タイヤ直販サイト「ミシュラン ストア」インタビュー 直営店に代わってミシュランユーザーの裾野を広げる |
タイヤ直販サイト「ミシュラン ストア」 |
日本ミシュランタイヤが11月24日よりサービスを開始した日本初のタイヤ直販サイト「ミシュラン ストア(MICHELIN Store)」。本誌読者をはじめ、インターネットを活用するユーザーにとっては、興味深い話ではあるが、タイヤといえば、ホイールへの組み付けやバランス調整など、販売だけでは成り立たない商品。それをオンラインで販売するという試みは、果たしてどういった意味と戦略があるのか? さらにオープンプライスとしているタイヤを直販することに問題はないのか? それらの疑問を、ミシュラン ストアのプロジェクト責任者である、日本ミシュランタイヤ 経営企画部 担当部長柏崎太郎氏にインタビューしたので、その模様をお伝えする。
柏崎氏によれば、2年前のミシュランガイド東京版の発売以来、ミシュランという名称自体は、一般の人にも広まったと言う。しかし「一般の人にとっては、ミシュラン=タイヤというつながりがない方もまだ多い」と言い、「ガイドブックのミシュランではなく、タイヤのミシュランとして、消費者により直接的に訴求し、裾野を広げていきたい」という思いがあったと、その背景について述べた。
インターネットでのタイヤの販売に至ったいきさつについては「今は(ネット通販の)Amazonでもタイヤを売っていて、『タイヤもインターネットで買える』という意識に変わりつつあるように思う」と述べた。さらに最近では、購入前にインターネットで調べる傾向が強く、特にスペックに対する関心が高いスタッドレスタイヤにおいては「ミシュランタイヤの購入者の約半分くらいががインターネットで調べてから購入している」と言い、「インターネットで調べることが、1つの購入プロセスに位置づけられていて、我々としては、もっとインターネットを使った売り方を活用できないかというのがスタートライン」と述べた。
柏崎氏は、ミシュランが日本国内では直営店を持てていないことを問題点として挙げ、そうした中で、ミシュランのセールスポイントを伝え切れているのか? あるいは、ユーザーが本当に自分に合った商品を選べているのか? という課題があると言う。
また、これまで行われていたインターネットでのタイヤ販売の問題として、「売り切りの販売はあるが、装着まで含めたサービスはまだない」と言い「メーカーとしては、タイヤは装着して初めて機能するので、装着まで踏まえたサービスが課題だった」と述べた。
これらの理由から、ミシュラン ストアでは、タイヤ自体の情報を提供するとともに、利用者の使い方や車種に合わせたタイヤ選びを提案し、さらに販売では、装着からアフターサービスまでをパッケージした形にする必要があったわけだ。
具体的には、タイヤの選び方として、「車種から」「タイヤサイズから」「商品名から」「特性・特徴から」と4つの方法でタイヤを検索できる。つまり自分のタイヤサイズが分からなくても車種と年式が分かれば検索できるし、ミシュランのラインアップを知らなくても、スタッドレスタイヤや、スポーツ走行向けタイヤなど、使用目的から銘柄を絞り込むことができる。
ミシュラン ストアでは、車種、タイヤサイズ、商品名、特性・特徴からタイヤを検索できる |
さらにタイヤ単品での販売は行わず、タイヤをセレクトすると、そのタイヤを組み付けるのに必要な工賃も算出され、同時に精算。また、オプションとして、古いタイヤの廃棄(315円/本)も一括して精算することができる。
買ったタイヤは当然装着が必要だが、装着する店舗もWeb上の一覧から選択可能。さらにそのまま装着の予約までできるようになっている。
また、購入後のアフターサービスも、セットに組み込んでいる。装着後1年間有効のサービスで、期間中何度でもタイヤの安全点検サービス(空気圧や残溝、外傷などのチェックやホイールナットの増し締め)ができるほか、1回に限り、バランス調整、タイヤローテーション、修理可能な場合のパンク修理が可能。また、修理できないパンクの場合は、新しいタイヤの組み付け工賃をサービスすると言う。
ミシュラン ストアで購入するともらえる「フリーメンテナンスカード」。これを提示することで、装着店での1年間のアフターサービスが受けられる |
