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「パサート GTE ヴァリアント」でドイツ~スイスを1000kmツーリング(スイス編)

スイスの制限速度は高速道路で120km/h。日本のお手本となる山岳高速

フォルクスワーゲン「パサート GTE ヴァリアント」

 先日、フォルクスワーゲン「パサート GTE ヴァリアント」で、フォルクスワーゲン本社に近いドイツ ハノーファーからスイス ローザンヌまでの約1000kmを1泊2日でドライブしたが、本記事は前編に続く後編となる。

 スイス編とうたってはいるものの、後編はドイツ南部から。なお、間もなく日本でも導入されるとみられているパサート GTEの詳細については前編を参照していただきたい。なお、スペックについては本国仕様となるので参考値となる。

見所たくさんのシュパイヤー技術博物館

シュパイヤー技術博物館に展示されるボーイング 747-200型機(奥)。手前はビッカース バイカウント V814。いずれも室内を見学できる

 前編の最後にお知らせしたとおり、今回の旅では記者の要望で「シュパイヤー技術博物館」に立ち寄った。シュパイヤー技術博物館の詳細については、同博物館の英語Webサイトをご覧いただきたいが、簡単に説明すると工業製品、とくに乗り物が多く展示されている博物館となる。

 展示製品は、よく言えば多彩、わるく言えばなんでもありで、クラシックカーから世界大戦当時のクルマや軍用機、潜水艦や2輪レーサーなどが展示されている。とくに屋外展示で目を引くのがボーイング 747-200型機で、大きく斜めに傾き、飛んでいる姿を再現したような状態で展示。実際に内部に入ることができる上、翼の上も歩くことができる。

 また、屋内展示で注目したいのは、旧ソビエト社会主義共和国連邦の宇宙往還プロジェクト機「ブラン」が展示されていること。簡単に言うと、米国のスペースシャトル計画のアイデアをいただいたもので“ソ連版スペースシャトル”と呼ばれているもの。細かく突っ込むといろいろ違うのだが、宇宙往還機を使う点で同様な印象が持たれている。

シュパイヤー技術博物館の中庭。さまざまなものが展示されている
旧ソ連版スペースシャトルのブラン
サーブ 35 ドラケン。ドラケンが吊られているのも凄いが、後方にはGPマシンがずらりと並ぶ
ボーイング 747-200型機の下面。大胆な展示
階段を上ると室内に入ることができる
コクピットを見ることができる
客室後方はフレームが剥き出し
荷物室に入ることもできる
荷物室
主翼の上に立つこともできる
楽しいというより怖い

 これらの展示品があると知識では知っていたのもの、実際にボーイング 747の内部に入ったり、ブランを眺めたりしてるとそのダイナミックな展示には圧倒される。とくに航空機については棒で支えられているものが多く、地震国である日本では見ることはまずないだろうなという形態で展示されていた。

 ドイツの技術博物館のため、パサートのご先祖様となるビートル(タイプ1)のオープンカーや、第2次大戦の軍用車両「キュベルワーゲン」「シュビムワーゲン」なども展示。1時間ほどではとても見切れないほどの規模で、乗り物好きであるなら、1日かかっても飽きることはないだろう。

ビートル
シュビムワーゲン
キュベルワーゲン
メッサーシュミット Bf109。エンジンはダイムラー・ベンツ製の倒立V型12気筒

 このシュパイヤー技術博物館は有料の博物館であり、今回は見ることができなかったものの併設されるIMAX映画館と合わせての入場料は、大人19ユーロ(5歳まで7.5ユーロ、6歳~14歳15ユーロ)。博物館単体は大人14ユーロ(5歳まで無料、6歳~14歳12ユーロ)、IMAX単体は大人10ユーロ(5歳まで7.5ユーロ、6歳~14歳7.5ユーロ)となっている。15名以上の場合は、団体割引もある。

