「パイオニアAVセミナー」に行ってきた
カーオーディオならではの問題を克服する技術やテクニックを指南

パイオニア本社で行われたAVセミナー

2009年7月4日
参加無料



 7月4日に開催された「パイオニアAVセミナー」に行ってきた。このセミナーは一般参加者を集め、パイオニアが月に1度程度のペースで開催しているもの。今回で29回目で、女性講師による女性のためのセミナーや、スピーカー作りに挑戦する子供向けのセミナーなど、毎回テーマを変えて開催されている。

 これまではホーム向けAVをテーマにして開催されることが多く、カーオーディオをテーマにするのはおよそ3年ぶりの2回目。しかし会社の経営計画では、カーエレクトロニクス事業を拡大していく方向に方針転換していて、今後はカーAVをテーマにしたセミナーが、より多く開催されるだろうとのこと。ちなみに今回も定員20名の予定であったが、定員を大きく上回る応募があったため、急きょ2回に分けて開催することになったほどで、その盛況ぶりが伺える。

 まず最初に、ハイエンドカーオーディオを担当するMBG市販事業部市販企画部、荒木敏郎氏と高野浩二氏による座学が、パイオニア本社内のハイエンドAV視聴室「スタジオHINOKI」で行われた。「車という環境の中でのHi-Fiサウンドの再生」というテーマで、カーオーディオとホームオーディオの違い、そして車での制約を克服するための技術の解説が行われた。

座学はスタジオHINOKIで行われた講師を務める荒木氏DSP(デジタル・シグナル・プロセッサー)を使って車の制約を克服する

 荒木氏によると、ホームオーディオと比較したカーオーディオの制約としては、左右スピーカーでリスナーとの距離が等しくない、スピーカーの向きがリスナーを向いていない、空間が狭く音が反射しやすい、スピーカーボックス(ドア)の気密性が低い、騒音雑音が多い、電気的なノイズが多いといった問題点が挙げられると言う。

 それらに対する技術として、それぞれのスピーカーの音の出るタイミングをずらすことで、リスナーの耳に音が届くタイミングを合わせるタイムアライメントや、きめ細やかな音質調整ができるグラフィックイコライザーとパラメトリックイコライザー、走行騒音と音楽信号の大きさによって聞こえづらくなる音域を上げるASL(Auto Sound Levelizer)といった技術や、ドアの密閉性を上げるためのデッドニングなどの解説が行われた。

カーの場合、ホームと違って左右のスピーカーとの距離がずれるので、近いほうのスピーカーの音を少し遅らして鳴らすことで、左右の音の到達タイミングを調整する
スピーカーがリスナーのほうを向いていないというのもカーオーディオの問題点スピーカーは正面から外れると音のバランスが崩れてしまう
車内は空間が狭いので、スピーカーから出た音が反射しやすい反射した音と直接音が干渉すると、音が減衰したり、逆に大きくなったりする
過酷な車内の状況にあわせて柔軟なセッティングができる各種イコライザーDEH-P01はマイクが付属し、タイムアライメントやイコライザーを自動で調整できる
スピーカーのエンクロージャーとしては気密性が低い車のドア。デッドニングで対策する走行中のノイズも問題。走行騒音と音楽信号の大きさに応じて音量や周波数特性を制御する
目には見えないが、電気的なノイズがあちこちで発生しているカー。それらノイズの影響を抑える、光ファイバーによる伝送

 座学の後は、3台用意されたデモカーの試聴、6月に発売されたばかりのメインユニット「DEH-P01」とさまざまなテスト信号が入ったCDを使ってのセッティングの解説や実演、試聴会が開催された。

 本社玄関前に用意されたデモカーは、量販店で購入できるカスタムフィット(トレードイン)タイプのスピーカーとDEH-P01、チューンアップスーパーツィーターを組み合わせた、比較的低価格なシステムを組んだアウディ「TT」、同じくDEH-P01に、同社のハイエンド・オーディオ「carrozzeriaX」シリーズの外部パワーアンプ、スピーカーを組み合わせたBMW「Z4」、そして、ヘッドユニットからアンプ、スピーカーまですべてハイエンドシリーズで揃え、さらにスピーカー開発者自らがセッティングしたというプジョー「407」。

 筆者はもっとも低価格なTTから試聴したが、カスタムフィットスピーカーでここまで鳴らせるものか、という驚きの仕上がり。続いてのZ4は、オープンカーという悪条件で、さらにスポーツカーという物理的にも制約が大きい中で、まったくそのハンデを感じさせないセッティングの完成度だ。この2台ともかなりのハイレベルであったが、最後に試聴した「407」はさらにすべてが1段上の仕上がりで、このまま車から出たくなくなってしまうほどだ。

スーパーツィーターを追加している以外はDEH-P01同梱のアンプを使い、スピーカーもカスタムフィットタイプと、まさにエントリーモデルと言うべきシステム。それでもセッティング次第で音はよくなるというお手本のような1台
メインユニットはTTと同じDEH-P01ながら、外部アンプとスピーカーにハイエンドシリーズのものを取り入れたステップアップ仕様。オープンカーでも納得の音場を再現している
メインユニットから外部アンプ、スピーカーまで、すべてハイエンドシリーズで統一。ツィーターからサブウーファーまでの4Wayをマルチアンプで鳴らし、セッティングも言わずもがな、3台の中でもズバ抜けた音を聞かせてくれた

