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岡本幸一郎のマツダ「アクセラ」インプレッション前編 「i-stop」搭載の「20S」と1.5L+CVTの「15C」 |
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モータージャーナリストの岡本幸一郎氏。RX-7を3台乗り継ぐなど、スポーツカーが好きで、新車誌のほか、チューニング雑誌でも多く執筆する。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員で、2008-2009カーオブザイヤー選考委員。「ふれるクルマすべてのイイところをよ~く見てあげた~い!」が身上 |
2009年6月にフルモデルチェンジしたマツダ「アクセラ」。わずか0.35秒で再始動可能なアイドリングストップシステム「i-stop」や、2.3Lターボエンジンを搭載したホットモデル「マツダスピードアクセラ」など、その走りが注目されるモデル。そこで、モータージャーナリストの岡本幸一郎氏による、アクセラ(i-stop搭載の「ビアンテ」も)の試乗レビューを2回に分けてお届けする。1回目となる今回は、i-stopを搭載した「20S」とベーシックグレードの「15C」を試乗してのレビューだ。
■マツダの屋台骨のフルモデルチェンジにいや応なく期待がかかる
ファミリアの後を継いで、初代アクセラがデビューしたのが2003年秋のこと。以降、マツダの屋台骨として、全生産台数の3分の1を占めるほどに成長を遂げ、現在は世界100カ国以上で販売され、これまでに累計200万台以上が生産されたという。
「アクセラ」として販売される日本よりもはるかに多い数が海外で販売され、その中でも「Mazda3」として販売される欧米市場が主体となっている。このところの日本のCセグメント車はおしなべてそうだが、アクセラは特に欧州市場が強い。
そのアクセラが、6年ぶりにモデルチェンジして2代目に移行した。見てのとおり、いたってキープコンセプト。プラットフォームをはじめ基本コンポーネンツを初代よりキャリーオーバーしながら、全面的にブラッシュアップを図っている。それは、少し前に5代目から6代目にスイッチした、Cセグの世界標準といわれるゴルフの手法にも通じる。
世界のCセグのトレンドを受けて、日本のライバル勢がまだ5ナンバー枠が云々といっているうちに、いち早くマツダでは、初代アクセラで、5ナンバー枠にとらわれないという英断に打って出たわけだが、今回、ボディーサイズは微増となっている。
パワートレインは、2Lエンジンが直噴化され、1.5L車にはCVTが与えられたのが大きな変更点だ。2.3LのNA(自然吸気)の設定はなくなったが、2.3L直噴ターボを積むマツダスピードアクセラも健在で、今回はベースモデルと同時デビューとなった。
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i-stopを搭載したアクセラ「20S」 | リアゲートに設けられたi-stopのエンブレム | |
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黒をベースに随所にシルバーをあしらったインテリア。ステアリングにはパドルシフトが装着されている | タイトすぎず適度なホールドのシート。センターコンソールのふたは前にスライドし、肘掛けになる | 2L車には5速ATが組み合わせられる |
■直噴を生かしたアイドリングストップシステム「i-stop」
2Lの2WD(FF)モデル「20S」「20C」には、多方面で報じられているとおり、独自のアイドリングストップシステム「i-stop」が採用された。同システムは、スターターモーターに頼らず、基本的に爆発力だけで再始動できるようにしたのが特徴で、これにより、既存のアイドリングストップシステムの約半分である0.35秒でのスムーズな再始動を実現していると言う。
簡単に説明すると、停止時にはまず、次に再始動しやすい位置となるよう、あらかじめピストン位置を制御して停止する。そして再始動時には、停止中のエンジンのシリンダー内に燃料を直接噴射し、爆発を起こすことでピストンを押し下げ、再始動させる。再始動のごく初期のみ回転をスターターモーターが補助するのだが、そのほうが燃焼力のみでの再始動よりも燃料消費量を低減させることができるというのが理由と言う。これにより、10・15モード燃費において、従来の20C比で約15%の向上をはたしているのだ。
