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【インタビュー】アウディ ジャパン 齋藤社長にアウディのSUPER GT挑戦について聞く

SUPER GTは「ハラハラドキドキの最後まで見逃せないレース展開が魅力」

SUPER GT 第2戦富士で、アウディ ジャパン 代表取締役社長 齋藤徹氏にアウディのSUPER GT参戦について聞いてみた

 世界的にプレミアムな自動車メーカーとしての地位を確立しているアウディ。アウディが自動車の世界でプレミアムなメーカーとして位置づけられるようになった大きなきっかけが、WRC(世界ラリー選手権)におけるフルタイム4WD機構「クワトロ」の導入だ。このクワトロに代表されるように、アウディは古くから自動車の世界で新たな技術に挑戦し、そしてそれを市販車の世界で当たり前の技術にしてきた。

 代表的なものが先ほどのクワトロだが、ル・マン24時間レースにおける直噴ディーゼルハイブリッドの活躍、そして直近では自動運転の積極的な導入がある。

 そんなアウディだが、日本で最も人気のあるモータースポーツであるSUPER GTにも「R8」で参戦している。このSUPER GTへの参戦について、第2戦富士の戦いの場となる富士スピードウェイを訪れたアウディ ジャパン代表取締役社長 齋藤徹氏に聞いてみた。

SUPER GT GT300クラスに参戦する21号車 Hitotsuyama Audi R8 LMS
21号車のドライバーを努める、柳田真孝選手(左)、リチャード・ライアン選手(右)

──日本における代表的なモータースポーツであるSUPER GTをどのように捉えていますか? とくのこの第2戦富士では記録的な観客数となっています。

齋藤社長:素晴らしいのひと言ですね。日本を見てもグローバルに見ても、モータースポーツで実際にサーキットに足を運んでくれる人は長期的なトレンドで減る傾向にあります。それなのにこの富士のSUPER GTではこれだけの人(インタビュー後の主催者発表で、5月3日が3万4100人、4日が5万8000人で、計9万2100人)が集まっている、とくに渋滞の厳しい状況のなかでもこれだけの人が来てくれる。これはSUPER GTを運営するGTアソシエイション、そしてその代表である坂東さん、そして富士スピードウェイなどサーキットの方の並々ならぬ努力があると思います。

 坂東さんもおっしゃっていますが、最後はお客さまがあってのレースなりモータースポーツだと思います。世界中を見てもこれだけ観客が訪れるレースというのはなかなかないと思います。世界のモータースポーツにとって、興行的に成功させていくベンチマーク(基準)になっていくのではないかと思います。

 実際、アウディ本社でカスタマーレーシングを担当している責任者が去年SUPER GTを訪れたのですが、「素晴らしいシリーズだ」と言ってくれました。ドイツで行なわれているDTMでは、これだけのお客さまはサーキットに来ていただけていません。DTMはもっとメーカー色が強くて、GT500に相当するのでしょうけど、これほどのお客さまはいらっしゃっていません。

──日本で最も人気のあるモータースポーツであるSUPER GTに、アウディが参戦する意味とは?

齋藤社長:いろいろな意味があると思うのですが、1つはアウディはRSとかR8に代表されるように高性能車を製造・販売しています。高性能車のクルマ作りという意味では、アウディは高い技術力を持っています。実際にビジネスとして見たときにまだまだポテンシャルがあるということで、世界的にアウディの高性能車をもっとプロモートするため、2016年に「Audi Sport」というブランドを立ち上げました。そのAudi Sportを広めていく上でいろいろな活動をやっているのですが、その活動の中の大きな柱がSUPER GT参戦になります。

 日本においては、R8のレース仕様車をSUPER GTで走らせることによって、アウディのスポーツカーを知ってもらいたいという意味があります。

──アウディは世界のさまざまモータースポーツに参加していますが、日本のSUPER GTのどこに自動車メーカーとして魅力を感じますか?

齋藤社長:やはり、多くのお客さまを引きつけるだけの魅力があるところだと思います。見てて楽しい、さまざまなハプニングがあったりして接戦が展開されている。この接戦は重量のハンデウエイトとかさまざまなルールの結果ではありますが、ハラハラドキドキの最後まで見逃せないレースが展開されているところではないでしょうか。

 F1もそうですが、シリーズを通していつも同じクルマが勝ったりとか、ポールからフィニッシュまで同じクルマが独走するのが続いたら、やはりレースとしての見応えがありません。この見応えのあるレースにするという工夫をしているところがSUPER GTのよさだと思います。

──アウディのスポーツカーは世界的に評価されてるが故に、そもそものハンデとなるBOP(第4戦SUGOは、Audi R8 LMS GT3で最低車重1225kg、BOP重量+35kg、エアリストリクター径38.0mm×2)が厳しめになっています。ここはなかなか実際にレースを勝つ上で厳しい部分ではないでしょうか?

