NISMOがGT-Rでスーパー耐久にテスト参戦 予価2000万円でレース参戦可能なマシンを提供予定 |
先日のSUPER GT第4戦セパンで見事に1-2フィニッシュを飾った日産自動車のGT-R。今年はFIA-GTにも参戦し、世界的にもそのスポーツ性能を積極的にアピールしている。そのGT-Rがもっとも身近なモータースポーツとも言えるスーパー耐久シリーズにデビューした。舞台は6月27日に行われた第4戦となる富士スピードウェイだ。
もともとGT-Rはスカイライン GT-R(R32)時代から、N1耐久(現在のスーパー耐久の前身)で大活躍を果たしてきたマシン。多くのチームがGT-Rを駆り、それを足がかりにしてステップアップを果たしてきたドライバーも数多くいる。
雨の中富士スピードウェイを走るGT-R |
今回のスーパー耐久へのGT-Rの参戦におけるエントラントはNISMO(ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル)、つまりワークスとしての参戦だ。スーパー耐久にこうしたワークスが参戦することはまれで、一歩下がった位置でバックアップを行うのが通常だ。そうした中でNISMOがエントラントとなったのは、今回のレースが「テスト参戦」という位置づけのため。マシンを実際にレースで走らせデータを収集し、開発に役立てようというわけだ。NISMOとしての参戦は今回限りと言われている。
スーパー耐久はもっともパフォーマンスの高いST-1クラスから、ヴィッツなどが対象となるST-5クラスまで5クラスに分類されている。GT-RはST-1にカテゴライズされる。現在ST-1クラスを走っているのは、BMW Z4Mクーペが2台とポルシェGT3の997と996がそれぞれ1台ずつの計4台。圧倒的な速さを誇るのはZ4Mクーペで、開幕から3戦連続で1-2フィニッシュを飾っている。
今回、スーパー耐久参戦でドライバーを務めたのは影山正美、田中哲也、星野一樹の3選手。いずれもSUPER GTでトップ争いを演じる名ドライバーだ。しかし、今回のレースは初参戦のマシンにとってはつらい状況となった。
予選日から天候は優れず、Aドライバー、Bドライバーともに計測時は小雨で路面はセミウエット状態。SUPER GTとは異なり駆動方式を変更できないスーパー耐久では、GT-Rは4WDのままだ。従来のスーパー耐久では4WDのGT-Rにとって、雨は味方であり続けた。しかし、予選のアタックタイムは縮まらなかった。結局タイムは3番目、決勝は2列目からスタートすることになった。
決勝日の日曜。午前中のフリー走行の路面状況はウエット。GT-Rは苦戦する。ST-1クラスで最下位のタイムであったが、さらにST-2のマシン5台がGT-Rの前にいた。
決勝スタートに向けて、セーフティカー先導によるローリングが始まっても路面状況はよくならない。通常1周で終わるローリングは、安全を保つために2周となり、いよいよスタート。影山のドライブによるGT-Rは無理をしない走行で、ラップを続けた。5周目、GT-Rが突然ピットに入った。なんとタイヤをレインからスリックに替えたのだ。雨足は弱まったとはいえ、まだまだウエット状態の路面だというのに。誰もが目を疑った。しかし、結果は正解。GT-Rはそれまでのタイムを4秒近く縮めた。その後、雨足が強くなり再びタイヤはレインへと交換された。
影山は42周までを担当。続く田中もレインタイヤのままでコースへ出る。2時間45分すぎに富士名物の霧が濃くなり、セーフティカーが導入される。このタイミングで田中がピットイン、星野へとステアリングを託す。星野はスリックを選択した。その後、路面状況が回復したこともあり、GT-Rはファステストラップを記録。レースはST-1クラス5位完走で終えた。
2000万円での販売が予定されている、レース参戦可能なGT-R |
■予価2000万円でレース参戦可能なマシンを提供予定
このGT-Rは2000万円という価格でレース参戦可能なマシンとしての提供を予定している。2000万円は決して安い価格ではない。しかし、spec Vなら市販モデルでも1575万円もするGT-Rのレーシングモデルを、2000万円の価格で販売する予定というのは、相対値としてはやはり安いと評価してよいだろう。
NISMOでの取材をひと言にまとめてしまうと、このGT-Rは「ガソリンを入れればレースができるマシン」に仕上げられているというもの。販売時の変更点は、給油装置ぐらいだろう。ブレーキもホイールもロールケージも装備されると言う。ボディーパネルの一部にはCFRPも採用され、しっかり軽量化されたマシンが販売される。
基本がスーパー耐久用のマシンなので、エンジンやトランスミッションのハード的な内容はノーマル同様と考えてよい。ミッションにはATモードも存在している(もちろんレースはマニュアルモードで走っているが)と言う。エンジンの最高出力はECUのセッティング変更などにより485PS以上となっている。
決勝日の練習走行が終了した時点で、星野一樹選手にインタビューを試みたが、あまり多くを話したがらなかった。雑談の中で得られたのは「タイムを見れば分かるでしょ」という言葉。決勝を前に悩んでいるドライバーに多くを聞くのは酷というものだ。
レースの結果は決してよいものではなかったが、星野はスリックタイヤによる走行でレース中のファステストラップを記録している。星野はGT-Rの可能性をアピールできたことに満足していた。
今回のレースを見ていてつねに感じたのがGT-Rとレインタイヤの相性の悪さ。ちょっと路面の状況がよいときは、スリックのほうが圧倒的によいタイムを出している。今年からスーパー耐久は横浜ゴムのワンメイクとなっている。Z4Mクーペなどがある程度のタイムを出しているので、これはタイヤの性能が低いのではなく相性が悪いと見るのが妥当だ。今後、GT-Rに合うレインタイヤが開発され、それが公認を受ければ再び雨のGT-Rとしてレースをけん引し、スーパー耐久レースを盛り上げていくことになるのかも知れない。
(諸星陽一)
2010年 7月 6日