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i-stop機構を持った2.0リッターの直列4気筒DOHC 16バルブ直噴エンジン。最高出力110kW(150PS)/6200rpm、最大トルク186N・m(19.0kgm)/4500rpmを発生する | i-stopの分かりやすい特徴として、バッテリーが2個搭載される。このほか、ATの油圧を確保する電動ポンプやリレーなどがi-stopならではの装備 | マフラーは左側のみの1本出し |
■いつでもどこでもアイドリングストップするわけではない
具体的に見ていこう。まず、暖機が十分でないときはアイドリングストップしない。これについて説明は不要だろう。やがて、暖気が済んでアイドリングストップが可能な条件が整うと、i-stopのランプが点灯する。そして、クルマが完全に停止してから一呼吸おいてエンジンが停止する。例えば微速であっても車が動いていれば、停止せずに走りだす可能性もあるので、エンジンは停止しない。他のアイドリングストップ車では、このような微速状態でもエンジンを停止する制御になっているが、i-stopでは異なる。これはエンジンの停止/再始動がビジーな印象になるためとのことで、停止のタイミングはちょうどよいと感じられた。
ほかにもエンジンを停止させないことは多く、クルマが完全に停止しても、ブレーキペダルを踏む力が弱いと、i-stopランプが点滅するだけでエンジンは停止しないし、ATセレクターがマニュアルモードになっていても停止しない。ステアリングについては、切れた状態では停止せず、アイドリングストップしているときにステアリングを操作すると再始動する。これは信号の右折待ちや車庫入れでの切り返しを想定したものだろう。いずれも「走る意志あり」と判断される。他社でもやっていることだが、理にかなっている。また、アイドリングストップ中に、ブレーキペダルの踏力をゆるめたときは当然だが、逆に強く踏み込んだときにも再始動する。これは万が一、エンジン停止中にクルマが動き出して、パニックブレーキを踏んだときに、ちゃんとブースターの負圧を確保して制動に備えられるようにするのが目的とのこと。
逆に意図的にアイドリングストップを維持したい場合には、ATセレクトレバーをNレンジに入れると、エンジン停止状態を維持する。
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信号で停車すると一拍おいてからエンジンがストップする |
■再始動もきわめてスムーズ、しかし課題も残されている
再始動時のノイズやバイブレーションは、驚くほどの領域に達したプリウス(ほぼ体感できない)と比べると、けっこう感じ取れるのだが、許容範囲ではある。アイドリングストップ中も、ATのトルコンの油圧を発生させるための電動ポンプを追加していて、それにより発進に必要な油圧は常時保たれるので、発進でもたつくということはない。
発進は、アイドリングストップの有無にかかわらず同じフィーリングで、ゆるやかに走り出すのだが、その直後にちょっと飛び出し感を伴うという印象で、これは再加速時でも同様だ。ロジックをよく分かっていない人が運転しても問題が出なさそうな設定ではあるが、ATらしくトルク増幅によりドンと前に出る感覚が好きな人には、ちょっと物足りないかもしれない。
ただ、実際の運転シーンでは、i-stopのロジックは分かりにくい部分もある。一度アイドリングストップしてもその状態はずっと維持されるとは限らず、自動的に再始動することもしばしば。そのタイミングは、エアコンの設定の具合や、バッテリー残量等の状況に左右されるので、予想外のタイミングで再始動することも多々ある。
しかも、ひとたび再始動すると、なかなかi-stopランプが点灯しなくなる。例えば信号停車中に、なにかの拍子でペダル踏力をちょっと緩めてしまってエンジンが再始動してしまうと、再度ブレーキをきちんと踏み直しても、そのままでは再度アイドリングストップさせることができないのだ。このとき、たとえばほんの少し走ってアクセルオフすると、再び「i-stop」が点灯したりするのだが、どこか境界線なのか、これの条件付けがいまひとつよく分からないのも事実だ。また、ブレーキペダルの踏力のセンシングについても、ちょっと過敏すぎるかなと思わされることもあった。
