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三菱電機、学習期間を50分の1にする「スマートに学習できるAI」を「研究開発成果披露会」で初公開
「電力密度世界最高」の超小型HEV用SiCインバーターなどと合わせて紹介
2017年5月26日 08:50
- 2017年5月24日 開催
総合電機メーカーである三菱電機は5月24日、同社が手がける最新の研究開発成果を関係者や報道関係者向けに発表する「三菱電機 研究開発成果披露会」を都内で開催した。この披露会ではクルマ社会に関わるものだけでなく、宇宙開発技術など幅広い分野の研究成果が展示されたが、Car Watchではクルマに関係する話題を中心に紹介する。
披露会は三菱電機の執行役社長 柵山正樹氏の挨拶から始まった。「この披露会は当社の成長の原動力である研究開発の状況をみなさまに報告するため、1981年より開催しているもので今回は34回目でございます。研究開発につきましては2020年度を目標にするような短期のものから、長期のものまで幅広く取り組んでいるところであります。披露会では短期、中期の研究成果を16項目紹介させていただきます。そして長期的なテーマについては4点紹介させていただきます」と語った。
続いては三菱電機 常務執行役 開発本部長の藤田正弘氏から三菱電機の研究開発戦略について説明された。
藤田氏は「まず始めに、当社の研究開発の基本方針について説明いたします。研究開発におきましては、成長牽引事業をはじめとする現在の事業を徹底的に強化する開発と、当社の製品競争力の源泉となる共通基盤技術を引き続き深めてまいります。共通基盤技術はすべての製品の基盤となるもので、絶縁や潤滑、解析技術、分析技術といったものだけでなく、セキュリティなども含まれております。そしてさまざまな技術や事業を持つ総合電機メーカーならではの強みを生かし、技術、事業のシナジーによってさらなる価値創出を目指します。当社はこれらの研究開発により生み出されるイノベーションを通じてさまざまな社会課題を解決し、豊かな社会の実現を目指してまいります」と語った。
スマートに学習できるAI
ここからは、展示会場で見かけたクルマに関わる案件を紹介していく。最初は藤田氏の話にも登場したAI技術から。
今回の展示ではロボットアームが配線カプラーをコネクターに差し込む作業をAIが自分で学習する機械学習のデモを行なっていたが、ここで示しているのは差し込みの動作が上手になるということではない。
AIにおける学習はミスを繰り返すたびにデータを蓄積し、最終的にスムーズに行なえるようになっていくが、現在は1年前の技術と比べてミスをする(学習する)回数を大幅に減らすことに成功している。そのことをロボットアームを使って実証していた。
クルマの自動運転や運転支援にもこの先はAIが導入されていくと予想されるが、クルマの運転ではミスを繰り返して学習するというわけにはいかないので、運転に関わる面でAIが台頭するには、今後さらにスマートに学習する技術を進化させることが必要。ただ、解説員の話によると、AI技術が進化するスピードはかなり速いということなので、近い将来にAIが大きく関わる運転系の新しい技術を搭載するクルマが発売されるかもしれない。
HEV用超小型SiCインバーター
次はHEV用の超小型SiCインバーター。これは中型、大型以上のセダンに搭載されるインバーターとして開発されたという。特徴は従来品に対してサイズを半分以下にしているところだ。インバーターはバッテリーから電力を受け取ってモーターを動かすもので、インバーターの性能については単位体積あたりでどれだけパワーが出るかという指標があるが、このインバーターでは従来より倍以上の出力が出せるとのこと。
小型インバーターを使うメリットだが、機器が小さくできればエンジンルーム内のレイアウトに自由度が出るし、コンパクトに作れるとそのぶんキャビンを広げることも可能になる。
さらにこの超小型SiCインバーターにはもう1つのメリットがあり、それはパワーモジュール内のデバイスにSiC(シリコンカーバイト)という超低損失デバイスを採用しているため、車両トータルとしての燃費が上がるという説明だった。
車両間協調による自動運転システム
自動運転では自車に付いているセンサーだけだと物体の影に隠れたものが見えないなどの死角ができてしまう。そういった死角をなくしてより安全に自動運転ができるようにする技術が車両間協調による自動運転システム。クルマとクルマが相互通信を行ない、それぞれの周辺状況を共有する技術だ。今回は交差点での直進と右折を例に解説された。
想定する状況は、直進車の後方にバイクが走行。対向車線で右折待ちをしているクルマからは直進車の死角にいるバイクが見えない。そのままいくと危険な状態になるのだが、直進車が備えるリアの状況をチェックするセンサーとカメラからの情報が無線通信で右折車(特定のクルマを指定するのではなく、周辺にいるすべてのクルマ)に送る。すると右折車でも直接見えていないバイクの存在が認識できるので、バイクが通過するまで動き出さないというもの。この技術はレベル3の自動運転から採用される予定だという。
EVで変わる街のエネルギー利用
続いてもEVに関する技術だが、これは建物とクルマの間で電気を賢くやり取りするエネルギーマネジメントシステムだ。
例として挙げられていたのは郊外の工場。郊外で働く人はクルマ(EV)で通勤することが多いはず。すると1カ所に多くのEVが集まることになり、通勤のクルマなら駐車時間も長い。そして最近の工場では太陽光発電装置(PV発電)を設置していることも多いが、郊外で敷地が広ければ規模の大きいPV発電システムが設置できるので、そこで作った電力を工場の稼動に使うだけでなく、従業員のクルマを充電することも可能だ。これによって従業員がEVを選ぶメリットが増える。
とはいえ、PV発電は規模が大きくても天候がわるければ効率も悪化。そこに工場がフル稼動すると自前の電力が不足してくるので、電力会社からの買電に頼らざるを得なくなる。しかし、こんなときに従業員のEVが蓄電池として使えると、工場で使う電気が一定時間確保できる。そしてピークが過ぎたらEVからの供給をカット。反対に工場の電力でクルマを再充電して、従業員が退社するころには再充電されているというアイデアだ。
双方向ワイヤレス電力伝送技術
EVが普及するためにはクルマのバッテリーを充電する設備の発展が必要となる。もっとも求められているのは路面に埋め込まれた送受電コイルとEV側の送受電コイルでのワイヤレス充電だが、これまでのワイヤレス充電装置では、双方のコイルの位置がずれると充電効率が大幅に低下していた。資料として用意されたデータでは、位置が正常の場合はワイヤレス充電装置で90%の伝送効率を出せるが、位置がたった15cmずれただけで伝送効率が約60%まで下がってしまう。そのため、充電完了までの時間に約2時間の差が出るとのこと。この問題を解決するために高効率制御方式が考案され、その開発成果が展示されていた。
一般的な充電装置では機器と充電装置の位置関係はあまりずれることがないので、ある一定の位置で効率が出るように送信、受信側の回路を設計しておけばいいとのことだが、ワイヤレス充電装置でも「ずれないこと」を前提に設計してしまうと、当然効率にばらつきが出る。そこで、ずれたときでも効率がよくなるよう制御する回路を開発したとのこと。