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【ル・マン24時間 2017】決勝前日開催、予選で1-2を獲得したトヨタのル・マン24時間プレスカンファレンス

可夢偉選手の3分14秒791は、「シミュレーションの予測を上回るタイム」と村田部長

2017年6月17日~18日(現地時間) 決勝開催

ル・マンのサルトサーキットに設置されているトヨタのホスピタリティスイートで決勝前プレスカンファレンスが行なわれた

 世界三大レースの1つであるル・マン24時間レースは、現地時間6月17日15時(日本時間6月17日22時)に、決勝レースのスタートを迎える。それに先立つ6月14日と15日に予選が行なわれ、小林可夢偉選手がドライブする7号車 トヨタ TS050 HYBRID(マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ステファン・サラザン組)が3分14秒791という、1989年にコースが改修されて以来のコースレコードとなるタイムをマークしてポールポジションを獲得した。

 開幕2連勝中の8号車 トヨタ TS050 HYBRID(セバスチャン・ブエミ/アンソニー・デビッドソン/中嶋一貴組)は2位、現行規定になってから初めてトヨタがル・マン24時間レースに3台目として投入した9号車 トヨタTS050 HYBRID(ニコラス・ラピエール/ホセ・マリア・ロペス/国本雄資組)は5位となり、決勝レースでトヨタ勢は1位、2位、5位という絶好のスターティンググリッドからスタートすることになる。

 トヨタ TS050 HYBRIDを走らせるTOYOTA Gazoo Racingは、ル・マン24時間レースの決勝前日となる6月16日に記者会見を開催。チーム首脳陣やドライバーが登壇し、予選を振り返ったほか、決勝への意気込みを語った。

トヨタがル・マンで走らせているマシンはハイブリッドマシン。ブースの前では、プリウスの発売20周年を記念した初代プリウスの展示も行なわれていた
トヨタハイブリッドのヨーロッパにおける歩み

小林可夢偉選手の3分14秒はシミュレーションの予測を上回るタイム

 TOYOTA Gazoo Racingの記者会見は、同チームがル・マンのサルトサーキット内に設置したホスピタリティスイートの中で行なわれた。記者会見には、TOYOTA Gazoo Racingの首脳陣や9人(3人×3台)のドライバーらが参加した。

 会見に参加したのは、トヨタ自動車 GR開発部 部長 村田久武氏、Toyota Motorsport GmbH テクニカルダイレクター パスカル・バスロン氏、9名のドライバー、そしてトヨタ自動車を代表して、トヨタ自動車 TOYOTA GAZOO Racing代表 佐藤俊男氏、Toyota Motorsport GmbH 副社長 兼 ビジネスダイレクター ロブ・レウペン氏が登壇した。基本的には司会が、登壇者に対して質問する形で進められた。以下はその模様となる。

司会(右)が登壇者に質問していく形式でプレスカンファレンスが進行していった。左から、Toyota Motorsport GmbH テクニカルダイレクター パスカル・バスロン氏、トヨタ自動車株式会社 GR開発部 部長 村田久武氏

──昨日までの振り返りを村田さんから……。

村田久武氏:予選では8号車に小さなトラブルは出たが、深刻なものではなかった。小林可夢偉選手のタイムには本当に驚かされた。我々もル・マン24時間レース前に、シミュレーションをしてきたが、小林選手のタイムはその予想を超えるタイムだった。

トヨタ自動車株式会社 GR開発部 部長 村田久武氏

パスカル・バスロン氏:エンジンは去年の段階でもかなりよかったけど、今年はさらにそれを改善してきたし、タイヤサプライヤーのミシュランもいい仕事をしてくれて、シャシーも、ウェイト比率や空力などが改善され、効率がよくなるなど、非常に大きな進化を遂げたと思っている。

Toyota Motorsport GmbH テクニカルダイレクター パスカル・バスロン氏

──トヨタがル・マンに挑戦し続ける理由は?

村田氏:理由はシンプルで、レースに挑戦し続けるのは技術を進化させるのにいいからだ。6年間WECに挑戦してきて、将来に向けた技術を多数開発できた。それを将来の市販車にフィードバックしていきたい。

──TOYOTA GAZOO Racingは日独混合チームだが、うまくいく秘訣は?