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スピードメーター内のi-stopランプが点灯している状態で停車するとアイドリングストップする(左)しかし、エアコンを入れているせいか、車は停車しているのにエンジンが再始動してしまった。こうなるとi-stopのランプも消えてしまい(右)、少し走らないと再度アイドリングストップすることはない | スイッチでi-stopをオフにすることもできる |
センターのディスプレイには、アイドリングストップした積算時間と、今回運転中のアイドルストップ時間が表示されるのもよい。その隣にエコドライブの達成度を表すリーフ(葉)が表示されたり、木が成長したりするというのは、どこかで見たような気もするが(笑)、分かりやすくてよいだろう。メーターパネル左下にあるエコランプも、非常に小さな文字だが、注視しなくても目に入ってくる位置にあるので、常にエコドライブを意識する気になるところも評価できる。
i-stopのようなアイドリングストップシステムは、マツダとしては最初のトライだし、この難しいテーマを、他社とは違う新しい技術で、ここまで仕上げていることを考えると、全体としては上々の印象ではある。新しい技術というのは、世に出てさらに磨かれていくもの。i-stopも、しばらく経つとさらに素晴らしいものになっているはずだし、そうなってくれることに期待したいと思う。
■直噴化された2Lエンジン+ダイレクトモード付き
肝心のエンジンフィールは、直噴化によって、スペック面では落ちている部分はまったくないとの話だったが、3000rpmあたりまでの実用域で、あまりピックアップがよろしくないような気もしなくはなかった。また、1速、2速の加速フィールは悪くないが、ややハイギアードな3速からは、ちょっと物足りない印象ではある。
ところで、マツダの他車種ではすでに導入されているが、ようやくアクセラにも、ステアリングシフトスイッチにより、Dレンジのままでも一時的にギアをシフトできる「ダイレクトモード」が採用されたことは歓迎したい。2速にシフトダウンしてアクセルを踏み込んだときの加速は、けっこう気持ちよいのだ。マニュアルモードの印象は、それほど極端にレスポンスを突き詰めておらず、適度にワンテンポ遅れてシフトチェンジするのだが、イージードライブという観点では、これぐらいがちょうどよいと思った。わずかな変速ショックがあるが、けっして不快ではない範囲で、「変えた」という感覚があって悪くない。
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横浜の山下公園周辺の一般道と、首都高速神奈川線を使ってインプレッションを行った | ステアリングのパドルシフトを使って、Dレンジのまま一時的に変速できる「ダイレクトモード」を採用 |
■1.5Lエンジン+CVTの「15C」
一方、1.5Lエンジン+CVTの「15C」についてだが、こちらはもっと素直に期待以上のものがあったといえる。同CVTは、パーツとしてはデミオと同じアイシン製のものだが、デミオでも評判が高かったところを、さらに上を目指したとのこと。実際、ATに近いリニアな変速フィールを持っている。
エンジン自体も、こちらは1.5Lのわりにはトルクがあるという印象で、フラットなトルク特性で扱いやすく、CVTとのマッチングも非常によいと思われた。ただし、CVTの宿命で、停止直前にギクシャクしてしまうのは否めない。ほかがよいだけによけい気になってしまうのだが、改善に期待したいところである。ちなみに、1.5Lエンジンは、まだ直噴化されていないので、「i-stop」は流用できないのだが、いずれはありうる話だろう。
■従来のプラットフォームを踏襲したボディーやサスペンション
プラットフォームは基本的に従来のものを譲り受けているが、ボディーはさらなる軽量化と高剛性化を図っている。結果的に、従来比で曲げ剛性が7%向上し、ねじり変形の位相遅れは23%低減されている。部材を追加しながらも、ボディーシェルの重量増加をゼロに抑えたというのは、徹底した軽量化の賜物といえる。
