのある外装とサイレンサー、YZF-R1のフロントマスクを連想させるLEDヘッドライト、ドライバーシートの両足の間に設けられたタンク状のオブジェ、T-MAXのステップボードに似せたサイドガーニッシュなど、各部にオートバイをモチーフにした要素がちりばめられている。また、ヘッドレストの後部にあるスピーカーには、「サンバースト」と呼ばれる楽器に用いられるのと同じ表面処理を行っており、楽器も作っているヤマハらしさを随所に盛り込んだ。

各部に同社のオートバイや楽器をモチーフにした装備
ドアの盛り上がりはタンク、後部はそれをニーグリップする足の太ももをイメージし、肉感的なフォルムに
オートバイのようにブレーキディスクが目立つよう、あえてスポークを細くした。ただし「強度的には問題がある」とのこと
オートバイ用をイメージしたミラー
2014年型までのYZF-R1のようなマフラー
エージングレザーを多用したコクピット。サイドガーニッシュはT-MAX風
エアコンの吹き出し口と思われる部分はスロットルバルブをイメージしているのだろうか
ドライバーの足元にはニーグリップできそうなオブジェ
ドライバーシートのヘッドレスト両脇に見えるのはスピーカー。これにサンバーストと呼ばれる表面処理が施されている
SPORTS RIDE CONCEPTの骨格も展示

 4輪はもう1台、すでに北米などで販売が開始されているオフロード専用車「YXZ1000R」を間近で見ることができる。コクピット部分にあるメーターや、むき出しになっているエンジンは、ほとんどオートバイのものを流用しているかのように思えるが、いずれも専用設計。998ccの水冷3気筒エンジンを搭載する5速MT車で、ナンバー取得は不可能。残念ながら日本国内での販売予定はない。

北米市場などで販売が始まっているオフロード専用車「YXZ1000R」
オートバイ用のようなメーター
エンジンやサイレンサーもコンパクトでオートバイ用に見えるが、トランスミッションは一体化されておらず、座席下あたりに設置されているという

電動バイクのコンセプトモデル、後継は2輪駆動に

 2013年の東京モーターショーでも公開された電動バイクのコンセプト「PES1」「PED1」の後継、「PES2」「PED2」も注目のモデルだ。いずれも実走行可能な車両で、両者に共通のパワーユニットは前モデルから20%の出力アップを果たすとともに、各部レイアウトの最適化を施しているという。

「PES2」は軽快感のあるストリートEVバイク。今回から前輪にインホイールモーターを搭載し、2輪駆動化を果たした。2輪駆動によって特にコーナー脱出時のグリップ感が大きく向上しているとのことで、単なる電動スポーツバイクに止まらない楽しさを実現したとのこと。

ストリートEVバイク「PES2」
ユニークなスケルトンデザイン
前輪はインホイールモーターで駆動
後輪はベルトドライブとなっている

「PED2」は、オフロード向けとしていたPED1からややコンセプトを変え、マウンテントレール向けとした。一見同社の「SEROW 250」をほうふつとさせるシルエットからも、マウンテントレール車であることがよく分かる。電動モーターは低速域での繊細な制御がエンジンよりも得意であり、そういった点でもマウンテントレール向けであるとしている。こちらは通常の後輪駆動だが、市販化を見据え、各部にコストバランスを考慮した素材や汎用部品が採用されているところにも注目したい。

マウンテントレール向けのEVバイク「PED2」

電動アシストMTBのコンセプトモデルが登場

電動アシストのロードバイクとMTBも展示

 電動アシストロードバイクの「YPJ-R」の市販化を発表したばかりの同社だが、そのマウンテンバイク版となる「YPJ-MTB CONCEPT」を初公開している。YPJ-Rや街乗り用の電動アシスト車に搭載されているものよりもはるかに大きい400Wh容量のバッテリーを搭載し、「楽する道具から、楽しくスポーツする」アシスト自転車に進化させた。YPJ-Rと同様、モーターが内蔵されるボトムブラケット付近などを除き、多くの箇所で一般的な自転車用部品を利用できるため、ある程度カスタマイズを楽しめるのも特徴だ。

 オリジナル開発のアルミフレームは強度にこだわって設計しており、シートチューブをまたぎ、トップチューブへと至るシートステーを直線的なラインで形作ることで、強度を最適化しながら独自性のあるデザインを実現できたという。

「YPJ-MTB CONCEPT」
バッテリーは巨大なだけに、大容量400Wh
モーター部分の強度にもこだわった
直線的にトップチューブまで伸びるシートステー周りのデザインにも注目
「YPJ-R」
こちらのバッテリーは小さい
EVバイクと電動アシスト自転車にさりげなく挟まれているのは、同社の楽器サイレントバイオリンとサイレントチェロ。「音が出ない世界」を表現している

ソニーと共同開発の次世代VR型ヘルメット&ARグラス

次世代VR型ヘルメット&ARグラス

 車両とは別にアクセサリーの展示もある。ソニーと共同で開発を始めたばかりというコンセプトモデルのARグラスとVR型ヘルメットは必見のアイテムだ。ARグラスは、ソニーの透過式メガネ型端末「SmartEyeglass」をベースとしており、バイク用ナビゲーションシステムと連動して、風景や路面に方向指示表示などを重ねて見ることができる仕組みになっている。

ソニーの「SmartEyeglass」をベースにしたバイク用メガネ型端末

 一方、次世代VR型ヘルメットは、頭部はもちろん両目に至るまで完全に覆われる形とし、風景を内蔵ディスプレイで見ながらライディングできるというもの。外部のステレオカメラが捉えた映像が内部の小型ディスプレイに映し出されるようになっており、風景と同時にナビゲーションシステムの方向指示表示、危険物の認識と警告、ナイトスコープによる暗視、後方カメラへの映像切り替えなどが可能。「人間の視覚では捉えきれないものも認識可能になる」(担当者)としている。

次世代VR型ヘルメット
バイザーを外したところ
目に当たる部分にステレオカメラが埋め込まれている

 また、外部マイクで拾った周囲の音声を処理し、ヘルメット内部の耳部分にあるスピーカーから出力して聞けるようにすることで、遠くから近づいてくる車両の音、音の方向なども正確に把握できるようにする。もちろんこの内蔵スピーカーは音楽再生も想定している。担当者によれば、現在はこういった目を覆うタイプのヘルメットに関する規制が存在しないとしており、機器トラブル時やバッテリーが切れた時のような緊急事態における対処も含め、安全に最大限の配慮を払って製品化を目指したいと話していた。

スピーカーなどが外部に設けられている
オーディオ分野で競合しているソニーのロゴとヤマハの音叉マークが共存しているのは、なんとなく不思議な感覚
ウェアラブルデバイスも付属。これがオートバイの鍵にもなる、という想定

ワールドプレミアムモデル「Resonator125」などを展示

ワールドプレミアムの1つ「Resonator125」
至るところに楽器風の風合いが施されている
柳社長がプレスブリーフィングで「ノスタルジック感と現代感を融合させた」と語ったモデル。こういった魅力ある車種で「若者たちのインスピレーションを刺激していく」とした
ジャパンプレミアとなる「NMAX125」
低燃費とファンライドを両立する新世代のエンジン開発思想「BLUECORE」によるエンジンを搭載
最新型のYZF-R1ももちろん展示
ロッシ選手のMotoGPマシンにまたがれる
「MT-09 TRACER ABS」
「YZF-R3 ABS」
「project AH A MAY」で生まれた独創的な楽器やオートバイを間近で見ることも可能
ヤマハ発動機のブース

日沼諭史