フライブルグからアウトバーン経由で国境越え

フライブルグの旧市街。トラムが主要な交通機関となっている

 シュパイヤー技術博物館の滞在時間はわずか1時間半。すべてを見ることなどはとてもできなかったが、夕闇が迫るため本日の宿であるフライブルグへと向かった。

 フライブルグは環境先進都市として知られており、宿となった「Hotel Victoria」も、屋上に設置された太陽光発電装置で得られた電気のみで運用されている。屋上には風力発電装置もあり、風が通る場所にあるのか元気にくるくる風車が回っていた。

夜の旧市街
夜の大聖堂
再生可能エネルギーのみで運用されている「Hotel Victoria」
Hotel Victoriaの屋上には太陽光発電装置が並ぶ
こちらは風力発電装置
発電量。複数のメーターがあったため参考値
フライブルグのトラム
トラムに乗っていくとフライブルグ駅に到着する
トラムのフライブルグ駅からドイツ鉄道のフライブルグ駅を見る
ドイツ鉄道の機関車

 このフライブルグもエッセン同様トラムが走っている。フライブルグの旧市街、ドイツ鉄道のフライブルグ駅など各所を結んでおり、多数の利用者を見ることができた。旧市街には観光名所となっている大聖堂もあり、13世紀に建てられたという聖堂の大きさには圧倒されるものがある。フライブルグへの到着が夜、スイスへの出発が朝ということで聖堂の中を見る時間はなかったが、歴史ある街だけにゆっくり訪れてみたところだ。

 フライブルグからはアウトバーンの5号(A5)経由でスイスに南下する。スイスの国境を越える手前のサービスエリアで、ガソリン補給をすると同時に、スタンド併設のショップで「vignette(ビニェッテ)」というステッカーを購入。ドイツのアウトバーンは無料だったが、そのアウトバーンとシームレスに接続する(国境の検問所はあるが)スイスの高速道路は有料で、このビニェッテをフロントウィンドウ内側に貼っておく必要がある。

 このビニェッテの有効期限は1月から翌年の1月までの1年間。つまり1月に買うのが一番お得なわけだ。価格は40フラン(1フラン=110円として4400円)で購入できる。5000円以下で13カ月高速道路が乗り放題というのは、日本からの短期旅行者にとっては微妙な価格だが、ある程度の距離を走るのであれば納得できる価格だろう。

スタンドの売店で購入したビニェッテ
フロントウィンドウのこの位置に貼る

 このビニェッテをフロントウィンドウ内側に貼り、国境の検問所対応のためパスポートや国際免許証をグローブボックスなどの取り出しやすい場所にセットしてサービスエリアを出発する。

 サービスエリアを出発してしばらくしたら国境の検問所が見えてきた。ビニェッテなどをチェックされ、スムーズにクリア。ここからはスイスの交通法規に従って走行することになる。

 スイスの交通法規で大切なのは、高速道路の最高速度が120km/hということ。ドイツでは無制限あり、130km/h制限あり、80km/h制限ありと状況によっていろいろ変わっていたが、スイスでは最速値でも120km/h。ドイツもスイスもそうだが、日本のように“制限速度+10km/hまでOK”というウワサもなく、少しでも速度オーバーになると警察に捕まる可能性があるとのこと。そのため、まわりのクルマも120km/h以上で走行することはまったくなく、見事に交通ルールが守られている。これはドイツのアウトバーンも同様で、制限速度を超えて走っているクルマをほとんど見なかった。“規則は守るためにある”ということが具現化された世界を感じた。

スイスに入ると雨が降ったり、トンネルが現われたりと日本の高速道路のような雰囲気
制限速度が120km/hではない区間も当然ある

 なお、日本でときたま聞く“制限速度+10km/hまでOK”というのは、道路運送車両の保安基準に起因する。現在の速度計の技術基準としては、2006年8月25日に「道路運送車両の保安基準の細目を定める告示【2006.08.25】別添88」が出されており、精度については0≦V1-V2≦v2/10+4(V1:速度計の指度[km/h]、V2:自動車の走行時の速度[km/h])と定められており、「速度計の指度は自動車の走行時の速度を下回ってはならないものとする。」と書かれている。単純に計算すると実速度(試験速度)が100km/hのときに、速度計は100km/h~114km/hの表示までは許容されている(オートクルーズコントロールの設定が100km/hを超えている国産車もここに起因している)わけで、もの作りの精度を考えると速度計は上振れするように作られている。なので“制限速度+10km/hまでOK”の制限速度とは速度計表示のことを指しており、チョー正確な速度計を生産できるメーカーのクルマであれば、+αの余裕などはまったくないかも知れないわけだ。