サスペンションについても、基本的に従来のものを踏襲している。よくストロークする感覚は健在で、乗り心地は、低速で大きなギャップを通過したときのような、ピストンスピードの速い動きでは、多少の突き上げ感をともなうが、走り出して流れに乗ると、速度が増すにつれて印象がよくなる。首都高速をけっこうなペースで走っても、フラットな姿勢を保ち、いたって安定している。この感覚は、2L車でも1.5L車でも概ね共通している。
ただし、20Sは17インチ仕様、15Cは16インチ仕様で試乗したが、タイヤの銘柄が、17インチは「プロクセスR32」、16インチが「J48」だったこともあり、16インチのほうが乗り心地がだいぶよく、ステアリングの軽さにもあっているように思えた。
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17インチの20Sと16インチの15C。比較するとやはり20Sの乗り味に硬さを感じてしまう |
2L車と1.5L車では、車重差が90kgと意外と大きく、もちろんそのほとんどが前軸重量となっている。これはエンジン単体重量だけでなく、オーディオなど装備差も大きいため、こうなるわけだ。ゆえに前後重量配分のバランスもだいぶ違うのだが、それが実際に運転しても感じられてしまう。操縦性において、ヨーモーメントの中心(Z軸)が、2L車のほうがだいぶ前にある印象で、1.5L車のほうが全体的に動きがよく感じられたのは、試乗時の同業者の意見を聞いても、筆者だけではなかったようだ。
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基本的には従来モデルのフィーリングを踏襲するが、ステアフィールの味付けが大きく変わったようだ |
ステアリングフィールについては、従来に比べて得たものと失ったものの両方がある。従来と同じく、電動油圧パワーステアリングを採用しているのだが、チューニングがだいぶ変わった。具体的には、まず操舵力が全体的に軽くなっていて、さらに、従来は操舵途中でのアシストをチューニングして変化をつけていたようだが、新型では、センターから深く舵角を与えた領域まで、その味のまま全体的にあまり変わらないような印象になった。ところが、8分の1ぐらい舵角を与えた部分から、ステアリングインフォメーションがとても希薄になってしまうのだ。従来のステアリングフィールは、操舵力がけっこう重いと感じる部分はあったものの、ドイツ車的なドッシリ感があって、このあたりの印象ももう少ししっかりとしていた。
新型も、軽いながらもセンターフィールは悪くなく、直進性は高く保たれている。普通に乗るぶんには、軽くて運転しやすいし、とがったところもない。しかし、先述のドッシリ感は、従来のアクセラの乗り味がよいといわれる所以でもあった。さじ加減が難しいところだとは思うが、もう少し従来っぽいというか、プラスアルファに期待したいところではある。
■i-stopという技術を除いても十分評価できる仕上がり
率直なところ、新型アクセラをシンプルに考えても、この価格帯で買えるクルマとしては、世界的に見てもトップレベルのコストパフォーマンスを持っていると思う。
しかし、よさが一般ユーザーにダイレクトに伝わるかどうかというと、ちょっと悩むところでもある。市街地をごく普通に走っても、新型アクセラのよさはなかなか体感しにくい。たとえば首都高のような、そこそこハイペースで、路面も悪く、高速コーナーが続くような道で、他のクルマだとこういうところがダメだというのが分かっている人でないと、アクセラのアドバンテージを感じ取りにくいように思えてしまうのだ。逆に、「分かる」人にとっては、かなりよくできたクルマであることも疑いはない。
ちなみに、エコカー減税への適合については、2Lのi-stop搭載車が75%減税で、1.5L車が50%となる。カタログ上の燃費値は1.5L車のほうがi-stopする2L車をはるかに上回るのだが、車重が大きいと有利になる理不尽な税制のせいで、減税率は2L車のほうがよくなっている。
ハイブリッドカーもよいが、ほんの少し視野を広げるだけで、こうしたクルマも身近に存在することを知っておいてよいだろう。
マツダスピードアクセラと、i-stopを搭載したビアンテのインプレッションは、次回お伝えする。
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(岡本幸一郎 Photo:安田剛)
2009年 7月 16日