NEXCO中日本、東名崩落による「第2回委員会ブリーフィング」リポート
ほぼ見えてきた崩落原因と今後の対応

東名高速道路牧之原地区地震災害検討委員会第2回委員会は霞ヶ関ビルで実施された

2009年9月28日開催



 NEXCO中日本(中日本高速道路)は、8月11日に発生した駿河湾を震源とする最大震度6弱の地震により、東名高速道路牧之原SA(サービスエリア)近くである191.6KP(キロポスト)の上り車線の盛土のり面が崩落して通行止めとなった事態を考慮し、会社外部からの専門家を招いて原因究明のための委員会を設置した。

 同社は、8月17日に静岡市内で開催した第1回に続き、9月28日に第2回検討委員会を東京都で開催した。予定の2時間を超過した委員会のあと、委員のうち5名が出席してメディアブリーフィングを実施。ほぼ特定できてきた発生原因や今後の対応策などについて報告が行われた。

委員会の目的とスケジュール
 委員会は、中央大学 研究開発機構教授・専任研究員機構教授兼東京工業大学 名誉教授の太田秀樹氏を委員長とし、太田氏を含む外部からの7名と、NEXCO中日本からの7名の計14名で構成される。ブリーフィングには太田氏のほか、東京電機大学 理工学部建設環境工学科教授の安田進氏、地盤工学会名誉会員兼高速道路調査会シニアフェローの奥園誠之氏、そしてNEXCO中日本の東京支社保全・サービス事業部部長の後藤正登氏、同東京支社静岡保全・サービスセンター所長の阿部文彦氏の5名が参加した。プレゼンの大半は、後藤氏によって行われた。

ブリーフィングに出席した5名の委員委員長を務める中央大学 研究開発機構教授・専任研究員機構教授兼東京工業大学 名誉教授の太田秀樹氏委員の東京電機大学 理工学部建設環境工学科教授の安田進氏
委員の1人。地盤工学会名誉会員兼高速道路調査会シニアフェローの奥園誠之氏NEXCO中日本からの委員で、東京支社保全・サービス事業部部長の後藤正登氏。プレゼンを担当NEXCO中日本からの委員の1人で、東京支社静岡保全・サービスセンター所長を務める阿部文彦氏

 報告は、委員会の設置目的と開催スケジュールからスタートした。「地形地質・周辺の震度・降雨状況から当該のり面崩落の原因分析」「本復旧対策工、条件が類似した盛土箇所の抽出とその対策工」を検討することを同委員会の目的とした。前述したように、第1回は8月17日に現地調査も行ったため、静岡市内で開催された。検討内容の主題は「災害現場調査および今後の調査などについて」で、現地調査、災害状況・応急復旧工事、地形・地質概要および調査ボーリング計画について検討された。そして今回の主題は「災害原因および本復旧対策検討について」。現況状況報告、調査ボーリング結果の概要、のり面崩壊の原因分析、本復旧対策工について検討された。第3回は10月中旬から下旬を目処に東京都内での開催を予定しており、「災害原因および本復旧対策工のまとめおよび牧之原地区類似盛土箇所における対策工」について話し合われる。

現在の仮復旧および補強対策の状況
 続いて現況状況報告ということで、通行止め解除後(8月15日)の応急復旧作業の実施状況についての説明が行われた。崩落による通行止めから、24時間体勢で工事を行い、わずか115時間で通行が再開したことはご存じのことと思うが、それらはすべて仮復旧工事でしかない。今後、本復旧の工事が予定されているが、現段階では仮復旧の1つとして補強対策が行われている次第だ。

通行止め解除直前の航空写真をベースにした、応急復旧作業の実施状況図(ブリーフィング資料より抜粋、以下同)応急復旧作業の様子

 具体的には、崩落があった場所の路面から30mぐらい離れたのり面の途中に抑止杭を設置中で、16.5mの長さの鋼管を2m間隔で合計16本、地面に垂直に打ち込む予定。現在6本目に取りかかっているところだ。すべて打ち込み終えるのが、10月中旬となる。また、後ほど詳しく説明するが、今回の崩落原因が、地下水の水位の上昇による影響が大きかったこと、台風シーズンのため大雨も今後予想されることから、集水(排水)用のボーリングを行っている。抑止杭より下側の放射状に地面に水平に掘り進んでおり、1本の長さは30mから50m。合計8本の施工をすでに完了している。また、路面直下(中央分離帯の辺り)から抑止杭の下辺りまで、地面に平行に5本の集水ボーリングを行う計画で、こちらは1本40mほど。作業は10月下旬に完了する予定だ。

