三菱「i-MiEV」の電気自動車関連技術をチェック
モーター、バッテリーなどを統合管理する「MiEV OS」を開発

i-MiEV

2009年6月5日発売
459万9000円


 三菱自動車工業が6月5日に発表した「i-MiEV(アイ・ミーブ)」は、実験車両や販売先を限定した少数モデルなどを除いて、国内では初めて本格的に乗用車として市販される電気自動車だ。このため、電気自動車特有の特性や欠点などに対応し、環境性能はもちろんのこと、従来のガソリンエンジン車と同等、あるいはそれ以上の安全性や動力性能も追求されている。ここでは、電気自動車の市販化を可能とした、i-MiEVに搭載されている電気自動車関連の技術を中心に紹介する。

 動力源となるモーターは、永久磁石式同期型モーター「Y4F1型」を搭載。一般的なフェライト磁石を採用したモーターと比較して、実用化されている磁石では最も強力とされているネオジウム磁石を採用しているほか、巻き線の最適化などによって高効率化と小型軽量化を実現した。このため、iに搭載されている660ccの直列3気筒 DOHCエンジン「3B20型」よりも全長が約10cm短縮され、重量は約30kg軽減されている。また、減速時に減速トルクを発生させモーターからバッテリーへの充電ができる回生機能も搭載する。

 モーターの最高出力は47kW(64PS)/3000~6000rpm、最大トルクは180Nm(18.4kgm)/0~2000rpm。iのターボエンジン搭載車の最高出力47kW(64PS)/6000rpm、最大トルク94Nm(9.6kgm)/3000rpmと比較して、最高出力は同等、最大トルクは約2倍に向上している。また、0~80km/h加速で10.6秒(iのターボ車で11.2秒)、40~60km/h加速で2.8秒(同4.0秒)、60~80km/h加速で3.8秒(同5.6秒)と、iを上回る動力性能を発揮している。

Y4F1型モーターi-MiEVとiターボエンジン車の性能比較

 バッテリーは、3.7V/50Ahのリチウムエナジー ジャパン製のリチウムイオンバッテリーセル採用しており、4個または8個のセルを直列接続したモジュールをさらに直列接続することで、88セルの総電力量16kWhのバッテリーとして搭載している。安全面では、セル単体を金属ケースに収納して保護しているほか、バッテリーパックのカバーや骨格の素材にガラス繊維入り樹脂を採用し、板金プレートをインサート成型する構造とすることで高い剛性と防水性を確保している。加えて、バッテリーパックを含む高電圧システム全体をiのプラットフォーム床下のボディー骨格内に設置し、井桁フレームへの固定やアンダーカバーの追加によって全方位衝突や路面の突起によるダメージから保護している。

リチウムイオンバッテリーセルバッテリーモジュール88セルのバッテリーと高電圧システムを収納したバッテリーパック
バッテリーパックをカバーで保護した状態ボディー骨格と井桁フレームで保護されたバッテリーパックの上面図(左)と下面図(右)

 このほか、バッテリーとモーターを制御するインバーターと、普通電源での充電に対応する車載充電器&DC/DCコンバーターを搭載。インバーターは、バッテリーの直流電流をモーター向けの3相交流電流に変換する機能を担っており、アクセル操作に応じて電流と電圧を調整しモーターを制御する。また、減速時にモーターで発電された交流電流を直流電流に変換してバッテリーに充電する機能も担う。

 車載充電器&DC/DCコンバーターは、AC100VおよびAC200Vの普通電源でのバッテリー充電を可能とする装置で、駆動用のバッテリーから灯火類やオーディオなどを駆動させる補機用バッテリーを充電するDC/DCコンバーターを一体化させている。なお、モーター、インバーター、車載充電器&DC/DCコンバーターの冷却には、iのラジエーターを活用した水冷式の冷却方式を採用している。

 動力機関がガソリンエンジンからモーターに変わったことで、トランスミッションもi-MiEV専用に開発された1段固定の減速機構のものを採用し、最高速度の130km/hまで1段の減速段のみで加速できる。このトランスミッションは、低回転域から最高トルクを発生するモーターの特性によって変速機構を搭載する必要がないほか、後退もモーターの反転で対応できることからリバース機能も省略。これによって、iに搭載された4速ATと比較して全長が300mm短縮され、重量も58kg軽減されている。