 場所を移動してロビーでは、DEH-P01を使ったセッティングの解説や実演が行われた。DEH-P01は全国の量販店で買えるモデルとしては、パイオニアの最上級のメインユニットだ(carrozzeriaXは一部の専門店のみで取り扱う)。

 解説を行うのは国内営業部営業統括グループ技術営業課課長の三宅健氏で、クロスオーバーネットワークのセッティングなど、実際にいじりながら、その音の違いを聞かせてくれた。さらに用意されたテスト用CDを使って、左右のスピーカーからそれぞれピンクノイズを鳴らしその聞こえ方を比較。左右スピーカーの中央にいる人には、左右のピンクノイズは同じ音に聞こえるが、左右どちらかにオフセットして聞いていると、左右でまったく違う音に聞こえる。これがまさに車内の状態で、スピーカーの向きや左右の音量、タイムアライメントの調整などで改善を目指す。

 さらに左右のスピーカーからピンクノイズを発生させ、5秒ごとに片方が逆相になるという音も収録。逆相になっても気がつきにくいのは、セッティングがキチンとできていないからだと言う。

 また、ステレオの定位がきちんと取れているかを確認するため、左から右へ30度ずつ移動するティンパニーとシンバルの音源も収録。目の前で音源が等間隔で移動すれば正解。どこで鳴っているのかはっきりしないのは、せっかくのステレオ音源を味わえていないと言うこと。

 そのほかにもサブウーファーのセッティングを確認するための大太鼓の音や、鳴りにくい音域や反響しやすい音域がないかを調べるスイープ信号などが収録されており、ホームで聞くと何ともないが、カーで聞くとがくぜんとすると言う。

 なお、このテスト音源を収録したCDを読者プレゼントにいただいたので、関連記事を参照してもらいたい。

実際にドアの内張りを持ってきてデッドニングの説明を行う。写真左がノーマルで写真中がデッドニング済み。内張り自体の振動を抑えると共に、回り込んだ音を拡散、吸収する内張りを外したドア。ビニールは貼ってあるものの、随所に大穴(サービスホール)が開いていて、エンクロージャーとしての機能は期待できない
講義を行った三宅氏。手に持っているのが、テストで使った音源のCDだ講義はDEH-P01を使って行われた。セッティング画面はグラフィカルで分かりやすい参加者の目の前でセッティングを変え、リアルタイムに音が変化しているのを体感する

 最後に、スタジオHINOKIに戻り、カーオーディオの視聴が行われた。このスタジオは、その名のとおり無垢のヒノキ材を使っており、1974年に本社ビルを造った際に新設したもの。当時から利用していたヒノキをそのまま生かして全面改修されている。かつてはラジオ番組の収録や楽曲の録音にも利用されていたが、現在は事前予約で一般にも公開されている。

 用意されたのは、DEH-P01にcarrozzeriaXのパワーアンプを組み合わせ、パイオニアが誇る1台315万円のホーム用スピーカー「TAD-R1」を鳴らすシステム(システム総額666万7500円)と、ハイエンドシステムのスピーカーを4Wayでスピーカーエンクロージャーに収め、それをcarrozzeriaXのメインユニット、4台のパワーアンプでマルチに鳴らす、カーオーディオの最上級システム(システム総額234万6750円、エンクロージャー代除く)。

 どちらも筆者にはとても手の届かない高級システムだが、その音は鳴り始めた瞬間に思わずため息が出てしまうほど。しばし時が経つのを忘れて聞き入ってしまった。両者を聞き比べると、carrozzeriaXのほうが音に艶がある感じで好みの音だった。総額ではこちらのほうが安いが、やはり全体のバランスが重要ということだろうか。

パイオニアが誇る試聴室「STUDIO HINOKI」。ヒノキのむく材を使ったスタジオは、東京山手線内では、おそらくここだけだろうとのことメインユニットはcarrozzeriaXの「RS-D7XIII」とDEH-P011台315万円(ペアで630万円)のTAD-R1(左)と、ハイエンドのTSシリーズを組み合わせたスピーカー(右)
1台315万円のホーム用スピーカーを組み合わせた総額666万7500円のシステムカー用ハイエンドシリーズでまとめた総額234万6750円のシステム試聴にはさまざまなCDが用意され、また参加者が持参したCDでも試聴することもできた

 参加者の中にはかなりこだわった人も見受けられたが、全体的にはエントリーユーザーが多かったとのこと。難しい質問から初歩的な質問まで丁寧に答えてくれて、それぞれのレベルで満喫できる内容であった。約2時間30分程度のセミナーだったがその内容はかなり濃厚で、ぜひまた参加したいと思わせるものだった。

 なお、パイオニアによれば、年内にもう1度はカーオーディオのセミナーを行いたいとのこと。その際はCar Watchでも告知する予定だが、より確実に知りたい人は、パイオニアのメールマガジンに登録すると、セミナー告知を速報で知ることができるので、興味のある方は、ぜひ登録してみてはいかがだろうか?

(瀬戸 学)
2009年 7月 13日