ETC助成で車載器を付けてみた……イセッタに

取り付けを担当してくださったオートバックスの神田さんと


 高速通行料金のETC休日特別割引と連動して開始されたETC車載器新規導入助成制度の大人気ぶりは、連日の報道で読者の皆さんもよくご存じのとおり。車載器の在庫がないだの、取り付けは2時間待ちだのと、まるで銀行が倒産したような騒ぎになっているその最中、Car Watchも助成制度でのETCの取り付けを体験してきた。

 取り付けの実験台になったクルマは、本誌でもおなじみのデザイナー、のりたまこ女史の愛車、1957年式BMWイセッタである。

ETC車載器新規導入助成制度とは
 ETCが何で、どうすれば利用できるのかは、関連記事の「失敗しないETC車載器導入の手引き」を参照していただきたい。

 関連記事で助成制度についても説明しているが、ここでも簡単におさらいしておこう。この制度で車載器を購入し、取り付けると、2年以上の契約期間、かつ2回以上の分割またはリース契約で支払いし、さらにアンケートに答えれば、5250円が助成されるというもの。なぜ2年以上の契約になっているかというと、助成で手に入れた車載器を長く使ってもらうため。ぶっちゃけて言えば転売防止である。

 さて、今回ETCの取り付けをお願いしたスーパーオートバックスTOKYO BAY東雲店を含むオートバックスでは、助成に対応した支払いプランを用意している。このプランでは、1回目に「車載器の価格+取り付け工賃+セットアップ料-助成額(5250円)-100円」を支払い、2年後に2回目の100円を支払う。1回目に総費用から100円を引いた額を支払うのがミソで、こうすれば、実質1回の支払いで車載器を利用できることになる。

 なお2回目の支払いだが、取扱店から支払い用紙が届くので、コンビニエンスストアなどで支払うことになる。

東雲店のオーディオコーナーのカウンターで申し込む

1000人近くが車載器を待っていた
 スーパーオートバックス東雲店では、カーオーディオコーナーでETC車載器を扱っている。取り付けは、同店のカーライフアドバイザー、神田崇弘さんが担当してくれた。

 ここで車載器を申し込むと、まず「ETC車載器 入荷連絡待ち票」を記入し、どんな車載器が欲しいのかに答えることになる。なにしろ車載器は供給不足で、お店にも車載器の在庫がない。なので、希望の車載器を伝え、その入荷を待つ体制になっているのだ。

 車載器の選択肢は、価格が上限1万3000円、1万7000円、それ以上の3つ。形状が一体型と分離型のどちらがいいか、あるいはどちらでもいいのか。最後に希望する車載器の色(ブラック、シルバー、何色でもいい)となっている。

 こうして入荷待ち票が渡され、入荷の連絡を待つことになる。当然、贅沢を言わなければ言わないほど、車載器を手にするまでの時間が短くなる。

ETC車載器 入荷連絡待ち票。注意書きにあるとおり、これを書いて申し込んでも、車載器の入荷前に助成台数いっぱいになってしまうと、助成は受けられない。なので助成を受けることを優先するなら「車載器ならなんでもいいです」の姿勢が最も有利

 ここで問題になるのが、助成を受けられるタイミングだ。車載器を入手して、「セットアップ」という作業をすると初めて助成対象になる(セットアップがどんな作業なのかは後で説明する)。だから、とにかく車載器を手に入れてしまわないことには、助成を受けられないのだ。

 ちなみに助成制度が受けられるのは、4輪車が115万台、2輪車が5万台。4月6日の時点で約88万台が助成を受けているので、残りは27万台。東雲店では今から申し込んでも助成を受けられない可能性があると告知しているが、それでも1000人近くの入荷待ちの人が常時いると言う。

