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【SUPER GTインタビュー】ミシュラン、タイヤメーカーの競争に勝ち「GT-R」とともにチャンピオン奪還を目指す

ウェットでのレースやラップタイムの安定性に注目

GT500クラスで2台のGT-Rにタイヤを供給するミシュランタイヤ。SUPER GTを担当する日本ミシュランタイヤ株式会社 モータースポーツマネージャー 小田島広明氏に話を聞く

 SUPER GTは、現在世界中で行なわれているトップカテゴリーの4輪レースのなかで、複数のタイヤメーカーがタイヤを供給し、コンペティション形式で争うシリーズ戦。そのなかで海外企業ながらSUPER GTにタイヤを供給し、GT500クラスにおいてここ数年目立った実績を挙げているのがミシュランタイヤだ。

 GT300クラスは2014年を最後に供給を行なっていないが、GT500クラスは2~3台と供給台数は少ないながらも、2014年、2015年と立て続けにシリーズチャンピオンを獲得しており、実力は折り紙付き。2016年はある意味不運とも言える展開に悩まされ、チャンピオンシップは3位となった。雪辱を期す2017年、日産「GT-R NISMO」の2台と専属的に協力関係を構築しGT500クラスに挑む。

 富士スピードウェイでの第2戦、予選を控えた5月3日の午後、日本ミシュランタイヤ モータースポーツマネージャー 小田島広明氏に話を伺うことができた。開幕戦岡山では23号車MOTUL AUTECH GT-Rは7位、46号車S Road CRAFTSPORTS GT-Rはリタイアだったが、同氏はこの状況をどう分析していたのだろうか。また、2017年に再びチャンピオンシップを奪還することができるのか、その戦略などを伺った。

SUPER GT 2017年シリーズ ミシュランタイヤ装着車

GT500クラス

23号車「MOTUL AUTECH GT-R」(松田次生/ロニー・クインタレッリ)
46号車「S Road CRAFTSPORTS GT-R」(本山哲/千代勝正)

23号車「MOTUL AUTECH GT-R」(松田次生/ロニー・クインタレッリ)
46号車「S Road CRAFTSPORTS GT-R」(本山哲/千代勝正)

レギュレーションによるダウンフォース減で、タイヤ開発の考え方は大きく変わる

――最初に、2016年シーズンを振り返っていかがでしたか?

小田島氏:2016年のGT500は、2年前の2014年、前年の2015年のチャンピオン獲得で、3連覇がかかっているというプレッシャーはありましたが、振り返ってみれば、SUPER GTで、同じパッケージで2回勝っているのはすごいなと。2回勝ったんだから3回も……と言うのは簡単なんですけど、チームにとっても我々タイヤメーカーにとっても、とてつもなく難しいチャレンジでした。

 それは分かっていながらも、2016年シーズンは「当然チャンピオンを獲るんだ」という思いでモチベーション高くやってきたのですが、やっぱりライバルは強いですから、そう簡単には獲らせてくれなかったなと。

 それでも最終戦まではチャンピオン争いに絡んでいましたし、GT-R勢のなかでは成績上位だったことからすると、客観的にはタイヤメーカーの競争という視点ではきちんと役割を果たせた。優位性、強さを見せられたかなとは思います。

――2016年は序盤に勝ちすぎたせいでハンディキャップが厳しくなり、後半失速したというのもあるのでは?

小田島氏:それはやっぱり大きいですよね。開幕1戦目、2戦目と連勝して、ほぼフルウエイトに近い状態。(序盤から大きなウエイトハンデを背負う)ああいうパターンで進んだシーズンのクルマ、チームって実は今までにないんですよ。

 2016年は成績に応じて最大100kgまでウエイトを積むというルールになっていました。2015年までは最大50kgで、そこから先はリストリクター調整(燃料供給装置流量リストクターを調整し、燃料供給量を制限するハンディキャップ)だったんですが、2016年はフィジカルウエイトが第2戦の段階で80kgとほぼMAXになっているわけですよ。それでほとんど1シーズン過ごさないといけなかった。