現在実施している、応急復旧追加補強対策工の概要。集水ボーリング1が終わり、抑止杭の6本目を打ち込み中追加補強対策工の横断(断面)図

 そのほか、極力のり面に水がしみこまないよう、ブルーシートをかける対策も行っている。なお、作業現場は建機など大型車両を入れるのが難しい細い道しかなく、また実際に現場へ向かうには途中で小さな川があるなどするため、土地の所有者から借地して道路を拡幅するとともに架橋して、同じく借地した作業ヤードまでの道をつなげたと言う。

盛土のり面崩落原因
 続いては崩落原因について。原因調査の一環として、ボーリングを12カ所で実施し、総延長は171mに及んだ。上り車線側だけでなく、下り車線側ののり面でも2カ所で調査は実施されている。調査ボーリングや現地踏査の結果と、既存資料などから5つのことが確認された。

 まず、「のり面の崩落は盛土内で発生した」ということ。盛土下端部の擁壁が崩落前と同じ位置にあったことから、そうした結論に至ったと言う。次は「当該地は、水が集まりやすい地形・地質条件であった」ということ。さらに、「崩落箇所の地下水位は高かった」そうだ。問題となったのは、「盛土の下部には水などによって風化しやすい泥岩が、上部には良質な砂礫が使用されていた」ということだ。ただし、これらは手抜き工事ではなく、40年前の規定として問題なく施工されていたもの。要は、当時の知識では分かっていなかったために盛土の下部に水に弱い泥岩を使ってしまい、また締め付け(押し固め)方が当時の基準だと実際には不十分だったということである。

 結果、長年にわたって水の浸食を受けて泥岩が軟弱になり(スレーキング化)、強度が低下。さらに透水性も低下し、水をため込む方向と泥岩の軟弱化という負の循環が続き、今回の地震が誘因となって大きく崩れたというわけだ。なお、その後に基準が強化され(40年前の時点では知られていなかったスレーキング化現象が分かってきたため)、近年の高速道路の盛土ではもっときつく締め付けており、今回のようなケースで崩れることがないようにしているそうだ。

ボーリング実施個所。斜めの赤い太線は、次の画像の横断図の位置横断図。本来の地形は堆積層までで、想定すべり面が崩落した部分

 実際にどのようにして崩落していったかは、言葉による説明よりも、図を見ていただいたほうが分かりやすいと思うので、ブリーフィングで使用されたプレゼン資料から抜粋した解説入りのイラストを使用させていただく。東名高速建設前から崩落後の復旧後まで、どのようにして地盤が変化し、どう崩落したか、順を追っていくと分かるはずだ。

道路建設前の横断図。近辺は泥岩層からなっていることが分かっている東名高速が開通した段階での横断図。盛土のうち、下部路体に風化しやすい泥岩が使用された東名高速開通後、しばらくしてからと地震直前までの横断図。泥岩の強度低下、斜面に保湿しやすく竹が生えるように
地震時その1。崩落は2段階に渡って起きたと想定されており、まず盛土下部が崩落地震時その2。下部が失われたために上部が不安定化、のり肩~保護路肩付近に引っ張り亀裂が発生地震時その3。上部盛土も崩落。中継映像などで何度も報道されたガードレールが浮いた状態になった
地震後。ガードレールが崩落し、走行車線にまで崩落が波及した応急復旧後。現状では崩積土の上に補強がなされているのが分かる

本復旧対策工(案)と今後の類似地形の調査
 本復旧対策工は、まず本線通行に重大な影響を及ぼさない施工方法にするとした。通行止めは社会的な影響が大きいことから行わず、本線外からの施工を原則にする。本復旧対策工は早期完成を第一にするが、施工性、安全性、経済性などを総合的に考慮して決定する。この2点が基本方針だ。

