日本EVクラブ、電気自動車の疑問に答える「EV入門塾」開催
世界新記録を達成したミラEVや三菱「i-MiEV」試乗会も実施

日本科学未来館で行われた「EV入門塾」

2010年6月27日開催



EV入門塾には49名が参加

 日本EVクラブは6月27日、東京お台場の日本科学未来館において電気自動車(EV)にまつわる疑問に回答する「EV入門塾」を開催した。

 EV入門塾は、JAF(日本自動車連盟)が発行する月刊誌「JAFMate」(ジャフメイト)の連載企画「舘内端のEV塾」のライブ版に位置づけられ、日本EVクラブの公式Webサイトで応募した49名が参加。講師は同クラブ代表の舘内端氏のほか、日産自動車 ゼロエミッション事業本部 加治義光氏、三菱自動車工業 EV事業推進部 堤健一氏の3名が務め、電気自動車(EV)についての講義や、同クラブが所有する1充電航続距離の世界新記録を達成したミラEVや、三菱「i-MiEV」の試乗会が行われた。

日本EVクラブ代表の舘内端氏JAFMate編集長の鳥塚俊洋氏も来場していた
1充電航続距離の世界新記録を達成したミラEVや、三菱「i-MiEV」の試乗会も開かれた

自動車メーカーとして今後生き残っていくためにはEV化するしかない
 はじめに、舘内氏が自動車と環境・エネルギーについての講義を行い、自動車の誕生から変革について紹介。自動車はこれまで「より速く、より遠くへ、より快適に」ということが求められてきた。その結果、エンジンや車体サイズは大きくなり、燃費がわるくなったと指摘。また、環境問題とエネルギー問題が自動車産業を発展させてきたと述べるとともに、「その自動車の燃料となる石油を燃やすとCO2が排出されてしまうが、燃やそうにも石油自体がなくなってきている」とし、今後も自動車を必要としていくのであれば、EVを選択するしかないと、現状を説明する。

 EVは1km走行時の燃料消費エネルギー、エネルギー投入量、CO2総排出量のいずれにおいてもガソリン車やHV(ハイブリッド車)、ディーゼル、CNG(天然ガス車)などと比べて優れていると述べる。

 また、2015年には欧州で1km当たりの平均CO2排出量を120g以下にしなければならない規制が自動車メーカーに課せられることから、「自動車メーカーとして今後生き残っていくためにはEV化するしかない状態」と舘内氏は言う。

 一方、EVについてはエンジン車を上回る走行性能を持つことから「電気自動車は高級車」だと言う。高級車の条件は「発進がなめらか」「加速が力強い」「静粛なこと」で、これは「回転振動がゼロ」「低回転からトルクが強い」「振動騒音がゼロ」というEVの持つ特性と合致すると舘内氏は述べる。

 また、米国ベンチャー企業のテスラ・モーターズが販売する電気自動車「テスラ・ロードスター」の0-100km/h加速が3.7秒であることを例に挙げ、「これに匹敵するのはポルシェ GT3くらいしかないのではないか」と走行性能について述べたほか、同クラブが製作したミラEVが東京~大阪間を無充電で555.6km走破したことで、「航続距離は電池搭載量と充電設備で伸ばすことができる」と、とかく電気自動車を語る上でネックとされる航続距離についても問題ないと紹介した。

 この航続距離について、舘内氏は「今後電気自動車のグレードは航続距離で決まっていくのではないか」と予測するとともに、「自動車にはいつでも、どこでも、どこへでも行けるという夢がある。160kmの航続距離でも十分だが、もっと距離を走れる電気自動車を自動車メーカーには作ってほしい。この夢を電気自動車でも叶えなければいけない」と述べ、講義を締めくくった。

自動車の抱える2大問題はCO2排出による地球温暖化と石油の需要のひっ迫と枯渇地球温暖化を抑止するには温室効果ガスの大幅な減少が必要石油生産のピークはすでに2004年に迎えている
1km走行時の燃料消費エネルギーの比較1km走行時のエネルギー投入量の比較1km走行時のCO2排出量の比較
2015年には欧州で1km当たりの平均CO2排出量を120g以下にしなければならない規制が自動車メーカーに課せられるCO2排出量の法規制により2020年にはすべてのクルマがハイブリッドになると予測舘内氏いわく「電気自動車は高級車」
テスラ・ロードスターの0-100km/h加速はわずか3.7秒電気自動車の航続距離は電池搭載量と充電設備で伸びる電気自動車の電気代は850km走ってわずか850円
30分で充電できる急速充電器は徐々に増えている

日産自動車 ゼロエミッション事業本部 加治義光氏

12月発売の電気自動車「リーフ」
 次に、日産自動車 ゼロエミッション事業本部 加治義光氏が年末に発売予定の電気自動車「リーフ」について紹介した。リーフは日本、アメリカ、オランダ、ポルトガルで12月に発売し、2011年2月にイギリス、アイルランドで発売することを決定しており、さらにEVの普及を目指して60以上の政府や都市、電力会社、電気メーカーなどとパートナーシップを締結していると紹介。

