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【Honda Meeting 2017】新型「シビック」をベースに8速DCT化した「Dynamic Study」や新型「シビック タイプR」インプレッション
西村直人のホンダ最先端技術レポート ダイナミクス編
2017年6月12日 17:37
自律自動運転技術やクラリティ3兄弟以外にも、「Honda Meeting 2017」では要素技術の発表があった。その1つが、まもなく登場する新型「シビック」(10代目)をベースに、パワートレーンを変更して走行性能を向上させた「Dynamic Study」モデルだ。
搭載するエンジンは新型シビックに搭載される直列4気筒 1.5リッターターボとほぼ同じ(スペックは多少なりとも向上か?)だが、トランスミッションを市販予定モデルのCVTから8速DCTへと換装した点が大きく違う。ちなみにこの組み合わせは、現在、中国市場で販売されているアキュラ「CDX」と同じパワートレーン形式で、日本市場向けに発売される新型シビックには現時点で導入の予定はないようだ。
この「Dynamic Study」に搭載される8速DCTはホンダ内製で、2014年10月に論文でも発表済み。トルクコンバーターを採用したことで力強くスムーズな発進加速性能と、各ギヤ段のギヤ比が近い(クロスさせた)8速化によって途切れることのない加速特性を両立させている。また、ワイドレシオ化やフリクションの低減によって、同クラスの対応トルク容量をもつ5速ATに対してサイズは同等としながら、15%程度の動力性能向上と8%程度の燃費数値向上を達成。ギヤ構造は、1速&2速&後退ギヤ、3速&4速、5速&6速、7速と8速の各ギヤセットでドリブンギヤを共有する。
「Dynamic Study」のシャシーは新型シビック用と基本的に同一で、EPS(電動パワーステアリング)の特性変更や、前述したパワートレーンの換装が主な相違点だ。では、この新型シビックから導入された新開発シャシー(プラットフォーム)が目指した方向性はどんなものなのか伺うと、「安心して意のままの走りが楽しめることです」(Dynamic Studyモデル開発者)と、分かりやすい答えが返ってきた。さらに「要となるのは高められた後輪のコーナリング性能にあります」(同開発者)と言う。
具体的には、リアサスペンション可動部のフリクションとヒステリシス(ここではダンパーを含めたサスペンションの反応や収束遅れ、それに起因する位相のズレの意)を低減し、悪条件であっても後輪の摩擦円(タイヤのグリップ力)を確保することで、ガチッと安定したコーナリング性能と快適な乗り心地の両立を図る……、これが新型シビックに採用された新開発シャシーの特徴だ。
こうした理想的な特性を実現する構成要素の1つに、高剛性リアサブフレームがある。リアサブフレームには後輪のサスペンションが取り付けられ、シャシーと一体化するパーツだからとりわけ高い剛性が求められる。しかし、単に高剛性であればいいというものではなく、ダンパーやスプリングを効果的に動かしながら、サスペンションそのものは取り付け位置から不必要に動かない、そして動かさないような造り込みが大切になる。
本田技術研究所のエンジニアである水上氏は「新型シビックで前輪駆動モデルの究極を目指したい」という。また、開発ドライバーでもある水上氏は新設部署である「商品・感性価値企画室」にも所属する。商品・感性価値企画室とは、これまでの絶対評価による商品開発とは別に、人間の感性を数値化・データ化した上で、その知見を商品開発に活かすために新設された部署だ。水上氏はそこでのとりまとめ業務を行なっている。
水上氏によると、「例えば“意のまま”という言葉がありますが、その感じ方は人それぞれです。一方で、狭いながらも多くの人に意のままであると感じていただける領域があります」と語り、新型シビックでは、ドライバーはもちろんのこと、同乗者にも安心して気持ちのいい走りを実感してもらえるよう注力したという。
打てば響くような走行特性
実際にワインディングロードを模したコースで「Dynamic Study」モデルを2周走らせることができたのだが、なるほど、水上氏の“意のまま”がなにを示しているのか伝わってきた。40~60km/h程度でなるべく前後Gやロール、ピッチングを出さないように走らせてみると、いわゆる微小舵角での反応がいいのが分かる。ステアリングの操舵角にすると日常の運転操作で多用する15度付近での話なのだが、車体全体の動きがすっきりしていて気持ちがいい。ダイエットに成功して身体が軽くなり、動きがよくなったときのようにスッと車体全体が反応するのだ。
そこからさらにステアリングを切り込んでいっても、過剰に鼻先だけが入っていくことはなく、後輪を軸に車体全体で向き変えが行なわれていく。タイヤ(235/45 R17のミシュラン PRIMACY HP。絶対的なグリップ力ではなく、快適性を重視するタイプ)をゴリゴリと路面に擦りつけて曲がっていくような機械的な感覚とも大きく違い、4輪で荷重をしっかり分散しながら曲がっていく。ステアフィールを決める要素の1つであるEPSには、モーターアシスト機構とステアリング機構を分離することで良好なステアフィールが生み出せるデュアルピニオン方式を採り入れている。このデュアルピニオン方式のセッティングは難しいと言われるが、人の感性に訴えかける特性を作り出すには効果的な手段だ。
