【CeBIT 2009リポート】次世代BMW純正カーナビの試作版をIntelがデモ
車載向けAtomを利用した開発キットや、Microsoftの車載製品向けOSなどの展示も

CeBIT開催の初日にIntelの記者会見で公開された車載向けCPU「Intel Atom プロセッサー」。Atomを手に持つのはIntel副社長兼EMEA(ヨーロッパ、中東、アフリカ)地域担当ジェネラルマネージャーのクリスチャン・モラレス氏

2009年3月3日~8日(現地時間)
ドイツ共和国 ニーダーザクセン州
ハノーバーメッセ




 ドイツ共和国ニーダーザクセン州ハノーバーメッセにおいて、世界最大のICT(Information Communication Technology:情報通信技術)イベントであるCeBITが、3月3日~8日の6日間にわたり開催された。「CeBIT」はIT技術や通信関連技術が展示の中心となるイベントで、通常の展示会並みの大きさのホールを40近く使って行われている巨大なもの。その中で2つのホールが自動車関連の展示となっており、カーナビなどを中心とした新しい製品が展示されていた。

 本リポートではそうしたCeBITにおける自動車関連の話題についてお届けする。

インターネットとの互換性で強みを発揮するIntelのCPU
 プロセッサーメーカーのIntelは、CeBITの初日に記者会見を開催し、同社がコードネーム「Menlow XL」として開発を続けてきた車載・組み込み向けのCPU「Intel Atom(アトム)プロセッサー」を発表した(その詳細に関しては関連記事を参照)。

 この車載向けCPUであるAtomと、パソコン向けのCPUであるAtomはいくつかの点で大きく異なっている。最大の違いは、製品パッケージ形状、稼働保証温度、そしてEOL(End Of Life)と呼ばれる製品提供期間だ。車載向けAtomは、パソコン向けのAtomに比べてやや大型のパッケージを採用している。これは小型化が必要なMID(Mobile Internet Device)やUMPC(Ultra Mobile PC)などに比べて、自動車の場合はサイズに比較的余裕があるし、電気配線のしやすさなどの点でも大きなパッケージのほうが有利だからだろう。

 また、パソコンの場合は基本的に屋内で利用されるため、稼働保証される温度は常温付近となる。これに対して、自動車で利用する場合にはもちろん屋外での利用が基本ということになるので、氷点下から真夏の車室内の温度にまで対応する必要がある。このため、稼働保証される温度は-40~85℃までとなっており、自動車に搭載してもきちんと動作するようにテスト済みのものが提供される。

 そして意外と見落とされがちだが、EOLの問題も自動車メーカーにとっては重要なポイントだ。自動車の場合、1度製品化されると、最低でも4年程度は販売されるし、モデルライフの長いものだと7~8年、部品レベルで在庫を持つということを考えれば10年を超えてしまう可能性も十分に考えられるからだ。ところが、一般的なパソコン用プロセッサーの場合、EOLは短い製品では2年、長くても4~5年というのが一般的で、とてもではないがパソコン向けのプロセッサーを自動車向けに使うということは考えられなかった状況であった。そこで、車載用Atomでは最低でも7年のEOLを保証しており、顧客の求めに応じてさらに延長可能と言う。従って、自動車メーカーでも安心して利用することができるのだ。

 車載向けのシステムにAtomのようなx86(PentiumプロセッサーやCore 2プロセッサーなど、8086プロセッサーの互換機能を持つ製品群を指す)プロセッサーを採用するメリットは、ずばりソフトウェアの互換性だ。というのも、x86の場合、パソコンで広く利用されているアーキテクチャ(設計思想)なので、すでに膨大なソフトウェア資産とプログラマーが存在しているからだ。ソフトウェア資産というのはWindowsやOfficeのようなソフトウェアというわけではなく、ソフトウェアを作り出すもととなるプログラムコード(プログラム文)のこと。これまで蓄積された技術や、経験を持つ人材を安価に利用することができるのがx86の特徴なのだ。

 特に、インターネット関連のソフトウェアは、ほとんどがまずx86に対応し、その後にそれ以外のアーキテクチャを持つ製品に対応することになるので、今後自動車にインターネットの機能を実装していこう、と考えた場合にはx86プロセッサーを採用することは理にかなった選択なのだ。

Magneti Marelli(イタリアの大手電装部品メーカー)がCeBITのIntelブースに展示したリファレンスキット(製品開発用基本キット)

Intelブースで、Atomを使った次世代BMW純正カーナビ
 ただし、現状ではカーナビのような車載システムにx86アーキテクチャーのプロセッサーが採用されている例は皆無と言ってよい。すでに述べたように、これまでは稼働保証温度やEOL、消費電力などの点で問題を抱えていたため、自動車向けとしてはあまり適していなかったからだ。車載向けAtomでそれらが解決されたからといって、すぐにカーナビなどに採用されるかと言えば、残念ながらそれには時間がかかる。というのも、現在カーナビメーカーなどが設計を進めているのは、2012~2013年頃に登場するような製品であり、仮にこれから車載向けAtomを搭載した製品の開発を開始しても、実際に製品が自動車に搭載されるようになるのは2012~2013年頃になってしまうからだ。

 Intelとしても、そうした数年後をターゲットにした動きを始めている。それがGENIVIアライアンス(http://www.genivi.org/)と呼ばれる取り組みで、Intelのほか、BMW、GM、PSA(プジョー・シトロエン)などの自動車メーカー、DELPHI、Visteon、Magneti Marelli、Wind Riverといった部品メーカーなどから構成されている。GENIVIアライアンスは車載情報システムをオープンソースで開発するための団体で、開発キットなどを提供することでより短い期間で車載情報システムを設計できるような手助けを行う。