 取り付けを行ったのは3月末。この時点で助成台数は95万台まで(115万台に拡大されたのは4月に入ってから)、助成を受けた台数はすでに80万台を超えており、もたもたしていると助成枠に入れないという状態。しかもこの日、東雲店でもらった入荷待ち票の番号は「957」、つまりまだ956人が車載器の入荷を待っているのだった。

 のりたまこさんとしては、かわいらしいイセッタにフィットするデザインの車載器を付けたいところだったが、色などにこだわっていては助成を受けられない可能性があるし、助成を受けられなければ記事にできないと焦った記者も必死の説得。渋々、すぐ手に入る車載器を付けることになった(Car Watchとかかわってしまったばかりに、災難である)。その車載器は、三菱電機の「EP-437BA」で、アンテナと車載器本体が分離したタイプだ。色は黒で、無骨な真四角の姿をしているが、薄く小さいので、あまり目立たないだろう。価格は9800円だ。

 ちなみにこのEP-437BAはオートバックス専売モデルなので、カタログには載っていない。内容はカタログモデルとほぼ同じだが、カタログモデルはアンテナ部分にカード挿入インジケーター(ETCカードが車載器に挿入されていると点灯するので、目に付きやすいところに設置されているアンテナ部を見れば、カードが入っているかどうかが分かる)が付いているのに対し、EP-437BAには付いていないという違いがある。もちろん本体にはインジケーターが付いているし、音声でカードの有無や課金を通知してくれるので、実用上は問題ない。

取り付けることになった三菱電機EP-437BA。カードリーダー部の右に見える四角いものがアンテナだが、インジケーターが付いてないEP-437BAのパッケージ。右手前の白い部分に後で必要になる車載器管理番号が書いてある
助成を受けるために、通常の1枚+2枚の書類を書く

3枚の書類に記入
 続いて、3枚の書類を書くことになる。まずは「ETC車載器セットアップ申込書・証明書」で、これはセットアップを申し込むための書類。

 先ほどから出ているセットアップというのは、これから購入する車載器がどんなクルマに取り付けられたのかを、登録する作業のことだ。登録されるのは、クルマの車種(普通車、大型車など)や、プレートナンバー、そして車載器1台1台に付けられている「車載器管理番号」などだ。こうしておけば、大型車が普通車の料金で通過するような不正を防げる。車両情報を登録するために、車検証が必要になるので、持参するのを忘れないように。

 セットアップには、「オンラインセットアップ」と「オフラインセットアップ」があり店舗によって異なる。オンラインなら即時セットアップが可能だが、オフラインでは1週間ほど要する。東雲店はオンライン対応なので、すぐにセットアップされる。ちなみにオンラインセットアップ作業は20時で締め切られてしまうので注意が必要だ。

 通常のETC車載器取り付けなら書類はこれでおしまいだが、助成制度を使う場合はあと2枚の書類を書く必要がある。その1枚は「四輪車ETC車載器新規導入助成申込書」。読んで字のごとし、助成制度を司る高速道路交流推進財団なる団体に送る書類で、これで助成を受ける条件(2年以上の契約と、分割払い)に同意して契約したことになる。またもう1つの条件、アンケートもこの用紙にあるので、これに答える。

 次に「ETCらくらく支払いプラン申込書」。これはオートバックスに提出する書類で、これで1回目にいくらを支払うのかが確定する。

ETC車載器・セットアップ申込書・証明書。これでそのETC車載器がどの車に装着されたのかを登録する四輪車ETC車載器新規導入助成申込書。アンケートは左下の部分
ETCらくらく支払いプラン申込書ETCらくらく支払いプラン申込書の、支払額の欄。2回目は2011年10~11月に100円を払うことになっている
締めて1万2325円になった

