CES2015
CESの基調講演でコネクティビティについて語ったフォード・モーター・カンパニーCEO マーク・フィールズ氏
元マツダ社長のフィールズ氏がフォードのトップとしてCES初講演
(2015/1/14 10:47)
- 会期:2015年1月6日~9日(現地時間)
- 会場:Las Vegas Convention and World Trade Center(LVCC)、LVH、The Venetian
1月6日、一般開幕日の朝一番に行われた基調講演では、2014年7月にフォード・モーター・カンパニーのCEOに就任したマーク・フィールズ氏が登壇した。フィールズ氏は、30代にしてマツダの社長に就任し、フォードのトップにまで上り詰めた人物。本国でも話題の存在であり、メディアの人気も高い。フィールズ氏がCESの基調講演に初めて立ったのは8年前。2007年に、マイクロソフトと共同で開発した車載コネクティビティの元祖ともいえる「SYNC」について、当時のビル・ゲイツCEOと共に発表したのだ。当時、2006年末にフォード・モーターカンパニー・アメリカを率いる立場に就任したばかりだった。
●2007 International CES ビル・ゲイツ氏基調講演レポート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0109/ces4.htm
基調講演の冒頭にCESを主催するCEAの ゲイリー・シャピロCEOが登壇し、そうしたコネクティビティにおけるフォードの先進性を説いた。同社は、早い段階でSYNCを導入したことで車載コネクティビティの分野で先駆けの存在として知られており、アメリカ本国では先進的なイメージで一日の長がある。アメリカやヨーロッパだけではなく、中国やアセアンなどにも展開を進めている。
現在、多くの自動車メーカーにとって、成長国は日に日に重要な市場になりつつあるが、同時に欧米以上に急速な都市化が進み、自動車の存在意義が薄れていることに対する懸念もある。例えば、ラスベガスの人口密度は1平方kmあたり740人で、CESの期間のみ890人に増えるというが、インドのムンバイの人口密度はその実に870倍にもなっているという。急速な都市化が進むと、空気が汚れるなどの切実な課題も生まれる。
「これまでフォードでは、新技術を開発するだけではなく、それを通じて産業化してきました。ヘンリー・フォードの時代にアッセンブリラインによる大量生産に始まり、エコブーストエンジンのような低燃費ユニットの開発、軽量化による基本性能の向上、事故を減らすためのパッシブセーフティなどを推し進めてきました。よいビジネスはよい製品を生み、よいリターンを生みます。そして、よりよい世界を生み出していきます」
フィールズ氏は、クルマとは単なる移動手段ではなく、日常の買い物から救急車まで広がる顧客サービスであり、人間の進化と位置づけた。一方で、自動車社会を取り巻く最大の課題は大きく3つに分けられる。1つは都市化だ。地球上の人口は100億を超える勢いであり、現在、人口1000万人を超えるメガシティは28あるが、2030年には41に増えると予想されている。もう1つは、「グローバル・ミドルクラス」と呼ばれる人たちの成長だ。彼らはクルマを所有したがる。例えば、近年では中国がこの10年で大きく変わったが、その波はグローバルに広がる。最後に、空気の質の問題がある。子どもたちはマスクなしでは外出もままならないという現状がある。これらのことによって、消費者のふるまいが変化していくだろうと、フィールズ氏は予測する。
日本でもクルマ離れは叫ばれているが、アメリカでの調査でも47%の人がクルマより、ネットにつながっていたいという状況だ。モビリヒティの利用に関しては、39%はバスとタクシー、34%がクルマをレンタルすることを選んでいるという。
「ドライバーと町がコミュニケーションする時代になります。CESの将来は、モビリティからの解放です」と、フィールズ氏は語る。そのためには、コネクティビティ、モビリティ、自動運転が欠かせない。
面白いデータだと思ったのは、人間とスマホとの関係。この数年で、全人口の80%がスマホを持つ時代になるというものだ。また、アメリカでは自由に過ごせる時間のうち、47%をスマホを見て過ごしているという。当然、新世代のSYNC3のセリングポイントは、スマホとの連携だ。すでにクラウドを使う仕組みにはなっており、アプリとの連携を推し進める。同時に、センサーやソフトウェアの技術の向上も必要とされる。
SYNC3は、そうしたスマホが普及している背景を鑑みて、よりスマホらしい操作を可能にした。従来からのボイスコマンドはさらに利便性を高めた上で、SYNC経由でスマホをコントロールできるなどの機能を加えた。
開発部門を率いる副社長のRaj Nair氏によれば、セミ自動運転や自動駐車の実現は、安全性を高める観点からも有効だとしている。カメラやソナーといったセンサーを活用すれば、人間よりもしっかりと情報を集められるという。ビッグデータに関しては透明性を持って活用するという。クラウドにアップロードしたデータを加工し、渋滞情報などを提供する。大量のデータを収集することになる。
例えば、運転のときにアクセルを開閉したり、ブレーキを踏んだり、ステアリングホイールを切ったりする情報を集めれば、運転スキルを判断できるようになる。例えば、そのビッグデータを保険会社に提供すれば、保険のリスクのより細分化が可能になる。
フォードでは、カーシェアリングは、さらに伸びると予測する。渋滞税、駐車代などが高い都市部では特に、ロンドンで添加しているシティカー・オンデマンドのような仕組みが必要とされる。数分で充電ができて、乗り捨てができるという利便性は、都市部におけるカーシェアの最大のメリットだ。
また、今の若い世代は堅実に考えてものを買う傾向にある。自動車も、所有して雨の日も風の日も同じクルマに乗るより、気分や用途によってクルマを使い分けることができるカーシェアを選ぶ人も増えている。また、カーシェアの活用が進むと、無闇にクルマに乗る人が増えて、市街地の空気のクリーン化につながる。呼び出しに応じて送迎するプレミア・ミニバスなど、新しいソリューションも増えている。フォードでは2013年から社内でカーシェアを実施しており、メンバー同士が調整してクルマを有効に活用している。例えば、週末にマスタングを運転したいといった要望があれば、携帯のアプリを使って調整する。
実際に会場で第三世代のフォードSYNCを使ってみると、他社がセンサーを増やして得た情報をなんとか加工してディスプレイに映し出して付加価値を高めようとしているのに対し、SYNC3は情報を精査して必要なものを実用なレイヤーに表示する。カスタマイズも可能だ。8年前という早い段階からコネクティビティについて取り組んできただけに、第3世代を迎えるにあたって、たくさんのデータを集めつつも、必要な情報だけを運転者に伝えるユーザーフレンドリーなコネクティビティの仕組みといえる。