 今回のCeBITにおけるIntelブースには、そうした成果の一部が展示されていた。ブースの中には、Magneti Marelliによる車載Atomの開発キットが展示され、実際にLinux(リナックス、OS)で動作する様子がデモされていた。また、ブースの外には、BMWのSUVである「X5」が展示されており、BMW純正のカーナビシステムである「iDriveナビゲーション・システム」のユーザーインターフェースを利用した、車載向けAtom搭載ナビゲーションシステムの試作版が実車搭載状態で展示され、実際に動作していた。

 展示員の説明によれば、現在のシステムはHarman InternationalのQNX(組み込み機器向けのOS)をベースに作られており、将来的にはMicrosoftの車載機器向けOS「Microsoft Auto」やLinuxなどにも対応することが可能ということだった。実際に動かしてみると試作機とは思えないほどきびきび動いており、これが製品と言われても不思議ではない感じであった。

 基本的な機能は、現行のiDriveナビゲーション・システムと大きな違いはなかったが、いくつかの点で現行製品とは異なっていた。例えば、データベースから地名などを検索する速度などが圧倒的に速く、これは従来のカーナビで採用されているプロセッサーなどに比べて、Atomが圧倒的に処理能力が高いためだと言う。もう1つは、標準でBD(Blu-ray Disc)を再生する機能が実装されていることだ。車載向けAtomと組み合わせて使うチップセットの「US15WP」には、BDで映像記録に利用されているMPEG-4 AVCをハードウェアでデコード(MPEG-4 AVCなどデジタル記録された情報の取り出し)できる機能を備えているためで、ベンダー(機器開発メーカー)は追加投資することなくBD再生の機能をカーナビに実装することが可能になるのだと言う。

 なお、現時点ではあくまで参考出展であり、これがそのまま製品になる訳ではない。展示員によれば、製品化のターゲットはやはり2011~2012年ぐらいで、すぐに製品として登場してくる訳ではなさそうだが、数年後には車でも“intel inside(インテル入ってる)”という時代がやってくるかもしれない。

デモに利用されたBMW「X5」。実際にAtomを搭載したカーナビの試作機が組み込まれており、エンジンもかかる状態だった。展示員によれば、実走させることも可能になっているのだと言うセンターコンソールにカーナビの画面が配置されている。iDriveナビゲーション・システムの最新モデルと同様に横長のワイド画面になっているコントローラーはまさにiDriveナビゲーション・システムと同じもの。つまり、iDriveナビゲーション・システムとまったく同じ感覚で操作することができた
ナビゲーションの画面。3D画像はチップセットのUS15WPを利用して描画されている。ソフトウェア的にはFlashとOpenGLを利用している。なお、CAN(Controller Area Network)システムなど車内ネットワークとの接続も実現されており、温度や車の状態などをカーナビ上に表示可能バックギアに入れたときには、自動で後退のためのガイド線が出るが、このガイド線の演算は、ソフトウェア的にCPUで行われている行き先の検索などもAtomを利用して行う。現在カーナビで利用されているCPUなどに比べて高い処理能力を持つので、高速に検索できるのだと言う
チップセットのUS15WPがMPEG-4 AVC/VC-1のハードウェアデコーダの機能を持っているので、追加コストなくBDの再生機能を実装することができる展示車はHarman InternationalのQNXをベースに作られていたが、IntelブースではLinuxベースのシステムも展示されていた。このほかにもMicrosoft Autoなどにも対応可能

Volkswagenは無線LANで情報を取り出す「auto@Web」をデモ
 ドイツの自動車メーカーVolkswagen(以下、VW)はCeBITにブースを出し、同社が研究開発を続けている「auto@Web」に関する展示を行った。残念ながら展示はすべてドイツ語で行われていたため、詳しいことは聞けなかったのだが、VWのリリースによれば、街中に張り巡らされた無線LANのネットワークを利用して、現在位置に関するさまざまな情報をカーナビに転送すると言う。ドライバーは常にその場所の最新情報を閲覧でき、ドライバーが能動的な操作をしなくても情報を得ることができるのがこの仕組みのメリット。もっとも、この場合には街中に無線LANネットワークの基地が張り巡らされている必要がある。現在ドイツのヴォルフスブルクで研究が続けられているのだと言う。

 近年自動車関連の事業に力を入れるMicrosoftは、ホール4に設置された同社ブースにおいて、自動車関連ソリューションを展示した。展示したのは、同社が日本のカーナビメーカー向けに展開する「Windows Automotive」というOSと、欧米のメーカー向けに展開している「Microsoft Auto」というOSの2製品で、特に欧州での開催ということにあわせて、Microsoft Autoベースで作られているフィアットの「Blue & Me」のデモを行っていた。

VWのauto@Webのデモ。VWのSUVである「ティグアン」に搭載してデモを行っていた街中に無線LANのアンテナがあり、その場所に近づくと情報がカーナビに自動で表示されるカーナビ側の表示
MicrosoftのWindows Automotiveの展示では、日本メーカーの製品を各種展示Microsoft Autoで作られているフィアットの車載システム「Blue & Me」。ユーザーが運転をシミュレート体験できる形で展示Kramerの車載PCシステム。パソコン用のAtomを搭載し12V電源で動作する
ステアリングに取り付けて使用するSeecodeの携帯電話ハンズフリーシステム。充電式で、シガーソケットから充電すると書いてあった