バスロン氏:非常に高いテレカンファレンス必要を払っているよ(笑)。日本の東富士のチーム、ケルンのチームそれぞれのチームが1つになるようにシステマティックにやってきたよ。

──明日への見通しや意気込みを……。

バスロン氏:鍵になるのは天候だと考えている。雨などコンディションが大きく変わる場合があり、温度が自分たちの想定範囲内に収まってほしいと願っている。

村田氏:去年我々は記憶をこのサーキットに置いてきた。今年はそれをしっかりゲットして、勝ちたい、それだけだ。

3分14秒台という驚速タイムがでた要因はノーミスでコース上のトラフィックがなかったからと小林可夢偉選手

 引き続き、ポールポジションを獲得した7号車のクルー、2位だった8号車のクルー、そして5位となった9号車のクルーが司会からの質問に答えるというトークショー形式で進められた。

トヨタ7号車
トヨタ7号車のクルー。左から、ステファン・サラザン選手、小林可夢偉選手、マイク・コンウェイ選手

──可夢偉、昨日はすごいタイムだった……。

小林可夢偉選手:昨日のタイムは、ノーミスでコース上のトラフィック(混雑)もなかったことがよかった。クルマは本当に決まっていて、100%信頼することができて、フライングラップには自信をもって望むことができた。ただ、24時間レースはポールポジションには何も意味がない。調子がいいことは間違いないので、スムーズなレースをして、1-2-3を実現したい。

小林可夢偉選手

──ステファン、可夢偉のタイムはどう思った? また、貴方はこの中で一番経験があるドライバーだが、明日の決勝に向けては?

ステファン・サラザン選手:本当すごいラップで、ピットでもみんなが興奮していた。もちろんクルマは最高に決まっていたけど、だからといっていつもポールポジションが取れる訳じゃない。それはすごく特別なことだけど、彼はやってみせたんだ。レースについては、いつもチームの中で話し合っているのだけど、レースでは何でも起こりうる。大事なことはとにかくゴールすることだと思っている。

ステファン・サラザン選手

──マイク、明日レースへの見通しは?

マイク・コンウェイ選手:自信もってやっているし、速いクルマが3台ある。後は粛々と、トラフィック管理などに気をつけながらレースをしていくことだ。このレースは非常に長いレースだし、何が起こるか分からない。だからこそしっかりと戦っていきたい。特に明日も暑くなりそうなので、今晩はよく寝て明日に備えたい。

マイク・コンウェイ選手
トヨタ8号車
トヨタ8号車のクルー。左から、中嶋一貴選手、アンソニー・デビッドソン選手、セバスチャン・ブエミ選手

──セバスチャン、昨年のあのレースから1年が経ちましたが、ここまでについてはどうか? 昨日は貴方が乗っている時にエンジントラブルが起きたようですが?

セバスチャン・ブエミ選手:今シーズンは開幕から2連勝といいスタートを切ることができた。去年と状況はまったく違って順調なので、ここでもそれを続けていきたい。エンジントラブルに関しては技術的な問題だったが、深刻ではない。これで今週末は最後のトラブルになってほしいね(笑)。だが、その後、一貴が非常にいいアタックを決めてくれて、フロントローを確保したのはよいことだ。今はレースに向けてさらにいいクルマを作ることに集中している。

セバスチャン・ブエミ選手

──アンソニー、あなたはどうか?また、明日に向けての課題は?

アンソニー・デビッドソン選手:去年と同じアプローチで望むだけ。またミスしないように走れば、勝ちは得られると思う。明日に向けての課題は温度だと思う。非常に暑くなるという予報なので、クーリング対策をしっかりして臨みたい。競争は非常に激しいが、勝負を分けるのは信頼性だと思うので、神経質になったりせずにしっかり状況を管理してレースに臨みたい。僕たちはやるべきことは分かっている。

アンソニー・デビッドソン選手

──一貴、今のチームメイトと組むようになってずいぶん経ちますが、どうですか? また、あなたが2014年に実現したように、可夢偉がポールを獲りましたが、貴方の経験から彼へのアドバイスはありますか?

