はとバスの2階建てオープンバス「‘O Sola mio」に乗ってきた

2階建てオープンバス「‘O Sola mio」

2009年11月1日運行開始
東京摩天楼(日中コース、東京駅発):大人2000円、子供1000円
(新宿発はそれぞれ200円、100円引き)
極まるTOKYO夜景(夜のコース、東京駅発):大人2500円、子供1500円



 東京遊覧の顔として、イエローカラーの車体で知られる「はとバス」は、昨年に創業60周年を迎え、“首都TOKYO”の歴史から経済発展の様子やトレンドまで、多彩なコースを設けて観光客を楽しませている。また、国内観光バス業界のリーダー的存在になるべく、その時代にあわせて話題のバスを導入・運行してきた。61年目の今年は、東京の息吹を直接楽しんでもらおうという目的で、2階建てオープンバスの「‘O Sola mio(オー・ソラ・ミオ)」を、11月1日から運行開始した。そこで秋深まる東京遊覧を体験すべく、オープンバスに乗車してきた。その模様をお伝えしよう。

2代目となるオープンバス
 オー・ソラ・ミオという愛称、どこかで聞き覚えのある言葉と思ったら、イタリアの名曲で知られる“オー・ソレ・ミオ“からの造語だと言う。バスの屋根を撤去してオープン化し、そして頭上に空が広がるところから名付けたのだそうだ。

 はとバスにおけるオープンバスの導入は、今回で2回目。初代は1958年に“走るパーラー”と呼ばれた、エンジン&シャシーをいすゞ自動車が、ボディーを川崎航空機工業(現川崎重工業)がそれぞれ担当したリアエンジン・オープンバスがあった。フロントガラスと乗降口付近は屋根付ボディーのバスと同じ高さで、ボディー側面は窓の半分の高さでカットされたフルオープンに近い構造となっていた。そして最後部はさらに低くカットされるなど、当時としては画期的にスポーティなボディースタイルだった。シートは1列当たり2人席と1人席の配列。シートはそれぞれ回転機能を備え、前後シートを向かい合わせにして会話や軽食ができ、今でいうところのオープンカフェ感覚が楽しめたと言う。

 しかしオープンが故のウィークポイントである、走行時に帽子が飛んだり女性の髪の乱れ、そして雨天対策が難しいという課題、さらに車輌法の問題が運行継続を困難にし、残念ながら短期間で運行は中止を余儀なくされたそうだ。その後は神奈川県横浜市にある「こどもの国」に寄贈されたと資料が語る。

初代のオープンバス。「納涼船羽田モノレールコース」で運行をはじめ、以降都内の定期観光コースで使用されたと言う。大胆にカットされたフルオープンボディー

 今回、41年ぶりに復活した2代目の車輌は、独ドレクメーラー製メテオールE440型ダブルデッカー3軸車。エンジンはメルセデス・ベンツ製で、最高出力は420馬力。新車ではなく、1993年から1994年にかけて導入したクローズドボディー3台のうちの1台を、2階屋根部分を撤去したもの。あわせて座席を雨天にも耐える生地に換えるなど、リニューアルを施しての再登場となった。そのほかの2台は故障時の代替用や部品供給用として、2代目オープンバスの運行を支える。

 車体サイズは12×2.5×3.8m(全長×全幅×全高)で、車体デザインはイエローベースに平和の象徴である鳩と、未来に向かって新たな東京を紹介するはとバスの姿を、虹をかけるイメージで製作したと言う。座席は2階部のみで、42席分が乗客用に用意される。その他の2席(前後に1席ずつ)がガイド席となる。ダブルデッカーのオープンバスの強みは何はともあれ、高いアイポイントの視界と直接外気に触れることで、リアルな天候状況や通過する場所の“温度”が感じられることだろう。地上からの高さは約3.5m付近のため、併走するクルマのほとんどが足元部分にある感じ。さて、前置きはこれくらいとし、さっそくオープンバスを体験することにしよう。

2代目オープンバスのオー・ソラ・ミオ。座席は雨天でも耐える生地に代えてある。座席は2階部のみで、計42席用意する
バスの前方から後方を見た感じバスの後方から前方を見るとこんな感じ

“見る”“感じる”東京遊覧を体感!
 オープンバスの出発は、JR東京駅丸の内側のはとバスターミナルから。コースは日中に運行する「東京摩天楼」と夜に運行する「極まるTOKYO夜景」の2つ。主な通過場所は以下のとおり。

(1)東京摩天楼(日中コース)
9時40分発と13時40分発の2本。東京駅前を出発して国会前~迎賓館前~新宿高層ビル群~代々木公園~表参道~六本木ヒルズ~東京タワーでの展望体験(60分)を経て、皇居前を通りながら再び東京駅前に戻るという約3時間のコース。料金は大人2000円、子供1000円。途中のJR新宿駅東口前から乗車する場合は、それぞれ大人200円、子供100円引きとなる。この場合は新宿高層ビル群からのコースとなる。2010年2月28日まで毎日運行するが、11月24日、12月22日、2010年1月26日、2月23日は車輌点検などのため運休となる。

