「ジューク」はライトウェイト・スポーツカーの現代的解釈 ジューク開発陣に聞く |
いよいよ日本で発売されたコンパクトクロスオーバー「ジューク」。6月9日の発表会で開発陣が揃って強調したのは「どのカテゴリーにも属さない新しいジャンルのクルマ」ということ。
ジュークはマーチ、キューブ、ノートなどと同じBセグメントに属するが、このセグメントでのSUVスタイルのクルマは同社初であるばかりか、国内には競合車はなく、国外でも発売済みのものはフォルクスワーゲン・クロスポロがあるだけだ。だがそれだけで新しいジャンルと呼ぶのは難しい。
クロスオーバーというジャンルの製品が増える中で、新たなセグメントにクロスオーバーが進出するのは自然な流れだ。しかし日産は、ジュークは「Bセグメントのクロスオーバー」と言うだけでは表現しきれないモノを持っている、というメッセージをしきりに発信している。
松富諭チーフ・プロダクト・スペシャリスト(CPS)と、渡辺誠二プロダクト・チーフ・デザイナー(PCD)に、発表会の会場で短時間ながらお話を伺うことができたが、そこで見えてきたのは、ジュークが「ライトウェイト・スポーツカーの現代的解釈」であるということだ。その模様を、再構成して掲載する。
松富CPSに、ジュークの気に入っているところを示していただいた。鋭い形状のフロントコンビランプには、ターンシグナルとクリアランスランプが入る |
■松富CPSに聞く──4WDモデルはオフロード向けにあらず
──2月のパリでの発表後の欧州の反響は?
至って好調だ。
──欧州市場にはすでにクロスポロがあるし、これからMINIカントリーマン(日本名MINIクロスオーバー)のような競合車が出てくるが、どう差別化するのか。
MINIカントリーマンは3万ユーロくらいするクルマだ。ジュークはプジョー207やMINI ONEなどと同価格帯なので、カントリーマンと競合はしないと思う。
クロスポロはジュークとほぼ同じ値段。しかし我々の見方では、クロスポロはSUVライクなスタイルでも、中身はスポーティーでない。ジュークは直噴ターボ+4WDをラインアップ(秋発売予定)するし、スポーティーなハンドリングや性能を楽しめるクルマだ。
──価格のわりにクオリティが高く見える。どんな工夫をしたのか。
基本的にはプラットフォームの「共用化」と、大量生産だ。Bプラットフォームはコスト競争力が高いプラットフォーム。これをほかのBプラットフォーム車といかに共用し、いかに差別化するかで知恵を絞った。
Bプラットフォームの骨組みの位置は変えていない。衝突性能などは流用できる。その周りを拡大することで、共用化率を上げて価格を下げている。
また、たとえばメーターはキューブと共通のもの。しかし見た目は同じに見えないよう工夫している。そういったところで値段を下げている。
──共用化率を数字で表現できるか。
数字は持っているが、プラットフォームの共用化率は高い、上屋のそれは低い、としか言えない。見た目が違う部分は新設しているので、どうしても共用化率は低くなる。
──エンジンは新開発だが。
ジュークのHR15DEと、秋に出す1.6リッター直噴ターボエンジンはこれから様々な車種に搭載していく。
──そのターボエンジンは“ダウンサイジングエンジン”と噂されていたが、実際には上位モデルに搭載される高性能ユニットのようだ。
ダウンサイジングであることに間違いはない。フォルクスワーゲンの1.4リッターや1.2リッターのターボエンジンは燃費志向だが、我々のエンジンはスポーツユニットのダウンサイジング。比較している対象の性能は、2.2~2.5リッターの高性能自然吸気エンジンだ。
──4WDシステムは、オフロード4WDではなく、オンロード志向のスポーティーなセッティングになるということだが、具体的にはどのようなシステムになるのか。
リアの左右のトルク配分を可変にし、コーナーリング時には外側のリアタイヤへのトルク配分を増やし、アンダーステアを出さない仕組みを備えている。もちろん前後トルク配分も可変。アクセルを踏みながらコーナーリングするのが怖くない、非常に乗っていて面白いクルマになった。
渡辺PCDにジュークの気に入っているところを伺ったら「全部」。特にどこか、とお願いしたら、盛り上がった前後フェンダーと、それらをつなぐプレスラインを示してくれた。この形状を「ダンベル」と呼ぶそうだ |
■渡辺PCDに聞く──「ジュークは“アーバンジャングルのヒーロー”」
──ジュークのスタイリングの狙いは?