中嶋一貴選手:それぞれ異なるキャラクターだけど、お互いに理解が進みよりよい関係が構築できていると思うよ、僕も快適に感じているし、チームメイトもそうだといいと思っている。昨日の可夢偉はいい仕事をしてスターになったよね、今日1日はそれをエンジョイしてほしい。だが、ここではポールポジションには意味がないので、今日はそのスター感を楽しんでもらって、明日は一緒にレースで頑張りたい。

中嶋一貴選手
トヨタ9号車
トヨタ9号車のクルー。左から、ニコラス・ラピエール選手、国本雄資選手、ホセ・マリア・ロペス選手

──ニコラス、またトヨタの一員となった感想は?

ニコラス・ラピエール選手:いい気分だよ、トヨタのシャツを着ることはプレッシャーだし特別なこと。今回はル・マンでは新人の2人と一緒だけど、どちらも実績を残してきたドライバーだし、雄資もホセ・マリアもよいラップタイムをコンスタントに刻んでいる。我々はステップバイステップでレースに取り組んで行きたい。

ニコラス・ラピエール選手

──雄資、今回初めてル・マンに参加するがどうか? また印象に残ったところは?

国本雄資選手:初めてだし、非常に楽しんでいる。レースでは難しい状況もあると思うが、しっかり準備してレースに臨みたい。一番難しいと思ったのはポルシェカーブで、特にトラフィックの処理が課題になる。経験をしっかり積んで、よりよくなっていきたい。

国本雄資選手

──ホセ・マリア、あなたも今回がル・マンデビューだが?

ホセ・マリア・ロペス選手:非常に楽しんでいる。チームメイトとは今回初めての仕事だが、日曜日の15時にできるだけ上位でいることが目標だ。特に難しいのはトラフィックへの対処で、それを学びながら安全にレースをしていきたい。

ホセ・マリア・ロペス選手

1985年の初挑戦から30年以上。チャレンジするのはトヨタの哲学で、今年こそ勝ちたい

 最後にTOYOTA GAZOO Racing代表 佐藤俊男氏、Toyota Motorsport GmbH 副社長 兼 ビジネスダイレクター ロブ・レウペン氏という、チームを代表する2人が、今年のチームの目標などについて語った。

左から、Toyota Motorsport GmbH 副社長 兼 ビジネスダイレクター ロブ・レウペン氏、トヨタ自動車株式会社 TOYOTA GAZOO Racing代表 佐藤俊男氏

──佐藤さん、トヨタ自動車にとっての去年のあの結果はどうだったのか? また、今年のここまでのシーズンは?

佐藤俊男氏:トヨタ自動車の経営陣も、去年の結果の悔しさを共有しており、我々を力強く支援してくれた。それと同時にやはり我々を支援してくれたファンにも感謝したい。今年はそのファンにもっと感動を提供していきたい。今シーズンに関しては、開幕2連勝ですでにベストシーズンだと考えており、高い競争力を維持できており大変喜んでいる。が、最大の目標はル・マン24時間に勝つことなので、明日と明後日に挑戦してよい結果をだしたい。

トヨタ自動車株式会社 TOYOTA GAZOO Racing代表 佐藤俊男氏

──ロブ、チームはこの1年どのように準備してきたのか?

ロブ・レウペン氏:我々は非常に優れたチーム、ドライバーを抱えており、エンジニアリングチームはそのメンバーにいいクルマを提供したいと1年間やってきた、ケルン、東富士のメンバーが本当によくやってくれている。また、今年のレースに向けては、これまでは目を向けてこなかったプロセスにも目を向けて最適化を行ってきた。今回は3台目も投入して、経験のあるドライバーと速さがある新人ドライバーを配置している。

Toyota Motorsport GmbH 副社長 兼 ビジネスダイレクター ロブ・レウペン氏

──佐藤さん、トヨタにとってのル・マン24時間レースとは?

佐藤氏:トヨタはル・マン24時間レースを深く尊重している。ル・マン24時間レースに勝つことは、トヨタ自動車にとっての夢。1985年に初めてチャレンジしてからすでに多くの時間が過ぎ去っているが、チャレンジはトヨタの哲学であり、今回こそ実現したい。

トヨタのル・マン挑戦は、昨年の中嶋選手の“ノーパワー”から365日休みなく続けてきた

 記者会見終了後、日本側の技術的な責任者になるトヨタ自動車 GR開発部 部長 村田久武氏の囲み会見が行なわれた。

──あのタイムがでた要因は?