(2)極まるTOKYO夜景(夜のコース)
18時30分発のみ。東京駅前をスタートして、国会前~青山通り~赤坂見付~東京ミッドタウン~六本木~東京タワーを経て、東京夜景の代名詞と言われるレインボーブリッジを渡ってお台場に。お台場散策(60分)や大観覧車体験(20分)がメニューとなる、約3時間半のコースが用意される。2010年2月28日まで毎日運行(但し毎月1回、車輌点検などのため運休日があるので注意)する。料金は大人2500円、子供1500円。12月31日まで毎日運行し、2010年1月1日から2月28日の期間は金曜日、土曜日のみの運行。日中コースと同日に運休する。

イタリア人男性歌手による“オー・ソレ・ミオ”歌詞は“オー・ソラ・ミオ”に変更

 参加したのは日中コースの東京摩天楼。運行初日の11月1日は、オー・ソラ・ミオの発車式が実施され、はとバスの松尾均社長をはじめ、乗客代表、ドライバー、ガイドにより、テープカットが行われた。第1便はインターネットなどによる予約客や報道陣で満席に。幸いにも東京の空は秋真っ只中にもかかわらず、晴れの小春日和。いざ出発と近隣の高層ビル群に目を向けていたら、ギターを持ったイタリア人男性歌手がバス前部に登場。もちろん曲名は“オー・ソレ・ミオ”なのだが、歌詞は“オー・ソラ・ミオ”の大合唱で、オープンバスは盛り上がる。

 東京駅前を出発したオープンバスは、最近再建されたレンガ造りの三菱一号館を右手にしながら皇居前を通過。日陰のビル街から、一気に広い視界が展開する皇居前では、休日のジョギングランナーや観光客、警察官に至るまで、一斉に熱い視線がバスに集まる。これに応えて乗客たちも手を振るなどして、高い座席とオープンバスの優越感を味わえた。国会前から永田町の通過時は、政治の中心地なだけに、ガイドの説明にも力が入る。

 臨時国会が始まり、“鳩山政権も頑張り、はとバスも頑張る”という訳だ。ちなみに10月25日には、本コースの運行開始を記念した1日限定の特別運行が実施された。平和のシンボルである“鳩”をテーマに、「はとバス」と人形焼の三鳩堂(東京都台東区浅草)、静岡県伊東市の「ハトヤホテル」の共同企画ツアーが実現したもの。鳩山首相ゆかりの鳩山会館や、霞ヶ関の官庁街などを周遊しつつ、鳩山首相やオバマ大統領のかぶりものをした乗客などで、盛り上がったとのことだ。

 話題を本コースに戻すとしよう。オープンバスはやがてデパートや専門店などが軒を並べる新宿通りに入ってきた。すると頭越しにどこからともなく美味しそうな香りが漂い、異口同音に乗客からどよめきが起こる。さらに沿道に並ぶ街路樹の落ち葉が降ってきたり、木立でさえずる野鳥を間近で接することができるのも、オープンバスならではの特権として乗客も喜ぶ。さらに新宿駅近くのJR高架下をくぐる大ガードも、手を伸ばせば届く距離の近さに乗客からは歓声が起こる。とはいえ、ガイドのアナウンスは「絶対立ったり手を出さないでください!」と、スリルをかきたてる黄色い声と事故防止の警告が入り混じって実に興味深い。

 しばし東京の風や香り、沿道の風景など、五感で東京摩天楼体験を味わったオープンバスは、コースハイライトの東京タワーに到着。今度は高いタワーを通じた、360度の展望体験と休憩となった(展望券はバス代に含む)。

乗車時は身軽で、事前に雨具の用意も
 直接外気に触れる環境のため、これから迎える冬本番に備えた服装で東京観光を楽しんで頂きたい。

 冬場の東京はよほどの天候変化がない限り晴天が続くので、通常は雨具の心配は無用。季節や遊覧途中の不意の雨模様の際は、お持ち帰りができるレインコートが用意される。しかしオープンバスは雨だけが大敵でなく、季節によって街路樹からの樹液や野鳥のフンが落ちてくることもあるので、レインパーカーなどの用意もあると安心である。地方からの旅行者の場合は、大きな手荷物はコインロッカーなどに預けるなどして、身軽な服装だと走行時はもとより乗降時も便利である。

 一般の観光バスも、以前よりウインドー面積が拡大したり座席位置が高くなるなど、ハイデッカーバスが普及する時代。しかしながら、今回運行開始した2階建てオープンバスによる東京遊覧というチョイスもあるので、これまでのバスでは体験できなかった「東京の今に直接触れられる遊覧バス」として、お勧めしたい観光メニューである。

 予約受付は3カ月前より可能。はとバス予約センター(03-3761-1100)やホームページ、各営業所で受け付ける。また、空席があれば当日受け付けも行われる。

都庁横を通過するオー・ソラ・ミオ

(浜田拓郎)
2009年 11月 9日