 本復旧に関する設計条件は2つ。まずは、盛土内の排水処理と盛土を再構築する際の支持地盤の安定のため、崩積土は可能な限り置き換えるとする。排水処理に関しては、応急処置で行っているように、集水用のボーリングを施すなど排水層を何層にも渡って設け、対応すると言う。本復旧の完成形においては、当該箇所の盛土構造の特殊性を考慮するとした。

 また、応急復旧に際し、盛土材料として土木構造用大型発泡スチロールや大型土のう、セメント安定処理土など、ほかの盛土とは異なっているため、地震に対する安定性を考慮するとした。その対策案として、現在打ち込んでいる抑止杭よりも大型のものを深く打ち込むことと、のり面保護工を施工するとしている。また、下り車線ののり面も補強を行い、さらに制約条件として、生活道路である測道の変更や基地の移設が生じない計画にするということも付加されている。時期的なものは、まだ詳細を詰める必要があると言うが、まず抑止杭を打つ作業が最初に来る。そのための下準備(作業ヤードの確保、そこまでの道路の整備など)が10月末ぐらいからスタートするとした。

崩落前と崩落後の空中写真での比較本復旧工に関しての提案

 そして、この地域の東名高速の盛土に使われた土砂として、牧之原台地の山を切り崩すと出てくることが多い泥岩は、ほかの場所でも使われている。この地域では多量に出てくるために使わざるを得ず、第2東名高速でも使用していると言う。ただし、40年前当時はなかった振動ローラーと呼ばれる建機を使用するなどして、泥岩でも問題ないようにしてある(あまりにも適さない泥岩は使用しない)。しかし、東名高速のどこに使われているかまでは分からないため、さらに調査する必要があると言う。類似個所の抽出は調査がまだ完璧ではないため、第3回委員会の時に報告される予定だ。

 質疑応答では、今後東海地震などが予想されることから、徹底的な調査が必要なのか、どのような方法を採ることがいいのかという質問が挙げられた。それに対し、太田氏は「徹底的に調べた方がよいです」と回答したが、予算の問題があるので、それを抜きにしての議論はできないと述べた。予算は、何を調べるかによって当然変わってくるので、すぐに答えを出すことはできないとしつつも、委員会の中で話題になっているのが「まずは水」で、それからスレーキング、地形と言う。

 地形とは、普通に盛土が載っているのとは異なるケースもあり、そういう場合は地震が起きた時に普通と異なる影響が出てくるそうだ。その影響がどのように出てくるかは、もう少し詰めたいとした。「全部調査した方がよいのですが、予算との兼ね合いもあるので、現時点ではどうすれば効率よく行えるかということはまだ分かりません」と述べた。

 また、類似箇所の洗い出しについて、具体的にどのような方法を採るのかということに対して太田氏は、まだ詳細が決まっていないために答えにくいのだが、自分のイメージとしては、と前置きをした上で次のようなコメントをした。「まず水が集まりやすい場所というのは、地形を見れば分かります。建設時に泥岩が使われたかどうかは、周囲の地質を調べれば、ある程度はどのような土砂が利用されたかが分かります。以上のことから、重点的に調べる場所はほぼ特定できるだろうと思います。ただし、地震が来た時にどういう応答をするかということに関しては、これは非常に難しい。私は専門家ではないので分かりません。なので、最初は過去の施工履歴、データ、地図、航空写真などで絞り込み、ボーリングを行うのは限られた場所になるのではないかと思います。NEXCO中日本のお財布の中身は分かりませんが、彼らに与えられた制限内でできる具体的な方法ではないかなと思います」。

 日本の大動脈である東名高速だけに、路面の陥没などが大規模に発生すれば、時間帯や時期などによっては大被害も予想されるだけに、今回の崩落現場の本復旧と同時に、類似箇所の洗い出しも非常に重要といえる。NEXCO中日本、場合によっては国家的な判断も必要となってくるのではないかと思うが、事故を未然に防ぐ素早い判断を期待したい。

(デイビー日高)
2009年 9月 29日