ここまで、ミシュラン ストアの成り立ちについて聞いてきたが、初めての挑戦には問題も存在する。その最たるものが販売店との競合だ。これはタイヤに限らずメーカー直販では生じる問題だが、メーカーの安売りは、販売店にとっては脅威となる。当然、価格競争力のない販売店からは、反対の声も挙がるわけだ。
この点について柏崎氏は「そこは我々にとってもジレンマではあるが、比較的我々の商品は価格の安定性があって、あまり逸脱した価格で売っているようなお店がない。我々もその幅の中で値決めをしているので、そういった声がないとは言わないが少ない」と述べた。ミシュランとしては、ミシュラン ストアを、販売店と競合するものではなく、新たな顧客を獲得するためのものと位置づけているとのことで、今まで販売店で買っていた人は、これからもその販売店で買うだろうし、これまで販売店に足を運んでいなかった人が、ミシュラン ストアの提携店として店頭に足を運んだ際には、今後直接の顧客となるよう努めてほしい、というわけだ。
実際にミシュラン ストアの提携店検索ページを覗いてみると、店舗を地域ごとに検索できる上に、店舗の写真、連絡先や地図はもちろん、定休日や営業時間、装着可能なホイールサイズや偏平率まで分かる充実した内容となっている。これならば店舗の宣伝にもなるし、販売店からの反対の声が少ないのも納得できる。
提携店のリストから装着店舗を探すことができる。写真は東京23区内の提携店リスト | その店舗で装着可能なタイヤのサイズなど、詳細な店舗情報が掲載される |
販売店にはメリットがあるとして、一番重要なのは利用者にとってのメリットだ。価格に関して言えば、あくまで“平均的な”価格だと柏崎氏も述べており、より安く買いたければ、ほかの販売店に足を運ぶのが利用者の選択肢だ。
懸念されるのは、ミシュラン ストアで購入したタイヤを提携店で装着する際に「店頭でより安く売っていた」という状況だ。この点について柏崎氏は「たしかにそのリスクはある。ただ、我々はタイヤ単品だけでなく、装着工賃やアフターサービスも含めた価格となるので、タイヤ単体での価格比較ではなく、それらも踏まえて納得していただけたら、クリック(購入)してください、ということ」と述べ、そうした状況での返品などには応じられないと言う。
なお、何らかの理由でタイヤが装着できなかった場合には返品が可能だが、その場合返送分の送料を利用者が負担することになる。また、違法改造車への装着も行っておらず、その場合も返送分送料負担となる(ミシュラン ストアの購入手順中に、違法改造車でないことの確認がある)。送料と言えばミシュランから店舗への送料が気になるが、店頭での装着までをパッケージとしているため、送料は取っていないと言う。
国内タイヤメーカーの多くは、タイヤの価格をオープンプライスにしており、タイヤを購入しようと思ったら、通常は店頭に行かなければ価格は分からない。さらにサイズや店舗によって組み付け料金は異なり、外したタイヤの廃棄代なども発生するため、最終的な総額は分かりにくくなってしまう。仮に通販などでタイヤだけを安く手に入れても、持ち込みでの組み付けを行ってくれない店舗も多く、行っても通常より高い工賃を取る場合は多い。
そういった点で、どの店舗で装着しても工賃が一律で、オンライン上で決済した金額以外は一切発生しないというのは、利用者にとって分かりやすいサービスと言えるだろう。また、アフターサービスについても、その内容は決して大げさなものではないが、アフターサービスの内容が明瞭になっていない販売店もあるので、メーカーが保証してくれるというのは、利用者にとっての安心材料になるはずだ。
購入履歴はIDで管理されるため、1年以内に購入(4本もしくは5本セット)したIDでは、自動的にリピート割引適用後の価格が表示される |
さらに、価格は平均的とは言え、5%のポイントが付き、これはYahooポイント!やEdyのポイントとして還元できるほか、500ポイント単位でQUOカードとして還元することもできる。また4本もしくは5本セットで購入すると、次回の購入が5%割引される「リピート割引」サービスも用意。これは同じクルマのタイヤである必要はないので、セカンドカーや、友人の車のタイヤを買う場合にも使うことができると言う。現時点では、6エリア(札幌市、新潟県、東京23区、大阪府、岡山県、福岡市)にある提携店のみでのサービス提供となるが、2010年6月までには全国展開したいとのことなので、これからスタッドレスを購入するなど、タイヤを交換しようと考えている人は、一度チェックしてみてはいかがだろう。
(瀬戸 学)
2009年 12月 17日