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【SUPER GTインタビュー】ブリヂストン、GT500は連覇へ向け1戦1戦しっかり勝っていく

「チャンピオンチームのタイヤを支えるのはブリヂストン」との思い

ブリヂストンでSUPER GTの戦いをサポートする MSタイヤ開発部 設計第2ユニットリーダー 松本真幸氏(左)、モータースポーツ推進部 モータースポーツ推進ユニットリーダー 中村健志氏(右)

 SUPER GTは、現在世界中で行なわれているトップカテゴリーの4輪レースのなかで、複数のタイヤメーカーがタイヤを供給し、コンペティション形式で争うシリーズ戦。そのなかでも大きな存在感をもつのがブリヂストンだ。

 GT500クラスでは、2016年はブリヂストン装着車がチャンピオンシップのワン・ツーを獲得。2017年も開幕戦の岡山で優勝しただけでなく、1位から5位までブリヂストンを装着したレクサス LC500が占め、第2戦富士も優勝した。GT300クラスは4台へ供給するのみだが、2017年開幕戦では2位、第2戦富士は優勝とその存在を強く示している。

GT500クラスでは、特にレクサス勢とのマッチングのよさを発揮しているブリヂストン

 5月4日、第2戦富士スピードウェイの決勝レースを目前に控え、SUPER GTのタイヤ開発を担当する同社 MSタイヤ開発部 設計第2ユニットリーダー 松本真幸氏と、モータースポーツ推進部 モータースポーツ推進ユニットリーダー 中村健志氏に、これまでの振り返りと今後の展望について伺った。

SUPER GT 2017年シリーズ ブリヂストン装着車

GT500クラス

1号車「DENSO KOBELCO SARD LC500」(ヘイキ・コバライネン/平手晃平)
6号車「WAKO'S 4CR LC500」(大嶋和也/アンドレア・カルダレッリ)
8号車「ARTA NSX-GT」(野尻智紀/小林崇志)
12号車「カルソニック IMPUL GT-R」(安田裕信/ヤン・マーデンボロー)
17号車「KEIHIN NSX-GT」(塚越広大/小暮卓史)
36号車「au TOM'S LC500」(伊藤大輔/ジェームス・ロシター)
37号車「KeePer TOM'S LC500」(平川亮/ニック・キャシディ)
38号車「ZENT CERUMO LC500」(立川祐路/石浦宏明)
100号車「RAYBRIG NSX-GT」(山本尚貴/伊沢拓也)

38号車「ZENT CERUMO LC500」(立川祐路/石浦宏明)
GT300クラス

31号車「TOYOTA PRIUS apr GT」(嵯峨宏紀/久保凜太郎)
51号車「JMS P.MU LMcorsa RC F GT3」(中山雄一/坪井翔)
55号車「ARTA BMW M6 GT3」(高木真一/ショーン・ウォーキンショー)
65号車「LEON CVSTOS AMG」(黒澤治樹/蒲生尚弥)

51号車「JMS P.MU LMcorsa RC F GT3」(中山雄一/坪井翔)

人的リソースの増加などにより、2016年中盤から盛り返す

――最初に、2016年シーズンを振り返っていかがでしたか?

株式会社ブリヂストン MSタイヤ開発部 松本真幸氏

松本氏:2016年、開幕から3戦連続で負けて、なかなか最初の方は勝てなかったのですけど、夏頃から盛り返して最終戦はいいカタチで逆転できました。結果的にサポートチームのチャンピオン獲得に貢献できましたが、課題もいろいろあったので、そこをいかに改善しつつ、2017年の今シーズンはクルマが変わることも合わせて“どうやって勝つか”を考えてきました。

 我々も限られたリソースのなかで実施していますので、そのなかでできることを見極めて、各チームと相談しながら可能な範囲でやっています。もちろん、やるからにはGT300も勝利に貢献できるようにしていきたいと思っています。おかげさまで第1戦岡山はポールポジションを獲れたので、このまま調子を継続してGT500と同様にいい結果を出せればと思っています。

株式会社ブリヂストン モータースポーツ推進部 中村健志氏

中村氏:SUPER GTは唯一のタイヤコンペティションレース。ブリヂストンとして他社装着車にチャンピオンを獲られてしまうことは非常に不本意なところがありますので、サポートチームがチャンピオンを獲得するという目標に向かって精一杯頑張ってきました。今年は2連覇を最大の目標としてチームを支えていく方向で取り組んでいます。

――2016年はなぜ途中から盛り返せたのでしょうか?

松本氏:要因はいろいろありますが、開発にかけるリソースを増やしたことがよかったのかなと思っています。もちろん人手をかければいいというものでもないのですが、今まで手をつけられなかったところに対しても取り組めるようになって、それがうまくいったのかなと。

 例えば、去年の開幕戦の岡山は予選まではよかったんですね。しかし、決勝レースでタイムが落ちた。タイヤの“タレ”みたいなものが大きくて負けてしまったので、そこを1つの課題として捉えていました。

 2016年の第2戦富士ではタイヤが壊れたアクシデントもあったので、そこは確実に対策して、しっかり壊れないタイヤにしたうえで、速いタイヤを作る、という課題もありました。それについては去年から取り組み、少しずつ結果が出だしたのが後半。今年さらにそれを発展させたのが、前回の開幕戦の岡山でうまくいった要因かなと思っています。

――2016年の富士でタイヤが壊れた件ですが、それはタイヤ開発において“攻めすぎた”のが原因ですか?

