「スマートグリッド・カンファレンス」リポート ベタープレイス・ジャパンがバッテリー交換事業に関する説明 |
スマートグリッドとは、電力事業者と利用者間の電力伝送における諸問題をIT技術などを利用してインテリジェントに解決しようという取り組みで、電力事情が日本に比べて安定していない欧米で注目を集めつつあるものだ。そうしたスマートグリッドに関する議論の中で、自動車に関連する話題と言えば、電気自動車やプラグインハイブリッド車に対するインフラ網の整備に関する問題がある。
7月30日に東京国際フォーラム(東京都千代田区丸ノ内)で開催された「スマートグリッド・カンファレンス ~スマートグリッドとITが切り開く未来」では、電気自動車やプラグインハイブリッド車向けのインフラをさまざまな形で提案しているBetter Placeの日本法人、ベタープレイス・ジャパンが登壇し、同社が提案している電気自動車のためのインフラ事業のビジネスモデルや今後の展開などについての講演を行った。
■電気自動車社会の実現には、小さなセグメントから始めていく
ベタープレイス・ジャパン 事業開発本部 本部長兼社長室室長の三村真宗氏は、「現在環境への取り組みがさまざまな形で行われているが、実のところ車の機関をガソリンから電気にすることは非常に大きな効果がある。5年後にすべての車を電気自動車にというのは現実的ではないが、100年後に95%を電気自動車にするというのは夢でも何でもない。そうした時代に向けて日本という国が、米国や中国などに先に行かれないようにどのような手を打っていくのかということが問われている」と述べ、CO2削減の実現や社会的なニーズから電気自動車の普及に向けた国家的な取り組みが必要だという認識を明らかにした。
その上で、具体的にどのように実現していくかということについて、液晶パネルの普及がブラウン管のテレビを置き換えるのではなく、まずはノートPC用として普及したことを例に挙げ「電気自動車も同じでまずはニッチなセグメントから攻めていき、その後より大きな市場に打って出るといった戦略が重要だ」(三村氏)と言い、小さなことから始め、その後インフラをより充実させていくという方向性を考えていると説明した。
■交換式バッテリーの採用でガソリン車と同じトータルコストで電気自動車を実現
三村氏によればベタープレイスのビジネスモデルはシンプルで、バッテリーを交換するステーションを多数設けるなどのインフラの構築に徹するというものだ。車体、モーター、バッテリーといった車作りはこれまでどおり自動車メーカーにまかせ、メーカーにはバッテリーの形状やインターフェースの標準化も求めないと言う。「自動車メーカーに依頼することは、ただバッテリーを交換できる形にしてもらうこと」(三村氏)とのとおりで、メーカーの違いによるバッテリーの形状やインターフェースの違いは、交換ステーション側で吸収する仕組みにするのだと言う。
また、交換したバッテリーの管理(在庫、充電、品質保証など)はベタープレイス側で行うことになると言う。「管理はITを駆使してインテリジェントに行う。電気自動車がどこを走っているかなどはセンター側で集中管理し、充電の必要が出てきたときには自動的に近くのステーションへと誘導する。たとえば、あるステーションの周辺に充電の必要がある車が多数存在する場合にはバッテリーを急速充電し在庫を増やし、逆に周辺に充電をそれほど必要としない車しか存在しないステーションでは、バッテリーのライフサイクルを延ばすためにゆっくり充電するなどの調整をITを駆使して行う」(三村氏)と、ITを利用して管理することで、効率よくバッテリーの管理ができるという点を強調した。
なお、料金設定に関しては、携帯電話と同じように“使っただけ”という形になり、走った距離数などに応じて課金する方向性であることを明らかにし、「使っただけ課金する方式にすることで、いきなり高価なバッテリーを買わないですみ、初期投資を抑えることができる。それでもトータル(筆者注:車体費用+バッテリー費用)では、現在のガソリン車と同じになる」と述べ、電気自動車普及の最大の阻害要因と言われるイニシャルコストを削減し、かつ自動車を所有しているとかかる費用(車体費用+ガソリンなどのランニングコスト)で見れば現状のガソリン車と同じレベルになる見通しであり、コストという問題をクリアすることができると強調した。
