CES2015
消費電力10Wで1TFLOPSの性能を叩き出すNVIDIAの車載SoC「Tegra X1」
クルマにTegraが複数載る未来をフアンCEOが描き出す。アウディのエレクトロニクス担当も能力に期待
(2015/1/6 00:00)
- 2015年1月4日開催(現地時間)
- 会期:2015年1月6日~9日(現地時間)
- 会場:Las Vegas Convention and World Trade Center(LVCC)、LVH、The Venetian
NVIDIAは1月4日(現地時間)、デジタルコクピット・自動運転の構築を容易にするモバイル・車載用SoC(System on a Chip)「Tegra X1」を発表した。同日米国ラスベガスにおいてプレスカンファレンスを開催。NVIDIAのCEO兼共同創立者であるジェンスン・フアン氏は、Tegra X1が切り開く未来について紹介した。なお、Tegra X1の仕様などは、別記事を参照していただきたい。
プレスカンファレンスは、昨年同時期に発表された「Tegra K1」の紹介から始まった。Tegra K1は同社のモバイル・車載用SoCとして初めてデスクトップPC用GPUと同じKeplerアーキテクチャを採用。192のCU(CUDA[Compute Unified Device Architecture]ユニット)をGPUとして持ち、同社の統合開発環境であるCUDAの利用を可能とすることで、高度な画像解析を容易に実現できるSoCとして登場した。Tegra X1は、GPUとしてはKeplerアーキテクチャの次の世代となるMaxwellアーキテクチャを採用したCUを256搭載。同じチップ内に64bitのCPUを8つ(64bit A57コア×4+64bit A53コア×4)搭載したSoCとして新たに登場した。
その能力は驚異的で、グラフィックス性能ではTegra K1の2倍に達し、処理能力あたりの電力効率もよいという。比較として示されたのは、コンシューマゲーム機であるマイクロソフトの「Xbox One」。最新のグラフィカルなゲームプラットフォームプログラムを動かすのに、Xbox Oneが100W程度消費するのに対し、Tegra X1は10Wですむという。それでいながら、半精度浮動小数点(FP16、単精度はFP32)の演算性能はで1T(テラ)に達し、15年前に世界で初めて1TFLOPSを実現したスーパーコンピュータ「ASCI Red」を上回るとのことだ。ちなみにこのASCI Redの消費電力は500kWで、床面積約150m2となり、15年のスーパーコンピューティングの進歩をTegra X1は象徴する製品といえるだろう。
この高い演算性能と低い消費電力がもたらす未来として、ジェンスン・フアン氏はクルマの車内を挙げた。将来のクルマの車内は、現在の飛行機のように各座席にエンタテイメントシステムが装備され、2018年にはパネル3枚で660万ピクセル、2020年にはパネル7枚で2000万ピクセル以上のドライブ能力が必要になるという予測を挙げる。その解決のためにNVIDIAが提供するソリューションがTegra X1を1基搭載する「NVIDIA DRIVE CX」で、これより1660万ピクセルの演算能力を提供、高度なIVI(In-Vehicle Infotainment)や、デジタルメーターパネルに代表されるデジタルコクピットを実現する。
デジタルコクピットについては実際にデモが行われ、Tegra K1よりも進んだ描写を実演。とくにデジタルメーターパネルでは、メーター指針基部の描写、文字盤のテクスチャ表現が進化している様が見て取れた。中央部には、キドニーグリルを持つクルマが描かれ、ボディーへの映り込みも表現されていた。TegraシリーズはBMWのi3などに採用されており、そういった意味でのキドニーグリル車なのだろう。
そしてプレスカンファレンスで最後に発表されたのが、Tegra X1を2基搭載する「NVIDIA DRIVE PX」。この処理性能は2.3TFLOPSに達するとし、12のカメラ入力、1.3Gピクセル/sの処理能力を提供する。主な用途として想定しているのが、自動運転やADAS(Advanced Driver Assistance Systems、先進運転支援システム)。2014年のGTCでフアン氏によって示された、機械学習(Machine Learning)によるディープニューラルネットワークを構築でき、単に自動車というオブジェクトを認識するのではなく、SUVや乗用車(Passenger Car)、トラックという認識までも実現していく未来だ。その中では、後方から迫るパトカー(Police)の認識もデモされ、ちょっとした盛り上がりを見せていた。ディープニューラルネットワークについては、GTCでデンソーなどがTegra K1でのデモを行っており、そちらを参照していただきたい。
●【GTC2014】デンソーがディープニューラルネットワークとTegra K1を使った歩行者認識をデモ
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20140417_644713.html
●GTC2014】NVIDIA、基調講演でCUDAを自動車にもたらす開発キット「JETSON TK1」の提供開始など発表
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20140326_641290.html
この映像認識はADASの分野になるが、もう1つのデモとして行われたのが周辺を4つのカメラで認識する「Surround Vision」と、その認識結果を使って自動駐車を行う「Auto-Valet」。これは実車の映像ではなくCGを使って行われたが、周囲の映像から特異点を抽出。特異点から3Dマッピングを行い、走るべき経路を決めていた。特異点の基本的な抽出ロジックはTegra K1時点でライブラリ提供されており、Tegra X1での進化点が気になるところだ。
●【GTC2014】車載動画からリアルタイム3Dマッピングデータを作り出す「Tegra K1」のコンピューティングパワー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20140402_642344.html
このNVIDIA DRIVE PXのパートには、独アウディの電装/電子回路担当チーフ・エグゼクティブ・エンジニアであるリッキー・フーディ(Ricky Hudi)氏が登場。Tegra X1への期待を述べていた。アウディは、Tegra K1を使用した自動運転モジュール「zFAS」を昨年のCESで発表しており、Tegra X1での展開が気になるところだ。
NVIDIAが凄いのは、単に高度な能力を持つ半導体を作り上げるだけでなく、それを活かすCUDA開発環境や、組み込みやすいパッケージを構築しつつあることだ。今回の発表においては自動駐車のシステム開発環境として、NVIDIA GTX 980×5を用いて、リアルな仮想世界を構築。それをカメラ映像としてNVIDIA DRIVE PXに入力し、その制御信号出力をGTX 980×5にフィードバックして仮想世界を変化させていくという構想も示している。自動駐車システムの開発が机の上でできることになる。
2014年にファン氏にインタビューした際に、ファン氏は「1台のクルマに複数のTegraが載るようになる」と答えていた。今回のプレスカンファレンスの最後に掲示されたスライドは、クルマの前方にデジタルコクピットを描くNVIDIA DRIVE CXが搭載され、後方には自動運転(自動駐車)やADASを制御するNVIDIA DRIVE PXが搭載されているというもの。都合、Tegra X1が3基(つまり3TFLOPS以上のコンピューティングパワー)クルマに載っているわけだが、NVIDIAは優れた開発環境も提供することで、その未来を確実に引き寄せつつあるように見える。