欧州での日産は、市場占有率を含め、決してプレゼンスが高いわけではない。Bセグメント・アッパーからCセグメント・ロワーの価格ポジションの中で、新しい日産のプレゼンスを出せるようなクルマを作りたいという想いがまずあった。そんな中で、ノーマル・ハッチバックのクルマを出しても、欧州の成熟した市場では、強いメッセージやプレゼンスにつなげるのは相当難しいと考えた。
我々にはキャシュカイやエクストレイルのように欧州でも強いラインアップがある。しかし、これらを小さくしたクルマを作ればいいのかというと、それも違うと感じた。キャシュカイやエクストレイル、ムラーノはどちらかというと、SUVを乗用車ライクに振ったクルマだ。
ジュークについては、都会の混沌とした街の中で俊敏に走れるような、ライトウェイトスポーツカーを作りたいと考えた。都会と言っても、洗練された街路ばかりではない。たとえばイギリスならバンプがあったり、ランナバウトで4~5車線の道をぐるぐる回ったりしなければならない。あるいはイタリアなら、こんなに高い(と、膝くらいの高さを示す)縁石があって、駐車しようと思ったら、そこに一生懸命タイヤを乗せなければならない。そんな都会の混沌としたイメージを僕らは「アーバンジャングル」と呼んだが、ジュークは「アーバンジャングルのヒーロー」だ。それはどんなクルマだろうか。
そんな時、ロードバイクとMTBのクロスオーバーバイクが、縁石をドンドンと乗り越えて走るのを見て、インスパイアされた。車高の低いコンパクトスポーツカーでは、そのようなシーンは考えにくい。もっとがっしりとしたどんな場面でも対応できる足腰を持っていて、上屋はスポーツカーのようなクルマがいいだろう。そのハイコントラストをそのまま表現すれば、新しいセグメントを築けないかと考えた。
ジュークは「足まわりをがっしりとさせたコンパクトスポーツカー」だ。それでは長すぎてとおりが悪いので、「クロスオーバー」と表現している。しかしジュークは、ライトウェイト・スポーツカーに強い足まわりを与えて、俊敏にアーバンジャングルを駆け抜けられるようにしたクルマだ。
ジュークの1/1クレイモデル |
──そもそもBセグメントのクロスオーバーは、クロスポロくらいしかない。
そう、Cセグメントから上しかない。Bセグメントに出てこないのは、パッケージングが難しいからだ。クロスポロは、ノーマル・ハッチバックの車高を上げたクルマだ。
ジュークは、フレーム、サスペンションの位置、最低地上高、ヒップポイントのあり方や座り方まで、「ハイトがあってスポーティーなクロスオーバー」としてパッケージングを考えた。
──スポーツカーと言うが、ドアが4枚ある。一方で、リアに向かってルーフが下がっていて、後席の居住性はよさそうに見えない。
2ドアにする意味はない。それだけでお客さんが限られてしまう。ルーミネス(居住性)は、欧州Bセグメント、たとえばプジョー207に負けないようにした。そういうクルマからも、すんなりと乗り換えられるように。後席は狭そうに見えるが、それは違う。スポーツカーのようなアピアランスは、ルーフを下げたのではなく、むしろAピラーを上げて作った。昔、スポーツカーに乗っていたお父さんも、後席の家族も幅広く楽しめるクルマだ。
──僕らの世代には、AE86やCR-Xのような若者向けのライトウェイト・スポーツカーがあった。日産だとええっと……
(意に介する風もなく)昨年の東京モーターショーで、豊田章男社長が「私たちは若いお客様のためにファン・トウ・ドライブを提供することを少し怠っていた。メーカーとして責任を感じている」とおっしゃった。まさにそうだと私も思った。
だからうちは、新たに違うセグメントのクルマを出して、今の若いお客様たちに「クルマの楽しさはこういうことではないか」と、違う形で提供したい。
そういう意味では、ジュークはヘリテイジ(継承すべき遺産)がない、セグメント・バスターだ。チャレンジングなクルマだ。
──ジュークはライトウェイト・スポーツカーの現代的解釈、と考えていいのか。
そうだ。こういう解釈もある、という1つの提案だ。FT-86やCR-Zのような、ライトウェイト・スポーツカーを徹底した作り方はまだあると思っている。しかしジュークは、アーバンジャングルを軽快に走れるシーンをイメージして、運転の楽しさを別な形で提供できるのではないかと考えた。
(編集部:田中真一郎)
2010年 6月 10日