2周目は周回速度を上げてみる。コース中盤のヘアピン状の右コーナーでは進入時に定めた舵角のまま、いとも簡単にピタリとラインをトレースする。この身体とクルマが一体となったような感覚は、いつも乗っている大型バイク(VFR1200X)で後輪ブレーキを掛けながら駆動力をかけつつ、重力と遠心力を拮抗させたときの安定感にも似ている。
シートもよかった。見た目には一般的な運転席だが、バックレストのホールド性が高く、座面にしても点ではなく面で身体を受け止めてくれるから、長い時間コーナリングによる横方向の加速度が加わる状態でも身体の芯がブレにくい。
ここでも強く意識するのは後輪の存在だ。右コーナーなので、右後輪のサスペンションが伸びきりやすい状況だが、4輪で路面をしっかり捉えている感覚がステアリングを通じて手のひらに、そしてシートやフロアを通じて身体に、さらに遠心力として三半規管に訴えかけてくるから安心できる。筆者はこうした“伸びる足”で定評のあるNDロードスター(後輪駆動)が愛車であることから、ヒタッとしたコーナリング特性には慣れ親しでいるものの、これが前輪駆動のシビックで体感できるとは……。正直、驚いた。
こうした打てば響くような走行特性は、冒頭のパワートレーンにも見て取れる。トルクコンバーターのステーターによるトルク増幅効果で力強く発進しながら、DCTならではの素早い変速特性を活かしたシフトアップ&ダウンは心地いい。これには専用に開発した予測プリシフト制御も大きく貢献しているのだろう。新型シビックには6速MTとの組み合わせもあるというが、“ダウンサイジング”という枕詞が完全に過去のものとなった1.5リッターターボエンジンは、8速DCTとのマッチングもかなりいい。
シフトセレクターをDレンジからSレンジに切り替えると、コーナー進入時にブリッピングさせ(エンジン回転数を上げ)ながら自動的にシフトダウンを行なう制御が顔を出した。今では珍しくなくなった機構だが、素早いレスポンスと高い駆動力を積極的に確保できるし、マニュアル操作でのシフトダウンよりもダウンシフト制御が早いため、こうしたスポーツ走行時にはありがたい。同時にEPSのマップも切り替わってステアリングの操舵トルクが重くなり、スピーカーからは回転数に合わせた疑似的な図太いエンジンサウンドが発せられる。もっとも、ダイレクトなシフトフィールを追求したが故に、アクセルペダルの開け方次第では軽いシフトショックを伴うこともあったが、同乗していた開発者曰く「プロトタイプなので目一杯攻めました!」との言葉に、思わず笑みがこぼれてしまった。
タイプR史上、もっとも快適、かつ速いモデル
その新型シビックに、早くも「タイプR」が設定されていることはご存知のとおり。スポーツカーの聖地であるニュルブルクリンク 北コースでは、前輪駆動モデル世界最速の7分43秒80を記録している。記憶に新しい先代の「シビック タイプR」が7分50秒63だったから7秒近い更新だ。
タイム更新の裏には10PSアップした直列4気筒 2.0リッターターボの底力や空力パーツの恩恵もあるが、やはり「安心して意のままの走りが楽しめる」ことを目標に開発された新型シビックの新開発シャシーの貢献度合いが大きいのではないか。
こちらの試乗もあっという間の2周だったが、大いなる安心感と意のままのハンドリングを実感することができた。走行モードスイッチは「+R」「スポーツ」「コンフォート」の3種類で、エンジン始動直後は「スポーツ」モードが選択される。これまで述べてきたようにプラットフォームがしっかりしていることから、「NSX」からシビックまで含めたタイプR史上、もっとも快適、かつ速いモデルが誕生したことになる。
なにしろ、もっとも過激な設定の「+R」モードで意図的に荒れた路面を走らせても、ドライバーの視線は上下方向にピタッと安定したままだ。現タイプRオーナーには失礼ながら、これは従来のタイプRでは考えられなかったこと。「後席での乗り心地もいいので、自信を持って家族でお乗りいただけます!」(タイプR開発者)という。
ただ、走行モードのうち、「コンフォート」モードの閾値には“ちょっとイメージと違うかな”という点も。3モード中、最も出力特性が穏やかになる「コンフォート」モードだが、ある領域を境に一気に力が解き放たれ、アクセル開度が一定であっても躍度がグンと向上する。しかも、これが高い横Gの掛かったコーナリング中にも発生することから、正直アクセルワークには気を遣うことがあった。意外なことに「+R」モードにはその傾向はなく、低~高回転域まで想像どおりの終始力強い加速フィールとなるため、むしろ扱いやすかった。
タイプRのトランスミッションは6速MT。前後方向のシフトストロークだけでなく、左右方向のセレクトストロークも短く、かつ剛性も高い。ただ、ちょっとしたクセがあるようで、前側の1速や3速から手前に引いてニュートラル位置に戻るときのストロークが若干長く、反対にそのニュートラル位置から2速や4速に入れる際のストロークが短い。実際にはシフトアップ操作は一瞬のことで、ドライバーの体格やシート位置に依存する部分だから慣れの問題でもあるが、筆者は1速(3速)でのストローク長が気になった。
ペダル配置は適切でヒール&トゥもたやすい。ただ、シフトダウン時には自動的にエンジン回転数を上げて回転合わせを行なうシンクロ機構があるため、実はヒール&トゥが必要ないのだが……。MT車には珍しく、そしてありがたい機能としてはEPB(電動パーキングブレーキ)を採用したことによるブレーキホールド機構が挙げられる。坂道発進補助のヒルスタートアシスト機構とは別に平坦路でも働く機能で、停止時にブレーキ圧力を維持し、クラッチミートで自動解除となるので便利だ。
なお、この新型シャシーは新型シビック&タイプR以外にも新型「CR-V」に採用済みで、2017年秋には新型「アコード」にも採用されるという。