日本EVクラブ、「中学生ハイブリッドカー教室」を開催
環境問題やハイブリッドカーについて学ぶ

中学生ハイブリッドカー教室ではハイブリッドバギー「世田谷1号」の製作を行う。講師を務めるのは、先ごろEVによる1充電航続距離の世界新記録を達成した日本EVクラブ代表の舘内端氏

2010年6月5日開催



中学生ハイブリッドカー教室が開催された都立総合工科高等学校。自動車に関する基礎、整備、計測、制御のほか、自動車整備を中心とした実習、製図の技術などを学べる自動車科がある

 日本EVクラブは6月5日、課外講座「才能の芽を育てる体験学習-地球環境を考える- 『次世代車を知ろう』」の一環として「中学生ハイブリッドカー教室」を、東京都世田谷区成城にある都立総合工科高等学校で開催した。主催は世田谷区教育委員会。

 中学生ハイブリッドカー教室は、世田谷区の区立中学校の生徒を対象に、将来に向けて才能の芽を育てていくことに主眼を置いたワークショップ。全4回の教室が用意され、第1回は「ハイブリッドカーと地球環境・エネルギーと自動車」と題した講義やトヨタ「プリウス」の試乗、カリキュラムのメインであるハイブリッドバギーの概要説明を実施。第2回ではハイブリッドバギーの組み立て、第3回で組み立てたハイブリッドバギーの試乗、第4回では11月3日に筑波サーキットで開かれる「日本EVフェスティバル」に参加・見学するというカリキュラムが組まれる。今回開かれたのはその第1回にあたる。

講義の前に挨拶を行った世田谷教育委員会事務局 松下洋章氏(左)、トヨタ自動車 広報室の中井久志氏(中)、日本EVクラブ代表の舘内端氏(右)

 第1回目では、初めに日本EVクラブの舘内端氏が1886年にダイムラーが作ったゴットリーフ・ダイムラーの1号車や、世界初の大衆車・T型フォードなどを例に挙げて自動車の歴史を振り返るとともに、大気環境問題とオイルショックにより、自動車産業が大きく変革してきたことを紹介。

1886年にダイムラーが作った初の4輪ガソリン車「ゴットリーフ・ダイムラー」。馬車メーカーに特注した車体にエンジンを搭載したアメリカで人気を博したと言う蒸気自動車世界で初めて100km/hに到達したと言うフランスのジャメ・コンタント号。電気自動車だった。ジャメ・コンタントはフランス語で「決して諦めない」の意なのだそう
世界初の大衆車「T型フォード」。19年間で1500万台を発売したと言うイタリアで最初の大衆車フィアット「500トッポリーノ」戦後の日本でタクシーに使われたと言うルノー「4CV」
VW「ビートル」。終生このスタイルを保ち続けたのは完成度があまりに高かったからと舘内氏イギリスの大衆車オースチン「7(セブン)」大気環境問題とオイルショックにより、自動車産業が大きく変革したと言う

 続いて地球環境・エネルギーと自動車の関係についての講義を舘内氏が行い、温暖化が起きる仕組みや原因、温暖化が進行するとどのような現象が起きるかを解説。平均気温は今後2100年までに1.4~5.8度上昇するとしており、その影響は洪水・干ばつの増大、台風の巨大化のほか、人体への影響としてマラリアなどの感染症の拡大、一部の動植物の絶滅、水質への悪影響などを挙げた。

 舘内氏は、「我々がこのままCO2を排出し続けると、このような現象が当たり前のようにおきる。もっと努力して排出量を下げなければならない」と警鐘を鳴らすほか、「石油はいずれ枯渇するため、自動車も石油以外に頼らなければならない時代が近い将来くる。そうしたときに、どのような自動車を選べばよいのかみんなも考えて欲しい」とし、環境問題を真剣に考えるべきと述べるとともに、環境に優しいクルマの重要性を説いた。