 さて今回の助成と、ETCらくらく支払いプランを利用したETC取り付けの、1回目の支払額は次のとおりだ。

車載器9800円
工賃5250円
セットアップ費用2625円
小計1万7675円
助成-5250円
支払いプラン2回目分-100円
1回目支払額1万2325円

 ところで注意すべきなのは、ETCカードは別途、自分で申し込む必要があることだ。セットアップと取り付け時にはとりあえず必要ないが、取り付け後にETCゲートでちゃんと動作するか確認したければ、あらかじめETCカードを用意しておこう。ETCカードについては、関連記事「失敗しないETC車載器導入の手引き」を参照されたい。

イセッタをピットに移動する

こだわりの取り付け作業
 書類の記入とセットアップが終わったら、いよいよクルマをピットに入れて、取付作業の開始だ。

 ここで、取り付けるイセッタがどんなクルマかをざっと紹介しておこう。イタリアのISOが1953年に発表した2人乗りの小型車で、第2次世界大戦後の疲弊した経済環境下でトランスポーテーションを支えた。“バブルカー”とも称されるそのかわいらしい外観に魅せられ、現在でも多くの人が愛用している。2285×1380×1340mm(全長×全幅×全高)と小さな車体で、ボディーの前面が開いて乗り降りするようになっている。このとき、ステアリングとメーターパネル、フロントウインドーも一緒に開くのが大きな特徴となっている。

 のりたまこさんの愛車はBMWによるライセンス生産バージョンで、エンジンはBMWのオートバイ用単気筒250cc。イセッタはいくつかのメーカーにライセンスされたが、信頼性の高かったBMW版はその中でも最もたくさん生産されたと言う。

 まず問題になったのが、どこに車載器を取り付けるか。アンテナは、ETCゲートと通信する必要があるので、フロントウインドウ上部に付けざるを得ない。車載器を動作させる電源は、メーターパネル裏のヒューズボックスから取る。となると、カードを挿入する本体は、配線の都合を考えると、ドアのメーターパネル付近に付けてしまうのがベスト。

 だが、イセッタのインテリアの雰囲気を壊したくないので、なるべく目立たないところに付けたいし、アンテナにカード挿入インジケーターがないから、本体のインジケーターがすぐ見える場所に付けたい。さらに、カードを抜き差ししやすい位置に付けなければならない。イマドキの車ならグローブボックスの中とか、ダッシュボードのどこかといったように、定番の取付位置があるのだが、イセッタにはそのどれもがない。

 ああだこうだと議論しながら、現物を取付想定位置に当てつつ検討を進める。ここならいい、と思ったところでも「メンテナンスでシートや内張を取り外すときに邪魔になる」といったような、イセッタ特有の問題から、最適な位置を探すだけでも大変。

 結局、ドライバーの左足元、左前輪のホイールハウスに取り付けるのが、実用性と美観の点からベストということになった。この場合、アンテナと電源の配線がドアのヒンジを経由するのがやっかいだが、東雲店の神田さんは「やってみましょう」と言う。

取付位置を検討する。ご覧のように、イセッタは車体前面のドアから出入りするステアリングとメーターパネルはドアにくっついている。車載器を押し当てている部分が左前輪のホイールハウスメーターパネルの裏。ここから車載器の電源を取る
狭いイセッタに潜り込んで、メーターパネルの裏から配線する銀色のフレキシブルチューブが、バッテリーからメーターパネルへの配線。車載器の電源とアンテナケーブルをコルゲートチューブに入れたものを、タイラップで銀入りのチューブに這わせたコルゲートチューブ

 東雲店のメカニック2人がかりでの作業が始まった。お二方ともイセッタをいじったことはないが、慎重に配線位置などを決めつつ、迅速に作業を進めていく。

 車載器本体をホイールハウスに取り付け、電源ケーブルをメーターパネルにつなげる。イセッタにはもともと、車体後部のオルタネーターから、ドアのメーターパネルまでケーブルがあり、ヒンジを通る部分はこれにケーブルを這わせることになった。

 アンテナは、前述のとおりフロントウインドーの上部に取り付け、こちらの配線はウインドーの外枠を這わせメーターパネルに到達。電源ケーブルとともに、車載器本体につなぐ。