 2013年までの規定と比べると、2014年の車両規定でダウンフォースが増えて、ラップタイムが秒単位で速くなったじゃないですか。その時点でタイヤがかなり負荷を受けていたのに、安全を確保しながら速さも維持してきた。そこで、さらにウエイトが乗っている状態で過ごすシーズンというのは誰も経験したことがないんですね。新しい規定のクルマで、かつ重たい状態のハンディキャップで1年過ごすというのは、やはりとてつもなく大変なことだった……ということはデータ的には解析できました。

 今年はGT500でレギュレーションによりダウンフォースが25%減りましたが、ハードウェアとしてかなり限界に来ていたところもありますし、モノコックのキャパシティも考えると、(100kgという)フルウエイトの状態はクルマにとって負荷が大きいという結論になったみたいですね。

――ウエイトが増える分だけタイヤの負荷やラップタイムにインパクトがあるわけですか?

小田島氏:たとえば10kg単位でウエイトを増やすとリニアに負荷が増えていくというものではなくて、ある時点で急にドンと来るような影響があるんですけど、クルマによっても違いますし、単純にそれに応じてタイムが落ちていくというわけでもありません。ただし、テストでは当然フルウエイトでも見ていますし、その場合に「こういうネガティブな点が出るね」というのは確認しています。

――2017年シーズン、タイヤ開発において新たに変えてきた部分はありますか。

小田島氏:レギュレーションでダウンフォースが減少しましたが、車両の規定が大きく変わるときは、当然タイヤもそれに引っ張られて変わるわけです。タイヤサイズは全く同じですけども、そこにかかるダウンフォースによる前後タイヤの荷重配分の適正値が変わっています。

 毎年正常進化しているところはあるんですけど、今回のようにレギュレーションでダウンフォースを下げましょう、という方向性は基本的にはレースの世界ではなかったもの。通常ダウンフォースはナチュラルに増えていくので、それを減らすということは、今まで求められていたタイヤに対しての荷重値、負荷というものへの考え方も変えないといけません。ですから、コンパウンドも構造も全部変わりますね。

 荷重は、ダウンフォースによるものは減りますけど、負荷という意味では、軽いから楽になるかというと、そうではない。その分メカニカルグリップを発生させないといけません。ダウンフォースがあるとタイヤの動的荷重は増えるので、そうするとそれによって得られる荷重をグリップに変換できる。それが少なくなるので、当然タイヤからグリップを発生させないとならない。負荷やタイヤとしての仕事、という点では変わるところはありません。

GT-Rのみに供給することによる開発の困難さとは

――第1戦の岡山を終えて、今シーズンの状況はいかがですか。

小田島氏:岡山の前の冬季テストの状況から話をしますと、自分たちなりに進歩はしてきているつもりですが、レースの世界なのでコンペティターもいますから、そこから見てあまり順調にいっているとは言えない状況です。というのも、クルマ側も含めて若干足踏みしちゃっているところがあるんです。

 タイヤメーカーとして、他メーカーに対して我々が優位性を発揮できているかというと、そうではない。我々がタイヤを提供しているクルマが今GT-Rしかないので、GT-Rが開発に苦労してしまうと、我々もそれに引っ張られてしまいます。

 進歩させていく方向に使う工数と、迷走したことによる(寄り道の)工数が、同じ1工数であることには変わりないので、そのギャップが出てきているのかなと。複数のクルマに提供していれば、一方で進歩させていき、後でそれをもう一方のクルマに適用することで、タイヤ単体で見れば進歩していることになります。しかし我々はそういう動きができません。GT-Rに特化してしまっているんですね。

――その岡山の第1戦、GT500は23号車が7位、46号車が途中リタイアと、なかなか厳しいレースとなったようですが、どう分析していますか。

小田島氏:予選の状況は、まったく力が足りていないですね。クルマとしての優位性がなかったのもあるのですけども、タイヤとしてのパフォーマンスも全く足りていないと考えています。ただレースに関しては、クルマとしてレクサスが速いのはみなさん目にしている通りだと思うのですが、トップ6の次が我々ミシュランをはく23号車MOTUL AUTECH GT-Rでした。