温暖化の模式図地球の炭素収支の推定温暖化の影響はさまざまなところに現れる
気候変化による予測される影響極端な温暖化による破局的事象例として、海洋大循環の崩壊を挙げた。温暖化が進むとメキシコ湾流(暖流)の速度・方向が変化し、ヨーロッパが寒冷化してしまうと言う年間石油生産量は2000年頃をピークに減少傾向にある
クルマの最終エネルギー消費は年を追うごとに増加している2001年度の1世帯あたりの年間エネルギー消費量。他の家電製品などと比べて自家用車の占める割合が圧倒的に高いさまざまの地域の氷河が溶け始めていると言う
2004年にフロリダを襲った強大なハリケーンも、温暖化の原因だと言う

 次に登壇したトヨタ自動車 HVシステム開発統括部の渡辺謙三氏は、舘内氏と同様に環境問題について紹介したほか、ハイブリッド車(HV)の概要を説明。現在トヨタのHVが採用しているシリーズ・パラレルハイブリッド方式や、エンジンとモーターを走行パターンによって使い分けるHVの燃費性能のよさについて紹介し、「トヨタのHVはエネルギーマネジメントにより燃費を向上することができた。ハイブリッドシステムは、エネルギーのやりくり上手な賢いお母さんのようなもの」と、分かりやすく解説していた。

ハイブリッド車の紹介を行ったトヨタ自動車 HVシステム開発統括部の渡辺謙三氏ハイブリッド車は2つの異なったエネルギー貯蔵装置と2つの異なったエネルギー変換機を持ったクルマと説明ハイブリッド車の仕組み。トヨタはシリーズ・パラレルハイブリッド方式を採用する
ハイブリッド車の走行パターン(THSの場合)モーターとバッテリーをうまく活用し、エネルギーマネージメントをしっかり行っているからこそハイブリッド車の燃費が良好だと説明石油発見量と需要見込み。将来的には石油の可採量がピークになると見込まれている
プラグインハイブリッド車(PHV)の紹介も行われた近距離は電気で、長距離はエンジンと電気のハイブリッドで対応するのがPHVの特徴と説明

 講義が終わると、次にトヨタ「プリウス」の試乗会と、ハイブリッドバギー「世田谷1号」の構造説明が行われた。舘内氏は各種部品の名称や個々の役割を分かりやすく紹介し、子供たちからも「どうやって走るの?」「どれがモーター?」など、積極的に質問をしている姿が見られた。

 世田谷1号は、2006年に実施した中学生ハイブリッドカー教室で製作されたもの。原動機付き自転車用のエンジン(ヤマハ製)のほか、モーター、バッテリーを搭載しており、トヨタのHVと同じシリーズ・パラレルハイブリッド方式を採用する。フロア部にけやきを使ったり、麻の繊維をプラスチックで囲んだタイヤカバー、シートに籐(ラタン)を用いるなど、随所に天然素材が用いられる。最高速度は60km/h前後で、燃料タンクやマフラーなどはベースモデルのものを流用している。ミニカー登録(青ナンバー)をしており、公道を走行することも可能だ。現在は組み上がった状態だが、一度分解され、今回参加した生徒たちが第2回の際に組み立てる。

講義を行った教室から場所を移してハイブリッドバギー「世田谷1号」の構造説明が行われたプリウスの試乗会も実施舘内氏自ら世田谷1号の構造説明を行った。エンジン部はむき出しなので、各所を傘で指しながら分かりやすく説明していた
世田谷1号
ステアリングやシートの材質は籐(ラタン)麻の繊維のまわりをプラスチックで固めたと言うタイヤカバー
ミニカー登録(青ナンバー)をしているので、公道を走行することも可能写真中央のメッキカバーで覆われているのがモーター講義を終えた渡辺氏も興味津々に覗いていた
世田谷1号のドライバーシートに子供たちはひっきりなしに座っていた第1回目を終えた感想をアンケートに記入していた

 この教室のメインは、ハイブリッドバギーを製作するとともに実際にサーキットへ持って行って走るところにあるが、単に体験会で終わるのではなく、このように現在の地球を取り巻く環境や、なぜハイブリッドカーが必要かまでを考える講義内容としており、子供たちにとっても非常に意義のある内容だったようだ。

 余談だが、講義が始まる前から生徒たちは「今日はプリウス作らないの?」「今日プリウス乗れるの? やったー」と大はしゃぎ。子供たちにもプリウスの名前が浸透していることを伺えた。

(編集部:小林 隆)
2010年 6月 7日