 また、量産することでコストを抑え、ガソリン車と同等の価格であることを今後提唱していきたいとし、各国政府が実施しているEVへの補助施策についてや、ゼロエミッション社会実現に向けた取り組みとして高速道路の通行料金の割引制度、優先道路の通行許可、充電設備への補助金などについて紹介した。

 充電器については、日産ディーラーに普通充電器を約2200基、急速充電器を約200基設置することや、政府の取り組みとして普通充電器および急速充電器に対し、200万円を上限とした半額の補助金支給が行われることを紹介。さらに経済産業省が主催する次世代自動車戦略研究会によると、2020年までに普通充電器を200万基、急速充電器を5000基設置することを目指していると言う。

 リーフのアピールポイントについては、CO2排出量がゼロであることのほか、静かかつレスポンスのよい加速感、大人5人が十分に乗れる室内空間、ITシステムを駆使して充電スポットの更新やエネルギー消費のマネジメント、携帯電話を使ったエコルートガイダンスなどを挙げた。

日産自動車では1992年から自動車用リチウムイオンバッテリーの開発を行ってきたグローバルでパートナーシップを強化住友商事とともにバッテリーの2次利用に取り組んでいる
リーフの各国の発売時期バッテリーはさまざまな国で作られている各国政府のEV購入補助施策
各国におけるゼロエミッション社会に向けた取り組み日産ディーラーに普通充電器を約2200基、急速充電器を約200基設置するEVのもたらす新しい価値
リーフのアピールポイントリーフは積極的にリサイクル材を採用するリーフの加速性能。スカイラインなどに搭載するV6 3.5リッターエンジンより、低速域での加速で勝る
停車時、加速時、巡航時のすべてで高い静粛性を誇ると言う薄型リチウムイオンバッテリーをフロア下に設置したことでキャビンスペースを確保リーフのIT機能
オーナー同士はインターネットを通じてつながることができる

三菱自動車工業 EV事業推進部 堤健一氏

デイリーユースなら航続距離160kmでも十分
 三菱自動車工業 EV事業推進部 堤健一氏は同社の電気自動車「i-MiEV」について紹介した。i-MiEVを開発するにあたり、1日あたりの走行距離を調べるためアンケート調査を行った。このアンケートによると、平日は90%の人が40km未満で、休日でも80%の人が60km未満だったと言う。そのことから、「i-MiEVの10・15モードでの航続距離である160kmはデイリーユースで十分な数値なのではないか」と判断したと言う。

 i-MiEVは、バッテリーがガソリンタンクのあったフロア下に配置され、そのバッテリーを保護するケースとフレームを一体としたことでボディー剛性が高まったと言う。モーターは低速からトルクが出る仕様で、発進時はガソリン車から乗り換えた際に違和感を感じさせないよう多少なましているものの、20km/h~30km/hからのレスポンスを高めていると紹介。

 また、今後電気自動車が普及するには充電設備などのインフラ整備が重要だとし、「ディーラーへの設置を進めていくが、営業時間などの問題で100%カバーできない。そのためコンビニエンスストアのローソンや大型ショッピングセンターなどの協力もあおいでいる」述べ、積極的に充電インフラの整備を進めていることを紹介した。

 なお、2009年に法人・自治体向けに販売したi-MiEVは約1400台販売し、2010年度は個人向けを含めて約4000台の販売計画を立てている。

三菱のEVの開発は1971年のミニカEVやミニキャブEVi-MiEVの主要部品レイアウト航続距離についてのアンケート結果
i-MiEVの充電方法は普通充電AC100V/AC200Vおよび急速充電三相200Vの3つi-MiEVのボディーカラーi-MiEVのエコ装備
駆動用バッテリーは合計88個の電池セルで構成2007年にGSユアサ、三菱商事、三菱自動車工業の3社でリチウムイオン電池を生産するリチウムエナジージャパンを設立駆動用バッテリーの保護構造
モーターの性能とトルク特性セレクターレバーの各ポジションでの駆動と回生のイメージ

 EV入門塾の最後に、参加者からの電気自動車にまつわる疑問に回答する「電気自動車AtoZ 何でもQ&A」コーナーが設けられた。回答者は舘内氏と堤氏で、EVでの効率のよい走り方や販売方式、バッテリーのうまい充放電の仕方などさまざまな質問が寄せられ、両氏は1つ1つ丁寧に回答していた。このコーナーは本来30分を予定していたのだが、実際には1時間を超えるほど大盛況だった。

 講義あり、試乗あり、疑問を解決できるコーナーありと、電気自動車を購入しようと検討している人には、非常に有意義な1日だったと言えるだろう。

(編集部:小林 隆)
2010年 6月 28日