村田氏:エンジンの出力が上がり、空力のレギュレーションキャッチアップが完全にできたことの2つだ。空力のダウンフォースに関しては去年のレベルは再現できている。エンジンに関してはものすごく馬力がある。

──空力が去年のレベルまで戻っている上にエンジンのパワーが上がっているからこういうタイムがでるということか?

村田氏:でないと14秒はでない、あの14秒台は本当に驚いた

──シミュレーション上では何秒ぐらいでていたのか?

村田氏:それはみんなに質問されるんですけど、言えない(笑)。想像を超えていた。

──想像を超えた理由は?

村田氏:面白くない答えとしては、路面とタイヤがきっちりとよくでている。いくら馬力を強化しても、ダウンフォースをだしてもタイヤが働かないとタイムが出ない。その辺りがシミュレーションを超えた理由だと考えている。

──昨日の路面温度は想定内だったのか?

村田氏:あんなに高い温度ではテストもレースもやったことがない。特にフリー走行で取ったデータ、3スティント目、4スティント目、最後タイムをアタックしようと思っていたところでいいデータが取れた。

 可夢偉がアタックしたのは、ちょうど最もタイムがでるちょっと前で、赤旗あけはみんなすぐには出てこないので、バックマーカーと長い距離が取れた。8号車と9号車がアタックしたときには、前にポルシェがいて若干詰まってしまい、もったいなかった。そこでタイムが出せていれば、もう少し綺麗な順番で並べていたかもしれない。

──昨日のエンジントラブルは?

村田氏:あれはもう全然たいしたことない話。言うのも恥ずかしいぐらいたいしたことないレベル。僕らのシステムはいろいろとアラームが取れるように作ってあって、ドライバーもモニターで見ているが、エンジンのトラブルのアラームがでたのでブエミが減速して止めてくれた。あとは、自分たちが作っているサバイバル方法であるEV走行で帰ってくることができたことも意味がある。逆に言うと、そこもきちっと機能して、あの距離をバッテリーだけで走れたので自分でもたいしたものかなと思っている。

──温度対策は?

村田氏:温度はいろいろあるのだが、タイヤはすでに替えることはできない。キャビンの温度やブレーキの冷却などはいろいろあるのだが、それは今日これから1日かけてゆっくり準備する。

──電池の耐熱性は上がっているということだが、それはアドバンテージになるか?

村田氏:そうだ、冷やさなくていいということだ。冷やす力を使わなくていい、すなわちクルマが速くなる。

──ポルシェと比べてどうか?

村田氏:そういう質問を沢山されるのだが、そうではなくて、去年レースが終わって、自分たちが数値目標を決めて、その数値目標を達成するために頑張ってきたので。今回も決めたことを淡々とこなしているだけ。

──エンジンのパワーが上がったということは、熱交換効率が上がったのか? 現在は市販車でも40%ぐらいとされているが、どのくらいなのか?

村田氏:市販車のプリウスよりも熱効率はよい。その数字は、ル・マンで優勝して記念講演か何かがあればお話しさせていただければ(笑)。

──予選を終えた段階で、決勝に挑む状況で心持ちは変わっているか?

村田氏:ル・マンに来てどうですか?とか予選終えてどうですか?という質問を多数受けるのだが、僕らの今回の活動は、一貴の“ノーパワー”からスタートしている。365日のうちの364日間ずっとそれだけを考えて過ごしてきたので、それが最後の1日になったからといって何も変わらない、同じことをやるだけ。

──それは想定内で進んできたのか?

村田氏:そんなことはない、立てた目標が実現できず去年の年末とか泣きそうだった。もういろんなトラブルが起きたし、うまく行かないこともあったし、やり直したことも山ほどあったが、それを歯を食いしばってここまでやってきた。

 メディアの皆さん向けには、“ドキドキしてます”とか言えればいいのだが、嘘が言えないので(笑)。本当にやることをやるだけ、それだけだ。

 去年の(5号車が残り3分でリタイヤしてしまう原因になった)パイプもそうだ。僕らも去年のレベルではやっていたつもりだったが、あそこは見れていなかったのは事実。僕らの中で本当にやったのか、やりきったのかというレベルで見ていくと、見るポイントがどんどん上がっていく。そうすると、粗がいくらでも見えてくる。見えたら潰さないといけなくなって、現在もまだ潰している。今もやっている、だから早くガレージに帰って続けたいぐらいだ(笑)。