BMW、EV社会への道筋を検討するシンポジウム
EVの航続距離に関わらず、安心のための充電設備設置が必要

環境省の須田氏(左)に「チャレンジ25宣言書」を渡すクルーガー社長

2010年6月16日開催
東京ビッグサイト



 ビー・エム・ダブリューは、同社の環境戦略をアピールするイベント「BMW Mobility of the Future - Innovation Days in Japan 2010(走りのこと。環境のこと。このイベントで、BMWがクルマの未来を発信する。)」を、6月17日~18日に、東京ビッグサイト(東京国際展示場)西ホール2で開催する。

 開幕に先立つ16日、報道関係者と招待客向けにシンポジウム「環境対応車普及による未来の社会」を同会場で開催した。

 このシンポジウムは、エンジンの直噴化やアイドリングストップ機構の装備、ハイブリッドカーのリリース、電気自動車(EV)の大規模実証実験など、環境に配慮したラインアップの整備を進めるBMWグループが、環境対応車、とくにEVをどのように社会に普及させるかを検討するもの。独BMW AGによるEV導入についての基調講演と、環境省、電力会社、学識経験者などを加えたメンバーによるパネルディスカッションが行われた。

会場の入口(左)とエントランス(右)。水の流れをイメージした照明会場内
会場に展示された車両。上段左からアクティブハイブリッドX6、アクティブハイブリッド7、ビジョン・エフィシエント・ダイナミクス、コンセプト・アクティブE、MINI E

 

シュミッド氏

「自動車の世界はもっとカラフルに」
 BMW AGの渉外(Govermental Affairs)であるグレン・シュミッド氏による基調講演は、EV「MINI E」による大規模実証実験で得られた知見の報告と、EVの普及に向けての提案を示す内容。実験の知見は16日に掲載した関連記事「BMW、「Mobility of the Future」開幕。EV、HEVを披露」に詳しいが、要点をまとめると

  • 持続可能なモビリティを推進するのは、経済、環境、文化、政治における要請
  • 技術立国で自動車産業が強い日本では、Eモビリティ(HEVなどを含むパワートレーンの電動化)が重要
  • MINI Eでの実験により、現在の技術でも航続距離や充電時間はユーザーの期待値に合っていることが分かった

ということになる。

 加えて、シュミッド氏は「自動車の世界はもっとカラフルになっていく。多様性に富んだものになっていく。いろいろなクルマのコンセプトがあるように、将来はさまざまなエンジンコンセプトが、カスタマーニーズに合わせて共存する」と述べた。

 これは、パワートレーンが電動化される方向に動くものの、普及までには時間がかかり、それまでには内燃機関の改良やハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、レンジエクステンダー(EREV、内燃機関は発電にのみ使い、駆動はモーターだけのEV)などが必要なことを意味する。また、ほとんどのユーザーの日常使用はEVの航続距離で足りるものの、より長距離を走るには内燃機関やHEVが適しており、ニーズによってこれらが混在するであろうこと、HEV、PHEV、EREV、EVの区分は航続距離で示すほうがユーザーには分かりやすく、プロモーションもしやすいという意味も含む。

 さらに、Eモビリティでフェアな課税をするためには、CO2排出量をベースとした税制が最適と提案した。

MINI Eの実験では、航続距離(左)にも充電時間にも不満は出なかったEVはほとんどの日常ユースをカバーできるが、用途によってはHEVが適している
CO2排出量をベースとした税制を提案電動車両の区分は航続距離で表すと分かりやすい

 

パネラーの皆さん。左から環境省の須田氏、東京大学大学院の宮田教授、東京電力の姉川氏、BMW AGのシュミッド氏、クランツ氏

補助金なき後、EVをどう普及させるのか
 続いて行われたパネルディスカッションには、シュミッド氏に加え、BMW AGでMINI Eのプログラムを指揮するウルリッヒ・クランツ執行役員、環境省 水・大気環境局 自動車対策課の須田恵理子課長補佐、東京大学大学院 工学系研究科の宮田秀明教授、東京電力 技術開発研究所 電動推進グループの姉川尚史グループマネージャーがパネリストとして、テクノアソシエーツの朝倉博史氏がモデレーターとして参加した。

 まず朝倉氏が、「一般の人々にとって、環境対応車に買い換える必然はないが、それが受け入れられるにはどうすればよいか」という論点が提示された。

 環境省の須田氏は、「エコカー補助金には年間約4000億円の政府予算が入った。この金額を毎年積めるわけではないので、その先どうすればよいのかを本気で考えなければならないフェーズに入っている。1つには、実はEVの航続距離が十分であると認識してもらうのを契機にできるのではないか。また、インフラ整備を(ユーザーの)安心のためにも先行して進めておく必要がある」と答えた。

 次に、EVとスマートグリッド(ITにより効率的に電力を配分できる電力網)の関わりが課題として提示された。スマートグリッドでは、不要な電力を蓄積しておいて必要なときに使ったり、必要なところに即座に配分したりする必要があり、蓄積する場所として各家庭が消費する2日分の電力をためられるというEVのバッテリーが使えるのではないかと期待されている。こうした用途があるために「EVが普及する」(宮田教授)という考え方があり、また、そのためにクルマの役割も変わるのではないかと考えられている。