齋藤社長:そうですね、今シーズンはいろいろあって結果が厳しめになっています。正直、もうちょっと上に行きたいですね。GT3でのアウディは、欧州では耐久レースを含めて強いレースをしています。SUPER GTのGT300クラスの2016年シーズンは現在も使っているクルマで優勝もしましたし、年間ランキングも3位とGT3カテゴリーでは一番上の結果になっています。今年はこれからなんとか頑張って、上を狙ってほしいなと思っています。少なくともGT3では一番手で、1勝でも2勝でもしてほしいなと思っています。2017年は2年目でマシンもいろいろ分かってきたし、期待しています。

──2016年は、市販車においても輸入車としてトップとなるインポート・カー・オブ・ザ・イヤーを日本で受賞しました。市販車の評価も高く、輸入車として販売面も好調のように見えます。この要因はどこにありますか?

齋藤社長:高い評価をいただいている要因を挙げるとするなら、過去10年くらいアウディ ジャパン社員が一生懸命コツコツと築き上げてきたものだと思います。ブランドにしても販売力にしても。

 ディーラーさんとのパートナーシップもよいものが築けていますし、ディーラーさんとの信頼関係の上に今のアウディのブランドがあります。

 アウディには根強いファンがいらっしゃるのが心強いです。アウディのクルマのメカニカルなよさ、デザインのよさ。アウディは、アウディのエンジニアが妥協せずにこだわりをもって作り込んでいるのがクルマのよさになります。そのよさというか、アウディの作り込みに対して共感していただけるお客さまがたくさんいらっしゃるというのが心強いなと思います。

 これからもあせらず、やるべきことをきちっとやっていけば、アウディのことをサポートしてくれるオーナーさまやアウディファンも増えていくと考えています。

──アウディはスポーツブランドについて、これまでは“クワトロ”を打ち出していましたが、quattro GmbHがAudi Sportとなり、クワトロよりも大きな意味を持つスポーツへと、訴求ブランドを変更したように見えます。この変更の意図はどこにありますか?

齋藤社長:アウディのブランドの持っているブランドパーソナリティにはいくつかの側面があるのですが、例えば“洗練されている”とか“知的”とかがあり、“エンジニアリングが優れている”“クルマの完成度が高い”という部分もあります。

 もう一つ、“スポーツ”というのが大きいです。アウディはスポーティなブランドで、実際にスポーツカー作りに体現されています。アウディのスポーティなイメージをもっともっと高めていく必要があると考えています。

 僕自身は“プレミアム”=“スポーツ”だと思っています。スポーツで勝つために必要な、気持ちであるとか、正確性であるとかは、プレミアムブランドに通じるものだと思っています。

──ブランドの話ですが、従来からのアウディファンと、新しく立ち上げた“Audi Sport”のファンは、同じ人たちなのですか? それともこれまでのアウディファンとは異なる人たちなのですか?

齋藤社長:そもそもAudi Sportのクルマは昔から売っています。今に始まったブランドではありません。アウディのなかでもRSではない普通のシリーズを乗っているお客さまが、Audi Sportに乗り換えていただくというケースも結構あります。

 アウディのスポーツカーというのは、強いクセがなくて乗りやすいのです。普段使い、通勤などにも使えます。それでありながら、いざというと凄いクルマになります。スポーツカーに慣れていない方でも乗りやすいものになっています。質問の答えとしては、どちらともとなります。

──齋藤社長は岡山、富士とSUPER GTに通っており、今日は渋滞の中、自分で運転して富士スピードウェイへと来ました。とてもクルマ好きだなと思いますし、ご自身レースが好きなように見えます。齋藤社長の考えるレースの魅力はなんですか?

齋藤社長:勝ち負けがはっきり出るのが、すっきりしていいじゃないですか。その理由も分かる人は分かる部分ですし。普通のビジネスであればなかなか勝ち負けがついているようなついていないような部分があります。勝負の世界は結果がはっきり出るのがいいですね。

 “勝つ”という目標がもの凄くはっきりしているのがレースだと思います、この“勝つ”ということに向けてチーム関係者が本当にベクトルを合わせて仕事をしているところがいいところだと思います。もともとビジネスもそうでなければいけませんが。

 また、レースの魅力には“挑戦する”というのがよいと思っています。僕はクルマ屋なんで、クルマの温度が高い人たちがレースを見に来ているというサーキットの雰囲気も好きです。

 僕はクルマでずっと飯を食わしてもらってきています。日本のクルマ社会も成熟してきている部分があって、モータースポーツというのはクルマ文化を支えるものだと思っています。そのクルマ文化を支えるモータースポーツというものに、自分なりに、またアウディとして加わっていく。それを支援していく姿勢は大事だと思っています。


 アウディの次の戦いの場となるSUPER GT 第4戦SUGOは、7月22日~23日にスポーツランドSUGO(宮城県柴田郡村田町菅生)で開催される。