 この結果は何が要因かというと、タイヤ自体が比較的安定していたこと、もう1つは23号車のピットワークが非常に速かったことです。もちろんドライバー2人もそれなりのペースで走ってくれて、非常によかったなと思うのですが、タイヤとしては少なくとも耐久性があり、ピットワークのアドバンテージを活かして、ドライバーの頑張りを手助けできたと思います。

 速さというよりも安定性。そこがレースに活きたおかげで、予選ほど悲惨な状況にはならなかった。46号車がリタイアしてしまったのは残念ですが、ペース的には23号車と同等かそれより少し速いくらいでした。

――この富士スピードウェイの第2戦にはどういったタイヤを用意していますか。

小田島氏:第1戦の岡山とはまずコースが全然違います。岡山はアベレージスピードが低いですし、低速コーナーも多いので、負荷としてはやさしいコースになります。温度も低温域で、グリップ自体も必要です。

 それに対して富士スピードウェイは、意外に暖かくなる。世界的に見ても非常に長いストレートをもち、セクター1から2にかけては高速コーナーが続き、しかしセクター3はかなり低速域となります。なので、富士ではバランスを見なきゃいけないんですね。そういうバランスを見たタイヤの改良を行なっています。

 午前のフリー走行では4位でしたし、もちろん上位のレクサス勢にはウエイトが載っているので、ちゃんとそれを計算しないといけませんが、それでも、GT-R勢のなかでは上位ですから、タイヤとしてはわるくないのかなと思っています。

――以前まではタイヤかすを拾って性能が落ちる“ピックアップ”の問題がありましたが、それはもう解消したのでしょうか。

小田島氏:これだけグリップの高いタイヤなので、タイヤのかすを拾っている状況は、見た目にはあります。ですが、ドライビングに影響することは今はほとんどないですね。

注目は“ウェット”のパフォーマンス

SUPER GT第2戦富士で23号車は4位。ドライバーランキングは5位となった。

――今シーズンはどのような戦略で開発を進めているのでしょうか。また、目標は?

小田島氏:まず目標は、タイヤメーカーとしてGT-Rのなかで一番のポジションを獲ること。他のタイヤメーカーは多数のクルマに供給していて、いろんな開発の手法をもっていると思います。一方で我々のアドバンテージは、ファクトリーチームのGT-R NISMOと組んでいること。さらにテスト効率を上げてタイヤを進歩させ、他チームに追いついていかなければいけません。

 なので戦略という意味では、今我々が持っている優位性の部分を少しでも伸ばせるサーキットで確実にポイントを獲ること。どこのサーキットで有効か、どこのサーキットでは難しいか、それをちゃんと見極めて、手持ちの技術を優位に発揮できるサーキットで確実にポイントを獲る、というのが大事ですね。

――もともとミシュランタイヤは夏に強いと言われていました。

小田島氏:開幕戦の岡山で下位に沈んだのは、寒さが苦手というわけではなくて、開発が順調にいっていなかったから。単純に性能が他社に対して足りてない、ということなんですね。今週は富士ですけど、ロングランでの安定性は確実に持っていますから、少しでも距離のあるところを優位に行きたい。あとは天気次第ですけど、雨もけっこう自信はあります。

 3月に岡山でウェットのテストをやっていますし、昨シーズン最終戦のもてぎでも冷たい雨が降ったのですけど、そこでもうちの2台がワン・ツーを獲っています。2015年は雨が降ったら終わりだね、という話になっていましたが(笑)。

――次の第3戦オートポリスに向けてはいかがでしょうか。また、今後のレースで注目してほしいところなどありましたら。

小田島氏:オートポリスは路面がかなり補修されています。過去のオートポリスとは若干キャラクターは違いますけど、レイアウトは一緒ですし、テストでも「オートポリスはやっぱりオートポリスだね」という結論になっています。

 目標はタイヤメーカーの競争として勝つこと。ウェットのレース、あとはレースのラップタイムの安定性には注目していただきたいですね。

――2014年を最後にGT300には参戦していませんが、今後再参戦の可能性は?

小田島氏:可能性はあると思います。条件が合うかどうか、希望するチームがいるかどうか、というのもありますが、常にドアはオープンにしています。