松本氏:年々クルマが速くなってきているときに、どこかで限界を迎えるところが、たまたま富士だった、という風に思っています。特に富士にだけ攻めたスペックのものを持ってきたわけではありません。

ダウンフォース減に対応しつつ、新たな車種へのチャレンジも

51号車「JMS P.MU LMcorsa RC F GT3」

――2017年のタイヤ開発のコンセプトを教えてください。

松本氏:GT300は、基本的には去年の発展版で進めています。ただ、今年から新たに供給している51号車JMS P.MU LMcorsa RC F GT3は、我々としても初めて供給する車種ですし、65号車LEON CVSTOS AMGはほかと違ってフロントとリアのタイヤサイズが異なるので、そういう新しいところに合わせた取り組みもしているところです。

 これらはまだ完全ではありませんが、開幕戦は65号車がポールポジションを獲ることもでき、出だしとしてはよかったかな、と思っています。他社のタイヤを装着する4号車グッドスマイル 初音ミク AMGなどは速く、それに対してはまだ足りていない部分もありますが、今後のテストでうまく合わせ込んでいきたいと思っています。

51号車「JMS P.MU LMcorsa RC F GT3」

 去年から課題として考えていた、ロングスティントでもタレずに走れる、確実に故障なくに走れる、といった点はしっかり対応しつつ、今年のダウンフォースに合わせたタイヤを作っていく、というところが今シーズンに向けてやってきたところですね。

――GT300で前後輪でタイヤサイズが違うと、開発においてはどのように変わってくるのでしょうか。

松本氏:前後同じサイズだと、昨年1年間タイヤ供給してきたので、ある程度どういうタイヤがいいかはだいたい読めます。しかし、タイヤサイズが変わるとそこのバランスが変わってくるので、どういう“硬さ”のものがクルマにマッチするか判断するのはなかなか難しいですね。

――この富士スピードウェイの第2戦にはどういったタイヤを用意していますか。

松本氏:第1戦から第2戦にかけては、特にタイヤのスペックは変わりませんが、温度レンジなどにおいて岡山に最適なもの、富士に最適なもの、という風な選び方はしています。根本的に変わっているところはありませんね。

 ダウンフォースについては、我々からすると、富士は去年からそんなに大きく変わっていない。ほかのサーキットがもろに25%の影響を受けるのに対して、富士は元々2016年までローダウンフォースだったので、ダウンフォースの程度としては昨年のものに近いのかなと思っています。

――GT500の場合、LC500やGT-RはFR、NSXはミッドシップです。クルマによってタイヤを変えている部分はあるのでしょうか。

松本氏:違うところもありますし、共通でいけるところもあります。なので、全く別物というわけでもないですね。ただ、NSXについてはミッドシップに合ったタイヤをずっと模索しています。

GT500は連覇へ。

――今シーズンはどのような戦略で開発を進めているのでしょうか。また、目標は?

松本氏:まずはブリヂストン装着車がチャンピオンシップを獲ること。GT500は今年もサポートチームに優勝してもらいたいし、GT300もチームが最大限の結果を残せるように開発を進めたい。だいたい毎戦、事前にテストできるので、そこでしっかりいいタイヤを準備して、夏のレースでしっかり結果を出す。秋のタイ、もてぎでのレースは事前テストができないので、それまでの分析や昨年のレース結果を踏まえて、いかにいいタイヤを事前に予測して持って行けるか、だと思います。

 まずは1戦1戦しっかり勝っていくこと。毎戦勝てるとは思っていません……いや、全部勝とうとは思っていますけどね(笑)。

――今後のレースで注目してほしいところなどありましたら。

松本氏:GT500だと4社のタイヤメーカーがあり、それぞれいろいろなタイヤを開発して持ち込んでいて、狙いどおりの性能を発揮する時もあれば、必ずしもそうならない時もあります。(第2戦の)予選はミシュランタイヤをはく23号車MOTUL AUTECH GT-Rが速かったですね(予選2位)。

 これがドンピシャのタイヤだったかどうかは分かりませんが、こういった順位変動はタイヤの当たり外れが影響しているところも結構あると思います。クルマのレギュレーションが厳しいなか、急に速くなるのは難しいと思いますが、順位に対してタイヤの影響は少なくないと思うので、そのあたりに注目してほしいですね。

 ちなみに各社、1レースごとにだいたい2、3種類のタイヤを用意しています。事前に詳しいタイヤスペックの情報を出すのは難しいのですが、ラップタイムをじっくり見ていただくと、このチームはあのタイヤを使っているのかな、なんていう想像もできるので、そのあたりも楽しめるのではないかと思います。

中村氏:(SUPER GTは)タイヤメーカーが各社そろって、本気でコンペティションをやっている唯一のレース。レース自体の面白さはもちろんですが、ファンのみなさまには車両だけでなく、タイヤにも注目いただければと思っています。