 やや長くなったが、日本のクルマは上記のような法令の下に作られており、誤差を含んだ速度計を見つつ走行している。さらに夜の関越自動車道の上りなどでは、基本下り坂のためか、規制速度を超えて走るクルマが多いのはご存じのとおり。現場合わせという日本文化によってスムーズな交通が維持されている。

 しかしながら、この現場合わせについては、自動運転というガチガチに規則を守る運転者の登場によって変わらざるを得ない時代が近づいている。機械は必ずルールに則って走行するため、現場合わせで流れを維持している現在の首都高を走るようになると大渋滞を引き起こすのは明らかだ。ならば、安全性を検証しつつルール、つまり実際の流れに近いところまで最高速度を引き上げる必要があり、これが昨今の高速道路120km/h実験につながってくる。2020年の自動運転時代を前に、高速道路の最高速度引き上げを模索しているわけだ。

 日本では建前の最高速度をどのように実情に即していくか調整しているのに対し、ドイツとスイスでは“規則は守るためにある”と、適切な速度設定でほとんどのクルマがルールを守って走っている。アウトバーンの速度無制限区間が適切かどうかは歴史や文化論の域にも入ってくるため、日本人であり日本的文化で育った記者には判断不能だ。ただ、ドイツやスイスの高速道路を運転して思ったのは、“大人だなぁ”ということ。明確なルールの下に、全員がルールを守る社会が築かれているのを感じた。

 トンネルあり、アップダウンあり、雨ありのスイスの高速道路は日本の高速道路に似た感じで、120km/hでパサート GTE ヴァリアントを走らせていると余裕の走りが気持ちよく、安心感にもつながる。ほどなく目的地であるローザンヌに到着した。

ローザンヌに向かうため、途中から一般道へ
よく整備された一般道
間もなくローザンヌ市街
ローザンヌでは多数のトロリーバスが活躍している
連接タイプのトロリーバスが主流
トロリーバスのポイントは架線に設置されている

 ローザンヌの街は、トラム……ではなくトロリーバスが公共交通機関として活躍している。ローザンヌの街はレマン湖の北側にあり、レマン湖に向かって急坂となっている。これだけの坂であると鉄輪による粘着式鉄道は難しく、ゴムタイヤのグリップを必要とするためトロリーバスとなったのだろう。

1000kmを走行して感じたパサート GTEのツーリング能力

 全行程は、1日目がハノーファー→エッセン→シュパイヤー博物館→フライブルグで764km、2日目がフライブルグ→ローザンヌで294kmと、2日間で1000kmを超えた。行程の都合上1日目に距離が偏っている部分はあるが、1000kmは大した距離ではないなというのが正直な感想だ。

 この距離をこれだけ短期間で走ったのは東京~青森の800kmを一晩で走って以来のことになる。その際も運転を交代しながら向かったのだが、クルマの関係もあってこれほど楽に移動することはできなかった。

 パサート GTEを長距離運転して思ったのは、「どこでも普通に走るんだな」ということ。アウトバーンの最高速無制限エリアを200km/h以上の速度で普通に走るし、エッセンの街中を低速で普通に走る。また、ローザンヌの急坂も、何のストレスもなく普通に走る。“凄くパワフル”ということもないが、“パワーが足りない”と思うこともない。何もかも余裕を持ってこなしてくれた感じだ。今後、日本市場に投入されるパサート GTEが、高速道路120km/h時代を迎える日本においてどれだけ普通に走る能力を見せてくれるのかが楽しみだ。