 一方でバッテリーの技術革新が進み、安くなれば、さまざまなところにバッテリーが存在し、わざわざEVを家庭や電力網に繋ぐ必要はなくなるとも考えられる。さらに、EVのバッテリーを、EVを動かすこと以外に利用して充放電を繰り返すと、必要以上にバッテリーの寿命を縮めてしまうという懸念もある。

 最後の充放電による寿命の短縮については、BMW AGのクランツ氏が、MINI Eでの知見により「あまり大きな問題にならないのではないか」と認識していることを明らかにした。さらに、EVのバッテリーをそのまま使うだけではなく、EVには使えないほど性能が低下したバッテリーを発電所の近くなどに集積して、電力を一時的に蓄積するバッファーとして使う、と言うアイデアも披露した。

 どちらにしろEVをスマートグリッドのバッファーとして使うというアイデアは「(EVの)副次的な役割」(姉川氏)であって、EV普及の動機にはならず、「EVが便利で楽しく、経済的にも無理なく購入できるようになるのが普及の一歩」(姉川氏)となるようだ。

インフラがあることでユーザーは安心
 この後、パネラーの須田氏、宮田氏、姉川氏によるポジショントークが行われた。

 環境省の須田氏は、「環境対応車普及への課題と国の政策」と題し、国が描いた「次世代自動車普及」のロードマップを披露。

 日本のCO2排出量では運輸部門が2割を排出しており、うち90%が自動車によるものというデータのもと、鳩山政権で打ち出された「2020年までCO2排出量25%削減」という目標達成のためには、自動車のCO2排出量削減の効果が大きい。そのためには、「燃費改善」「電動パワートレーンや新燃料の開発普及」のほか、「自動車の利用の仕方を変える」ことで削減するという施策が明らかにされた。

 利用の仕方を変えるには、トラックなどの積載効率の向上、自前で運ぶのを止めて運輸業へアウトソーシングする、モーダルシフトといった対策があるほか、マイカー自粛や、エコドライブの実践が含まれる。とくにエコドライブは10%の燃費改善が見込まれ、これはエンジンの改良による改善よりも効果が大きいと言う。

 政府は2020年までに新車販売の2台に1台を次世代自動車(電動パワートレーンやクリーンディーゼル車、CNG車)とすることを目標としており、そのために次世代自動車の購買意欲を高め、開発を促進する施策を発表した。

CO225%削減に向けた自動車の取り組み2020年までに2台に1台の新車を次世代自動車にEV普及の課題
次世代自動車普及のロードマップ。現状では軽自動車、乗用車、中型トラックや路線バスに限られているが、2050年には大型トラックを含むすべての車種をカバー

 宮田氏は「環境問題を解決するには民間ビジネスとして成立させる必要があり、技術開発と環境ビジネスを成立させるビジネスモデル開発が重要」という立場から、沖縄のEVレンタカー実験計画「沖縄グリーンニューディール」を披露。2011年までに観光客向けに100~300台のEVレンタカーを配備し、「沖縄をEV社会のショーケースとする」もの。充電インフラ設置計画の策定も含まれているが、観光客の行動パターンや走行パターンを考えると、ほとんどはホテルや観光地の普通充電器で間に合い、EVの航続距離が300kmに伸びれば、急速充電器はほとんど必要なくなるというシミュレーション結果を明らかにした。

観光客向けにEVレンタカーを整備する
観光客の行動をシミュレーションし、インフラ整備を計画EVの航続距離が伸びれば、急速充電器はほとんど要らなくなる

 姉川氏は、充電インフラについて説明。東京電力にEVを導入し、業務で使用したところ、会社にしか充電器がない状態では、航続距離を大幅に下回る走行距離しか利用してもらえなかった。ドライバーはEVの航続距離を知っていても、電力切れの不安で遠出を躊躇したのだと言う。そこで、会社から10km程度離れたところに急速充電器を設置したところ、不安が解消され、走行距離が大幅に伸びたと言う。

 しかし興味深いのは、この急速充電器は実際にはほとんど使われなかったということ。使う、使わないに関わらず、出先で急速充電できるという安心感が「効果絶大」という結果になった。この現象は、MINI Eのベルリンでの実験でも見られている。

横浜の東京電力社屋にしか充電器がなかったときより、出先に急速充電器を設置した方が走行距離が増えた。しかし、実際に急速充電器を使う機会はほとんどなかった

集合住宅に充電設備を置くには
 この後、会場からの質問を受け付けたが、中でも興味深かったのはモータージャーナリストの伏木悦郎氏による「充電設備について、持ち家のガレージに設置するというイメージのように見えたが、都市部では集合住宅などのように、個別の充電設備を設置しにくいところもある。これは世界的に見てもそうだと思うが、どう考えるのか」という質問。

 これについては姉川氏が「集合住宅の立体駐車場などに設備を引くには数十万円規模、青空駐車場でも10万円程度の工事が必要になるので大変。設置数が増えれば工事費は安くなるが、行政の補助などの対策が必要だろう」と答えた。

 最後に、ビー・エム・ダブリューのローランド・クルーガー社長が、CO2排出量25%削減にビー・エム・ダブリューとして協力する「チャレンジ25宣言書」を須田氏に渡し、シンポジウムは幕を閉じた。なお、輸入自動車メーカー現地法人がチャレンジ25に参画するのは、同社が初めて。

(編集部:田中真一郎)
2010年 6月 17日