ベタープレイスのビジネスモデル、ユーザーへのバッテリー充電は走行距離に応じて行われる | 交換式バッテリーにすることでユーザーの負担は軽減される | ITを活用することで、中央制御センターから交換ステーションの管理を効率よく行うことができる |
■2011年からイスラエルで、2012年からデンマークでサービスを開始
三村氏によれば、ベタープレイスのサービスはすでにイスラエルとデンマークの2つの国で実用化に向けて取り組みが始まっていると言う。「電気自動車の普及というのは、ある程度の強制性を持たないと難しい。イスラエルは地政学的な理由から、デンマークでは環境立国としての立場からと、それぞれ脱石油社会を目指した取り組みを始めている」(三村氏)と、両国ではガソリン車にかかる税金を大幅に引き上げるなどして、電気自動車を普及させる取り組みを続けていることを紹介した。
イスラエルでは地政学的に石油の輸入が非常に難しく、政府の方針として石油から脱却した社会作りを2020年までに実現すべく取り組みが進められているのだと言う。そうした方針は自動車の取得税にも現れており、ガソリン車が78%であるのに対して、電気自動車は10%に過ぎないと言う。このため、電気自動車へのニーズが高まりつつあり、現在ベタープレイスが設置を進めている交換ステーションは最長でも40km間隔に1カ所という範囲で作られており、2011年に本格的なサービスが開始される予定だとする。三村氏によれば「四国と同じぐらいの面積なら電気自動車でどこまででも行けるようになる」という社会が2011年にも実現すると言う。なお、すでに対応の電気自動車に関しては、ルノー・日産アライアンスから投入されることが明らかにされている。
デンマークは、すでに風力発電が電力発電の20%に達しているなど環境先進国として知られているが、イスラエルと同じように、電気自動車への優遇税制(ガソリン車の取得税は80%、電気自動車は0%)が採られており、こちらもベタープレイスがインフラを構築する予定で、サービスは2012年に開始される予定だと言うことだ。
ガソリン車の取得税が高いイスラエルでは電気自動車へのニーズが高い。2011年には交換ステーションなどのサービスが開始される | 環境先進国のデンマークでも2012年からサービスが開始される |
■日本では着脱メカニズムの検証実験段階
気になる日本での取り組みだが、今年に入り環境省と合同で着脱メカニズムの検証実験を横浜で行ってきたのだと言う。この講演が行われた7月30日には、その報告書が環境省に提出されたとのことで、「事故などの問題もなく成功裏に終了した」(三村氏)と検証実験は成功したとのことだ。
今後はまず電気自動車のタクシーを5台程度都内で実際に走らせて路上での運用テストを行い、その後、試験台数などを増やしていき、より多くのタクシーで実験していくことになると言う。なぜタクシーからなのかと言えば、「タクシーは走っているエリアが限定されているためインフラ整備のテストに優れている。また、タクシーの運転手は交代するものの、車体そのものは走り続けている。このため、全体の車の数からすれば少ないが、タクシーを電気自動車とする環境への貢献度は非常に高い」(三村氏)とのことで、まずは効果の大きいタクシーで実証し、その4、5年後というレンジで実際に一般消費者向けの車にというのがベタープレイスが描くロードマップだ。
なお、タクシーでは多くの車がLPGガスを燃料として利用しているが、そのLPGガスを供給するための専用のステーションをタクシー会社が運営していることが多い。ベタープレイスではそうしたLPGステーションをバッテリー交換ステーションへと転換していきたいと考えているとのことだ。
日本でのバッテリー交換式電気自動車普及のロードマップ | 日本ではまずタクシーからの普及を目指す |
(笠原一輝)
2009年 7月 31日