インバーター車載充電器&DC/DCコンバータートランスミッション

 i-MiEVには、これらの電気自動車コンポーネントを統合制御し、安全性や走行性能の向上を図る新開発の電気自動車向けシステム「MiEV OS」が採用されている。MiEV OSは、インバーター、バッテリーを管理するバッテリーマネージメントユニット、車載充電器&DC/DCコンバーター、メーターパネル、エアコン/ヒーターの制御を双方向で行うほか、エアバッグやABS、同社の電子制御システム「ETACS(Electronic Time and Alarm Control System:エタックス)」のECUからの情報、アクセルやブレーキ、セレクトレバーからの操作情報も加味して制御を行っている。総合的な制御は「EV-ECU」にて行い、以下の機能を随時作動させることで、i-MiEVの安全性と省エネルギー性、走行性を向上させている。

MiEV OSの概要MiEV OSのシステム構成EV-ECU

●バッテリー管理システム
 バッテリーマネージメントユニットを中心に各バッテリーに搭載されたセルモーターユニット、漏電センサー、電流センサーを通じて、全てのバッテリーセルの状態を常時モニターする。

●高電圧制御システム
 衝突や漏電、故障などが発生した際に高電圧システムをバッテリーから遮断することで、乗員や救護者を感電による2次被害から守る機能。衝突時はエアバッグのGセンサーに追加した専用センサーが高電圧系機器の損傷が予測される衝撃を検知した場合に作動し、故障時は各コンポーネントから送信される自己診断情報を元に走行継続不能な故障と判断したときに作動する。また、常時漏電センサーによる監視も行っており、漏電検知時にも作動する。なお、電源遮断は停車時に動作する仕様となっており、走行中に突然電源が遮断されることはない。復旧させる場合はディーラーなどでの対応が必要となる。

●航続可能距離推定制御
 平均電費(走行による電力消費量)と電池の残量から航続可能距離を演算し、メーターパネルに表示する機能。走行によって消費した電力のほか、エアコン/ヒーターなど補機類の電力消費も加味して演算する。

●トラクションコントロール
 ガソリンエンジン車と同様にトルク出力を制御してスリップを防止する機能。i-MiEVでは減速回生時でも回生トルクを制御し、減速時の車体安定性も確保している。

●回生ブレーキ制御
 アクセルペダルやブレーキペダル、シフトポジションから送られる情報を元に、モーターの駆動トルクや回生トルクを演算する機能。シフトレバーのモーター出力を抑える「ECOポジション」や、回生機能を最も強く働かせる「Bポジション」を選択している場合は、回生トルクを増加させる。また、出力トルクはエアコン/ヒーター、バッテリーやモーターの状態なども考慮して、最適なトルクを調整する仕組みになっている。

●パワーセーブ制御
 シフトレバーでECOポジションを選択した場合や、バッテリーの充電電力が0セグメントとなった場合に、モーター出力を抑え省電力走行を可能とする機能。ECOポジション選択時はモーターの最高出力を抑制するのみだが、バッテリーの電力が低下した場合はモーターの出力抑制のほか、エアコンを停止するなどして消費電力を抑えるパワーセーブモードを動作させ、メーターパネルにパワーダウンの警告を表示する。なお、メーターパネル内で電池残量が0となった場合でも、約5km程度は走行可能だとしている。

●スムーズ発進制御
 搭載するモーターは低回転域から最高トルクを発揮できるため、急なアクセル操作による発進時のギクシャク感を解消することを目的に搭載された機能。発進時や加速時のアクセル操作を監視し、応答性と乗り心地の向上を考慮したトルク制御を行うことで、スムーズな走行を実現する。

●バッテリー容量推定制御
 バッテリー容量を演算して制御する機能。バッテリーマネージメントユニットから送信されるバッテリー電流やセル電圧、セル温度、バッテリー使用頻度の情報だけでなく、エアコン/ヒーターの消費電力、使用した充電器や充電履歴なども加味して、総合的にバッテリー容量を推定する。

バッテリー管理システムの概要高電圧制御システムの概要航続可能距離推定制御の概要
トラクションコントロールの概要回生ブレーキ制御の概要パワーセーブ制御の概要
シフトレバーでECOポジションやBポジションを選択した際の、トルクや回生制御の違いスムーズ発進制御の概要バッテリー容量推定制御の概要


(編集部:)
2009年 6月 5日