車載器の位置を仮止めして決めるアンテナはほぼ自動的にフロントウインドーの上にアンテナからの配線をウインドーに沿ってメーターパネルへ。ガイドモールを窓枠に貼り付け、ケーブルを通していく
ウインドー枠にケーブルを取り付けるために使ったガイドモールウインドー枠からメーターパネル裏へケーブルが離れる部分は、最短距離を、しかも美観を考えつつ貼り付ける作業風景。2人がかりで配線を進める。手前では神田さんがサービスの空気圧調整まで
作業風景。のりたまこさんや記者の要望をじっくり聞いて、狭い車内で作業を続けてくれた

 仕上がりを見て、のりたまこさんと記者は大いに感動した。ヒンジを通る部分の配線は、ある程度の余裕を持たせつつ、かつドアで挟み込まないように調整された。そのほかの配線は目立たないよう、何種類かの配線カバーを駆使して、実に美しく取り付けられたのだった。普段はカーオーディオのインストールをされているだけに「お客様のご要望以上に、現場の人間が美しさこだわって作業してしまうんです」と神田さんは苦笑いする。

 この企画が持ち上がる以前、のりたまこさんはD.I.Y.で車載器を取り付けるつもりだった。配線を簡単に隠せるようなところが少ない車なので「ケーブルはむき出しのまま、ボディーにテープでくっつけようと思っていた」のだが、東雲店のスタッフは見事、ケーブルの露出を最小限にとどめたのであった。

配線が目立たないきれいな仕上がり車載器からメーターパネルへの配線もフロアマットに隠され、目立たなくなっている(写真右上に、配線を通したコルゲートチューブがフロアマットから出ているのが見える)ドアヒンジをまたいだメーターパネルへの配線
ウインドー枠も配線が目立たないウインドーのゴム枠を通したかのようなアンテナへの配線電波が到達することを確認する。神田さんが手に持っているのがテスターで、ETCゲートの通信機の代わり

 ところがここで1つ問題が起きた。イセッタの運転席には、エンジンルームからの熱気を導いてヒーターとするパイプがむき出しになっており、これは途中で分岐してウインドーデフロスターにもなる。アンテナからウインドーを回り込んできた線が、メータパネル下の電源線に合流すべくウインドーを離れる部分で、このパイプと接触しており、熱で溶けるのではないかという心配を伝えると「ではやり直しましょう」と、配線し直しの手間までかけていただいた。

 作業は結局、2時間に及んだが、割増料金などは請求されなかった。

これが問題の、ウインドーからメーターパネルへ向かう配線。最初はこのように最短距離を通っていたが、左に見えるラッパ状のデフロスターがここに当たるのが心配ドアを閉めるとデフロスターはこのように窓にくっ付く。デフロスターと窓の間に配線が挟まるので、熱が配線に影響しそうなのが怖いデフロスターを避けるように配線し直してもらった

早速ETCレーンへ
 神田さんと取り付けスタッフの見送りを受け、東雲のすぐ近くにある、首都高速湾岸線の新木場入口を目指す。ETCゲートをくぐってみるのだ。

 車載器を取り付けたら、初回はETCと非ETCの両対応レーンを通るのが定石だ。もし車載器にトラブルがあってゲートとうまく通信できない場合、ETCレーンではゲートが閉まり、レーンに停止せざるを得ない。追突の危険を犯すことになるが、両対応レーンなら、うまく動作しないときは現金を支払えばいいだけだ。

 どっこい、新木場にはETCレーンと、非ETCレーンがあるだけで、両対応レーンがなかった。ええいままよとETCレーンに突っ込んでみると、見事動作、ゲートが開いた。

 その後、土浦などへの遠出にも使われているイセッタだが、特に問題はないとのことだ。

新木場入口。ETC専用レーンしかない!が、無事通過

 

(編集部:田中真一郎)
2009年 4月 8日