「非接触給電ハイブリッド」の都バスが実証営業走行

都バス仕様になった非接触給電ハイブリッドバス

2009年4月13日~27日(土日運休)



 国土交通省は、非接触給電ハイブリッドバスを都営バスの営業運行に使用し、実証走行実験を行う。期間は4月13日~27日(土日を除く)。運行路線は都05系統(晴海埠頭~東京駅丸の内南口)で、晴海埠頭発10時43分と同13時42分の2往復に使用される。営業運行なのでもちろん一般乗客も利用が可能だ。

“プラグのないプラグインハイブリッド”
 非接触給電(IPT)ハイブリッドバスは「次世代低公害車開発・実用化促進プロジェクト」の一環として開発されており、2008年から羽田空港のターミナル連絡バス、洞爺湖サミットのシャトルバス、さらに上高地の路線バスとして実証実験を行ってきた。今回は初の都市内営業走行となる。

 運行に使用される車両は前回までの実証走行にも使われた車両で、日野自動車が開発、製造した。モーター(最高出力180kW、最大トルク859Nm)と4.7リッターのターボディーゼルエンジン(最高出力132kW、最大トルク490Nm)を搭載したハイブリッド・パワートレーンを搭載する。モーターとディーゼルエンジンの間にはワンウェイクラッチが入っており、ディーゼルエンジンの回転数がモーターの回転数を上回るとクラッチがつながる。パワーユニットと駆動輪の間にはマニュアルトランスミッションが入る。

IPTハイブリッドバスエンジンルーム。手前がディーゼルエンジン。奥のほうにモーターとトランスミッションがある

 ハイブリッド車といえば内燃機関を電気モーターがアシストするのが一般的だが、このバスの場合、モーターの出力の方が大きいため、どちらかといえばモーターをディーゼルエンジンがアシストするような形になると言う。

 この車両の大きな特徴は名称どおり「非接触給電」が可能なこと。車体底面のコイルと、路面に設置された給電施設のコイルを近づけると、電磁誘導により路面からバスに給電される。大型車両に高速充電するには、プラグも大型になってしまうが、非接触給電なら路面のコイルの上にバスを移動させるだけで、高速に給電できる。日野自動車HV開発部の小幡篤臣主査はこの仕組みを「プラグのないプラグインハイブリッド車」と表現する。

 実験車両が充電に要する時間は「1km走行するのに必要なエネルギーを充電するのに約1分」(小幡主査)とのこと。

 今回の運行では、通常はモーターのみで走行し、ディーゼルエンジンは非常時のみ使用する。バッテリーは20のセルから成るリチウムイオン充電池で、容量は80Ah/41.4kWh。サイズは1638×1628×395mm(幅×奥行き×高さ)、重量は580kg。モーターのみで走行した場合、市街地で約15kmの走行が可能。晴海埠頭と東京駅丸の内南口は片道約5kmなので、1往復したら深川の車庫に設けられた施設で充電することになる。

 なお、車両のサイズは10925×2490×3285mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース5200mm。車両重量は12130kgで、ベースとなったハイブリッドバスよりも980kg重い。一方で重量バランスなどの関係から、乗車定員はベース車両より12名少ない63名となっている。

バッテリーは屋根の上。前部の「EV-Hybrid」と書かれた箱の中にある床下のコイル。ここから給電される前輪のすぐ後ろ(人がのぞき込んでいるあたり)にコイルがある
ベースになったハイブリッドバス運転席。MTなのでペダルは3つ。画面左上にIPTバス用のスイッチが増設されているIPTバス用コントロール。電気走行とハイブリッド走行の切り替えや、充電のスイッチがある
車内のモニター。これは走行中で、バッテリーからモーターに電気が流れている。「ICE」は内燃機関、つまりディーゼルエンジンだが、通常はこのように動作せず、モーターのみで走行する回生中の画面。タイヤからモーターを介して電気がバッテリーに向かう車内は通常のノンステップバスと同じ
ただし最後部に座席がなく、計測装置などが置かれている深川車庫の給電装置給電コイル

静かな走行、オリンピック招致にも活用
 国交省は運行開始に先立つ4月10日、晴海埠頭で出発式を開催。報道関係者向けに車両と、都営バスの深川車庫の給電施設を公開。さらに深川車庫~晴海埠頭の約4kmの試乗を行った。

 深川車庫の給電施設は、整備棟の中に設けられていた。床の上に給電コイルが置いてあり、バスはその両脇のレールに乗る。定位置に着くと、バスはエアサスペンションの機構を使って車高を下げ、コイルとコイルを近づける。

 レールはコイルの高さをクリアするために必要なもので、床にコイルを埋め込めば不要になる。バスが車高を下げる動作も、床のコイルが上に上がる機構があれば不要になる。日野自動車の工場にある給電設備は上記のようになっているが、今回の実証運行は約2週間で終わるため、レールとバスの車高調整機能を使った簡易設備となっている。

 コイルとコイルの距離が近いほど、給電の効率が高まり、充電に要する時間も短くなる。日野自動車は、コイルを近づけるための動作が不要になるように、コイル間の距離が伸びても給電効率を高くする研究を進めている。

 この設備を路線バスの始発または終着所に用意しておけば、いちいち車庫で給電する必要もなくなる。

 基本的に電気モーターのみで走行するため、内燃機関のバスのような音や振動はない。冷却システムが動いているため音は皆無ではないものの、ディーゼルエンジンにくらべればずっと静かだ。

 車内にはパワートレーン動作とエネルギーの流れを示すモニターが設置されている。これを見ていると、減速時や変速時に回生動作をしていることが分かる。

レールに乗って給電位置に着くバスと床のコイルが近づく
給電中のコイル。外観に変化はないバスの手前にあるのが給電装置給電装置のコントロールパネル。約170Ahで給電している
バス内のモニターで給電の様子を表示しているところ。電圧と温度はセル1つ1つを計っており、最大のセルと最小のセルの数値が表示される。パーセント表示がバッテリー全容量に対する充電の割合走行中のIPTバス車内

 


 
IPTバスの走行(上)と、走行中の車内でモニターを撮影したところ(下)
どちらも非常に静かで、電車のような走行音がする

 出発式には国交省 自動車交通局の内藤政彦技術安全部長や、東京都交通局の金子正一郎局長、日野自動車の白井芳夫社長らが出席し、テープカットを行った。

 この中で、非接触給電ハイブリッドバスの実験運行を、2016年オリンピック・パラリンピックの東京招致にも活用することが明らかにされた。東京の招致活動は「環境にやさしいオリンピック」を標榜しており、非接触給電ハイブリッドバスは日本の環境技術の高さをアピールするのに絶好の要素と目されている。IOC(国際オリンピック委員会)委員が13日に来日し調査を行う際に、非接触給電ハイブリッドバスの運行も見学する予定。

出発式でのテープカットIPTバスの概要を説明する小幡主査

(編集部:田中真一郎)
2009年 4月 13日