GTC 2017

【GTC 2017】NVIDIAの“GPUベンチャー・プログラム”に選ばれたABEJAの講演

来店客の性別や年齢などを識別する小売業向けマーケティングソリューション

2017年5月8日~11日(現地時間) 開催

San Jose McEnery Convention Center

株式会社ABEJA 代表取締役 兼 CEO 兼 CTO 岡田陽介氏

 NVIDIAの「GTC 2017」は、NVIDIAのGPUを利用する開発者向けにソフトウェア開発の情報などを提供するイベントとして行なわれているが、それと同時にNVIDIAが支援するスタートアップ企業を紹介する場としても機能している。今回のイベントにはそうした企業の1つである「ABEJA(アベジャ)」が参加し、同社のソリューションなどを紹介する講演を行なった。

 講演ではABEJA 代表取締役 兼 CEO 兼 CTO 岡田陽介氏が、小売業向けのディープラーニングを活用したAIエンジンによる、来店客の性別や年齢などを識別してニーズの解析を行なったりするクラウドアプリケーションなどを紹介した。

NVIDIAが“GPUベンチャー・プログラム”で投資を行なった日本のABEJA

ABEJAの概要

 岡田氏によれば、ABEJAは2012年に設立されたスタートアップ企業で、現在60人の従業員に成長しているソフトウェアおよびクラウドサービスを提供する企業とのこと。現在は日本とシンガポールに拠点を持ち、日本以外の地域にも進出しようとしている段階にあるという。

 ABEJAは創業者でもある岡田氏が、シリコンバレーに留学してコンピュータについて勉強している時に出会ったディープラーニングに大いに感銘を受けて設立した企業。このため、ディープラーニング、そしてそれをベースに構築されるAI(人工知能)にフォーカスした事業を行なっている。2014年には小売業などにビジネスアプリケーションを提供する「Salesforce.com(セールスフォース・ドットコム)」から出資を受けて業務提携を行なったり、2015年には伊勢丹三越へのシステム提供を開始するなど着々と実績を残してきた。

Salesforce.comからの出資と業務提携を行なう
伊勢丹三越にシステムを提供

 そして、今回のGTCのタイミングに合わせて、NVIDIAがスタートアップ企業へ投資する仕組みとなる“GPUベンチャー・プログラム”での投資対象に選ばれ、資本提携と結ぶことが発表(ただし投資額などは未公表)されており、そのため今回のGTCで岡田氏が講演することになったのだ。

NVIDIAがGPU関連企業に資金を提供する”GPUベンチャー・プログラム”の対象に
ABEJAに出資した企業

 岡田氏によれば、ABEJAを設立した目的は日本政府の国策でもあるSociety 5.0(AIで実現されるような新しい社会のあり方)を実現できるようなインフラを提供することにあるという。「日本では今後人口減少が予想されており、人口が減ってもAIでそれをカバーすることが喫緊の課題となっている」と述べ、AIの仕組みを顧客に対して提供すると説明した。

PaaS、SaaSとしてのABEJA PLATFORMで小売店向けのAIを活用したマーケティングの仕組みを提供

 ABEJAのAIソリューションの特徴は、クラウド側とエッジ側それぞれにAIの仕組みを提供し、かつクラウド側からエッジ側をモニタリングしたりできるサービスのプラットフォームを提供していることにあるという。「大手ベンダのクラウドAIの提供も始まっているが、日本の顧客には柔軟性が足りないという不満がある。弊社が提供するABEJA PLATFORMでは柔軟性のあるシステムを提供する」と述べ、より柔軟性のあるAIを提供していくことで、大手ベンダのクラウドAIと差別化していると説明した。

ABEJA PLATFORM
ABEJA PLATFORMの仕組み

 同社のABEJA PLATFORMは、いわゆるPaaS(Platform as a Service、クラウドで提供されるプラットフォームサービスのこと)として提供される基盤となる部分と、アプリケーションとしてのSaaS(Software as a Service、ソフトウェアやサービスを必要な分だけクラウドで提供すること)として提供されるABEJA Platform for Retailの2つに分かれているという。

PaaSとしてのABEJA PLATFORMとSaaSとしてのABEJA Platform for Retail

 例えば、ABEJA PLATFORM for Retailでは、小売り店に対してバリューチェーンやサプライチェーンを改良できるようなサービスを提供しているという。例えば、小売店の店頭にカメラを設置しておくと、顧客が通過すると性別や年齢などを、ABEJA PLATFORM for Retailの一部として提供されるAIエンジンが解析してデータ化する。

 そして、その顧客がどんな商品に興味を示したのか、あるいは購入したのかなどをデータ化しておくことが可能になり、それを各種マーケティング(どんな商品を仕入れたらいいか)に役立てたりできる。また、小売り店の店員の場合は、正社員よりもパートタイムの社員であることが多いため、あまり知識がなくても簡単に使えるように情報を閲覧するサービスは、誰でも簡単に使えるようにゲームの操作パネルを参考にして作ったりしたと岡田氏は説明した。

カメラを店頭に設置して顧客の年齢や性別などを迅速に判別してデータベース化していく
その顧客が何を見たか、何を買ったかなどをデータ化していく
ABEJA Platform for Retailの操作画面、コンピュータゲームのように簡単に操作できることが売りだという

 なお、同社のサービスを導入している企業としては、空調事業で世界第1位のダイキン工業、さらにはトヨタ自動車の販売店であるネッツ店(どの系列のネッツ店であるかは不明)などが挙げられており、既に小売店での採用が進んでいるということだった。

顧客リスト
今後はシンガポールや米国に進出したい意向

 岡田氏によれば「現在は日本を中心にビジネスをしているが、今後はディープラーニングのソフトウェア技術を活用してグローバルに展開していきたい。現在展開を考えているのはシンガポールと米国だ」と述べ、今後はグローバル市場に同社のサービスを展開していきたいという意向を表明した。

岡田氏のプレゼン資料

笠原一輝